第8話②~ゲームジム・ビッグウェーブ~
「…………ホンマにここか?」
剣達は目的地に到着するなり、その外観に目を疑った。それもそうだろう。
体育館と道場を足して2で割ったような施設に『ビッグウェーブ』の看板。
外見からしてもあまりお金をかけてなさそうな佇まいに、二人は呆気に取られていた。
「何? 槍一郎はここで部活しとん? 剣道? 剣道なのか??」
「違うよ、何で剣道なんだよ。数年前からゲーマー達の間で開発された、ゲームと武道が合体した肉体・精神改造プログラムで心身共に養成する施設――それを『ゲームジム』って言うんだ。
そしてそのジムの一つが、この『ビッグウェーブ』って訳」
((ゲームと武道……??))
剣とみのりは、まだいまいち理解できていないようだった。
「まぁ、入ってみれば分かるよ」
槍一郎に促され、一行は施設の中へと足を踏み入れた。
「……槍一郎氏、何なんすかコレ?」
「何って、ボルダリング。あと何故に敬語?」
入口を抜けてすぐ、剣達の目の前に立ちはだかったのは、反り返った巨大な壁とカラフルな突起の数々。フリークライミングの壁が辺りを囲み、そこを登らないと奥へは進めない仕組みになっている。
「これ何つーSASUKEェェェェ!!!??」
「私、ボルダリングなんてやったことないわよ!?」
流石の二人も狼狽を隠せない。
「この壁を越えた者だけが、ゲームジムのトレーナー兼経営者の『高橋豪樹』さんに会えるようになってる。ダメだったら門前払いだ」
「アホか!? ニートと紙一重なゲーマーに、何を筋力試すことがあんねん!!?」
剣はワケがわからんとばかりに抗議する。常識破りな壁を前にあーだこーだと文句を言う彼に対し、槍一郎は。
「じゃ、帰る?」
……と、ビール並みのスーパードライな一言。
「………分ーッたよ、もう!!」
「あの、槍くん。私には簡単に登れるルート教えて。ね?」
かくて、三人はボルダリングの壁に挑むことになった。
槍一郎は何度も通っているうちに慣れたのか、一分もかからず登り切った。クレイジークライマーも真っ青の身のこなしだ。
一方の剣は、持ち前のセンスと根性でなんとか登りきり、みのりは槍一郎たちのフォローを受けて、ようやく頂上へ辿り着いた。
「ハァハァ、何やねんコリャ。トレーナーに会う前からクタクタやがな」
「私も……」
身体よりも頭の回転で勝負する二人にとって、いきなりの体育会系な洗礼はきつかったようだ。
「豪樹さーん! 天野槍一郎です。お客さんも連れてきましたよ~!!」
「――おぅ!! よぅ来よったのぉワレェ!!!」
必要以上にデカい声が施設内に木霊した。
―――ドォォォォォォォォォォォン!!!!
「「!!??」」
奥の部屋に設置された高い鉄棒から、地響きを立てて飛び降りた男が、剣達の元へ歩み寄ってくる。
「ヤァヤァ、未来のゲーム戦士の諸君! 『ビッグウェーブ』へようこそぉぉ!!」
190センチはありそうな筋骨隆々の巨体、そして眩しく輝くスキンヘッド。
初見では誰もが怯むであろう強面の男こそが、このジムのメイントレーナー、高橋豪樹(25)であった。
「「わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
◇◇◇
しばらくして――。
「ワハハハハハハハ!! いやぁ~驚かして悪い悪い! ワイがここのメイントレーナー、気は優しくて力持ち! 高橋豪樹や!!」
「「は、はぁ……」」
名前に負けない豪快にして豪放磊落な性格。テノールボイスに良く似合うバリバリの関西弁。そのギャップも凄まじいが、これほどの巨漢を間近で見たことがない二人は、すっかり縮こまっていた。
「二人共、見た感じ鍛えとらんようやが、よぅあのボルダリング越えられたな。大したもんやで!!」
「あ、はい。お陰さまで……」
剣は壁を越えたら文句の一つも言ってやろうと思っていたが、もはやそれどころではなかった。
「あ、あの~。えっと、豪樹さん、ですよね?」
みのりも恐る恐る質問を投げかける。
「おぉせやで、お嬢ちゃん。何でも話してみぃ」
「ここは『ゲームジム』だそうですけど、具体的にどんな事をするんですか?」
「おっ、よー聞いてくれた! ここはな、ゲームと筋トレを融合させて、プレイヤーの能力を強化改造するプログラムを用意した『肉体強化型プレイヤー養成ジム』なんや!!」
「それじゃ、ゲームをしながら体を鍛えるんですか?」
驚く彼女に対し、槍一郎が補足を入れる。
「豪樹さんは現役の格闘ゲームプレイヤーでもあって、武道の有段者なんだ。ここのプログラムは、そんな彼がプレイヤーの身体能力を底上げしつつ、ゲームのトレーニングも行うために作ったものなんだよ」
「何でまた、ゲームで筋トレなんて……」
剣はまだ納得がいかない様子だ。
そもそも昔から、画面やボードとにらめっこするゲームにおいて、運動とは無縁であるのが暗黙の了解だった。しかし、この物語の舞台は『超次元ゲーム時代』。ゲームと運動は水と油、なんて古い概念はとうにリサイクルに出され、アルミ缶にでもなっているのだ。
「その比喩も意味分からん」
そりゃ悪ぅ御座んした!!
