第6話②~変わらぬ遊び心~
結局のところ、松坂オーナーはオープン当日も予定が詰め込まれていたため、剣とみのりが強くなるための協力要請への答えも曖昧なまま話は終わってしまった。
「幼い頃から持っていたもの」 松坂はこの謎めいたヒントを剣に課し、その答えを出すべく来週の日曜までに会う約束をして、二人を送り出した。
期待とは裏腹な結果に動揺したのか、二人は施設内の最新ゲームに手を付ける余裕もなくギャラクシーを後にした。
◇◇◇
本人の前では礼儀良く振る舞っていた剣だったが、自宅近くの新世界にある50円ゲームセンターに辿り着く頃には、溜まっていた不満が爆発した。
「何やねんなぁぁぁ! 俺ぁな、松坂さんなら絶対ええ方法知ってる思うて会いに行ったのに、なぞなぞみたいなこと言うて自分は協力できんとか、何考えとんねんあのおっさん! ……あ、ミスった」
イライラした状態でゲームをしても、ロクな結果は出せない。松坂の言葉が気になって集中力を欠いた剣は、ミスを連発して余計にピリピリするばかりだ。
「それも一番集中力がいる『アルカノイド』で……。パドルの移動が軽くて制御しづらいのに、今の剣くんじゃ一面もクリアできないよ。もう止めなよ剣くん。八つ当たりしても仕方ないわよ」
「んな事言われてもよぉぉぉ!」
剣にとって松坂は幼少期からお世話になった恩人だ。それだけに、期待を裏切られたような寂しさも相まって、剣は半泣き状態だった。
「でも、完全に断られたわけじゃないでしょ? 来週の日曜にわざわざ時間を作ってくれたんだから。きっと伝えたいことがあるのよ」
「……確かに。あんな忙しい人が俺のために時間を空けたんなら、何かあるんかもな」
「でしょう? だからそんなに落ち込まないで」
冷静に宥めるみのりの言葉に、剣もようやく我に返った。
「その前に、ヒントの意味を見つけなきゃ」
「『幼い頃から持っていたもの』か……」
「松坂さん、剣くんが小さい頃に駄菓子屋さんをやってたじゃない。そこに関係があるんじゃないかな」
「駄菓子屋? そこで持ってたもんつったら、友達から割引券をパクってタダ買いしたくらいやがな」
「セコい上に問題行動でしょ、それ」
「若気の至りや、許してくれ」
二人は記憶の限りを尽くしてヒントの正体を探ったが、結局決定的な答えは見つけ出せなかった。
そして、悶々としたまま約束の日曜日がやってきた。
◇◇◇
再び訪れたアミューズメントパーク・ギャラクシー。
入り口前では、松坂オーナーが律儀に彼らの到着を待っていた。
「二人ともよく来てくれたね。待っていたよ」
「すみません、お忙しいのに。俺らのために……」
「気にするな。それよりも、私があげたヒントの意味は理解してくれたかな?」
「「えっと、あの、その……」」
二人は申し訳なさに身を縮める。
「難しかったみたいだね。ハハハ、別に答えられなくてもいいんだ。あのヒントは、剣くんに昔を思い出してほしいと思って出したきっかけに過ぎないからね」
「昔を思い出す……俺が駄菓子屋に通ってた頃のことですか?」
松坂は深く頷いた。
「私が先祖代々継いできた下町の駄菓子屋に、君たちは何の疑問も持たずに通い詰めてくれた。仮想空間や最先端技術が主流のこの時代に、なぜ人々は古風な駄菓子屋を求めるのか。私はそこに、ゲームを極める者の原点があると思っている」
「原点……? それは一体?」
「その答えは、私が精魂込めて築き上げたこの『ギャラクシー』に残してある。ついてきなさい」
松坂の後を追い、辿り着いたのは地下一階の片隅だった。無機質なゲームソフトの棚が並ぶ一角に、そこだけ異質な空間が広がっていた。
「松坂さん、ここって……」
「懐かしいだろう? かつて私が営んだ駄菓子屋をそのまま再現したレトロコーナーだ」
そこには、かつて剣が通った店そのものの風景があった。木造の屋根、瓶に入った駄菓子、そして10円で遊べた古いゲーム筐体。
「懐かしいなんてもんちゃいますよ! 本物の駄菓子屋やないですか!」
