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下手の横好き  作者: クラッシー
第二章 神聖国家ルーナレーン編
15/20

魔術講座②

 前回のあらすじ


 神聖国家ルーナレーンへ向かう道中、ヤマトによる魔術の講座が行われる。

 ヤマトはファミアの「ヤマトがいつも使っている、異様な火球について教えて欲しい」という願いに答えようとしていた。

「まず知っておいてもらわなければならないのは、『術式世界』についてだ」


 ヤマトの淡々と、それでいて熱を帯びた声が、だだっ広い草原に自然と溶け込むように消えていく。


「俺たちは何故、『詠唱』を通して魔術を生み出し、行使することができるのか?ネス、分かるか?」


「………」


 しばらく歩みを進める足音だけが聞こえる沈黙が流れる。


「わからないか?」


 30歩ほど進めたときに、しびれを切らしてヤマトが急かした。


「はい、至らなくも……」


 オロネスはバツが悪そうに苦笑いをしてお茶を濁す。


「…答えは、詠唱―声に出すことによって術式世界に術式を書き込み、魔術言語が持つ『コトダマ』が働くことによって、世界に魔術という形で現れるからだ」


「………えーっと?単に詠唱→発動というわけではなく、詠唱→術式世界→発動…ということですか?」


 オロネスは自分で言語化することによって、ヤマトの言葉を少しずつ飲み込む。


「まあ単純に言えばそういうことになるな。俺が使ってるピカピカ光る火球のポイントもコトダマだ」


「へぇーそうなんだ。てっきり、術式の書き込みと発動の間の『想像』に工夫があるのかと思ってた」


 ファミアが顎に手を当てる。

 ファミア特有の、感心しているときに無意識で出るクセだ。


「実は違うんだ。……あー本当は『想像』の説明はこの際省こうと思っていたんだが仕方ないな。実は術式世界→発動の間に『想像(イメージ)』という行程が挟まる。例えば火球なら、炎を取り囲む膜を想像して、その中に魔力を流し込んで、炎を着けて…という要領だ」


「……ああ!」


 一瞬遅れてオロネスが反応する。


「確かに私達悪魔も、魔術の発動へのプロセスを想像しなければならないという知識は持っていますね」


「そうだろうな。この行程、一見するととても重要だが、突き詰めれば要らないんだよ」


「え!?まじで!?」


 ファミアは想像(イメージ)が苦手だったため、少し嬉しそうに驚く。


「そうだ。『想像(イメージ)』は魔術の発動の手順を具体的に想像することで、適当な術式に魔力を流し込む行為だ。だが、あのピカ球を創るには、常識外の魔力の込め方をするから、余計な想像(イメージ)が邪魔する確率が高い」


「……よく分からないけど、想像(イメージ)については今は考えなくていいのね?」


「はあ…」


 ヤマトはやれやれと手を頭に当てる。


「まあ、いずれ理解はして欲しいが、今はそれで問題ない」


 ヤマトは乾いた口を、水球を口の中に生成して潤すという器用な真似をしてから口を開く。


「…さて、突然だが、『火が出ろ!』と言っても、火が出ることはないのは当然だよな?だが、火球の詠唱は、魔術言語で過程を詳しくして『火が出ろ!』と言っているのと同義なんだ」


「えっ、そうなの?」


「ファミア、お前は習っているはずだが…?」


「えっ…うぅ…あ…」


 ファミアは狼狽えつつ、そんな話もあったと思い出し、迂闊な発言を後悔する。


「まあ良い。説明しておいて良かったな。参考までに個人的な見解を述べておくと、なぜ神は今俺たちが日常的に使ってるメーレル語を通してではなく、魔術言語を通して魔術が使えるようにしたかだが、多分、日常で魔術が暴発しないようにするためだ。そうしなかったなら、間違って無意識で詠唱した魔術で人を殺してしまうことが多発する地獄絵図になるからな」


 さらっと無表情で怖いことを言うヤマトに、ファミアとオロネスは思わず苦笑いだ。


「余談はこのくらいにしておいて。…さっき火球は魔術言語で『火が出ろ!』と言っているだけと言ったが、厳密には頭に精霊祝詞を、後ろに複製数や発動の座標、火力、対象などをつけてる必要がある。精霊祝詞はそれぞれ、行使する属性の精霊を祝福する言葉が必要で、規模や複雑さが上がれば上がるほど精霊祝詞が長くなる」


「あんまり長くなる、なんていう言葉づかいしない方がいいよ。精霊の日頃からの守護やこれから行われる魔術の補佐への感謝を多く伝えるって言わないと」


「めんどくさいからいいよ」


 精霊はいつでも私たちの言動を聞いているから、失礼なことをしたら天罰が下る、などという言い伝えなど、ヤマトにとってはどこ吹く風であった。


「で、複製数は一度詠唱したのとまったく同じ魔術を生成してくれる数だな。例えば火球だったら、一回詠唱しただけでも、複製数を3とかに設定したら、術式をまるごと複製して3つ火球を生成してくれる。それぞれに座標とか対象とかの情報を設定しないといけなかったり、魔力を大量に食ったりするのが難点だが、大変有用な機能だ……っていうかお前ら知ってるよな」


