第16話③~マザーボイジャーを撃破せよ!!~
――桐山剣の戦闘機、いざ出陣!
16bitの電子音が奏でる出撃のファンファーレ。百戦錬磨の騎士が戦場へ赴くが如く、自機は威風堂々と進んでいく。
先程の別ブロックで見せた豪樹のプレイを参考に、剣は桐山流の応用を利かせる。真っ先に敵機を撃滅し、強化の要となるPアイテムを回収。武器よりも先に自機の機動力を上げるべく、スピードアップに専念した。
(……っし、スピードはこれくらいでえぇな。あんまやりすぎると制御しきれん。攻撃開始や!)
滑らかな動きを手に入れた自機が、上下左右から迫る敵を一機残らず殲滅していく。
(このテクは槍ちゃんからの受け売りや。この手のシステムは、まず自分の感覚に合わせたスピードを確保してから武器を叩くのが定石。どんな弾が来ても避けられる余裕を作らなアカン)
シューティングの達人・天野槍一郎の助言を、剣は見事に体現していく。
宇宙空間に漂う小惑星帯。岩肌にフジツボのごとくへばり付く対空砲台を、剣は獲得したばかりの投下型ミサイルで次々と粉砕した。
上も下も、狙った獲物は逃さない。宇宙を駆ける戦闘機は、まさに蝶のように舞い、蜂のように刺す。フェンシングのごとき無駄のない一撃だ。
(――あ、そーいや。このフィールド、隠れキャラがおるってルールにあったな)
剣は敵襲の隙を突き、フィールドの隅々まで目を走らせる。
二台の対空砲台の間に、不自然な空白を見つけた。そこへ投下型ミサイルを叩き込むと、爆煙と共に何かがタケノコのようにニョキリと出現した。
「――あ、出た!」
現れたのはWGCのエンブレム。隠し要素『シークレットポイント』だ。剣の得点が一気に50,000点加算される。
「よっしゃ、儲け儲けッ!」
ハイスコア勝負となれば、剣とて得点にはがめつくなる。
プレイヤーの性ではあるが、欲はミスを招きやすい。だが、今の剣は冷静だった。その後も危なげなくステージを攻略していく。
しかし、剣が短期間でここまで腕を上げたのはなぜだろうか。
「そりゃMr.Gさんよ、ゲーセンで散々練習したかんな。連射や立ち回りは身体が覚えとるわ」
だが、テクニックの面で槍一郎を参考にしたのなら、彼の手捌きも見ていたはずだが。
「アイツの手先、残像しか見えへんかったから参考にならんわ」
……彼は加速装置でも使っているのだろうか。話を戻そう。
エリア中盤、中ボス要塞が立ち塞がるが、豪樹のプレイを把握済みの剣にとっては敵ではない。
順調に進撃を続け、到達エリアはいよいよ70%を超えた。
そして――!
「ッ!?」
突如、漆黒の虚無から地響きのような重低音が鳴り響き、とてつもない質量が戦闘機の上空を覆い尽くした。
「……おい、マジか。こいつが――!」
剣の前に現れたのは、このゲームの最終ボス『マザーボイジャー』。
中ボス戦艦の20倍、自機50機分はあろうかという巨体がプレイヤーを威圧する。出現と同時に、四方八方から波打つような光弾の嵐が放たれた。
「アカ……ンッ、避けられへん!」
―――ボカァァァァァァン!!
巨大《《母艦》》の洗礼を浴びるように、剣の1機目が爆散した。
「じゃかましぃわ! しょーもない冗談抜きやで!」
剣はマザーボイジャーの威圧感をキレのあるツッコミで跳ね除け、気を取り直して2機目をスタートさせる。
ボス戦で撃沈した場合、そのエリアの最初から再開となる。幸い、マザーボイジャー戦の開始地点はすぐそこだ。
再びボスの元へ辿り着いた剣だったが、状況は芳しくない。
(俺の遥か上空に鎮座するマザーボイジャー。……『ゼビウス』のアンドアジェネシスを想定するなら、弱点のコアはあの巨体の上や。光弾を避けつつ懐に潜り込むしかない。だが――さっきのミスで初期装備に戻ったのが痛すぎる……!)
剣の額に焦燥の汗が滲む。
このゲームは一度撃沈すれば、Pアイテムで得た速度も武装もすべてリセットされるのだ。
現在の武器は初期のビームのみ、速度もデフォルト。対するは、情無用に星屑のごとく降り注ぐ光弾のサーカス。
弱点である中央のエネルギーコアを仕留めるには、天からの裁きのごときビームを一点集中させるしかない。
「それでも……やるっきゃねーだろッッ!!」
剣は己を奮い立たせ、獅子奮迅の勢いで突き進む。マザーボイジャーの光弾は自機を正確に狙い、ウェーブを描きながら迫る。
剣は光弾を左側に誘導し、引き付けてから一気に右側へ反転。マザーボイジャーの直下へと潜り込んだ。しかし、上方のエネルギーコアに近づくどころか、上昇する隙すら見当たらない。
「……ッしゃ、今のうちに急上昇や!」
光弾の波間を縫い、ようやく母艦の上部へ躍り出た。ビームをコアへ叩き込もうとするが、ターゲットが定まらない。命中したのは、コア周辺を守る四つの機関砲の一つだった。
(ここもアンドアジェネシス仕様か! だが、これじゃコアに届かへん……!)
