過去
ここはどこ?真っ暗だ。何も見えない。何も聞こえない。
……誰かいる。赤毛の幼い少女だ。顔を覆って泣いてうずくまっている。声を上げて泣いてるはずなのに嗚咽が聞こえない。
どうしてあげたらいいんだろう。とりあえず声をかけてみよう。
そう思ったら女の子は目の前かは消えた。
代わりに真っ暗な世界に、どこか見覚えのある映像が投影された。
そこは間違いなく、子供の時に見に行った王都の中心だった。
私は母にはいつも、そっち側には行くなと言われていた。
でも、スラム街から見ても王都は綺麗だった。
レンガ造りの大きな建物が連なってて、花壇には赤、黄、白のカラフルな花が咲いていて、太陽が眩しくて、大人も子供も笑ってて。
薄汚れたスラム街では絶対にみられない景色だった。
だからどうしても気になって、一人で抜け出して見に行ったんだ。
やっぱり、太陽の光を燦々と浴びて見る光景は、スラム街から見るよりよっぽど綺麗だった。私はそんな光景に目を奪われていた。
でもその日、いつもと違って大人の人たちは、みんな暗い顔をしていた。
こんなに綺麗なのにどうして?と思っていた。でもすぐにみんな私を見てると気がついた。
けどみんな見てるだけ。近づいてくるでも話しかけてくるでもなく、ただ見てるだけ。本当にただそれだけだった。
変なことしたのかな。何か悪いことしちゃったのかな。そんな疑問がぐるぐると渦巻いて私は不安になった。
立ちすくんでいたら、3歳くらいの女の子がこっちに近づいて来ようと一歩踏み出した。
でも後ろの大人に肩を掴まれて止められていた。
私はさらに不安になった。
やっと6歳くらいのお姉ちゃんが、キョロキョロしてる私をまじまじと見て口を開いた。
「ねえ、あの子って炎妖族っていう悪い人だよねー!」
悪い人?私が?なんで?私は何もしてない。なのになんでそんなふうに言うの?
「あー先生が言ってたな。」
「さわったら燃えるとか。」
「ああ!それ私も覚えてるよ!」
「俺も!」
「なにそれ危なすぎるじゃん」
「えー?おまえ覚えてないのー?」
なんで?私にさわっても燃えたりしない。危険なんかじゃない。なんで?なんで?私は自然と涙が溢れた。
「前から思ってたんだけどさ、そんな悪い人が死んじゃえば世界は平和なのにな」
違う!おかしい!私は悪い人なんかじゃない!
私は涙がボロボロ溢れて滲む視界の中、その場から逃げるようにスラム街に帰った。
当時は気にしなかったけど、私が通るとき、みんな私から離れていったから簡単に通ることができていた。
その後のことはもう、なにも覚えていない。
これは見たくない。思い出したくない過去の記憶だ。
投影される映像が変わった。
スラム街から王都を覗き見て、私にも友達が欲しいと思った。
そしたら思わず話しかけてた。
でも、怖がられて、拒絶されて、逃げられて、友達になってくれる人なんていないと知って泣いた。
小さい頃からいつも暗い顔をしていると思っていたスラム街の人たち。
でも大きくなって、その人たちも王都の人たちと同じように、私を見て暗い顔をしていたことに気がついた。
その時は我慢していたのに、夜寝るときに自然と悲しさが込み上げて、枕の中でおもいっきり叫んで泣いた。
私を悪い人だって言うみんなを見返したくって、魔術学院に入った。
王都から離れてたし、拒絶されないと思った。
だったら友達もできるんじゃないかと思った。
それに魔術師になってしまえば、みんな私を頼ってくれる。そう思った。
初めはみんな話しかけてくれた。でも、私が悪い人だって噂がすぐに広まって、生徒は愚か、先生にも避けられた。
寮に帰っては毎日泣いた。
突然深夜に起きてしまって、なんで私って生きてるんだろって思った。
もう涙は涸れていた。
もうやめて!もう見たくない!なのに目を閉じても映像が見える!やめて!やめて!
誰も私を見てくれないのは、私が一番分かってるから!やめて!
もう、やめて…
「ハッ!」
思わずガバッと起き上がった。
「…っはあっ、っはあっ、っはあっ」
私の息は荒れていた。
見渡すと、そこは見覚えのない真っ白な場所だった。
見覚えがないことに安心してしまっていた。
そこには知っている顔があった。
「大丈夫?」
青みがかった青い髪の毛。小さな体。表情が読めない顔。
フィーロで出会った少年、ヤマトだった。
「うなされてた」
私は呼吸を整えつつ「うん」と返すのが精一杯だった。
「なあ回復したら一緒に旅してくれないか?」
「え?」
突然すぎて声が裏返った。意味がわからない。裏になにか意図があるのか?
「なんで私なんかと?どうせみんな私のことが嫌いなんだ。私なんていない方が平和なんだよ。なのになんでそんな私なの?」
「それはおまえの魔術が見てみたいからだ!」
こんな私を見てみたい?ずっとみんなに怖がられて、遠ざけられて。こんな私を必要としてくれるの?
思えばこの子には出会ってから戸惑いっぱなしだった。
だから気がつかなかったのかもしれない。
みんな暗い顔で私を見ていたのに、この子はずっと私をキラキラした目でまっすぐに見てくれていた。
私が炎妖族だと知っても、分け隔てなく接してくれていたんだ。
「みんなに嫌われてる私でもいいの?嫌われすぎておかしくなっちゃった私でもいいの?」
「おかしくなっちゃうくらい嫌われてたのか。それは辛かったな。」
思わず目の前の小さなものに抱きついてしまった。声を上げて泣いた。辛かった。本当に辛かった。苦しかった。何回も死んじゃえばいいって言われた。何回も死のうと思った。
だれかに辛かったねって言ってほしかった。頑張って生きたんだよ。なのにみんな死んじゃえって。ひどいんだよ。私は悪くないのに。否定されて、おかしくなって、涙さえ出なくなって。
本当に、辛かった…
ファミマは夜が明けるまでヤマトにすがり付いて泣き続けた。