「そう言ってくれると嬉しいね。あの頃が忘れられなくて、つい作ってしまったよ」
松坂は少年のように微笑むと、倉庫からあるものを取り出した。
鋳鉄製の【ベーゴマ】と、帆布を張った遊戯台だ。
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PLAY GAME No.5
【ベーゴマ ―BEGOMA―】
・ジャンル:レトロゲーム
・プレイヤーレベル:9
概要:
大正から昭和にかけて子供たちの間で流行した伝統的な遊び。
ルール:
バケツや樽の上にシートを張った「床」の中でベーゴマを回し、回転の持続時間や、相手を弾き飛ばすことで勝敗を決める。
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「ベーゴマか、懐かしいなぁ……」
「それで、何をするんですか?」
「何って、二人で遊んでみなさい」
「「えぇぇえええ!?」」
いきなりの提案に戸惑う二人。剣は巻き方を忘れかけ、みのりに至っては未経験だ。松坂は自ら手本を見せ、丁寧にアドバイスを送る。
「子供の頃に教えただろう。ほら、左手の人差し指でひもを押さえて……」
松坂に教わりながら、二人は「女巻き」でひもを巻き付けていく。剣の脳裏に、かつての記憶が鮮明に蘇ってきた。
「……懐かしいぜ。あん時は強く締めすぎて、指が赤くなってたな」
それは、二度と戻らない過去への愛惜がこもった眼差しだった。
常に進化を求められるゲームの時代に、なぜ祖父は自分を駄菓子屋へ連れて行ったのか。その真意は分からずとも、剣はここで「遊び心」を育んできたのだ。
――それが一体いつからだろうか。
純粋に遊ぶ気持ちが、薄れていってしまったのは。
「剣くん、どうしたの?」
「んぁ? いけね、ぼーっとしてた。ほんじゃ、やりまっか!」
二人はベーゴマを構え、力強く放った。
「「せぇーのっ!!」」
ブーンと唸りを上げて回る二つの独楽。カチン、カチンと金属音が響く。一瞬の静寂の後、剣のベーゴマがみのりの独楽を鮮やかに弾き飛ばした!
「あっ!」
「よしッ、俺の勝ちぃ!!」
シンプルな勝負だからこそ、勝利の爽快感は格別だ。剣は無邪気にガッツポーズを決める。
「あーあ、負けちゃった」
「がっかりすることはない。次はこちらで挽回するといい」
松坂が次に差し出したのは、色鮮やかな紙の札――【めんこ】だ。
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PLAY GAME No.6
【めんこ―MENKO―】
・ジャンル『レトロゲーム』
・プレイヤーレベル:7
概要
めんこの語源は「小さな面」、つまり面子の意味である。
めんこは、日本の昭和30年代においては、めんち、ぱんす、ぱっちん、大阪周辺では『べったん』とも呼ばれていた。
ルール
もっとも典型的な遊び方である「起こし」のルールは以下の通りである。
1.地面にめんこを置く。
2.別の者が別のめんこを叩き付ける。
多くの場合以上の競技手順は同じだが、あらかじめ地面に置かれた方の所有権の移転に関わる勝敗の決め方が、地方や集団によって異なる。
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剣が手に取ったのは、日本古来の丸型めんこだ。古風な外見だが、勝負に使うには十分な質を備えている。
床には数枚のめんこが散らばっていた。この「的」となるめんこを、叩きつける風圧と衝撃でひっくり返し、自分のものにしていくのが基本ルールだ。
「力勝負じゃ、また剣くんに負けちゃいそう……」
「そんなことはないよ。このゲームに必要なのは力よりもテクニックだ。私が攻略法を教えてあげよう。あそこの固まっているめんこに目掛けて……」
みのりは松坂に教わった通り、指先でめんこの端を軽くつまむように構えた。最もオーソドックスな『ツマミ』という持ち方だ。
狙いを定め、斜め方向から一気に叩きつける!
――バシッ!!
