表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下手の横好き  作者: クラッシー
第一章 鍛冶国家ローム編
9/20

篠突く礫

「見せてあげましょう。最後の切り札を!」

 悪魔はそう言って、手を上げて、空に振り下ろした。すると、大人しかった魔獣たちが雄叫びを上げてヤマトとファミアに襲いかかった。

 レッサーサースティウルフが先陣を切ってヤマトに向かっていき、かじりつくような攻撃を仕掛けた。レッサーサースティウルフは土魔術によって踏み込みを強化していたため、かなりの速度が出ていた。

 ヤマトはそれを紙一重でかわして火球魔術の詠唱をする。

 次に虎型魔獣がファミアに向かっていった。ファミアが牙を剣で受け流して距離をとった時、ヤマトの火球の詠唱が終わった。

 ヤマトの胸の高さに、等間隔に20程の火球が出現する。ヤマトはファミアを背後にして、火球をなぞるようにして手を付き出して振り回した。鍵盤をなぞると波のように次々と音が鳴るのと同じように、ヤマトがてでなぞった順に矢継ぎ早に火球が放たれていく。背後に立っていたファミアの方角を除いて。魔獣はほとんどが頭をヤマトの方に向けていたので、弱点を晒しているような構図だ。火球は一つ一つが微調整されて魔獣の頭蓋に直撃した。

「あの量の火球を…位置を完璧にあわせて正確に…化け物すぎる…」

 ヤマトはほぼ360度火球を放っているので、すべてを目視するのは不可能であった。ゆえに、標的たる魔獣の位置を覚えていたことになる。ただでさえ火球はその軌道を途中で変えるだけでも相当な集中力を要するので、ファミアが思わずそうこぼしてしまうのも無理はなかった。

「っていうか最初からそれを使ってたらよかった……」

 ファミアが言いきる前に、ヤマトが鼻血を流してへたり込んだ。

「それはダメだ。魔獣が使う魔術が見れなくなるからな。魔獣が使う魔術でもその魔獣にしか使えないんじゃなくてすべてが人間にも応用できる魔術がたくさんあるんだ。すぐに倒してやっぱりもったいない。…あとは反動がきつい」

 ファミアは口にはしたかったが、最後が本音じゃないの?と心で突っ込んだ。

 へたり込んだヤマトを見てチャンスと思った悪魔が、魔獣たちの戦闘中に詠唱を済ませていた、大地脈動による土の刺でヤマトに向かって攻撃した。

 ファミアがその刺の勢いを横に流して受け止め、ヤマトが残していた火球を悪魔に向けて撃った。座り込んだまま。悪魔は火球が飛んで来た方向のみを大地脈動による球状の土壁で覆って相殺した。

 ヤマトが「よいしょ」というあどけない声を上げてスックと立ち上がった。

「あれだけいた魔獣は壊滅ですか。魔獣たちよ、ありがとう。おかげで準備は整いました。心して構えてください。これが50年の研究成果です。」

 悪魔が手を地について二人を見据えた。

「大地脈動!」

 悪魔の前に厚さ10cmほどの大きな土壁が立ちはだかる。高さは悪魔の慎重の5倍以上はあっただろうか。

「裂割砕地・細!」

 悪魔が叫ぶと土壁が粉々になった。土壁が適度に粉々になることによって、千の土の破片ができていた。土の破片を作る時には、まんべんなく小さな力を加えなければならない。力が大きすぎると崩れ去ってしまうし、弱すぎると壊せない。力を加える場所が多すぎると、殺傷能力がないほどにバラバラになってしまう。そんなとてもデリケートな魔術であった。試行回数を重ねなければならないし、術式の形による詠唱も工夫しまくっていた。一朝一夕ではなし得ない、努力の果てとも言うべき芸当であった。

「浮遊!」

 土の壁を砕いた瞬間に悪魔は下位風魔術「浮遊」を発動させていた。浮遊は言葉通り物体を浮かせる魔術である。ただ、下から風を送ることによって浮かせているだけなので、軽量の物体しか浮かせられない上に、不安定極まりないのである。そんな魔術では、小さな破片とはいえ元は土壁だった物体を浮かせることは不可能である。しかし、悪魔は破片一つ一つに対して浮遊をかけるという荒業で悪魔は対処していた。だが、千の物体に対してなので千の詠唱である。魔力がみるみる減っていく。

「えらく消耗が激しいみたいだし、大丈夫か?」

 ファミアは消耗が激しい理由は理解していなかったが、体内魔力が見えるので消耗しているという事実だけは把握していた。

「ええ、長くなくて、いいんです」

 悪魔は消耗し続けることから来る疲労に苦悶の表情を浮かべていた。

「デザートバード!」

 悪魔の命令に応じてデザートバードが上空から急降下してきた。

「……!上空に潜んでたのね!」

 ファミアは魔力の透視が可能であるため、デザートバードは森の中に隠れても見つかってしまう。だが、そもそも見るという行為をしない上空であれば、隠れることもできたというわけだ。

