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下手の横好き  作者: クラッシー
第二章 神聖国家ルーナレーン編
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ヤマトvsスイーツ屋

 フェルメから東に離れたカミソリ草原中央部。

 雲一つない晴天下で、薄汚れたローブを着たヤマトと、同じくローブを着た中年の男が向かい合っていた。

 二人を中心に大規模なドーム型の障壁が展開されている。

 準備が万全に整い、今、まさに戦いの火蓋が切られようとしていた。


「結界の維持は私とファミア様で行うので、存分に暴れてください」


 障壁の外側でオロネスの言葉に、内側にいるヤマトが首肯した。


「それでは、始めます。戦闘――」


 二人が軽く構え、同時に爽やかなそよ風が吹き抜けた。


「開始!」


 男は開始の合図とともに障壁に沿って走りだし、懐から何かを取り出した。


「ふっ」


 男は短く詠唱し、『何か』を水を撒くようにして無造作に投げつけた。

 それは地面に着弾すると同時に茨のような蔓に変化した。

 男は蔓を操ってヤマトに向かって鞭のようにして操作し、攻撃を仕掛けた。

 

 ヤマトは迫り来る蔓を身をよじって躱し、ときに手刀で軌道を変えていなしていった。

 蔓の速度は速く、人間が全力疾走したときほどに速度が出ていたが、その分直線的で単純な軌道だった。

 そのため、ヤマトにとって致命的な脅威とは言えなかったようだが、蔓を素手で受けていたため、手に無数の切り傷を負っていた。


 いずれ限界が来ると悟ったヤマトは、蔓をいなしつつ魔術の詠唱を始めた。


「黴鐵鬣黶鬣璽癭兤璢鼈……」


 男は外周を走り抜けながら、攻撃手段を増やすべく『何か』を撒いて蔓を増やし続けつつ、ヤマトの詠唱に聞き耳をたてる。


(……草魔術!?クトゥルネ討伐で見た火魔術を警戒していたんだが……)


 何がくるか分からず最大限警戒し続けていると、数分でヤマトの詠唱が終わった。

 そして詠唱終了と同時に、ヤマトに襲いかかっていた蔓がヤマトを中心に弾かれ、弾かれた蔓が、地面に着弾して破裂音を出していた。


「えっ!?」


 男は何が起きたか分からず蔓を一度ヤマトの周りから引っ込めた。

 そして蔓の1本をもう一度ヤマトに向けて攻撃したが、先ほどと同じ様に弾かれてしまう。


「何が起きて……?」


 もう一度、もう一度、と蔓を操作していくが、すべて弾かれてしまう。


「なんで……?」


 男は目の前で起こっていることが信じられず、半ば躍起になって増殖した蔓をすべてヤマトに向けて放っていったが、いずれもヤマトに近づいた瞬間に弾かれてしまった。


(くそっ、どうなってる!?ヤマト君自身は微動だにしていないのに、まるでそこに壁があるかのように全部弾かれる!?やっぱりあの詠唱した魔術にからくりが……?)


「これが気になるか?」


 男が焦りで汗をにじませていると、ヤマトがニヤリとした笑顔を蔓の間から見せていた。

 男はその笑顔に少々ムカついて言葉を返す。


「そりゃ気になるよ。僕の得意魔術がことごとく無力化されてるんだからね」


「それもそうか。特別にこれの原理を教えてやるよ」


 ヤマトが迫り来る蔓の1本を、弾く前に引きちぎった。


(あの速度の蔓を的確にちぎった!?)


 男が相当驚いているのを知らず、ヤマトが話を続ける。


「中位草魔術『植物操作』。お前もこれを使って蔓を操ってるんだろう?」


 ヤマトがちぎった蔓をその場で浮かせて見せる。


「『も』って……?えっ?まさか……」


 男はある結論が頭によぎり、驚愕で蔓を操作するのを止めてしまった。


「そのまさかだ。植物操作を狭い範囲に限定して、お前の蔓を乗っ取り、自動で弾き返している」


 ヤマトはさも当然のことのように言っているが、植物操作はそう簡単なものではない。


 植物操作は、対象――この場合蔓に魔術をかけて操作する。

 魔術をかけるのは、直接触れてかけるのが一番簡単なのだが、離れていても時間をかければ操ることが可能である。


 しかしヤマトは植物単体にかけるのではなく、狭い範囲で限定して、その範囲内の植物にかけることによって、かけてから操るまでの時間を最大限短縮していた。

 それをヤマトは、激しい猛攻の中、男の魔術に的確に対応できるような魔術を組んで詠唱したのであった。


(理論上はできるかも知れないけど、普通無理だし、やろうとは思わないでしょ……)


