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下手の横好き  作者: クラッシー
第一章 鍛冶国家ローム編
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白いニンゲン

 自分をサースティウルフだと名乗った金髪ロングヘアの女は、ファミアのほうに剣を構えて飛び出していった。

「はぁ!」

 女は目にも止まらぬ速さでファミアに再び剣を浴びせ、ファミアは今度は受け流すように剣を滑らせた。しかし、受け流して威力を減衰させたにも関わらず、ファミアは吹っ飛んでいった。完璧に受け流せたと思ったファミアは、混乱しつつ木に衝突して吐血した。

「力を受け流したとて私の力は強力だろう?」

 そう、ファミアが吹っ飛ばされた理由は、何か仕掛けがあるのではなく、圧倒的な速さと力によるものであった。要はゴリ押しである。

「こっちだ!」

 ヤマトは女の注意を引くため、とっさに火球を撃って牽制した。女はファミアへの追撃を中断されたことに苛立ち、舌打ちをして少々おおげさに火球を躱し、ヤマトに攻撃を加えるべく右足を踏み込んだ。が、踏み込んだ瞬間に火球が蛇がうねるよりも滑らかに曲がって、女の肩に直撃した。

「ぬッ!?」

 女は完全に火球を避けきったと思い込んでいたので、意表を突かれて驚愕した。

 しかしながら、火球は確かに肩に命中していたが、サンドウルフであれば一撃で屠れていた火球は、女の皮膚を一部こがすのみにとどまっていた。 

「かたい」

 本来のヤマトであれば、サースティウルフへの考察をつらつらと口に出していたところであったが、いかんせん余裕はなかった。

 女は火球によって体勢を崩していたが、すぐに体勢を整えてヤマトに向かって行った。ヤマトに近づいて力強く踏み込み、助走を生かした横凪ぎを繰り出す。助走を利用した剣撃は篠突く礫よりも速く、大岩よりも重かった。

 ヤマトは早急に障壁を広範囲に三重展開した。剣は障壁の一枚目を粉砕し、二枚目を突き抜けて、三枚目でようやく止まった。

 ヤマトはバックステップで距離を置きつつ火球を詠唱し、七つの火球を放った。女は横に走って火球を躱していった。

(この魔術師は危険だな。深追い厳禁。であれば…)

 女はヤマトへの攻撃を諦めて木々が生い茂る方角に飛び出していった。一見すれば何にもない方向であるが、ちょうどファミアが起き上がって様子見している場所であった。

 女はヤマトを倒すのは骨が折れると判断し、先にファミアを潰そうと考えたのだ。

「はあ!」

 女はファミアが視界に収まった瞬間に大上段に構えていた剣を振り下ろした。その攻撃方法は、剣の重さを最大限生かしているため、攻撃力こそ高いが隙だらけである。だが、女はサースティウルフ特有の圧倒的な速さによって隙をカバーしていた。

 ファミアは女に反撃できるビジョンが浮かばず、攻撃を避けようとしたが、女が予想以上に速い攻撃をして来たため、すぐに受け流す方向にシフトした。

 ファミアの判断は早かったが、それでも一瞬の迷いは生じていた。そのため女の攻撃に即座に対応できず、ファミアは剣撃に耐えられず剣を落としてしまった。すかさず女がファミアを蹴って吹き飛ばした。

「あぁっ!」

 ファミアは嘆くように悲鳴を上げて木に衝突し、本日3回目の吐血をして動かなくなった。


 ああ、私はこれで自由だ!あの忌々しい悪魔が倒れ、目の前の白いニンゲンも倒れた。気がかりは魔術師だけだがどうとでもなる!あれは近接が苦手なタイプだ。おそらく殺せるだろうし、最悪逃げてしまえばよい。

 思い起こせば何年前かわからない。私は生まれたときから悪魔に支配されていた。勝手な行動こそ許されていなかったが、思考は自由だったし、ある程度であれば自由に動けた。でなければ私は生まれていない。

 サースティウルフはレッサーサースティウルフの上位種で、狼と人の姿を行き来できる。だが人の姿は狼よりも器用なことができたし、人型は狼の身体能力をそのまま受け継ぐ。ウルフの畏怖される鉤爪も人になれば剣として活用できる。ゆえに、狼であるメリットがない。私は生まれた時からずっと人型で過ごした。

