第16話⑤~実力者の苦悩~
「剣くん。分かっていると思うけど……」
「分かってら、今は奴らを潰すことに専念する。だけどな――!!」
剣の癪に障るような、納得のいかない苦虫を噛み潰したような思いが声に、そして豪樹にも伝わった。
「思った通りか。アイツ、オフィシャルの中でも評判悪いって噂されてたから、一体何者かと思うたが……重症やな」
そう言っている間にも、槍一郎はただ先に進むのみだった。そして例のマザーボイジャーも……剣たちが苦戦した場所を、彼は一瞬のうちに片付けてしまった。淡々と、流れる作業の如く。
「ねぇ豪樹さん、皆が槍くんを良しとしない理由って……勘だけど、実力とかの問題じゃないと思うの。――彼に何かあったの……?」
レミの明るいキャラに似合わず、鋭く核心を突いた質問に、豪樹は冷静に答えた。
「……レミちゃん、人ってのは知られたくないことの一つや二つは必ずある。まだそれを聞くのは野暮だと思うで」
一体彼に、何があったというのか……?
◇◇◇
それはさておき、槍一郎のプレイ内容と併せて『プレイヤーステータス』を見てみよう。
☆天野槍一郎/プレイヤーレベル:38
[プレイヤーステータス]
・アクション:A ・シューティング:A+
・ロールプレイ:A+・タクティクス:S
・スピード:S ・ブレイン:A+
・ハート:B ・ミュージック:B+
・ラック:B
[プレイヤースキル(必殺技)]
・【疾風怒涛】・【精神統一】など
流石は公式推薦プレイヤー。スピードとタクティクスが最高クラスの『S』と長けていながら、全体的に高水準で安定しているステータスだ。
プレイヤースキルは現時点で判明している技のみを記述しているが、その他にも槍一郎は多彩な技を持っている。いずれまた公開していこう。
ゲーム開始から3分が経過。当然の如くノーミスで中間地点のマザーボイジャーを撃墜し、遂にあのエリアへと突入する。
剣が触れることすらできず敗れた『ゴッドマザーボイジャー』へ――!!
(来たか……『神』と名高い、超巨大母艦!!)
旋風の如く修羅場を潜り抜けてきた槍一郎も、最後の難関に操縦桿をギュッと握りしめ、気を引き締める。
直列、扇、螺旋型と、次々と光弾の雨が降り注いだ。ゲーム画面から見れば、その動きは“弾幕ゲー”と呼ぶに相応しい、芸術性すら感じさせるものだった。
普通のプレイヤーならたじろぐ難関。しかし、槍一郎はそれを素早く――見切った!!!
(あの弾幕を超えた。あんなに俺が苦戦した弾の豪雨をいとも容易く! 槍ちゃんにはあの巨大母艦の攻撃すらも、そよ風のようにしか感じへんのか……!?)
光弾の嵐を越えて、ジグザグと稲妻の曲線を描くように一気にゴッドマザーボイジャーへ接近する!
超巨大母艦の頭上には、トライアングル型に設置された3つのエネルギーコア。戦闘機目掛けて光弾を撃つ暇も与えず、槍一郎は既にコアへ照準を合わせ、ターゲットをロックした。
――その刹那、発射ボタンを押す親指から、青く煌めく波動が迸った!!
「プレイヤースキル発動、【疾風一閃】!!!!」
◎プレイヤースキル◎
【疾風一閃】:プレイヤーが操作する自機やキャラのスピードを最大限まで引き上げる。
―――ジャキキキィィィィィン!!!
戦闘機のビーム発射口から、金属の刃が切り裂くような音を立てて、3つのエネルギーコアに必殺ビームが放たれる! その間のタイム、僅か0.07秒!!
真空の銀河をも劈く疾風が迸る。天野槍一郎、槍の魂を貫く渾身の突き!!
超巨大母艦『ゴッドマザーボイジャー』が爆音を響かせ、宇宙の藻屑と消えていった!!
