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下手の横好き  作者: クラッシー
第二章 神聖国家ルーナレーン編
18/19

怪鳥襲来

 宿を出て空を見ると、月が大きな影に隠されていて、周囲が暗くなっていた。

 夜であるため影が何かはよく見えなかったが、その大きさから確かにクトゥルネだと分かった。

 夜であるにも関わらずに出歩いていた人は、速やかに建物の中に避難していた。

 この街にとってクトゥルネは、日常的な災害のようなものなので、フェルメに住む人々にとってはもう慣れているのだろう。


「あんたらいまから出かけるのか?やめといた方がいい。あのバカデカい鳥、鳥なのに人を食いあがるんだ。避難しといた方がいいぞ」


 わざと扉を開けて開放的にしている、宿の向かいにある酒場の店主が宿を出てすぐのヤマト達に声をかけた。

 あまり人気がないのか店には人っ子一人入っておらず、彼は暇そうに頬杖をついていた。


「大丈夫ですよ。あれ、倒してきますから」


「はっ、なかなか冗談が上手いようだ」


「冗談……まあお気遣いありがとうございます」


 ファミアが冗談という部分が引っ掛かって適当に返すと、止めていた足を前に出して歩き始めた。

 「ちょっ、おい!」という声を背中に受けつつ、一行はクトゥルネが飛んでいる方向に歩いていくのだった。




 ヤマト達はクトゥルネの目の前に来ていた。

 クトゥルネは全身が紫色の体毛でもっさりと覆われており、目が赤く、その目付きは肉食獣のそれであった。

 体長はフェルメの一番高い建物の3倍はあり、横にも同じくらい太かった。

 2つの月にその体毛が照らし出され、禍々しさを感じさせていたが、その光景は美しいとも言えるものだった。

 村を取り囲む柵の前に佇むクトゥルネは、ヤマト達の方をじっと見て微動だにしない。

 クトゥルネは本来、魔力を前にすれば本能にしたがって突っ込んでいく魔物であるため、3人の莫大な魔力を前にじっとしているのは、警戒して様子見に徹している証拠だった。


「ネス、お前がコイツを倒せ」


「え?」


 オロネスは思わず隣を歩くヤマトを見る。


「え、えっと、はい、分かりました……ですが、ヤマト様が倒した方が確実で速いんじゃないですか?」


 オロネスは眉をひそめてヤマトの顔を覗き込む。

 ファミアはオロネス本当はやりたくないんだろうなー、と思うと同時に、私も倒せる気がしないしなー、とも思って傍観に徹するのだった。


「いいから行け」


 ヤマトは半眼になってオロネスを睨んだ。


「わ、分かりました」


 オロネスは自分が逆らえる立場ではないと改めて思い出し、不承不承前に進み出るのだった。


 オロネスは柵を挟んでクトゥルネとの距離が家3個分ほどの距離になったときに立ち止まり、詠唱を開始した。


 魔力の流れを感じたクトゥルネは、キエエエエという耳障りな金切り声を上げて翼を広げ、オロネスに向かって低空飛行で突進する。

 その突進は柵を易々と倒し、オロネスに迫る。

 オロネスは詠唱を続けつつ、クトゥルネの突進を転がるようにして避けた。

 クトゥルネはそのままヤマトとファミアがいる方まで突進していき、マズいと思ってオロネスがそちらを向くと、障壁を展開して攻撃から身を守るヤマトがいた。


「キエエエエェェ!」


 クトゥルネは障壁に頭から突っ込んでいって自傷していた。

 どうやらクトゥルネは障壁の存在が頭に無かっなようで、障壁越しに見えるヤマトに向かってもう一度噛みつくような攻撃を繰り出す。

 しかし、当然ながらその攻撃がヤマトに届くことはなく、阻まれた障壁にヒビをいれるに留まる。


(なるほど、クトゥルネはあまり賢い魔獣ではないようですね。ひとまず詠唱は間に合いそうです)


 クトゥルネが本能のままに単調な攻撃を何度か繰り返すうちにオロネスは詠唱が終わり、地面に手をつく。

 するとウネウネと地面が動き始めた。


「大地脈動!」


 その言葉に連動して、地面から数十の刺が出てきて、まるで命を持ったようにクトゥルネに襲いかかる。


「キエエエェェァアア!!」


 クトゥルネの腹部に刺がささって、苦しそうに鳴き声を上げる。


(相変わらずうるさいですね……。しかしこの感触は……)


 クトゥルネはヤマトとファミアへの攻撃を諦め、体をよじって刺を無理やり折り、翼を広げて飛び立った。


「キエエエエ!」


(大地脈動ならばたいていの魔獣は屠れるのですが、やはりまだ動きますね。おそらくあの感触からして、かなり厚い筋肉が大地脈動を阻んでいるのでしょう)


 思考を巡らせていると、クトゥルネはオロネスの頭上で旋回し始めた。

 そして一回転したところで、オロネスめがけて真下に急降下する。

 オロネスは頭部に向かって大地脈動の刺を放った。

 しかしクトゥルネは器用に巨体を傾けて攻撃を躱した。


「なっ!?」


 躱されるとは露ほども思っていなかったオロネスは一瞬思考が止まった。

 それによってオロネスはクトゥルネに頭からついばまれた。


「おわっ!?」


 オロネスは頭からお腹のあたりまで嘴で咥えられていた。

 何も見えず足をじたばたしていると、クトゥルネはオロネスを咥えたまま急上昇していく。


(マズい……!)