 男は感心半分、呆れ半分で口が開いてしまっていた。


「それよりお前!一瞬で蔓を成長させたのはどういうからくりなんだ!?俺も魔術を教えたんだ。お前も教えろよ!」


 ヤマトが食いぎみに男に聞いた。


(うーん、本来は教えないほうがいいんだろうけど……いや、時間稼ぎして限界まで蔓を増やそうか)


「まあいいよ」


 逡巡の末、男はできるところまでやってみようと考えたらしい。


「やった!」


 男の少々邪な考えなど露知らず、ヤマトは遠目に見ても太陽のような笑顔で跳び跳ねた。

 一応時間稼ぎのつもりなんだけどな、と思いつつ、男が優しく語り始めた。


「『生命成長』という魔術は知ってるよね?」


「もちろんだ。植物の限界を超えてを一瞬で成長させる中位魔術だが、詠唱までは一瞬とはいかないはずだぞ?」


「本来ならね。でも、普段から種子に魔力込め続けて精霊祝詞を捧げると、種子に芽が出ることはなくなって、活性化されるんだよ。そうすると、何故か詠唱が最後の節だけで済むし、遠隔で軌道することもできる」


「本当か!?」


師匠(せんせい)が発見した技だから、理屈はわからないけどね」


「ほうほう、活性化されて遠隔操作できるのは分かるがそれで短縮される?いや芽が出なくなるというのもよく分からないな。生命成長の術式自体が……」


 ヤマトが考察を始め、男は時間稼ぎが成功したことに内心ガッツポーズしつつ、後ろ手で種を撒き始めた。

 数分ほどしてヤマトの考察が終わった。


「……それも含めて要研究だな。それよりお前、隠してることがあるんじゃないか?」


「隠してること?」


「隠し持ってる魔術、と言った方がいいか。まだ特異特殊魔術を持ってるんじゃないか?」


 ヤマトが男を輝く瞳で真っ直ぐに見据える。

 男はそんなヤマトを見て、観念して正直に話そうと決めた。


「そんなことまで見抜かれてたとは、お手上げだよ。でも、隠してた訳じゃない。使いたくなかっただけなんだよ」


「人を殺しかねない魔術だから?」


「……!」


 男が思わず黙ってしまった。


「やっぱり図星か。でも俺が死ぬことはないよ。断言する。だから……」



「全力で来い!」



 ヤマトの叫びは、確かに男の魔術師としての魂を突き動かした。

 男がその心のままにヤマトに走り出す。


「おおおお!」


 男は400以上まで増えた蔓とともにヤマトに向かっていく。

 増殖した蔓は海の波のような形をとり、男の視界さえ埋め尽くしていった。


 大量の蔓はヤマト一斉に向かっていき、そしてヤマトに近づいた瞬間に一斉に弾かれた。


(これだけの量の蔓でも弾かれるのか!でも予想の範囲内!こっからが本命だ!)


 弾かれる蔓の中、男だけがヤマトの元にたどり着いた。

 

「!」


 ヤマトが展開したのはあくまでも蔓を弾く魔術で、男はその対象にはなりえなかった。

 ヤマトにとっては蔓の中から突然男が出てきたように見えたようで、目を見開いて驚いていた。


 男が瞬時にヤマトの背中に触れ、再び蔓の奥に隠れた。


 この一連の行動は、前が見えなくなるほどのが、煙幕となって男の姿を覆い隠していたためにできたことであった。


「蔓を盾にしたか!なかなかやるな!……ふふふふふ、俺も反撃に転じるとするか」


 蔓がベチベチと弾かれる間から、再び男が姿を見せた。


「そんな暇があるかな!」


 男が再びヤマトの背中に触れた。

 その瞬間、ヤマトのローブが切り刻まれた。


「うそ!?」


 切り刻んだローブの奥には、ローブを脱いだヤマトが立っていた。

 男にとってそれは信じられない光景だったようで、一瞬の隙が生まれてしまう。

 ヤマトは男に生まれた隙をついて一瞬で距離を詰め、首をつかみ、火球を詠唱し始めていた。


 男はその場でうなだれて両手を挙げた。

 

