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下手の横好き  作者: クラッシー
第二章 神聖国家ルーナレーン編
16/19

フェルメ

「「はあッ、はあッ、はあッ、はあッ…」」


 カミソリ草原西部、ちょうど日が真南に昇る頃。

 ファミアとオロネスが肩で息をして地べたに寝転がっていた。


「150詠唱おつかれ」


 ヤマトが二人に声をかけつつ、土魔術で生成したコップに水球の水が入ったものを差し出す。


「はあ、はあ、あ、ありが、とう」

「あ、ありがとう、ございます」


 ファミアとオロネスが上体を起こしてコップを受け取り、水を少しずつ飲む。


 水球の詠唱を特訓し始めて3日目。

 日が昇るまえに起こされ、すぐにご飯を食べてから150詠唱を義務付けられる上に、長距離移動も平行して行う日々。

 ファミアはまだしもオロネスは日頃の運動不足が祟り、移動だけでも厳しいものがあるにも関わらず、詠唱で息が常に乱れてさらにしんどい、という地獄を味わっていた。


 対してヤマトは、ファミアとオロネスが1詠唱あたり15秒ほどかかる水球を150詠唱している間に、最短でも30秒かかる体内魔力増幅魔術を400詠唱終わらせていた。

 しかもファミアとオロネスは、水球とは言え150も詠唱すれば魔力切れを起こしてしまうため、ヤマトが定期的に魔力を供給している。

 それに加え、ファミアとオロネスの水球の審査や移動も平行しているはずなのに、息が上がる気配が一切ない。


 オロネスは息を整えつつヤマトを観察し、改めて彼の異常さに気付かされていた。


 そんなオロネスの視線に気づいたのか、ヤマトが目を細める。


「お前らいつまで寝てるつもりだ。動けないなら俺が飯作ろうか?」


「ちょっとまってわかったからそれだけはやめて」


 ファミアが勢い良く立ち上がり、ヤマトが手に持っていたパンを取り上げた。


「なんで」


「ヤマトのご飯マズいじゃん!?」


 大げさなファミアの身振り手振りにヤマトが小首をかしげる。


「そう?」


「そうだよ!!」


 ファミアは食い気味に答えた。


 それを傍観していたオロネスは、3日前に出た夕飯を思い出す。

 暗黒物質に禍々しい紫色の何かが乗ったもの。

 パッと見なにか分からない。

 ヤマトに聞けば、パンに怪鳥の内臓を乗せて焼いたらしい。

 焼く際には時短(火球を直撃)したよ、と付け加えられた。


(あの内臓、魔力こそかなりのものでしたが、二度と食べたくはないですね……)


 ヤマトを崇拝しているオロネスでさえこれなのだから、ファミアの拒絶は鬼気迫るものがあった。


「とにかく!これからは私が作るから!」


 そう言ってファミアは亜空間につながる革袋に手を突っ込んで、食材を取り出し始めたのだった。




「はーい、ご飯できたよー」


 ファミアは木陰に座って話をしているヤマトとオロネスに呼び掛けつつ、頭をおおっていた布をほどいてポケットにしまい、短い白髪を露にする。


「今行く」


 ヤマトが日向で料理しているファミアの方に行こうと立ち上がり、日向に出て日光に目をしかめる。


「いや、私が持っていくから来なくていいよ」


 そう言ってファミアは軽く笑って、お盆に3つの皿を乗せて日陰に向かっていく。

 ヤマトはその言葉に無言で納得して木陰に戻った。


「はいどうぞ」


 ファミアがヤマトとオロネスに皿を手渡す。

 皿の上にはこんがりとした焼き目がついたパンに、紫色のジャムが乗っていた。


 ヤマトは配られた側からパンにがっつく。

 だんだんヤマトの頬が紫色にコーティングされていった。


「自分で言うことじゃないかもしれないけど、これ、この前出されたあれの意趣返しのつもり。この紫は王都で買ったフォッカムジャムね。ちゃんとした調理工程を踏めばここまでおいしくなるんだから」