 デザートバードは得意の強風を発動させて土の破片を片っ端から飛ばしていった。

「篠突く礫」

 大地脈動→裂割砕地→浮遊→強風の技を悪魔は篠突き雨に例えて篠突く礫と呼んでいた。一つの技として名称を与えることによって技のイメージが定着し、再現性が高くなるのである。デザートバードによる強風で速度が出た千の礫が二人に襲いかかる。

 ヤマトは障壁を四重に展開させて礫を受けたようと試みたが、礫は一枚目を容易く貫通して二枚目に突き刺さった。

「礫の強度が違うな!大地脈動は地面の材質をそのまま転用して発動するからここまでの固さを実現するには地中深くから岩石を引っ張って来ないといけないが大量の魔力を消耗するはずだ。だからここまで多くの土を地中深くから持ってくるのは魔力が枯渇するはずだぞ?」

「ええ、ですから土の壁を二層構造にすることで、先端だけ材質を変えているのです。」

「ほおほお!一部のみを変化させることで魔力消費を…」

「ちょっとそんなこと言ってる場合じゃないヤバいヤバい障壁が!」

 ファミアが言った通り、礫に耐えられず、四重の障壁が粉々になってしまっていた。

 限界的な状況に対応すべくヤマトが左手を斜め上に付き出すと、手を中心として大きな炎の円盤が出現する。障壁を詠唱する前に、あえて術式を完成させずに詠唱しておいておいたのである。最後のひと単語だけを詠唱することによって、とっさに魔術を作動することができたわけだ。

 礫を炎に通過させるだけではもちろん溶けるはずもなく、対応することはできない。いや、対応できないはずだった。だが炎の円盤は、轟音と共に爆発し続けることによって礫を無力化させることに成功していた。

 数分後、篠突く礫が止んだ。それに応じて炎の円盤もヌルっと夜の闇に溶けたことにより、ヤマトとファミアの二人と悪魔が対面する。

「は、はは、何ですかこれは?こんな魔術見たことも…」

「あるはずだ。爆炎火球を変形させたり分離さそたりして爆発させているだけだからな。」

 補足すると、爆炎火球は対象に着弾したときに爆炎が生じる中位魔術である。二人が王都に向かうときに襲われたレッサーサースティウルフに止めを刺す際、ファミアが使った魔術である。

 一度着弾すると大爆発して術式が崩壊してしまうのが難点であったが、ヤマトは術式に、「術式を分割する」という言語を組み込んで各所に散りばめていた。そうすることによって一気に術式が崩壊することを防いだのである。

 言語を組み込んだ分詠唱が長くなっているが、それでもファミアがただ爆炎火球を詠唱する速度とほとんど違っていなかった。それだけこの魔術も何度も何度も試行錯誤して練習したのである。

 少なくとも「だけ」ではなかった。

「もう何でもありじゃないですか…」

 分割するという言語を知らなかった悪魔は、理解できないというようにそれだけ言うと地面にへたり込んだ。魔力切れである。魔力は体を動かす大事な要素なので、魔力が切れたら回復するまでろくに立つこともできない。

 魔力の供給が切れたことにより、魔獣を使役していた魔術が崩壊する。生き残りのデザートバードは、ヤマトたちに恐れをなしてロスト砂漠に帰っていった。

「申し訳……ありません……あの犬が……こちらに……来ています。後の対処を……お願いできますか…?」

「え?なんて?もっかい言って?」

 ファミアは息も絶え絶えの悪魔の言葉が聞き取れなかったので、もう一回言うように催促した。

「ですから…」

 悪魔が言い始める前にファミアはもう動いていた。森の奥から高密度の魔力が高速でこちらに向かってきていたからである。

 数秒後、細身長身の若そうな金髪の女が木々の隙間から疾風が如く現れ、ファミアに向かっていって持っていた剣を一閃した。ファミアは剣を縦に構えて受けると、キイイィィィンという澄みわたった音がした。剣が交差して鋼が悲鳴を上げた音である。ファミアは女の剣に吹き飛ばされ、木にぶつかって勢いがとまる。

「ファミア!」

 ヤマトは突然のことに珍しく戸惑っているらしく、声を荒げた。

 ファミアは衝撃で吐血しつつ、ゆらりと立ち上がった。ヤマトに反応する余裕もないようだ。

「へえ、今のを受けて吐血する程度か。やるではないか小娘。剣ごと斬って真っ二つにするつもりでいたんだがなあ?」

 女がニタリと笑みを浮かべて驚愕を呈した。ファミアが受けきった事実に驚いてこそいるが、どうとでもなると思っているのか、傲慢にも余裕綽々としている。

「何者なの?」

 ファミアは怒りなのか闘志なのかはわからないが、鋭い眼差しで女を睨み付けて問うた。

「サースティウルフ。名前もないただのサースティウルフだ。」

 レッサーサースティウルフの上位種、サースティウルフが、狼ではなく人として二足歩行をしていた。

「まあそんなことどうでもいいであろう?構えよ。始めようではないか」

 その眼差しにはまさに獲物を狩らんとする狼の、圧倒的強者としての鋭すぎる光が宿っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