第9話①~『パズル』はお好き?~
『名誉』、『宿命』、そして『限界への挑戦』!
プレイヤーの数だけゲームに賭ける思いはそれぞれ!!
己の実力に全力を尽くす一人の少女に、剣よその勇姿を見届けよ!!!
第9話、ゲート・オープン!!!
――前回、ギャラクシーにて白熱したエキシビションマッチが行われた。
対戦相手は『ビッグウェーブ』の経営者・高橋豪樹。その激闘を制し、ゲーム戦士としてまた一歩成長を遂げた桐山剣は今……。
猛烈な筋肉痛に襲われていた!!
◇◇◇
「いててて……あー、全身痛ぇ……」
決戦の翌日。日曜日だったのが不幸中の幸いだが、無理をした高校生の肉体は悲鳴を上げていた。
「無理もないわよ。三十キロもあるスーツを着てあんなに動き回ったんだから」
桐山家に遊びに来ていたみのりが、ベッドに突っ伏した剣の背中をマッサージしながら呆れたように言う。
「あぁぁぁぁッッ、ゲームしてぇ! だけど腕がダルすぎてコントローラーが持てねぇ……!」
悶々としながらベッドでジタバタする剣。見かねたみのりが、ある提案をした。
「じゃあ、『パズル』はどう?」
「……パズル? 落ちゲーか?」
「そう! それなら体を使わずに頭でプレイできるでしょ。脳トレしよーよ!」
「俺、パズルゲームは苦手なんだよ……」
ゲームのことなら何でも食いつくはずの剣が、珍しく弱気な声を出す。
「あら、意外。いつも余裕しゃくしゃくの剣くんにも苦手なジャンルがあったのね」
別に剣の頭が悪いわけではない。成績は良くても平均の少し上といったところだ。
「余計なこと言わんでえぇねん」
『テトリス』『ぷよぷよ』『ドクターマリオ』。いわゆる「落ち物パズルゲーム」というジャンルそのものに、剣は苦手意識を持っていた。
「最初のうちは戦術通りに消せるんだけどさ。相手に邪魔されてペースを乱されると、もうパニックなんだよ」
剣の強みは、相手の出方に合わせた瞬発的な判断力にある。しかし、パズルゲームは半永久的に続く思考の持続力と、先を見据えた戦略が求められる。速攻でカタをつけたい剣のスタイルとは、いささか相性が悪いのだ。
「だったら尚更やらなきゃ! 弱点を放置するプレイヤーなんて、最強とは言えないわよ!」
みのりが急に熱弁を振るい出した。
「そりゃそうやけど、今やるんか? 俺、筋肉痛やぞ……」
「だーめ、今すぐ! ゲームワールドにパズルのエリア、あるんでしょ?」
なぜ俺が満身創痍の時に限ってこいつは張り切るのか。剣は溜息をついたが、その瞳の奥にはゲーマーとしての火が灯っていた。
「……あるにはあるよ。【パズルファクトリー】。あらゆるパズルゲームを製造している工場エリアだ」
「じゃあ決まり! ほら、早くプレイギア出して!」
「いや、だから体が痛いって……みのりが行きたいだけちゃうんか!?」 結局、剣はみのりに引きずられるようにして、ゲームワールドへと向かった。
―――ゲート、オープン!!
