第8話④ ~VRファイト! 紫煙の格闘王~
―――日にちは変わって土曜日。
ショッピングモール『ギャラクシー』3階、アスレチックエリアのテナント募集空き地に、複数のゲーム筐体が建ち並んだ。
≪GALAXY主催ウィークエンド・ゲーム大会≫!!
大々的なタイトルを背に、名声を求めるプレイヤーたちが集結する。設置された筐体はいわば縁日コーナー。メインはその奥、巨大スクリーンを中央に据えた特設ステージだ。
そこに立つのは、熱き魂を持つ二人のプレイヤー、高橋豪樹と桐山剣。
約束通り、大会前のエキシビションマッチが幕を開けようとしていた。
観客席には、剣の応援に駆け付けたみのり。そして主催を務めるオーナーの松坂の姿もあった。
「すごい人だかりですね、松坂さん!」
「このイベントはWGCの公式大会も兼ねているからね。実力者が揃っているよ。だが、高橋君が持ち込んだあの巨大セットを運び込むのは骨が折れたよ」
「……もしかして、あの壁は前の施設にあったボルダリング用ですか?」
「ああ。かなり大きかったから、分割してテナントの壁に再設置したんだ」
みのりが指差す先、特設セットの裏には横長に連結されたボルダリング壁が並んでいる。移設の際に半分に折って繋げたもので、その設営には相当な苦労があったようだ。
この試合で相応の盛り上がりを見せなければ、豪樹のゲームジム移設契約にも響きかねない。
「準備はちゃんとしてきたやろな?」
「もちろんです豪樹さん! 格ゲーのノウハウは全部頭に叩き込みました!!」
剣はこの日のために、徹底的に基礎を練り上げてきた。
アーケードコントローラーを握り込み、レバー捌きからコマンド入力、ガード、回避。連日のゲーセン通いで、財布の百円玉が底をつくほど熟練度を高めてきたのだ。
「予習万全で結構! だが、今回の主導権はワイにある。兄ちゃんにはこのVR型格闘ゲーム――【ビクトリーレイズファイター】で勝負してもらうで!!」
「え、VR型……!?」
それは剣にとって、完全に予想外の展開だった。
◆――――――――――――――――――――◆
PLAY GAME No.8
【ビクトリーレイズファイター―VICTORY RAISE FIGHTER―】
・ジャンル:体感型ファイティングゲーム
・プレイヤーレベル:21
【概要・ルール】
VRゴーグルとセンサー内蔵スーツを着用し、巨大スクリーンの前で対峙するバーチャル格闘ゲーム。
プレイヤーのパンチやキックがゲーム内のキャラクターと完全シンクロする。
相手の体力ゲージをゼロにした方がラウンドを先取する。
※WGC公認ゲームのため、クリア報酬はないが経験値は加算される。
◆―――――――――――――――――――――◆
(なんてこった! 指先で操るアーケード型じゃなく、全身を使うリアルファイト型かよ!? 五体全部使うなんて、ガチの喧嘩と変わらねえぞ!)
小手先のテクニックが通用しないVR型ゲームの導入に、剣の背中に冷や汗が流れる。
「これが剣のセンサー内蔵スーツや」
「――っ?!」
豪樹から投げ渡されたスーツを受け取った瞬間、剣は驚愕した。
(重い……鉄塊かよ!? 亀仙流の修行じゃあるまいし、こりゃ……!)
「びっくらこいたろ? そのスーツ、一着で30kgもある特注品や」
「さんじゅ……マジすか!!?」
「せや。これがワイのプレイヤー育成プログラム! キャラと一心同体になる操作性と、重力の負荷による肉体強化を同時に行う『心・技・体』の真骨頂。あんさんに味わってもらうで!!」
豪樹の気迫がピークに達し、会場全体を圧していく。剣はその威圧感に、スーツの重量以上の重圧を感じていた。
(やるっきゃない。俺のゲーム魂が応えろって言ってる……! 豪樹さんの熱意に、本気でぶつかり合うためにも!)