「勝負あり!ヤマト様の勝利です!」


 審判のオロネスが判定を下したことでこの戦闘に決着がついた。


 だが、決着などどうでもいいというようにヤマトが男を問い詰めた。

 

「さっきの、物体を切り刻む魔術なんだろ?」


「そ、そうだよ。なのになんで……」


「なんで、俺が立っているか、か?」


 ヤマトの言葉に男が黙って首肯する。 


「発動条件はおそらく長く触れるか、二回触れること。発動すれば対象を切る。そういう魔術なんだろ?」


「うん、斬撃魔術『裂』という名前がついているんだ」


「そんなもの、分かっていれば対策は立てられる。攻撃に合わせてローブを脱げばいいだけだ」


「じゃあなんで初めから魔術の効果が分かってたの?」


 障壁を解いてヤマトに駆け寄ったファミアがヤマトに質問していた。


皮剥(ひはく)魔術の、あの皮がスパッと分かれるやつ。あれが『裂』だったんだ。正直、別の魔術を組み合わせてるっていう説と皮剥(ひはく)魔術の一部っていう説は五分五分だったんだが、前者で良かったな!」


(((術式を見ただけでそこまで……!?)))


 男とファミアとオロネスは同じ感想を抱いていたが、口にはできなかった。


「え、えっと、ちなみに、ローブは弁償した方がいいかな?」


 男は驚きつつ、かろうじて気になっていることを絞り出した。


「いやあれ捨てるやつだったから。俺の身代わりにしようかと思って」


「そんなに先まで見越してたんだ……」


 ファミアとオロネスも男と同じように驚き、唖然としていた。


「ところで、斬撃魔術には他にも種類があるのか?」


 ヤマトは意図せずして男に心の整理をさせる時間を与えず、キラキラした目で男に質問した。


「いや、これがねえ、分からないんだよ。皮剥(ひはく)魔術と斬撃魔術『裂』は代々伝わったものだから」


「ならしかたないな。あともう一つ。師匠(せんせい)とは誰だ?」


 男は「せんせい」という言葉を聞いて懐かしむような、優しく遠い目をした。


「僕の師匠(せんせい)はね、『武緑のグレス』なんて二つ名がついてるすごい人なんだ」


「「まじで!?」」


 武緑のグレス。

 彼は皆が知る凄腕の魔術師だった。


「会ってみたいな~!そんで片っ端から魔術盗みたい!」


「物騒なこと言うね」


 男は弟子の前で言うことかな、と思いつつ苦笑した。


「どの辺にいるとか分かるか?」


「……ポテシア湖の防衛線かな。師匠(せんせい)に会って一年も経ってないし、そこにいると思う」


「じゃああなたもポテシア湖で戦ってたんですか?」


「うん。あそこは仲間がすぐに死んでしまうような場所だからね。僕はもう耐えなくて、逃げてきてしまったんだ」


 男は過去を彷徨うような、寂しい目をしていた。


「……すみません。不躾なことを聞いてしまいました」


「いや、いいんだ。……そうだ。もし師匠(せんせい)に会ったら、よろしく言っといてくれないか。ポテシア湖まで行けとは言わないからさ」


「わかった」


 男はヤマトの真っ直ぐな目を見て、フッと表情を緩めて笑った。




「よし、そろそろ出発しようか」


「僕は魔力切れはしていないから、気にしなくていいよ」


「そうか!あれは種子に込めた魔力を使って魔術を行使していたのか!では魔力はその間色褪せていないということになって……」


「はいはい、別れのときくらい落ち着いて。……もう、ちょっと湿っぽくなったと思ったらこれだよ……」


 ファミアが呆れつつ興奮状態のヤマトをなだめた。


「まあ、これくらいがちょうどいいんじゃないかな」


「……それもそうですね」


 そうして笑っていると、ヤマトがなんとか落ち着いた。


「ありがとう」


「「ありがとうございました」」


「ありがとう!師匠(せんせい)によろしくね!」


 男は三人が見えなくなるまで手を振り続けた。

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