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下手の横好き  作者: クラッシー
第二章 神聖国家ルーナレーン編
19/20

後始末

 夜空に特大の花を咲かせたヤマトは、撃ち落としたクトゥルネに駆け寄っていた。


「……うん、死んでる」


 クトゥルネは黒焦げになっている上に半身が溶けていたが、ヤマトは念入りにクトゥルネの瞳孔が開いていることを確認し、振り向いてオロネスとファミアの二人に淡々と告げた。

 しかし二人とも一切反応せず、心ここにあらずといった様子で、どこか上の空だった。


「……ん?どうした?」


 二人の反応を不審に思ったヤマトが首を傾げた。

 するとファミアが身体を乗り出して抱きついてきた。


「すごい魔術だったね!!あれホントに爆炎火球なの!?かっこよすぎるでしょ!!」


「ちょっ……ちかい……」


 目をキラキラさせ、食いぎみに聞いてくるファミアに、ヤマトは鬱陶しそうに顔をしかめつつファミアを引き剥がそうと試みる。

 だが剣士でもあるファミアには純粋に筋肉で負けていたため、なかなか思うようには離せなかった。


「確かにあの爆炎火球は上級魔術と言われても納得がいくほどでした。一体どんな工夫を?」


「答えるからこれどうにかしろ」


 「これ」ことファミアはヤマトに抱きついて窒息させる寸前だった。

 オロネスは全体重をかけて、なんとかファミアを引き剥がすことに成功した。

 解放されたヤマトは呼吸を整えて詠唱を始める。


「おおっ」


 ヤマトの目の前に青緑の光が現れる。

 よくよく見るとその光は一つ一つが魔術言語で、羅列された文字がみるみるうちに球の形を取っていった。

 そして1分ほど時間をかけて完全な球になった時、ヤマトは詠唱を完了して、ふう、と息をついた。


「これは?」


「術式発光魔術だ」


 ヤマトはウインクして満面の笑みを浮かべていた。


「へー!」


 引き剥がされたファミアはオロネスに肩を掴まれたまま、発光する魔術言語を興味津々といった様子で間近で見ていた。


「……こんなものがあったなら、もっと火球のカタチよく分かったんじゃないの?」


 ファミアが疑うような視線を向けた。


「だってフェルメの商人から買ったからな」


「あー」


 白い服の上に、黒を貴重とした上着。

 明らかに高そうな衣服を身に纏った、自分なら絶対に声をかけないような高貴そうな男に、ヤマトが躊躇なく声をかけていたのを思い出した。


「それで、どのくらいしたの?」


「……それよりこれが何の術式か分かるか?」


「誤魔化した……」


 露骨に話題を変えたヤマトにファミアが目を細めて呆れていると、


「……先ほど撃っていた爆炎火球の術式、ですか?」


 というオロネスの声が上がった。


「ああ、その通りだ」


 オロネスが一瞬で何の術式か察してくれたので、ヤマトはご満悦だった。


「ひゃえー!これがさっきのやつの術式!?すごい密度だね!」


「なにしろ複製数を12に設定しているからな」


 ――複製数とは、例えば二つの火球を作ろうとしたときに、詠唱を二週しなければならないところを、複製数を設定して一週に抑える、という技で、魔術師必須のものだ。

 ここで常に付きまとう問題は、犠牲にする魔力量だ。

 先ほどの例で言えば、火球を二つ作るために複製数を2に設定したのであれば、単純に消費魔力量が2倍になるのではなく、約2.1倍になる。

 しかも、複製数が上がれば上がるほど複製数を設定したときの消費魔力量の倍率は上がる。

 この例の場合では、複製数を3に設定すれば約3.2倍、4に設定すれば約4.4倍……というように、だんだんと倍率が跳ね上がる。

 さらに恐ろしいのは、魔術自体の難易度が上がれば、複製数を設定したときの消費魔力量や倍率も跳ね上がるというところだ。


 すなわち、爆炎火球一つの消費魔力量は火球一つの消費魔力量の10倍と言われているが、先の爆炎火球は複製数を12に設定したからと言って、ただ消費魔力量が120倍になるのではない。

 そう、ヤマトが先ほど撃った爆炎火球の消費魔力は、()()()()()()()()()()()()()、火球一つの消費魔力の300倍を越えていた。


 だから、ファミアとオロネスが白目になるほど驚くのも無理はなかったのだ。

 しかしマイペースなヤマトは二人が死ぬほど驚いているのも知らず、何でもないことのように話を進める。


「複製した術式を12個組み合わせることで、ようやく俺の全力に耐えられる強固な外枠を作れるんだ。そしたら後は全力で魔力を込めるだけだ。お前らも今の特訓を続けたら普通にできるようになるぞ」


 ヤマトは二人にニコリと笑いかけた。

 しかし皮肉にも、この場ではその笑顔は残酷にしか見えなかった。


「えっ……と……ちなみに込める魔力はどのくらい……?」


 しばしの沈黙の後、ファミアがやっとのことで絞り出すように、取りあえず気になったことを質問する。


「うーん、術式の2倍くらいじゃないか?」


 1000倍。

 その数字が二人の頭をよぎった。

 そして二人は詠唱できたとしても、到底行使不可能な魔力量だと思い知った。

 それにも関わらず、ヤマトはそれほどの魔力を使った上で魔力が切れる様子は無かった。


(本当に、よくこんなのと戦おうとしましたね……知らなかったとはいえ、過去の自分が愚かで仕方がない……)


 オロネスは、ヤマトだけには絶対に逆らえないと改めて思い知った。


 あまりの驚きで絶句していると、沈黙を打ち破るように後方から声がした。


「おーい!大丈夫かー!」


 声のする方を見ると、2、3人の男たちがこちらに走ってきていた。


(あいつらどっかで……?)