「美味しかったよ」


 そう言われて反射的にヤマトの方を見ると、なぜかおでこにまでジャムがついてしまっているヤマトが既にパンを平らげていた。


「って食べんの速すぎない!?」


 ファミアが目を剥いて驚き、「なにその顔!?」と二重で驚く。

 オロネスが苦笑しつつ、ヤマトについたジャムを拭こうと、懐から布切れを取り出した。


「別に速くない。それより、ネスには話したんだが、モゴモゴ……に行ってみたら、モゴモゴモゴ……が見えたぞ」


「なんて?」


「だからぁ、モゴモゴ……」


「ふ、拭いた後でいいから……」


 ファミアが呆れつつ焼きたてのパンをパクリとかじりつく。

 ファミアが我ながら良いできだとか思っていると、ヤマトが額のジャムを最後に拭いてもらって、やっとまともに口を開くことができるようになった。


「もういいよな?ネスには話したが、あの丘の上から次の町が見えた」


 ヤマトが小高い丘を人差し指で指し示す。

 パンを咥えて口が塞がっているファミアは、軽くうなずいて反応を示した。


「町の名前はフェルメ。王都から近いのもあって人も多い、結構栄えた大きい町だ。あそこにも未知の魔術が眠っているそうだぞ!ほら!お前ら速く食え!」


 待ちきれないと言うように目を輝かせて二人を催促する。

 ご飯くらいゆっくり食べさせてほしいと思いつつ、ファミアが口に含んでいたパンを飲み込んで口を開く。


「ちなみに、どんな魔術なの?」


 ファミアは食べ終えるまでの時間稼ぎをしようと企んで、ヤマトの思考を誘導せんとする。


「お、気になるか?この魔術書によると皮剥(ひはく)魔術と言うらしいんだがな?実はあまり詳しく書いてなかったんだよな。色々と効果について想像してみたんだが聞くか?」