◇◇◇
ゲームワールド最先端、知の集積地。
【パズルファクトリー ―PUZZLE FACTORY―】
巨大な歯車と電子回路が入り混じるこの工場では、日々プレイヤーの限界に挑む難題が製造されている。未知のアルゴリズムが勝つか、人間の頭脳が勝つか。終わりのない知恵比べに、工場のラインが止まることはなさそうだ。
「ここでは毎日千以上のパズルが作られてる。スコアアタックや大会も頻繁に開かれてる、かなりアクティブなエリアや」
「ねぇねぇ剣くん! 私、ブロックを横に並べて消すやつやりたい! あと連鎖するやつも!」
もはや特訓のことは忘れて遊ぶ気満々のみのりだが、はしゃぐ彼女を見て剣も毒気を抜かれたようだ。
「横に並べるやつなら【テトリス】だな。ほら、あそこの巨大スクリーンで盛り上がってるところだ」
工場内には、学校の朝礼のごとく筐体が整列している。その中央に鎮座するのは、パズルゲームの金字塔『テトリス』のブラウン管型筐体だった。
◆――――――――――――――――――――――――◆
PLAY GAME No.9
【テトリス ―TETRIS―】
・ジャンル:パズルゲーム
・プレイヤーレベル:20
【概要・ルール】
落ち物パズルゲームの代表格。
テトリミノ(ブロック)を隙間なく積み上げ、横一列を揃えて消していく。
一度に多くの段を消すほど高得点。特に4段同時消しは「テトリス」と呼ばれる。
1段消し:シングル
2段消し:ダブル
3段消し:トリプル
4段消し:テトリス
・クリア条件:スコア30万点突破
・クリア報酬:賞金1万円 / 宝箱(金)3つ
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「パズルの基礎を磨くならこれが一番だ。シンプルだけど奥が深いからな」
「じゃあ、まずは私からやっていい?」
「おう、見ててやるよ」
みのりが空いた席に座り、プレイを開始する。剣は後ろのベンチからその手元を覗き込んだ。
上から落ちてくるテトリミノを、みのりは慎重に積み上げていくが……。
「おいおい、そこに隙間ができてるぞ」
「うぅ、思うように動かないのよ……」
レバー操作の感度が独特なのか、みのりは左右の回転ボタンに翻弄されている。
それでも基本に忠実に、一マスだけ空けた「テトリス穴」を作りつつ、危なくなるとシングルやダブルで着実にラインを消していく。
「いいぞみのり、落ち着け! 欲張らずに少しずつ消していけ!」
「う、うん!」
奮闘するみのりだったが、消しきれなかった段が積み重なり、ついにブロックが画面上端まで達してしまった。
「……あーん! もうダメ!」
消去ライン数、34。スコアは4360点。
「最近のバージョンなら『ホールド』や『ハードドロップ』があるけど、このレトロ仕様じゃきつかったな。でも、初めてにしちゃ頑張った方や」
落ち込むみのりを、剣は優しくフォローする。
「……じゃあ、剣くんはお手本見せてくれるの?」
「もちろん! ……と言いたいところだが、俺は苦手なんだって」
「偉そうなこと言っちゃって。本当は私より下手なんじゃないの?」
その一言が、剣の導火線に火をつけた。
「はぁ!? 言ったな! 見とけよ、テトリスを連発してやるからな!」 剣の弱点がもう一つ。それは、挑発されるとすぐにムキになることだった。
◇◇◇
ゲームスタート!!
剣の手つきは流石だった。筋肉痛をこらえながら、迷いなくテトリミノを端に寄せて積み上げていく。右端に一列分の縦穴を作り、準備は整った。
狙うは四段消し。必要なのは、青く長い「I型テトリミノ」のみ。
(――来た! I型!)
「見てろみのり! これが『テトリス』だ!」
ガコォン! と快音を響かせ、四段が同時に消滅する。
「よっしゃ! どんどん行くぜ!」
調子に乗った二回目。再びI型を待ち構えていたその時――。
―――ブスッ!!
「あ」
快調に積み上げていたはずのブロックの山。そのわずかな隙間に、横に寝かせたはずのI型テトリミノが垂直に突き刺さった。いわゆる「置きミス」だ。 一度リズムが狂うと、焦りが剣の指先を狂わせる。筋肉痛で強張った腕は、ミリ単位の精密なレバー操作を拒絶した。
「あ、ちょ、待て! 今のは操作ミスだ! 腕が、腕が動かねぇ……!」
無情にも積み上がるブロックの山。リカバリーを試みるも、次々と降ってくる「S型」や「Z型」が、剣の作った美しい地形を無残に食い荒らしていく。
――GAME OVER
画面に非情な文字が躍る。スコアは一万点を超えたものの、消したライン数はみのりと大差ない結果に終わった。
「………………グスッ」
筐体の前で、剣は目に見えて項垂れた。ショックのあまり、鼻をすする音まで聞こえてくる。
「何か、あの……ごめんね、剣くん。そんなに落ち込むと思わなくて……」
「いや、いいです。分かってたんで。俺がパズル下手なのも、今、身体中が悲鳴上げてるのも……」
すっかりふて腐れて、ベンチに力なく沈み込む剣。
みのりは、彼が筋肉痛で満身創痍だったことを今更ながらに思い出し、申し訳なさそうに、けれど少しだけ茶目っ気を含んだ笑顔を浮かべた。
「てへぺろ☆」
「ヒロインスマイルで誤魔化すんじゃないの! 痛いっ、笑うと腹筋に響く……!」
情けない声を上げる剣を見て、みのりはクスクスと笑い声を上げた。
パズルファクトリーの喧騒の中、二人の賑やかな特訓(?)は、まだ始まったばかりだった。