「――ッッしゃあああ!!!!」
剣が吠え、闘志に火を灯す。その様子を、みのりは祈るような目で見守っていた。「ゲームは全5ラウンド形式や。だが兄ちゃんは初めてやからな。1ラウンドでもワイから一本取れたら、兄ちゃんの勝ちでええ」
「言いますね……!」
5ラウンド中1勝すれば勝利。本来なら屈辱的なハンデだが、豪樹から放たれるオーラは、かつて対峙した槍一郎のような「真の強者」のそれだった。
ここで一矢報いることができれば、最強のプレイヤーへの道が開ける。
「……分かりました。その条件でお願いします!」
両者がVRゴーグルとスーツを装着する。
スーツはスウェットのようにタイトだが、着込んだ瞬間に全身を鉛のような重みが襲った。
キャラクター選択。豪樹は「格闘王」を彷彿とさせる空手家を、剣はリーチの長いカンフー使いの美女ファイターを選んだ。
「おい、あいつ女キャラ選んでるぜ。趣味かよ?」 野次馬から冷やかしが飛ぶ。
(うるせえ。お前らガチ勢がむさ苦しいレスラー選ぶよりマシだろ)
剣は無言で集中を高める。キャラの特性を活かせば、この重さでも戦えるはずだ。
『ROUND 1、READY――?』
開始のコールが響く中、観客席にいつの間にか一人の男が立っていた。
「……豪樹さんの提示したルールは、剣にとっては妥当、いや、それでも厳しいかもしれないな」
「えっ、槍くん!? いつからそこに?」
「最初からいたよ。剣も気づいているだろうが、豪樹さんは現役のトッププレイヤーであると同時に、玄人の間ではある異名で呼ばれている」
槍一郎の鋭い視線がステージを見据える。
「高橋豪樹。またの名を――≪紫煙の格闘王≫」
『FIGHT!!』
歓声が爆発する!
先手を取ったのは豪樹だった。巨体に似合わぬ踏み込みで距離を詰め、正拳突きを放つ。
ドォォォンッッ!!!
「グォォッ―――!!?」
衝撃がスーツを通じて剣の全身を突き抜けた。
コントローラーの振動など比較にならない。鉄拳が直接みぞおちに撃ち込まれたような激しい衝撃が、心臓を揺さぶる。
実際の体は接触していないはずなのに、センサーが計算したダメージが「重力波」としてダイレクトに伝わってくるのだ。
そして、画面上の体力ゲージを見て、みのりが悲鳴を上げた。
「うそ……剣くんの体力が、あの一発で半分も!?」
「このゲームには『急所』判定がある。まともに食らえば一撃必殺だが、剣は咄嗟に急所を外したんだろう。それでもあの減り方だ」
槍一郎の冷静な解説とは裏腹に、試合は一方的だった。
「こんのッ―――!!」
剣が反撃のキックを繰り出そうとするが、足が鉛のように重い。
「冷静さが足りひんな。隙だらけや!!」
豪樹の鋭いジャブが剣の視界を塞ぐ。そして咄嗟に剣のキャラを近づき、掴む動きからの投げエモーション、投げ技『背負投げ』の一本!!
「どぉぉおおおお!!?」
投げられたキャラの挙動に合わせ、スーツが剣の全身に強烈な負荷をかける。重力波による急激な加重は、まるで実際に背負い投げされ、コンクリートに叩きつけられたかのような錯覚を剣に与えた。
『KNOCK DOWN!!』
第1ラウンドは豪樹のパーフェクト勝ち。圧倒的な実力差に、会場のボルテージが一気に跳ね上がる。
「やるなぁ高橋君。あの重いスーツを着てこれほど精密に動けるとは、格が違う」
松坂オーナーも感嘆の声を漏らす。
(でも、剣くん……。一目見ただけでも経験の差がありすぎる。やっぱり無謀だったんじゃ……)
素人のみのりから見ても、その差は絶望的だった。そして、それは剣本人が一番痛感している。
(アカン、スーツの重さで思うように体が動かせへん。なのに、なんで同じ条件の豪樹さんがあんなに動けるんだ? これが『心・技・体』を極めた者の動きなのか……!?)
かつて自分を圧倒した宿敵、立海銃司を彷彿とさせるプレッシャー。剣が思考を巡らせる間もなく、非情にも次の一手が告げられる。
『――ROUND 2、READY?』
(……落ち着け。突っ走ったら食われる。まずは防御を固めて、出方を伺うんだ!)
『FIGHT!!』
開始直後、剣は両腕をクロスさせガードを固めた。画面内のカンフー使いも、しなやかな構えで防御姿勢をとる。
「今のラウンドで学習したようやな。だが、甘いで!!」
豪樹はガードを嘲笑うかのように、再び「掴み」の動作へ移行した。ガード不能の投げ技だ。
剣の体が宙を舞い、20%の体力が削られる。だが、今度は衝撃に耐えた。着地と同時に、重い脚を無理やり振り抜き、反撃のローキックを放つ!
――パシッ!
ようやく豪樹のキャラに一撃が入った。
「よっしゃ、ダメージ食らわし…………た?」
手応えを感じたのも束の間。剣の視界を、下から突き上げる巨大な拳が覆った。
――バキッッッ!!!!
下顎を撃ち抜く、豪樹の強烈なアッパーカット。
衝撃波が脳を揺らし、剣の意識が白く染まる。
「……甘い。反撃した後の『硬直』を狙われるのは格ゲーの基礎やで、兄ちゃん」
豪樹の静かな声が、VRゴーグル越しに響いた。
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次回もゲームウォーリアーをお楽しみに!!