「すごーい! 二枚いっぺんにひっくり返った!」
「やるなぁ、みのり! んじゃ俺は『はじ持ち』でいくぜ!」
たかがめんこ、されどめんこ。ヒートアップすればするほど、のめり込んでいくのがゲームの性だ。玄人技を繰り出す剣と、教わった通りに真っ直ぐ挑むみのり。二人が無邪気に遊ぶ姿は、まさに純粋な心の表れだった。
◇◇◇
「どうだね、久々に遊んだ気分は?」
松坂は、夢中で遊んでいた二人の顔を覗き込んだ。
「そりゃもう最高っすよ! 懐かしくて、日頃の悩みなんてどっか行っちゃいました」
「不思議ね。こんなにシンプルな遊びなのに、あんなに熱中しちゃうなんて」
二人の満足げな表情を見て、松坂は静かに、課題の答えを告げた。
「そう、それが君たちが幼い頃に持っていたもの。そして、ゲームを極める者が決して忘れてはならない原点――純粋な【遊び心】だよ」
「遊び心……?」
「今は実力主義の世の中だ。ライバルに勝ちたい、強くなりたいと願うのは間違っていない。だが、ゲームとは本来『心』を育てるものだ。好奇心が行動力を生み、遊びの輪の中で仲間を作り、楽しさを分かち合う。そう考えて向き合えば、ただ戦う時よりも、もっとゲームを好きになれるのではないかな」
松坂の言葉は、真摯に耳を傾ける二人の心に深く染み渡っていった。
思えば最近の二人は、実力やセンスといった数字に見える強さばかりを追い求め、心から楽しむことを忘れていたのかもしれない。
「剣くんがベーゴマやめんこで遊んだ記憶は、君の中に永遠に残る。私はそんな『遊びの楽しさ』を次世代に受け継ぐために、このギャラクシーを作ったんだ。すべてのゲームに心あり! それこそが、真のゲーム戦士への第一歩だよ」
一度は協力を断るような態度を見せた松坂。それは、剣に「ゲームとは何か」を自問させるための、彼なりの親心だったのだ。
「……松坂さんの言う通りだ。すべてのゲームに、人を動かす『心』があるんだな」
剣の瞳に、かつての輝きが戻る。ただ勝つためではなく、万物のゲームを楽しみ、遊び尽くそうとする騎士の眼差しに。
「良い目になったね、剣くん。これからはギャラクシーの施設を自由に使っていい。君たちが強くなるために必要な環境は、我々ギャラクシーグループが全面的にバックアップしよう」
「ホンマですか!?」
思わぬ朗報に、剣は声を上げた。
「実は君たちと別れた後、矛幻さんから連絡があってね。『剣たちの力になってやってくれ』と頼まれたんだ。あの伝説の『難波シャッフル騎士団』の意志を継ぐチームを君たちが作ったのなら、私としても断る理由はない」
(じいちゃんが……)
祖父・矛幻が陰ながら自分を信じ、期待してくれていたこと。そして自分たちが背負おうとしている意志の重さを、剣は改めて噛み締めた。
「松坂さん……!」
感極まる剣。しかし、感動的な沈黙を破ったのはみのりの声だった。
「あの、感動してるところ申し訳ないんですけど……あそこ、見てください」
みのりが指差した先には、いつの間にか数十人の子供たちが集まっていた。レトロコーナーの珍しい玩具に興味を惹かれた野次馬たちだ。
「おじちゃーん! ベーゴマ巻けないから教えて!」「これ、テレビゲームより面白いかも!」
「ベイブレードとどっちが強いの?」
「見て、このめんこの絵、かっこいい!」
松坂も剣も、呆然と口を開けた。最新鋭のゲームが並ぶこの施設で、子供たちは古き良き遊びの魔力に引き寄せられていた。
「こりゃ大変だ。剣くん、君も手伝いなさい!」
「えっ、俺も!?」
松坂は苦笑しながらも、かつて下町の駄菓子屋で見せたような優しい笑顔で子供たちの元へ駆け寄っていった。
――今、あなたが熱中しているゲームの中にも、あの頃の【遊び心】は息づいているだろうか。
今もベーゴマとかめんこの遊び方を教えてる所はあるのかな………?
昔の遊びが令和になっても受け継がれますように!!
次回は第7話~疾風怒濤レーサー~
未来都市のレースゲームエリアで新たなプレイヤー出現!?
お楽しみに!!




