第22話―“龍の幻界”
一方、ヴァンの創った“血界”の外では――。
「――降りてきてるってさ、古龍」
他の者が道場で稽古をしている中、中庭で話す者が二人。
「ほう。では、今が好機。今宵、皆を連れて龍桜山へ行こうかの」
その言葉に、もう一人が首を傾げる。
「夜? 何でさ?」
「奴が姿を見せるのは、彼の刀と同じ夜故、な」
―――――――――――――――――――――
――その夜。
夕飯を食べて休んでいた僕達の元へ、ラテン殿が訪れる。
「ラグナよ」
「祖父上、如何した?」
「今より古龍を倒しに行く。そうじゃな……。〝紫〟の二人に〝灰緑〟のお主。お主らも共について参れ。此度は少数精鋭で行く」
そうして指名されたのは、僕と姉さん、そしてアリオス。
「えっ……。今から……ですか?」
ラテン殿の言葉に、僕達は驚く。確かに、センラ殿の話によると下りてきている、とは言っていたが……。
「奴が下りてくるのが今しか無いのじゃ。刀同様、奴が来るのは満月の夜のみ。故に、今が好機。逃せば、次見えることが叶うはまた一月後となる」
「なるほど……」
――ならば、確かに彼の言う通り今の方がタイミング的には正しいか。
僕達はレナ殿から貸し受けていた服から、戦闘用の普段着に着替え、いつか家族にもらった濃紫のマントを羽織る。
――数分後、僕達は御剣家の正門前に集まっていた。
「準備はできたかの?では、行こうぞ」
ラテン殿はそう言うと、昼に歩いた道を辿るように歩き出す。
しばらく歩くと、昼に歩いた道とは別で、もう一つの道ができていた。
「この道は……?」
「お昼には無かったよね」
僕達が見つめているその道は、何か霧のようなものが充満しており、夜の暗さも相まって先を見通すことができない。
「ここからが特に、“龍の幻界”の影響が大きくなる。精神状態異常効果などもある故、各々心してかかれ」
ラテン殿の言葉に、僕達は皆一様に頷く。それを見たラテン殿は、何も言うことなく霧の中へ消えていく。僕らもそれに続く。
霧はおそらく龍の魔力なのだろう、魔力探知が阻害されており、近くにいる姉さん達の位置を把握するのでやっとなほどだった。
「皆さん、いますか?」
「うん、いるよ」「「ああ」」
後ろからそれぞれの返答がくる。大丈夫だ、皆離れていないようだ。
ここは何が起こるか解らない、未知の領域。とはいえ手練れ揃いのこの面子だ、仮に分断されても二人組ならば、余程のことが無い限り対処できるだろう。最悪の事態は、個々が完全に分断されること、それだけは避けたい。
幸い霧の中は獣道のような整備されていない道ではなく、ちゃんと道として機能しており、ある程度進むべき方向は解る。
――そんな事を、考えながら歩いていると。
「……ラテン殿?」
「むっ……」
ラテン殿の、魔力反応が無くなっていた。
探知範囲を広げてみるものの、やはり“龍の幻界”の影響で阻害されており、上手く探知できない。
「不味い、ラテン殿と分断されました――」
言いながら、後ろを振り向くと。
「……いつの間に……?」
誰も、いない。
考えていた最悪の事態が、現実となった。




