第21話―“鬼神虹雷の術”
言葉と同時に、僕は再び彼女へ向けて漆黒の魔剣を振い始める。
左からの中段斬り。右袈裟。返す刃で左の逆袈裟。繋げて上からの斬り下ろし。
かつて見ないような僕の怒涛の連撃に、ラグナ殿はその表情を驚愕に染めながらも、何とか受け止めていく。
「ッ……!絶龍刀、極致其の伍――」
僕の連撃の最中、彼女は体勢を崩した状態ながらも刀を逆手に持ち替え、バク転の要領で回りながら、下から刀を突き出してそのまま斬り上げる。
「――“登龍穿”……ッ!!」
「ッ……!」
さながら天へと昇る龍が如き剣閃が僕の鼻先を掠める。咄嗟に反応して避けるが、それでも周囲に鮮血が軽く散り、氷の地面を赤く濡らす。気にせずすぐに地を蹴ると、今度はラグナ殿も僕と同時に振りかぶる。
同タイミングでの右袈裟。互いに受け流し、左腰からの横薙ぎ。ラグナ殿は斬り上げにて僕の剣を受け流し、またも同タイミングで斬り下ろす。火花を散らしながら漆黒と銀灰色が衝突し、鍔迫り合いとなる。
「……懐かしいな」
互いに譲らないまま、力を緩めずにラグナ殿が呟く。
「貴殿との初顔合わせの時も、こうして斬り結んだものだ」
「……フフッ、そんなこともありましたね」
僕が近衛騎士団魔法科の団長の任を拝命し、彼女や団員との初顔合わせの際、皆に団長としての力を示す為、彼女との手合わせをしたことがあった。あの頃は手も足も出なかったが――
「――ですが、あの頃とは違いますよ?」
「ああ、今まさに実感しているところさ」
笑いながら言うと、彼女も苦笑で応える。
絶えずギリギリと鳴り続ける金属音。当時はまともに斬り合うことすら敵わなかった。
僕達はどちらともなく互いにバックステップで距離を取り合うと、ラグナ殿は愛刀《絶龍刀》を納刀し、僕は漆黒の魔剣を頭上に掲げる。
「――万物蝕むは、深淵より出づる滅びの闇。第一楽章、月夜に奏づ影淵の音」
「――龍舞う天に、轟くは雷光。唸れ、響け、其が為すは神絶つ赫怒の刃なり」
互いに、極致の詠唱。僕は、辿り着いた極致の頂、“裏極致”のソレ。
「影淵剣が極致、焉裏其の壱――」
「絶龍刀……、極致奥義――」
ラグナ殿は眼を閉じ、左足を引き、腰を下げる。その左手は左腰の鞘に、右手は柄に。神速の抜刀、居合の構え。
僕の魔剣が剣身の漆黒よりもなお黒い闇を纏い、彼女の左腰辺りが、紅雷に包まれる。
空気が張り詰める。周りの景色の色の一切が消える。モノクロとなったこの世界に聞こえるのは、互いの呼吸音だけ。
そして、遂にその時が来る。
地を蹴ったのは、全く同じタイミング。
「――“烈焉滅刃”ッッ!!」
「――“天舞・尊絶ツ赫龍”ッッ!!!」
互いの極致が放たれた、その瞬間。
「…………っ!?」
彼女の魔力が、爆発的に解放される。それと同時に、彼女の姿に、変化が起こる。
「ッ!セアアァァッッッ!!!」
「ハアアァァァッッッ!!!!」
滅びの闇と怒れる龍が交錯する中、彼女のその額に、綺麗な虹色の角が二本。それ即ち――“鬼神虹雷の術”の、発動。
「流石ですね、ラグナ殿……!!」
“身魔防護制限解除”によって解放された魔力の衝突により、そこかしこで魔力爆発が起こる。
互いの本気の一撃がぶつかり合った、その結果――。
「くっ……!?」「むっ……!?」
互いの愛剣が手から弾かれ、それぞれの背後で突き刺さる。
僕達は剣が衝突した瞬間の状態のままで硬直しており、眼前の彼女の顔を見てみると、何とも間の抜けたような顔をしていた。……恐らく、僕も同じような顔を浮かべていたことだろう。
僕達は示し合わせるともなく、この仕合の余韻に浸りながら戦闘体勢を解除する。
「……一皮剥けましたね」
互いの魔力を視ると、未だに“身魔防護制限解除”状態は維持されたままで、ラグナ殿に関しては二本の角が煌々と輝いているのもあって、かなり判りやすい。時間経過によって解除されるため、今しばらくはこの赤氷の世界にいた方がいいだろう。
「正直、実感は湧かないがな」
そう言いながら苦笑するラグナ殿。彼女の笑顔に、僕も自然と笑みが溢れる。
「さて、興が乗りすぎたな。“術”が落ち着いたら戻ろう」
「ええ」
彼女の言葉に頷き、僕は氷の地面にドサッと倒れる。……冷たい。が、かなり本気になった戦闘の影響で火照った身体には、丁度いいかも知れない。
その思考が僕の表情に出ていたのか、彼女も僕の隣で仰向けに倒れる。
「気持ちいいな、これは」
「でしょう?最初は思ったよりも冷たくてびっくりしますけどね」
「フッ、同感だ」
そんな他愛もない話をしながら、僕達は“身魔防護制限解除”の効果が切れるのを待っていた。