『―――ゲームクリア!!』
コズミック・カウボーイは、ゴッドマザーボイジャーを討伐することでクリアとなる。
「「「……………………」」」
――だが、制覇した者へ贈られる称賛は皆無に等しく、沈黙の時だけが過ぎていく。
剣が超えられなかった巨大母艦を、苦戦することなく呆気なく倒した槍一郎。
今まで苦労した者の虚しさが、時間が経つにつれ、より深く浸透していくのか。剣はそれをただ、呆然と見つめることしかできなかった。
最終結果、天野槍一郎の得点は199,630点。
パーフェクトゲームの200,000点には届かなかったが、199ポイントを獲得し、Σブロックのナンバーワンが確定した。
会場からは最低限の礼儀として、拍手のみが送られ締め括られた。
◇◇◇
――控え室にて。
「槍くん、お疲れ様」
みのりが優しく槍一郎に話しかける。
「あぁ、ありがとう。剣は……?」
槍一郎の視線の先には、俯きながらしゃがみ込んでいる剣の姿があった。
「……どうしたんだ?」
その問いに答える剣の表情は、不機嫌そのものだった。
「…………槍ちゃんさ。今のゲーム、槍ちゃんにとって難しかったか? そんで、楽しかったんか?」
「ん、まぁそれなりにかな。普通だよ」
槍一郎の淡々とした答えに、剣の額に青筋が浮かんだ。
「……そうかい。あれでも本気やなかったってか……!!」
剣の怒りを込めた低い声がわなわなと震え、槍一郎に詰め寄った。
「ちょ……剣くん!!」
槍一郎の胸ぐらを掴む剣に驚き、みのりが咄嗟に制止に入る。それでも彼の怒りは収まらなかった。
「お前がオフィシャルで、仕事でゲームやってんのかは俺ぁ知らねぇ。けどな、俺らは皆、強くなりたくて、楽しみたくてゲームやってんだ!! 槍ちゃんに手加減されて、ヌルゲー見せられてる俺らは、一体どうしたらええんや!?」
剣は、共にゲームを続ける中で募らせていた本心を、槍一郎への思いの丈をぶつけた。槍一郎もまた、その言葉の重さを理解できないわけではなかった。
だが、彼は何かを隠すような素振りを見せつつ、冷静に語り始めた。
「………オフィシャルを背負っていると、強くなるほど自由が利かなくなることもあるんだ。僕が本気を出せないのには理由がある。けれど、今はまだ……言いたくはない」
「教えられないってなんや!? 俺ら仲間だろ、親友にも言えねぇことなのかよ!? ――そんなん、槍ちゃんらしくねぇよ!!!!」
「…………………………」
槍一郎はそれ以上、何も語らなかった。
沈黙が流れ、剣の激しい憤りも徐々に冷めていった。
「……今は何言ったってしょうがねぇな。クロサギを潰すのが先だ。―――槍ちゃんに何があったかは知らねぇが、一生懸命やってる奴を侮辱するような真似はすんなよ。強くなりてぇ気持ちは皆同じや。中途半端なゲームは、俺が絶対許さねぇからな!!」
「……済まない、剣」
槍一郎は抵抗も反論もせず、ただ深く頭を下げる。みのりたち仲間も、かけるべき言葉を見つけられなかった。
槍一郎のプレイに隠された真意を知るのは、まだ先の話になりそうだ。
(俺は信じねぇぜ。アイツが半端な気持ちでオフィシャルを、ゲーム戦士を目指してるなんて。俺に見せたあの神速の聖騎士の魂……それが偽りじゃないってことを―――!!)
桐山剣よ、シャッフルのゲーム戦士たちよ。それぞれの迷いに振り向くな。
今、矛先を向けるべき敵は、まだ遥か先にいるのだから―――!!
★2nd RESULTS★
・桐山剣:Φブロック 5位(162pt)→ 計262pt
・天野槍一郎:Σブロック No.1(199pt)→ 計299pt
・畠田レミ:Tブロック 23位(102pt)→ 計132pt
・高橋豪樹:㈱ブロック 27位(105pt)→ 計205pt
・河合みのり:Ωブロック 29位(94pt)→ 計99pt




