第13話③~宣戦布告!!~
「いやぁ~皆さん、楽しそうですね! ちょっと僕にも混ぜてくれませんか?」
ブラックヘロンへの怒りを抑えつつ、剣は柄にもなく無邪気そうな顔と口調で近づいた。
(来たぞ、次のカモだ。切り替えろ)
一員とディーラーは無言で相槌を打つ。餌を狙って睨むハゲタカの如く、卓上での悪巧みを始める。
「どうぞどうぞ! 丁度席も一つ空いてますので」
「そんじゃお言葉に甘えて……」
剣はそう言いながらテーブルに相席に座り、ディーラーの手捌きを飄々と、時々口笛なんぞ吹きながらシラケ半分に目視する。
本来カジノで行われる【ポーカー】では、ゲームを開始する前に賭けるチップを出す『ビット』を行う。
チップをプレイヤー全員が賭けたと同時にディーラーがトランプを持ち、リフルシャッフルを行い、全員にカード5枚を配り終える。
別名『ショットガン・シャッフル』と言われるリフルシャッフルは、強引に折り曲げたりデッキに割り込んだりするため、急速にカードを痛める粗暴なシャッフルとされている。
カードの一枚一枚を大切に扱う剣にとって、この手のシャッフルは大が付くほど嫌いであった。
剣はディーラーによって粗雑に扱われるカードを見て、一言呟く。
「……へっ、しかしまぁ下手っぴなシャッフルだったねぇ~! ホンマにディーラーの資格持ってんのか? それと比べりゃ、うちのご近所のおばちゃんの方がよっぽど手先えぇやな。こりゃひでぇや!」
当然、剣お得意の皮肉に対してディーラーや同胞を含めて良い思いはしなかった。そこでプレイヤーに装う一員の一人がフォローをする。
「いや、すまなかったな兄ちゃん。何でもこのディーラー、最近ケガして手に神経痛持ってるから手先が覚束ないんだ。
――まぁシャッフルなんて、山札のカードが混ざればなんてことないだろう?」
あくまでも手先の不器用を怪我で白を切る一同。それを『あ、そーですか』と済ます剣では無かった。
「……そう、その不器用なリフルシャッフル。俺は特に気に入らないね」
「何―――うぁ!?」
剣は少し笑みを浮かべながら、ディーラーの手元をぐいっと掴んだ。
「何が神経痛や。汚ねぇ事に対しちゃ一番器用な良い手してんじゃねぇか。さっきのプレイ拝見してみたがひでぇもんだったぜ。
――賭け事に慣れない素人が見れば平凡なプレイに見えるかも知れへんが、俺から言わせてみれば人の財布に小細工する巾着切りみたいなカード回ししとるやないか」
「き、巾着切りだと!?」
巾着切りとはスリの別の呼び名の事です。そしてその一言にディーラーも内心図星に突いていた。
「せやろ? 一番上のカードを配っていると見せかけて2番目、或いは一番下のカードを、その場に応じて配るディール捌きにも気に食わなかった! そいつは、賭博イカサマじゃ良く使われる狡い手だっておじいちゃんが言うてた。
――お前ら巾着切りとサクラがグルになってカモを陥れるような、品も格もないやり方だって言いたいんだよ!!」
(こ、この野郎め……!!)
ディーラーも唇を噛みしめ怒りに耐えていた。
(このクソガキが、こうなったら思う存分搾り取ってやる! 全員ビットを最大値まで上げろ!!)
組織一員とディーラー全員にアイコンタクトで合図を送った。
一員一同で賭けチップを競りあげる『レイズ』によって、最大値10000円相当のチップでビット。
剣を除いて定員は6名、仮に剣が破れれば最大6万は支払わなければいけなくなる。
(仕掛けてきたな……!)
剣もブラックヘロンの一斉攻撃を悟ったか。それに応じるように彼も最高額でビット。
誰も競り合いに降りる事は無く、他のプレイヤーと同じチップ額を賭けた後、ゲームを続行する『コール』を宣言。
そして、肝心の手札交換――!
各自1、2枚ほど交換していくなか、剣は1枚も交換しなかった。
「……俺はこのままでいいぜ」
ディーラーから配られた手札を一切交換せず、勝負に出たか桐山剣!
更に次の一員プレイヤーが手札を全部交換した時、剣の目が敵を仕留める騎士の眼に変わる。
(馬鹿め。俺達を相手にして手札を交換しないとは!)
(三流の役を手にして自惚れたか?)
(素人が、我々『ブラックヘロン』に楯突くなど百年早いんだよ……! 地獄へ落ちな!!)
等と心の底からカモを嘲笑うブラックヘロンの笑みにも剣は屈しない。
手札をディーラーに交換し、ある程度シャッフルした後にカードを渡そうとした瞬間、ディーラーの裾に光るものを剣は見逃さなかった――!!
(――来やがったこの一瞬ッ、待ってたぜ!!!)
そう思うと剣はカードを渡す前に、彼の手前にビットしたチップ1枚をディーラーの裾目掛けて投げた。
――――ビシィィッッ
「ぐぁ――ッッ!!?」
この展開、皆さんは覚えているでしょうか?