機関砲を一つ潰したものの、攻撃の手が緩んだ隙を突くように、別の光弾が2機目を粉砕した。
―――ボカァァァァァァン!!
……もうえぇっちゅーねん。
(ホンマや。だがこれで、残り一機……!)
後がなくなった剣。だが、その表情には奇妙な冷静さが宿っていた。
かつて辛酸を舐めさせられた好敵手・立海銃司との勝負の時よりも、今の剣の心には余裕がある。
これは立海へのリベンジを誓った、自分自身のレベルアップを証明するための戦いだ。中途半端で終わるわけにはいかない。
切り札の騎士には、真剣勝負こそが相応しい。 意を決して、ラスト3機目。
「こうなりゃ一か八か、ケリ付けたる! ――プレイヤースキル発動、【精神統一】!!」
G−1グランプリ予選の公式ルール。1ゲームにつき一度だけ許された特殊能力。
最後の切り札を、剣はここで切った。
◎プレイヤースキル◎
【精神統一】:発動時、精神を極限まで研ぎ澄ますことで、プレイヤーの五感を最大限に高める。
剣の精神力が一点に結集する。
最大レベルまで高まった集中力の前では、マザーボイジャーが放つ弾の嵐も、もはや緩やかなそよ風に過ぎない。
一気に戦闘機を急上昇させ、ボスの懐へ肉薄! 二機目での学習を活かし、コアを守る四基の機関砲を瞬く間に粉砕した。そして――!
「撃てぇーーーーーーッッッ!!」
右腕から指先へ、筋肉の震動を伝える「バイブレーション連打」。一点に凝縮されたビーム光線が、剥き出しになったエネルギーコアを貫いた。
―――ドォォォォォォォン!!!!
マザーボイジャーの断末魔が会場に響き渡る。三度目の正直、ついに完全撃破だ!
「ぃよっしゃあああああああ!!!」
剣の執念が実った瞬間、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。外からの声援を背に受け、剣は高揚感と共に次なるエリアへと機体を進める。
だが――その直後だった。
「!?」
どこから発射されたかも分からぬ、鼓膜を刺すような甲高い駆動音。
戦闘機の遥か上方から、渦を巻く光弾の豪雨が降り注いだ。それはまさに、逃げ場のない光のスコール。
「な、何やねんこれ……!?」
一瞬の戸惑い。それでも極限の集中状態にある剣は、紙一重で光弾を回避し続ける。しかし――。
――プツン。
張り詰めていた糸が切れるような感覚が、剣の脳内を走った。
(ヤバい!【精神統一】の効果が切れた……!)
プレイヤースキルは無敵ではない。制限時間が過ぎれば、反動と共に感覚は日常へと引き戻される。
その隙を見逃すほど、この戦場は甘くなかった。扇状に放たれた広範囲の追撃が、無防備な自機を飲み込んでいく。
「―――ッッ!!」
―――ドカァァァァァァン!!!!
『桐山剣、万事休すゥゥゥゥゥッッ!! 最難関『ゴッドマザーボイジャー』を前に、その牙城を崩す間もなく打ちのめされたァァァ!!』
「『ゴッドマザーボイジャー』……やと……!?」
新垣治郎の絶叫で我に返った剣は、暗転した画面を見つめ、驚愕に目を見開いた。
そこには、先程のマザーボイジャーが子供騙しに見えるほどの超巨大母艦が、視界の全てを埋め尽くして鎮座していた。
弱点となるコアは三つ。これこそがこのゲームの真の支配者。
「参った……すげぇわ、このゲーム!」
公式大会の予選、その壁は高く険しい。一癖も二癖もある強大なボスの前に敗れはしたが、剣の心は不思議と晴れ晴れとしていた。
全力を出し切った者だけが味わえる、心地よい疲労感。観客からは、その健闘を称える温かな拍手が贈られた。
降参と言わんばかりに両手を上げる剣。だが、その顔には満足げな笑みが浮かんでいた。
桐山剣、記録162,760点。162ポイントを獲得し、彼の2nd STAGEは幕を閉じた。
さぁ、残るシャッフルメンバーは三人。
仲間たちの健闘やいかに――!?
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次回もゲームウォーリアーをお楽しみに!!




