太陽のせい
私が王都のスラム街にある実家から持ってきたものは、たった一つしかない。
『籤鼈』
表紙にはでかでかとそうかいてあって、魔術言語であることは分かるけど、何て読むかはわからない、薄いぼろぼろの本だ。
初めのほうには魔術言語とはまた違う、古代の文字がびっしりと書いてあって、何が書いてあるかはわからない。
後半は人の図があって、それに付属して文が書いてある。
これも何が書いてあるかわからないけど、図のおかげで何かの技の教科書みたいなものだってことは分かる。
不思議なのは、本がボロボロなのに文字が一切途切れず、くっきりと残っていること。
ヤマトは多分魔術によるものって言ってたけど、だとしたら先人は後世に何を伝えたかったんだろう。
結局なんにも分からなくなったというのに。
でも、こんなわけのわからないの本でも、ヤマトは夢中になって読んでくれる。
意味不明とは言え、手がかりはあるみたいで、どうやら私がレッサーウルフと戦って暴走したときに使っていた技が、その図に書いてあるらしい。
今も石に座って足をパタパタさせながら、暴走したときの私が使った技を頼りに一生懸命解読してる。
まさか体内魔力増幅魔術を詠唱しながらとは思わなかったけど。
……本当に、詠唱しながら解読できるものなのかな?
少なくとも私には無理だ。
でも、前のめりに本を読むヤマトはキラキラした目をしていて……
「……ファミア、ファミア」
「……」
「ファミア?」
「……あ、えっ、何?」
「だから、お前の家に伝わる魔術ないか?」
いけないいけない。
ちょっとボーッとしてしまったみたいだ。
えーっと、私の家に伝わる魔術?
「うーん、私が覚えてる限りは、聞いたことないね」
「そうか」
それだけ言ってヤマトはまた本に目を落とした。
ちょっとそっけなさ過ぎない?
もうちょっとなんか聞いたりすることない?
クトゥルネでももうちょっと構ってくれるよ?
……いや、クトゥルネに構われたら死ぬか。
解読中に悪いけど、流石にちょっと話すくらいはしようかな。
「ねえ、私の家に伝わる魔術があったら何なの?」
「ん?ああ、ここの箇所がな……」
ヤマトが図の下にある文字を指差す。
「大体この文字の解読が進んできたんだが……」
大体この文字の解読が進んできたんだが!?
ヤマトに見せて一週間も経ってないよ!?
しかも手がかりなんて実質あの図だけだよ?
そんな簡単に文字の解読なんてできちゃうものなの?
うそでしょ?
「どうもこの箇所だけ読めないんだ。しかし、魔術だとしたら納得がいく。本当に何も知らないのか?」
「え、えっと、うん。知らないね。ちなみにどんな魔術なの?」
危うく声が裏返りそうになった。
しょうがないでしょ……おかしいんだから……。
「具体的な効果は分からないが、その結果起きる効果なら分かる」
「ん?どういうこと?」
「お前がサースティウルフを葬った一撃。お前は確かに素手で奴の心臓を貫いてたんだ」
「私ではないけど、それがどうしたの?」
断じて私じゃない。
そんな殺人鬼みたいなことはしない。
「素手で、なんて常人にできることか?」
「あっ、確かに」
最近ヤマトと一緒にいるせいで感覚が狂っていたみたいだ。
目の前でドッカンドッカン爆発起こされたら、そりゃ感覚が狂うに決まってる。
「じゃあ、魔術の効果はどんなものだと思うの?」
私の問いに、ヤマトの口角が上がった。
あっ、この感じは長くなるやつだ。
「あるとしたら手を尖らせるような魔術とか相手の筋肉を柔らかくする魔術とかか?いや、柔らかくしたら逆に通りにくくなるから脆くするとかか。いやボロボロ崩れるような感じじゃなかったな。ということは手を強化するという方向性が一番考えられるか?それも色んな可能性が考えられるな」
不意にヤマトが真っ直ぐこっちを見て……
「やっぱりお前は面白い奴だな!」
太陽みたいな満面の笑みで笑いかけた。
そこで思わず顔を背けてしまったのは、眩しすぎる太陽のせい?
体中が熱くなって、心臓が暴れだすのは、熱すぎる太陽のせい?
じゃあ、この心がどんよりとした雲みたいにモヤモヤするのも、太陽のせい?