以前に剣がチンピラ集団、伊火様』とのトランプ・スピード勝負でイカサマを見破った、あの瞬間を―――!!
するとディーラーの右腕の裾から、5枚のカードがこぼれ落ちた。スペードの10、J、Q、K、そしてA。
最強のポーカー・ハンド『ロイヤルストレートフラッシュ』の役が、卓上にてボロを出した。
「……やっぱし、巾着切りじゃねぇか」
剣は勝ち誇った顔で捨て台詞を呟いた。
その様子に駆けつけた野次馬、ブラックヘロンとは無縁の他のプレイヤー達は丁度その一部始終を見ていた。イカサマの様子は健全な眼から、皆の脳裏に焼き付いていった。
「あわわわ、ヤバいですよディーラーの兄貴……!!」
一員達がオロオロと慌てふためいた。
「コイツらが皆、世間で騒がしてるブラックヘロンの手先って分かった以上! ここで長居する必要はこれっぽっちもねーな! 俺は降りるぜ」
剣の故意的な3割増しのデカい声に、観衆のプレイヤー達が騒ぎ立てた。
「ふざけるな! 大した証拠も出さないままで帰されてたまるかッ!!」
「じゃあ、この証拠はどうですか!?」
ディーラーが抵抗の如く無罪を主張するなか、一時の準備にこの場を離れていたみのりが現れた。
みのりが皆に見せたのは、プレイギアにて遠方から先程のプレイをディーラーの手先と裾の隠しカードを録画した動画。これをゲームワールドのエリア管理者に渡せば、確実な証拠となる。
「て、手先が完全にバレている……!」
一員とディーラーはもう隠す隔ては無かった。
『みのりはアレ用意しといて』
剣がみのりに言ったのはこの事。
みのりはブラックヘロンの連中に全く気付かれずに、ディーラーの手先をピックアップ録画して、このイカサマを録っていたのだった。
「クソォォォォォォ! かくなる上は……このクソガキ共を始末しろてめぇらァァァァァァァ!!」
ぶちギレたディーラーの声と共にブラックヘロンの一員が剣に殴りかかる……が。
――バキッ、ドスッ! グチャ!! チーン☆
体力強化に身体も鍛えていた剣には痛くも痒くも無かった。圧倒的な差でブラックヘロンをボッコボコ。金的攻撃のおまけ付き。
ゲームだけでなく、豪樹さん直伝の筋力トレーニングのお陰で喧嘩にも強くなったようだ。
この騒ぎに便乗して、中にはカモにされていたプレイヤーも混じって一員をボッコボコ。彼らもイカサマに相当頭に来ていたようだった。
そしてゲームを中断した剣のポーカーの札が、喧嘩と共に風圧で吹き飛んだ。
その役は、悪徳ディーラーから配っていたにも関わらず成立していた、正真正銘のロイヤルストレートフラッシュだった―――!!
◇◇◇
―――しばらくして。喧嘩も収まってカジノ内にはブラックヘロンの一員とディーラーが、山のように気絶して倒れていた。
「剣くん、違反通報しといたよ!」
「おう、ご苦労様。お手柄だったぜみのり!」
プレイギア経由で、カジノエリアの公式の管理者に通報届けを出したみのり。数分後には山となったブラックヘロンの下っ端も御用となるだろう。
「……でもこれで、公式や皆にブラックヘロンの事が分かれば良いのにね」
そう。この騒動は剣達にとっては、組織に対する宣戦布告に過ぎないのだ。この悪巧みを知らない者達への警告も兼ねて。
「だけどその分、G−1グランプリでヤバいこと仕出かしそうやな。――そうや、それならいっそ……!」
「何やってるの? 剣くん」
――ピリリリリ……
程なくして、みのりのプレイギアに着信メールが届いた。
そこには剣がブラックヘロンの残骸山を撮った写真に、フォトペイントで書き足したような字も添え付した画像が送られていた。写真に書かれた字は……
≪『剣の魂』の名において、ゲームワールドを滅ぼさんとする組織『BLACK HERON』を叩き潰す!!≫
「それも、通報ついでにゲームワールドのお偉いさんに贈っといて」
「剣くん……!!」
敵を殴り倒して真っ赤に腫れ上がった握り拳を、また強く握りしめていく剣。
その内側に秘めた怒りは、当然収まり切る筈は無い。
この憤りを晴らす方法はただ一つ。
G−1グランプリにて『ブラックヘロン』を全滅させる他は無い。
ブラックヘロンの残骸山に親指を地獄に向かって逆落とすように向け、腹の底から言い放った。
「―――俺達『ゲーム戦士』を……ナメんなよ!!!!」
第2章『G-1グランプリ予選編』へつづく。
ついに、シャッフル・オールスターズが『BLACK HERON』へ宣戦布告を申し込んだ!!闘いの舞台は『G-1グランプリ関西予選』へ移る!!!
この回を持ちまして第1章【シャッフル・オールスターズ編】が終了となります。
次回第14話からは、第2章【G-1グランプリ関西予選編】をお送りします!!
白熱のゲームバトルを是非文章にたぎる情熱でお楽しみに下さい!!!




