第7話④~勝利へのダッシュ!!~
八の字に交差する『エイトクロスサーキット』。猛烈なデッドヒートを経て、レースはいよいよファイナルラップに突入した。
剣がゴールラインを通過した時、トップを走る親玉のマシンは既に第一アイテムボックス付近。その差は約四〇〇メートル。
一周の間に半分まで距離を縮めた剣は、ドリフトを駆使して猛追する。勢いを殺さぬよう、アクセルは全開のままだ。対する親玉は、先程のショートカットを使わず、安全策を取ってコースを走る。
剣は二つ目のアイテムをゲットした。
(――来たっ、これなら行ける!)
だが、まだ使わない。一気に抜き去るための「好機」を待つ。
「剣くん! なんでアイテムを使わないの!?」
「いや……あいつはタイミングを計ってるんだ。逆転の一撃を叩き込む瞬間をな!」
トップのマシンが最終コーナーを曲がりきった。目前にはゴールラインが迫る。
「終わりだクソガキ! 勝負の厳しさを思い知れ!!」
――カツン。
勝利を確信し、慢心した親玉が余所見をした刹那。マシンの鼻先に「何か」が接触した。
――ドォォォォォン!!
「――ッ!!??」
爆炎が上がる。それは、ラップ2で剣が捨てたはずのトラップだった。
(――しめたッ、今だ!!)
剣の目が鋭く光る。その胸元に、魂の鼓動に呼応するかのような赤い輝きが宿った。
「これが俺の全身全霊・アイテム超連打! 火事場のバイブレーションパワーや!!」
――ガガガガガガガガガッッッ!
剣の指先が、標的に針を刺すような超高速でボタンを叩く。高橋名人をも超越する、一秒間三十連打の神業。
アイテム『D』が無限に発動したかのような加速を生み、爆発で立ち往生する親玉のマシンを、一瞬で置き去りにした。 マシンと乗り手が一体化した超音速の風となり、韋駄天がゴールを駆け抜ける!
――ゴールインッッッ!!!!
浮遊ドローンに乗ったAIアンドロイドが、トップで戻った剣にチェッカーフラッグを振る。勝者は、桐山剣だ。
超スピードの余韻をコースに残し、剣は歓喜の雄叫びを上げた。
直後、プレイギアに報酬が届く。
賞金五〇〇〇円。そして、金の宝箱から出現したのは『オープンロックキー』三十個。ゲームワールドオンラインの新たな扉を開くための貴重なデータだ。
「――槍一郎くん、さっき剣くんが使ったアイテムって……?」
みのりの問いに、槍一郎は興奮を隠せずに答えた。
「あれは『D・インフィニティ』。一定時間ダッシュが無限になる超レアアイテムだ。あの順位で引き当てるなんて、相当な強運……いや、奇跡だよ! ――桐山剣! 僕は君のような『ゲームウォーリアー』に会いたかったんだ!」
「ちくしょう、あのトラップさえ無ければ……!」
敗北した陰険プレイヤーが、悔しさに声を震わせる。
「……戦いに浮かれてたんはお互い様やな。卑劣な手を使って、最後は自分の仕掛けた罠に足元を掬われる。これほど格好悪い負け方はあらへんで」
剣の言葉に、槍一郎も静かに頷いた。
「残念です。大人がズルをしてまで勝とうとした結果がこれとは。プレイヤーとしての精神を忘れ、不正に走った末の墜落……悲しい話ですよ」
ぐうの音も出ない男たちに、槍一郎は追い打ちをかけるようにプレイギアを掲げた。
「ラップ2のショートカットは公式の禁止行為です。ペナルティ処分を受けてもらいますよ」
エリア内に警告アナウンスが響き渡る。
『違反報告を確認。対象プレイヤーを強制送還します』
男たちは光に包まれ、エリアから追放された。下された処分は『サイバーターボシティ』への永久出入り禁止。初心者をカモにする迷惑行為の代償は、あまりにも大きかった。
◇◇◇
「――で、槍一郎だっけ。結局、何で俺たちを試すような真似をしたんだ?」
一息ついた剣が尋ねると、槍一郎は真っ直ぐに二人を見つめた。
「君たち、ゲームチーム『シャッフル』を結成したばかりだろう?」
「なっ……なんでそれを!?」
「桐山矛玄さんは、君のお祖父さんだろう? WGC創成期からの重鎮だ。オフィシャルの僕が知らないはずがない。その孫がチームを作ったと聞いて、ずっと探していたんだ」
槍一郎の熱のこもった口調に、剣は少し気圧されながらも問い返す。
「じいちゃんの知り合いなのは分かった。けど、用件は何なんだよ」
「ああ、ごめん! つい興奮しちゃって。……単刀直入に言うよ。僕も君たちの仲間――『シャッフル』に入れてくれないか!?」
「「えええええええええええ!!?」」
予想外すぎる提案に、二人の絶叫が響いた。
「僕はただのオフィシャルだけど、君たちと一緒に最強を目指したいんだ。さっきのレースで確信したよ。剣となら、もっと強くなれるって!」
しがない地方のチームに、現役のオフィシャルプレイヤーが加入。これ以上の補強はない。
「剣くん! 槍一郎くんが仲間になったら、私達のチーム、凄いことになるわよ!」
「ああ、異議なしだ! よろしく頼むぜ!」
こうして、天野槍一郎が『シャッフル』に加わった。
「これからよろしく。僕ら同い年だし、友達として接してくれていいよ」
槍一郎が差し出した手を、二人は力強く握り返す。
「おう、よろしくな! ……じゃあ挨拶代わりに、槍一郎の実力を見せてくれよ。この『F-MAX』で!」
「え? 別に構わないけど」
「細かい説明抜きで、同じコースで一周のタイムアタックを頼むわ」
「ちょっと剣くん! 強引なんだから!」
槍一郎は苦笑しながらマシンに乗り込み、静かにアクセルを吹かした。
『――READY? GO!!』
その刹那。槍一郎の胸元に、鋭い「蒼い槍」の形をした光が宿った。
「ランサー流・遊奥義――『疾風怒濤』!!!」
――ギュオオオオオオオオオオッッ!!
リニア新幹線かと思わんばかりの加速。通常のスタートダッシュとは次元が違う。
無駄のないライン取り、吸い付くようなドリフト。アイテムを一切使わない純粋なテクニックだけで、彼はコースをねじ伏せた。
タイムは四〇.九六秒。先程のレースの平均ラップを八秒近く上回る驚異的な記録。
「「………………………」」
剣とみのりは、言葉を失った。
(剣くんの走りも凄かったけど、これはもう……次元が違う……!)
みのりは、新メンバーの底知れぬ実力に戦慄した。
「――こんな感じでどうかな?」
槍一郎が涼しい笑顔を見せて筐体から降りた。
とんでもない実力者が仲間になった。
剣とみのりは驚きと高揚感に包まれながら、力強くハイタッチを交わした。