 そう思っていると、不意にクトゥルネは口を開けて、例の金切り声で絶叫し始めた。


「え?」


 クトゥルネに手放されたオロネスは一瞬フワリとした浮遊感を覚え、すぐに垂直落下を始めた。


「うわあああすいませえええん!助けてくださああああい!」


 オロネスにしては珍しく、声を荒げて地上のヤマトに助けを求めた。

 空中で、しかも視界が滲む中なんとかヤマトの姿を探し出し、こちらを見るヤマトと目があった。

 そして地面に落ちる寸前、落下し始めたときとは違ったフワッという浮遊感を覚え、数秒フワフワと浮いてから地面に落ちた。


「大丈夫?」


 ヤマトは地面にへたり込むオロネスに駆け寄り、膝に手をついて中腰になって、心底不安そうに眉をハの字にした。


「は、はい、たすかりましたぁ」


 オロネスは気の抜けた声で答えた。

 目の端に涙をためていて、心なしかやつれていおり、頭にはネバネバした唾液を被って、体の一部からは出血していた。

 死に至るほど悪い状態ではなかったが、相当参っていた。


「さて、どうしようかな……?」


「はあ、はあ、す、すみません、あの、何がどうなったのか教えていただいても?」


 オロネスは呼吸を整えつつ、弱々しい声でクトゥルネの動きを注視しながら独り言を呟いたヤマトに問うた。

 ヤマトがわかった、と相槌を打って口を開く。


「お前がさらわれそうになったからあいつに火球をぶつけた。で、バランス崩してお前を手放したから風魔術のつむじ風でお前を受け止めた」


 ファミアは、普通は火球にあの巨体のバランスを崩すほどの威力はないんだけどね、と心で突っ込みつつ目を細めた。

 そんなことを考える余裕の無いオロネスは、なんとか状況が飲み込めてきていた。


「何から何までお世話になったようで……。本当にありがとうございます……」


 地面にへたったまま、申し訳なさそうに軽く頭を下げた。


「いやいい。お前アイツとは相性が悪いだろうし、元々お前が倒せるとは思っていない」


「え?」


 ヤマトは淡々と告げたが、相当危ない目にあったオロネスとしては聞き捨てならなかった。


「じゃあなんで……?」


 オロネスは遠い目をしてヤマトを見つめていた。


「いやほら、お前って一応魔獣じゃん?だから俺たちを裏切らずに本当に同じ魔獣のクトゥルネに立ち向かって行けるのかなーと思って」


 ヤマトの目がクトゥルネを捉えたまま泳ぎ始めた。


「それと面白いかなって思って」


「いやそれが本音でしょ」


 ヤマトが小さい声で呟いたのを二人は聞き漏らさなかった。

 オロネスは確かに元敵という立場上、裏切る可能性があるということを否定できずに突っ込めなかったが、気持ちとしてはファミアと全く同じだった。


「と、とにかく任せて」


 二人からの、特にオロネスからの咎めるような目線を誤魔化すようにして詠唱を始めた。


 クトゥルネは危険を察知したのか再び急降下してくる。

 ヤマトはいつもの2倍の速さで高速で火球を詠唱し、できた5つの火球でクトゥルネの攻撃を牽制する。

 降下中に一発被弾したクトゥルネは、体勢を立て直すべく、火球を避けながら上空に舞い戻っていく。


 それで少し余裕ができたヤマトは、上空で火球を追尾させながら別の魔術を詠唱し始める。

 距離の離れた火球を細かく操作しながら別の魔術を的確にカタチに詠唱していく様は、まさに神業と言えた。

 ヤマトが片手を突き出すと、夜の漆黒の空間に赤と橙の光がパチパチと生まれ、その光がだんだんと増殖していって球状の膜になる。

 そしてその球の内側に溶岩のような炎が生み出され、目映い光を撒き散らし出し、小さな太陽のようになった。


「爆炎火球」


 それはオロネスと戦ったときにも使った技であったが、クトゥルネは火球を避けるのに精一杯で攻撃を仕掛けてこなかったため、あの時よりも時間をかけて、美しく丁寧に生み出せていた。

 ヤマトが突き出していた手を後ろに引っ込めて、もう一度突き出した。

 

「行け!」


 ヤマトがそう叫ぶと爆炎火球はどんどん加速していき、火球によって誘導されたクトゥルネに向かって蛇のような軌跡を描いて追尾し、直撃した。


 その瞬間、大空に大きな橙の花が咲いた。

 それはフェルメの町中を彩り、夜の闇を照らし出す。

 遅れてズドーンという内側から腹を震わせるような爆音がした。

 そして花は儚く散って、最後にキラキラした光がパラパラと降っていく。

 この光景はファミアとオロネスの目に一生焼き付くものとなった。




 その後、フェルメでは毎年この日に多くの魔術師を呼び寄せ、一斉に火魔術を空に放って夜空を彩る花炎(かえん)大会が行われるようになった。

 元酒場の店主が大会を主催していたのだが、主催側の癖に毎年あの時の方がすごかった、とか言って変な目で見られたりするのは、また別の話である。

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