「ん」


 再びパンを含んだファミアが、大成功と思いつつ首肯する。


「仮説1つ目。動物の皮を剥いてしまう魔術。これがあったとしたら……」


 ファミアは食事中に話すものじゃないねと思って半分聞き流しつつ食べていると、仮説3つ目に突入する前に食べ終えた。

 その時には既にオロネスは食べ終わっていたため、すぐに出発することになった。

 ファミアは一生懸命急いで食べたと思っていたのに、上品に食べていたオロネスの方が食べ終わるのは速かったため、ひっそりと劣等感を抱いたのだとか。




 一刻も速く、と先を急いだのが功を奏し、ヤマト一行は日が傾くよりもよっぽど早くフェルメに着いた。


「着いたけど……なんというか、寂しいね」


 それがファミアの第一印象だった。


 フェルメは町を軽く柵で囲んだ程度であるがそこそこ大きな町で、建築様式は王都と大差ない。

 だがファミアの言う通り、圧倒的に活気がなかった。

 王都であれば入り口付近の街道沿いにズラリと店が並んでいて、祭りのように賑わっていたものだが、フェルメにはそれがない。

 代わりに、家にしては少し変わった建物が立ち並んでいるだけだ。

 少々不信感を抱いたファミアが、取り付けられた看板に近づいてそれを読む。


「……閉店?」


 そう。店がなかったのではなく、店がほとんど閉まっていただけなのであった。


「なんでなんだろ?」


「おーい、ファミアいくぞ」


 疑問はあったが、ヤマトに急かされて一度思考を中断する。


「今行くー」


 ファミアは早歩きで前を歩くヤマトたちに追い付く。


「ねえねえ、栄えてる場所って言ってたけど、なんか様子が変じゃない?」


「それな」


「何かあったのかもね」


 住宅が密集しているところに足を踏み入れ、ファミアは疑問が拭えないのか、名残惜しそうに肝心の店が閉まっている商店街を振り返る。

 そこには雲一つない太陽が照っているというのに、逆にそれがより寂しさを引き立てている、というなんとも言えない光景があった。


「かもな」


 そっけないヤマトを少し不服に思いつつ、考えても仕方がないと前に向き直った。


「まあいっか。……えーっと、ちなみにこれはどこに向かってるのかな?」


 特に目的地を告げず、先先行ってしまうヤマトが不安になって、眉を潜めてヤマトの顔を覗き込む。


「…………わかんない」


 ヤマトはコテンと首をかしげる。


「はあ……そんなとこだろうと思ったよ。無計画じゃ仕方ないから、まず宿を取りに行こっか」


「わかった」


 予定を決めず、皮剥(ひはく)魔術を探すことしか考えていなかったヤマトは、素直に首肯した。


「宿に向かいつつこの後の予定も決めるね。宿を取ったら、次に魔術師ギルドに顔出ししよう。で

、宿に戻る途中に買い出しをしつつ皮剥(ひはく)魔術について聞いて回るのがいいかな」


「……わかった」


 ヤマトは魔術師ギルドと聞いて微妙に顔をしかめ、少し間を空けてからうなずく。


「……魔術師ギルドがどうかした?」


 ファミアは最近、無表情なヤマトの表情の変化が分かるようになってきたため、ヤマトの反応が気になって純粋に疑問を持つ。


「いや……面倒臭くて」


「ふふっ、ヤマトらしいね」


 ファミアは魔術師ギルドとの因縁でもあるのかという考えが頭をよぎっていたため、ヤマトの予想外の回答に思わず笑ってしまう。


「でも、魔術師たるもの顔は出しておくべしだよ」


「……わかった」




 ヤマト一行は、フェルメに入って突如再開された皮剥魔術の仮説8個目を話している途中に宿にたどり着き、大人たるオロネス(悪魔)を全面に押し付けて、不信に思われずに宿を取ることに成功した。


 部屋に入って荷物を置き、比較的軽装になって宿を出る。

 持っているのは魔術師手帳とお金、亜空間革袋くらいで、道行く人には手ぶらに見えていたかもしれない。


「そういえば、私が宿をとったとき、ファミア様は落ち着きがなかったですね」


「うぇ?」


 オロネスが自分からファミアに話しかけるのはなんだかんだ初めてだったため、ファミアは変な声が出た。


「え、えっと、私、炎妖族なのにいいのかな、って思ってね」


 動揺が隠せず、しどろもどろになりながらファミアが答える。


「ああ、それなら大丈夫だと思うぞ。俺の生まれたアステラも王都に近い方だが、炎妖族にはそんなに差別意識を抱いている訳じゃなかったし、王都の隣だが差別意識は薄いんじゃないか?」


「え、でも、アステラにある魔術学院では苛められたけど……」


 昔のことを思い出してファミアの顔が曇る。


「……あーそれはあの学院に王都出身の学生が多いからだと思うぞ」


「えっ?そうなの?」


 ファミア少しだけ顔が晴れる。


「じゃあ、私は人と仲良く話せるし綺麗な景色もみられるのかな!?」


「そうかもな」


「やったぁ……!」


 ヤマトに肯定されたことによって嬉しさを噛み締め、満面の笑みになるファミア。

 オロネスはそれを神妙な面持ちで見ていた。


「……ちなみに、なんで急にそんなこと聞いたの?」


 ファミアは視線に気がついてオロネスを見る。


「いや、少し気になっただけです」


 オロネスはそう言って口許を緩める。


 オロネスは決して言うことなどできなかった。

 ファミアに見つかったとき、自分はあまりそんな感情を持っていなかったのにも関わらず、炎妖族であることを理由にけなしてしまったことを。

 少しでも罪滅ぼしをしようと会話を誘導したことを。




「おー、あれがここの魔術ギルドか」


 通りに出たところで一際大きい建物が見え、ファミアが呟く。


「結構近かったね」


「ああ」


「ここは人多いんだね」


「ああ」


「冷たいね……」


 ヤマトが適当に受け流すのでファミアが少し拗ねる。

 だが心を許していないヤマトは本当にただ無言なだけなので、全然マシと言えた。


 本当に適当な会話をしつつヤマト一行は人混みを掻き分けてギルドにたどり着く。


「仲良く話せる人がいるといいな」


 ファミアは緊張と期待の混ざった面持ちで扉に手をかけるのだった。

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