「はい、複製数については、どうやら名前も悪魔界と同じようなので、十全に存じ上げております」


 オロネスは胸に手を当てて軽く頭を下げる。


「そうなんだな。まあ他の座標とか火力とかはいいとして。……さて。これから話す事柄は精霊祝詞の後の詠唱についてになる。術式世界の座標とこの世界の座標は一致する。簡単に言えば、ここで座標を指定せずに魔術を詠唱しても、変なところに飛んでいったりせずに、だいたいこの辺で発動する……やろうとするなよ?下手したら口の中がこんがり焼けるぞ?」


 火球を詠唱し始めたファミアがあわてて口を塞いだ。


「だが詠唱はあくまでも書き込む行為。紙に文字を書くことを想像してくれ。書きたいところに書けるだろ?それと同じだ。詠唱も魔術を発動させたいところに書き込めば、思い通りに魔術を発動させることができるんだ」


「へえ、知らなかった。具体的にはどうやって?」


「声の大きさを調整する」


「…ホント…?」


 ファミアの軽い反応を見て、ヤマトは目を細める。


「ファミア……お前ひょっとして術式のカタチについて何一つ覚えていないな?」


「カタチ?」


「はあ…。ファミア、俺たちは3年目にカタチについて学んでいるはずだがな…。いいか?本来、術式にはちゃんとしたカタチが決められているんだ。そのカタチにそって術式を形成するのとしないのとでは雲泥の差が出る。火球で検証してみたが、同じ魔力なのに、火力に約6倍の差が出た」


