EX STAGE1-④~『切り札』は君の代名詞~
超次元白黒リバーシ『エクストリーム・オセロ』!!
盤連会のキャプテン、賽目耕作が繰り出した特殊要素――赤い石『スティールストーン』。その効果は、既に置かれた石を奪い取るという掟破りのものだった。オセロの要である「角」を強奪され、盤面は一気に白から黒へと塗り替えられてしまった。
「そんな……既に取ってある石を無理やり入れ替えるなんて、ありなの!?」
みのりは予想外の展開に絶句する。対峙する賽目が、静かに声を返した。
「これが進化したオセロだよ、お嬢ちゃん。この『ゲームワールドオンライン』には、常識を超えたルールが数多く存在する。そして、その理不尽を実力と運で超えていくことこそが、我々プレイヤーの使命なんだ」
理路整然とした主張。賽目もまた、この世界の理を深く理解する真摯なプレイヤーであることを物語っていた。
(……迂闊だった。通りで角へ追い詰めるまでがスムーズすぎると思ったぜ。あの人は俺が角を狙うのを知っていて、あえて誘導したんだ!)
先読みのさらに先を行く賽目の戦略に、剣は苦渋を滲ませる。スペシャルストーンの種類を把握しきれていなかったのが仇となった。 だが、右下の角を奪われても、残る角はまだ三箇所ある。果たして剣は、この劣勢を覆せるのか。
(序盤から『スティールストーン』を切らされたが……もう一箇所の角を抑えれば、決定的なリードになる。あとは相手の出方次第だ)
賽目は表情を崩さず、虎視眈々と次の一手を狙う。盤連会のエースに相応しい、隙のない強者だった。
◇◇◇
フィールド上で繰り広げられる高度な読み合い。心理戦の応酬が続く中、試合はいよいよ中盤戦を抜ける。
賽目が『スティールストーン』を使って以降、両者はあえてスペシャルストーンを温存し、従来のオセロの定石で火花を散らしていた。奥の手は勝負どころまで取っておく算段か。剣は二箇所目の角を死守すべく、一手ごとに盤面の内側を固めていく。
だが、その抵抗も時間稼ぎに過ぎない。
賽目は着実に包囲網を狭め、もう一つの角を奪取すべく駒を進める。剣にはそれを内側から牽制する以外の術がなかった。
――そして、置かれた石が三十個を超えた時。戦いはついに佳境へと突入した。
(……やるしかないか)
剣はモニターに映る盤面と、手元の『スペシャルストーン』を交互に見つめる。
懸命な防御により、幸いにも残り三つの角はまだ空いている。
だが、限界は近い。
石の並びから推測するに、あと二手で右上の角が賽目に取られる。
その角の隣接部には、二つの空白。奪い取る石はもうないが、残る四種類のスペシャルストーンをどう使うか。
(一か八か、試してやる!)
剣の脳裏に、閃きが走った。
右上の角に隣接するマス。そこへ、剣はあえて自らの白石を置いた。
(あ、剣くん……そこはダメ――!)
みのりが悲鳴に近い声を上げる。そこは次の手で、確実に賽目に角を取らせてしまう「悪手」だった。 しかし、剣の瞳に動揺はない。その一手に、賽目は何かを察した。
「…………なるほど。考えましたね」
だが、賽目は躊躇わなかった。罠を承知で、二箇所目の角へ黒石を叩き込む。
その瞬間――。
「かかったッ!!!」
剣が叫ぶ。モニターのタッチパッドを、人差し指が鋭く弾いた。
狙いは右上の角、その斜め隣に空いた最後の空白。
上空から降り注いだのは――《《黄色》》の輝きを放つオセロストーン!
ドォォォォォォォォン!!
天地を揺るがす爆発音がフィールドに木霊し、衝撃波が砂塵を巻き上げる。
「な、何をしたの剣くん!? ……えっ、嘘!?」
砂塵が晴れた盤面を見て、みのりは目を見開いた。
「黒に取られたはずの右上の角が……白にひっくり返ってる!?」
それだけではない。剣が打ったマスを中心に、周囲三×三マスの計九マスが、すべて白一色に染め上げられていた。
「スペシャルストーンを使いましたね、桐山さん。わざと私に角を取らせるために!」
「その通り! 黄色のスペシャルストーンは『ボムストーン』。置いた周囲の三×三マスを、問答無用で自分の色に塗り替える!」
剣は不敵に笑った。
「あんたは角を取って、できるだけ多くの石を返そうとした。だが、その欲が仇になったんだ。斜め隣に空白を残してくれたおかげで、ボムの効果を最大限に発揮できた!」
(すごい……相手の出方を、完全にコントロールしてたんだ!)
みのりの瞳に、希望の光が宿る。
剣はカードゲームなどの心理戦を得意としていた。それはオセロでも変わらない。一寸先、いやそのさらに先の未来を予測し、盤面を支配する。
目立たず、焦らず、己のペースで好機を待ち、最後の一撃で仕留める。それが剣のファイティングスタイルだった。
しかし、賽目も黙って引き下がる男ではない。
彼はすぐさま反撃に転じ、残るスペシャルストーンを投下。左下の角に『ボムストーン』を打ち返し、九マスを真っ黒に塗り潰して三箇所目の角を奪い返した。
――残る空白は全体の二割。左上に点在する数マスのみ。
スペシャルストーンの残数は、賽目が一つ。対する剣は、三つ。
「……どうした桐山君。まだ石は残っているはずだ。貴重な切り札も、出し惜しみをしては宝の持ち腐れだよ?」 盤面は依然として賽目の黒が優勢。勝利を確信したかのような口調に、剣は静かに口を開いた。
「……賽目さん。あんたにとって『切り札』ってのは何だ?」
「切り札?」
「俺にとっての切り札は、戦況を凌ぐための道具じゃない。勝利を確定させるために、確実にトドメを刺すためのものだ。見せびらかしたり、その場しのぎで使うもんじゃない」
剣の眼光が、かつてないほど鋭く光る。
「俺が石を出さないのは、出し惜しみなんかじゃない。あんたに百パーセント勝つための、絶対の切り札だからだ!」
剣は手元に残る三つの石を握りしめた。
「この三手で、フィニッシュを決めてやる!!!」
未だ明かされぬ三つの力が、逆転の奇跡を呼び起こすのか。
――頑張れ、桐山剣! 『切り札』という言葉は、君のためにある!