「ゲームの実力ってのはスポーツの能力と良う似とる。五体の力を極限まで発揮させる為には、『心・技・体』の3つの要素が必要なんや。 例えば、そこのセンスの良さそうな兄ちゃん。お前さんは『技』に長けとろうが、長期戦に耐えうる『体』と、どんな劣勢でも屈しないメンタルの『心』が無いと、最強とは言えへん。
それらの強化は、殆どが肉体の鍛錬で賄える。それを徹底的に叩き込むのが、ここのプログラムなんや」
頭が良すぎても、体力がなければダメ。筋肉ムキムキでも、頭が空っぽではダメ。
そして何より、弱気なガラスのハートでは到底お話にならない。
これら3つの要素をバランス良く鍛え上げ、至高のプレイヤーを目指す!
これが高橋豪樹の提唱する最強プレイヤー養成術なのだ。
「…………そーゆーもんかな?」
豪樹の熱弁に、現実主義の剣も少しは納得しつつあるが、まだ実感が湧かない。
「まぁ兄ちゃんらもまだ若い。足りないと思う理由は、自分で見つけるのもエエだろう。
どや、せっかくだからお試しでトレーニングしてかへんか? 今なら無料サービスやで」
豪樹は笑いながらトレーニングを勧めようとする。先ずは無料からと勧める辺り、入会狙いでしょうか?
「いやいやいやいや! 俺ボルダリングでもうお腹いっぱいやから!!」
「わ、私もちょっと……すいません。あとココアおかわり」
剣たちは慣れない有酸素運動に必死の抵抗を見せる。みのりはちゃっかり二杯目を注文していた。
「なんや、つれんなぁ。――そや槍一郎、あの件はどうなったんや?」
「実は……」
豪樹と槍一郎が声を潜めて話し込もうとした、その瞬間。
「おい高橋ィィィィィィ!!!!」
(今度は何!?)
入口の扉が乱暴に蹴り開けられ、怒号が響き渡る。その剣幕に、みのりは怯えた表情を浮かべた。
「てめぇぇぇぇ! まだ借金返す手立てがつかへんのかワレェェェ!? いつまで待たせる気じゃオラァ!!!」
どうやら借金取りの登場らしい。この小説、チンピラや不良に続いて、ついに極道まで出てくるのか。健全なゲーム小説のはずなのだが。
「大丈夫、初見の人には『龍が如く』リスペクトと思えば……」
「ここの作者、そのシリーズ一回もプレイしてへんぞ」
「じゃあ不健全やな、この小説」
認めちゃったよ、主人公。
「(ちょっと剣くん、私たち帰った方が良いんじゃない?)」
「(あぁ……触らぬヤーさんに祟りなしや――)」 二人は揉め事に巻き込まれる前に逃げ出そうとした! ……しかし、何故か回り込まれてしまった!(ドラクエ風に)
「このイベントに付き合えってか!?」
「主人公ってつらい……」
「だから、まだ金は返されへんって言うとるやろ! もうちょっと待ってくれんと!」
「待つ待つ言うて、もう三ヶ月経っとんねん。ええ加減にせんと、こっちがハゲるわ! お前みたいにスキンヘッドになるわ!!!」
「あぁん!? うちのスキンヘッドをバカにすんなや! ハゲを気にしてやっとるんちゃうぞ、イメチェンやからなボケ!!」
「……あのな、話を逸らすな。別にスキンヘッドをディスりに来たんちゃうねんアホ。金や、金! はよ借金を返さんと、こっちもこんな汚れ仕事せんで済むんや! 毎日ボルダリングやらされて、二の腕に筋肉ついてもうたわ!!」
「あ、それはおめでとうございます」
「ええ、お陰さまで肩こりも……って、逸らすな言うとるやろ!!! はよ出せや借金!!」
「あのー……」
「無いもんは無いんや! 会員がさっぱり来ぇへんから、金も回らんのや!!」
「やったらお前の『金』で賄えや! 下にプラプラ二個ついとるやろ!!」
「あのーっ!」
「てめぇ、話に紛れて下ネタぶっ込むなや! 読者にバレへんとでも思ったかボケェ!!」
「知るかボケ! 誰も見とらんわ、作者のクソ長い説教文なんて――」
「あのォォォォォォォォォッッ!!!!」
犬も食わない豪樹と借金取りの言い争いに、剣はとうとう痺れを切らせた。
「……まぁ、あんたらの掛け合い漫才はオモロイし、腰を折って申し訳ないんすけど。室内でギャーギャー騒がれて、俺らどうしたらええんすか? 槍一郎もセリフなくて突っ立ってるだけやし」
(……今それどうでもよくない??)
「話も長くなりそうですし、俺にも事情を聞かせてもらえませんか?」
(えっ!? 剣くん、さっきまで関わらんとこうって言ってなかった!!??)
みのりのツッコミも虚しく、ゲームジム騒動はさらなる混迷へ。
「変なことに首突っ込まないでよ~!!」
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次回もゲームウォーリアーをお楽しみに!!