「「6倍!?」」


 間違いなく今日一の声量で二人が叫ぶ。

 ちょっとのことでは一切動じないヤマトが、咄嗟に耳を塞いで「うるさい」と言うほどである。


「コトダマが最大限力を発揮できるように、一文字一文字声量を調整して、決められたカタチになるように言語を書き込む。これのどこが簡単なんだ?」


 二人の顔が自然と引き締まったものになる。


「朗報だ。これを今からお前たちに習得してもらう。できるようになるまで1日中みっちり練習に付き合ってやる!」


 ヤマトが混じりけのない純粋な笑顔で酷なことを告げると、ファミアの顔面が崩壊した。


「アアアアア!」


 うめき声のような叫び声のような、どこから出しているんだという声を上げてのたうち回る。


「そう恐れることはないぞ!一つ一つ丁寧に教えてやるからな」


「ウウ、ウウ!」


「俺みたいな火球が使えるようになるぞ!」


「ウウ……イヤアアアァァァァァ……」


 ドサリとその場にへたり込んで、静かに涙を流すファミアであった。


「なぜ嫌がる…そこは『やったー私も派手な火球撃ってみたい!魔獣を血祭りに上げてみたい!頑張って覚えよう!』と失神するほど喜ぶところだろ…」


 予想外にファミアが拒絶反応を示して、ヤマトが目に見えて落ち込む。


「ヤマト様」


「おう、なんだ?」


 ヤマトがオロネスの方を向くと、オロネスがファミアとは対照的に、目に強い光を宿らせていた。


「今日からでも私にそれを教えていただけませんか?」


 ファミアの拒絶に落ち込んでいたヤマトは、オロネスの言葉を聞いて満面の笑みになる。


「ああ、もちろんだ!もとよりそのつもりだったしな!」


「はい!ありがとうございます!」


 オロネスが勢いよく頭を下げる。

 その顔には、ヤマトには見えていなかったが、笑顔が隠れていた。


「おーい、お前もやるぞー」


 ヤマトがファミアの肩を揺すってやると、「ウウ…」とうめきつつ、糸が切れた操り人形のように立ち上がった。


「はい、じゃあまずは水球で練習しようか。球系の魔術は、術式こそ違えど形は同じだ。えーっと…」


 ヤマトはその場でしゃがみ、近場の小枝を拾って地面に絵を描き始める。

 まずは球を描き、次にその体積を六等分するような線を二点で交わるように3本引く。

 実際には平面に描いているため、一点で交わるような形ではあるが。

 できた図は、例えるならば六つの房に別れたみかん、といったところだろうか。


「この線に沿って術式を書き込むんだ。この、線が重なったところを始点にするとやりやすい」


 線が集合しているところを棒でトントンと示す。

 すぐにその棒をその辺に放り出して立ち上がった。


「手本を見せるぞ」


 ふう、と一息おいて、ヤマトが口を開く。

 場の緊張が跳ね上がった。


「黴鐵鬣黶鬣璽癭兤鎣籤璽齧黶璽齧鑿燦霽齧禰癭鏽黶黴璽黶齧鑿璢璽贐籤韉轟燦璢鼈癭韉齧鎣籤璽齧黶黶癭霽璢鼈癭韉籤鼈鐵齧癭鐵鼈齧韉鼈鏽齧」


 ヤマトが水球の詠唱を終えると、 ヤマトは目線の先にヤマトの顔と同じくらいの大きさの、非常に綺麗な球の形をした水球ができる。


「なるほど、確かに驚くほど綺麗な球ですね…」


「お前もこれができるようにするからな。とりあえず、これに関しては習うより慣れろだ。試しにやってみろ」


「はい…ですが、見ることができないのでは、確認のしようがないのでは…?」


「心配するな。俺は目が良い。できた水球の形状を見れば、術式の美しさは一目で分かる」


「そ、そういうものですか…」


 オロネスは僅かに目を見開いて驚く。


「じゃあ、やってみろ」


 オロネスとファミアは、息を大きく吸い、同時に水球の詠唱を始める。

 ほとんど同じ速さで詠唱し、それを終わらせた。


 二人の口の先にそれぞれ同じ大きさの水球が生まれ、滞空する。

 ヤマトはそれを目と鼻の先ほどの近さで凝視する。


「うーん……。ネスのは蛇がとぐろ巻いたみたいな感じになってるし、ファミアのはミミズが数十匹絡まって死んだみたいになってるぞ」


「え?なにそれ気持ち悪い…」


 ファミアは吐き気を催して口を押さえる。


「事実は事実だ。しかしネス、お前はなかなかセンスがあるぞ」


「えっ、本当ですか?」


 オロネスの口元が緩む。


「ああ。ファミアは術式がたまたま紐状になってるだけでバラバラだが、ネスはおそらく順番通りに術式を配置できていて、かろうじてだが、いびつな三重の楕円のような形になっている。空間に術式を書き込むという感覚が備わっている証拠だ。始点から楕円にたどり着くまでがフラフラと彷徨っているのが残念だが、初めてにしては良いできなんじゃないか?」


「ありがとうございます…!」


 オロネスは口の端をあげて、素直に喜んでいた。

 ファミアは不服そうに口を膨らませていたが、ヤマトはすべて正しいことを言っていたので、何も言い返せなかった。

 それが悔しくて、密かにいつかはオロネスを追い抜こうと決意したのであった。


「さて。お前らに一回詠唱させたから、ある程度なんとなくの感覚が分かるようになったと思う。だからここで、ちょっとしたコツみたいなものを伝授しようと思う」


「コツ、ですか」


「ああ。当たり前だが、考えなしに行き当たりばったりで詠唱したら、もちろん支離滅裂になる。だから、逆算して考えてみる。具体的には、水球なら3等分したときの文字を覚えておく、みたいな感じだな」


 ふむふむとうなずいて、ファミアが口を開く。


「えっと…水球は64文字だから…?あれ?6で割り切れないじゃん」


「詠唱祝詞を除くから33文字な」


「う…そっか……じゃあ3で割り切れるのね」


「そうだ。だから、11文字で円を作って、それを3つって感じだな。籤から2回目の籤で一つ目の円、璽から3回目の籤で二つ目の円、鼈から齧で三つ目の円だ」


「籤がやけに多いですね」


「うーん、たまたまっていう説が一般的なんだけど、そのおかげで連結しやすくなってるのは確かなんだよなー。神のみぞ知るって感じだが、興味深いよな!」


「そうですね」


「ふふふ」


「ふふ」


 オロネスは魔術が好きだと再認識したことにより、ヤマトとシンパシーを感じているようだ。


「ちょっと、なんか仲間外れにされてるような気がするんですけど!?」


「そうか?…そんなに疎外感を感じるなら、これから三人で50詠唱と洒落こもうか」


「ひぃぃいいいええええええ!!」


 ファミアの悲鳴が、静かな草原に響きわたった。




「「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


「はい、おつかれー」


 ヤマトは、50詠唱を終えて、息も絶え絶え仰向けに横たわる二人の頭を撫でながらねぎらう。


「うんうん。お前ら確かに成長してるぞ。ファミアはギリ楕円になるようになったし、ネスは始点からはまだぶれるけど、円が綺麗になった。一日目にしてはすごいぞお前ら」


「こ、これは、喜んで、いいの?ヤマト、息、上がって、ないし、すごい、皮肉……」


「素直に喜べ」


 そう言ってヤマトはファミアにデコピンした。


「痛い…」


 ヤマトは空を見上げると、既に日が落ちていることに気付く。


「もうこんな時間か。じゃあ、今日は俺が飯を作る。だからお前ら休め」


「でも…」


「明日も朝イチから150詠唱だから休め」


「「えっ!?」」


 ファミアだけでなく、二人の会話を静かに聞いていたオロネスも、顔を真っ青にして驚く。

 それを聞いて、ファミアは止める気も起きなくなり、ヤマトの言う通りに休むことにした。


 2時間後。

 起こされて出されたものが、黒焦げのパン(?)にどろどろした紫色の何かが乗ったものだったため、ファミアは大層後悔したという。

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