 ファミアの思考が、ヤマトの魔力量から目をそむけるようにして動き出す。

 ファミアが記憶を辿っているうちに、男たちは自分たちのところまでたどり着いていた。


「げっ……最年少……」


「あっ、お前らギルドの奴らか!」


 ファミアは男の言葉でやっと思い出した。


「ああそうだよ」


 男は大層気まずそうにファミアから目を逸らすと、偶然クトゥルネの死骸に目が留まった。


「……ってクトゥルネじゃねえか!?」


 男たちが目を剥いて驚く。


「えっ?もしかしてお前らが倒してくれたのか?」


 男が前のめりになって聞くと、ヤマトは心底ウザそうに首肯する。

 男たちはそろって目を輝かせはじめた。


「まじでか!?うっほほーい!これでまたあそこの酒が飲めるぜ!!」


「なあ」


「ああそうだな!明日にでも行こうぜ!」


「なあ」


「あの魔肉炒めがずっと食べたかったんだよな!!閉まったときは本当にどうなっちまうのかと……」


「なあって」


「それじゃあもう帰ったら明日の夜まで浴びるほど飲んじまおう……ぜ?」


 興奮していた男が首もとに冷たい感触を覚えて言葉に詰まった。

 恐る恐る首に目を向けると、真っ白な棒のようなものが首に当たっていた。

 さらに少し遠くへ目を向けると、短く揃えられた真っ白な髪の毛と赤い目が見える。


「ひいぃぃ」


 真っ白い棒はファミアの剣の鞘、白髪と赤い目はファミアの端正な顔だった。

 男は咄嗟に飛び退いてファミアと距離を置く。

 少し遅れて他の男も同じように飛び退いた。


「ヤマトが話そうとしてるんだ。黙ってよ」


 ファミアは思いっきり男たちを睨みつけて低い声で命令した。

 言葉とともに魔力が漏れ出ていたのもあって、男たちはさらに半歩遠のいた。


「やめとけ。誤解される」


「あっ、ごめん」


 ファミアはヤマトの言葉で我に返り、先走りすぎたと反省して魔力を引っ込めた。


「なあ、これ運んでおいてくれないか?」


 ヤマトはクトゥルネの死骸を指差した。


「えっ?なんで俺たちが……」


「換金までしてくれたら取り分の2割を渡す。金は明日朝までに受付に預けろ」


 ヤマトが早口で男の言葉を遮る。

 口答えしかけた男たちは目の色を変えてコクコクと何度も首を縦に振った。

 それを見たヤマトは、ちょうど男たちが背になるような方向に歩きだした。


「行くぞ」


 二人はヤマトのマイペースっぷりに呆けていたが、さすがに慣れてきたのか、すぐに駆け足で歩きだすのだった。




 翌朝。

 いつもより遅く起きてギルドに行くと、三人が足を踏み入れた瞬間に歓声が上がった。


「おー!」

「フェルメの英雄!」

「救ってくれてありがとう!」

「本当にありがとう!」

「白の子可愛い」

「結婚してー!!」


 若干変なのは混じっていたが、三人は昨日の対応が嘘だったように歓迎されていた。

 ファミアとオロネスは若干戸惑いながら、ヤマトはいつも通り淡々と受付まで進んだ。

 ある距離になったときに受付嬢がペコリと一礼する。


「おはようございます。昨日は誠にありがとうございました」


「クトゥルネは?」


 ヤマトは受付嬢の感謝の言葉に一切反応せず、間髪入れずに質問した。


「え、ええ、サーロン兄弟からお金は預かっております」


 受付嬢はヤマトが無反応だったことに戸惑い、それを隠すように机の下に目を向けて探りだし、硬貨がパンパンに詰められた袋を取り出した。


「はい、クトゥルネの本体200万エルネ。そこから手数料等を差し引いて150万エルネ。そしてサーロン兄弟に2割渡して120万エルネとなっています」


「120万エルネ!?」


 ファミアは「120万あったらここくらいの建物買い取れる……?」などとうわごとを言いつつ驚いていた。

 

「ん」


 ヤマトは袋に包まれた大金を受け取り、すぐに胸に持っていってそれを抱えた。


「魔術書12冊分……」


 ヤマトはニヤニヤしながら、赤子の頭を撫でるように袋を撫で回し始めた。


「え、えーっと、領主様から会食のお誘いが来ていますので、この書類通りに行ってください」


 受付嬢はヤマトに引きつつ、一枚の紙をヤマトに渡した。


「断る」


「は……?」


「あと今日ここ出るから」


「えっ……?」


 ヤマトは踵を返してスタスタと歩き、扉を開けて出ていった。




「なんとか撒けたな」


 ヤマト一行は昼間でも薄暗い、例の皮剥(ひはく)魔術を知る男が住む家の前に来ていた。

 ヤマトたちは、ギルドから出てすぐに受付嬢との怒涛の鬼ごっこを始めた。

 受付嬢は想像以上にしつこく追い掛けてきて、オロネスの土壁がなければ危うく追い付かれるところであった。


「ねえ、会食、受けなくて良かったの?」


「貴族めんどくさい」


 ファミアはヤマトの微妙な顔を変化から、色々苦労したんだろうなと読み取った。

 オロネスも自分自身も半分貴族のようなものだったので、ヤマトの感情を痛感していた。


「そんなことより、皮剥(ひはく)魔術を教えてもらいに行こうか」


 ヤマトは弾むような足取りで扉に手を掛けた。

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