 私が生まれてからかなりの月日が経ち、ちょうど支配され続ける日々に退屈し、嫌気が差していたころ、支配する悪魔の代替わりが起きた。普段であれば悪魔の代替わりは公に行われるらしかったが、私を支配していたジジイはひっそりと死んだ。おそらく突然死だったのであろう。

 魔獣たちは一度自由の身となったが、ほとんどは気付いていなかった。私の親は死んでいたので、知能ある魔獣たるサースティウルフが当時私だけだったのもあるかもしれない。

 私は他の悪魔の支配から逃げるために逃亡を試みた。運良く悪魔に見つからずに村を抜け出せたので、私はとにかく一心不乱に走った。とりあえず砂漠から離れたかった。悪魔から離れたかった。行く宛てはあった。支配されていたときに悪魔が、ニンゲンについて何か言っていた。私はニンゲンがいる場所を目指してただただ真っ直ぐに走った。三日三晩走り続け、私はニンゲンを見つけた。悪魔や私と同じ形をしていたからすぐにわかった。悪魔の話題にのぼるほど面白い種族など、こやつらしかいないと。

 ニンゲンは大量にいた。私は狩猟本能がうずき、どうせ一人くらいいいだろうと思ってニンゲンを殴ってみた。楽しかった。血が吹き出した。面白かった。私を見てみんな逃げていく。無機物のように扱っていた悪魔と違って、ニンゲンは私を認めてくれていると感じた。嬉しかった。何を制限されるでもない。私は自由だ!

 手当たり次第殺していると、真っ白な姿をしたニンゲンが来た。逃げていったニンゲンよりも魔力密度が高かった。私の気持ちは最高に高ぶった。脆弱なニンゲンを殺すうちに、もっと歯応えのある強いやつと戦ってみたいと思ったからだ。

 私は力任せに戦って、ぼこぼこにされた。血まみれになった。屈辱だった。もう一度戦いたいとも思った。薄い薄い意識の中、私は砂漠に返された。ニンゲン視点であれば、死体を砂漠に遺棄したとも言えた。だが残念ながら私はしぶとく生きていた。

 砂漠に放置されている間、私はあのニンゲンにどのように戦うか考えた。しかし、再戦が叶うことはなかった。弱って地にへばりついているのを、悪魔に見つかったのである。

 それから何年経っただろうか。私は再びニンゲンのいる場所に向かった。今度は単独ではなく、悪魔に付属して行った。そして私は見たのだ。あの真っ白なニンゲンを。当時と変わっていたのは髪色だけだった。髪まで真っ白になっていた。それ以外はほとんど同じだった。私の心は、あのニンゲンに対する私の自由を陥れたことへの恨み一色に塗りつぶされた。

 何日か経った後、白のニンゲンがもう一人子供を連れて現れた。私はなぜか戦闘に参加させてもらえなかった。私はすぐにでも復讐したかったというのに。奴を目の前にして私の渇きはとどまるところを知らなかった。

 悪魔に窮地が訪れたとき、私は森の奥へ走るように命令された。もちろん逆らうことはできず、戦場から離れていった。理由はすぐにわかった。悪魔の魔力が切れそうで、私達の支配が溶けかかっているのだ。だから危険因子たる私を遠ざけたかったのだ。

 案の定、少し時間が経てば私は自由を手に入れた。真っ先に白のニンゲンを殺そうとした。憎い、憎い憎い。その一心で。


「ああ、思い出すだけで忌々しい。お前は楽には殺さない。爪を剥ぎ、足を捥いでっ!?」

 女は悪寒がしてその場から飛び退き、ファミアから距離を取る。もといた場所をみると、倒れ伏していたはずのファミアがそこに立っていた。

「はぁ!?」

 女は、ファミアがもう立ち上がることすらできないと思っていたので、目にも止まらぬその移動速度に驚愕した。

 ファミアの真っ白な髪が上から真っ赤に染まっていく。ファミアはその場で咆哮を上げて女を見た。その目は白目を剥いており、明らかに自我を保ってはいなかった。そしてファミアは詠唱を始めた。

「シィッ!」

 女は詠唱を阻害するため、咄嗟に高速で間合いを詰めて剣を振りかぶった。剣が当たる寸前にファミアが身をよじって剣を躱した。次の瞬間には女を吐血していた。

「ゲボッゴホッグッ……」

 ファミアの右手が女の心臓を貫いていたのである。

「ああ自由が…また奪うのかあああぁぁぁ!お前たちはああアアアァァァァァ!」

 それが断末魔の叫びとなり、ファミアの魔術で女は内側から爆ぜた。

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