EX STAGE1-③~超次元が翻す法則~
石英の大理石に新緑のグリーンでコーティングされた巨大な8×8マス。計64マスのフィールドに相対するのは、桐山剣とみのり、そしてボードゲームの普及に物理的な威圧感を持って貢献する盤連会の面々だ。
幾多のボードゲームを世に広めるべく、その強さを証明せんと勝負に挑む桐山剣。白黒はっきりさせるに相応しきゲーム、オセロ。
だが、この近未来で劇的な進化を遂げたという『エクストリーム・オセロ』とは、一体どのようなゲームなのだろうか。
「そんじゃゲームを始める前に。アンティはどうしますか、伴場さん?」
剣は盤連会の会長・伴場萬代に賭け金の交渉を持ちかけた。
「アンティ? なんやそれ。アンティーク家具なら実家にいくらでもあるで」
どうやらアンティという言葉は、七十歳の古物な頭には馴染みがなかったらしい。
「いやそうじゃなくて、賭け物の話です! 例えば俺たちの私物を差し出すとか、逆に『この縄張りには二度と入るな』っていう要求をするとか」
「あぁなんや、賭け事かいな! だったらお隣の女子高生でも……」
「ダメダメダメダメダメッ、それだけは勘弁してください!!」
剣は必死に拒絶し、当のみのりも全力で首を横に振る。当たり前だ。それを許せばコンプライアンスの壁を音速で突き破ってしまう。
「ハッハッ、冗談じゃよ! ワシはお前さんらから何も奪いはせん。……せやな、もしワシらに勝てたら、二人には『えぇもの』をやる。それでどや?」
「えぇもの……?」
剣たちは想像を巡らせた。あの盤連会のことだ。勝利の栄誉だけでなく、ボーナスまで付くとは。
商品券か、お米か……? いや、これだけの規模の団体だ。もっととんでもないお宝かもしれない。
「よし、交渉成立です! それで、相手は誰が?」
「ワシら盤連会きってのエースプレイヤー、賽目耕作(21)がお相手しよう!」
現れたのは、周囲の厳つい男たちとは正反対の、茶髪のロングヘアが眩しいスマートな青年だった。伴場が賽目の耳元で密かに囁く。
(――賽目、ええか? 相手はあの桐山矛玄の孫や。そこらのプレイヤーとは覇気が違う。プライドに懸けて全力で叩き潰すんやで)
(任せてください、伴場さん)
一方、剣は準備を進めながら、対戦相手の背後にある伴場の姿をじっと見つめていた。
「……ねぇ剣くん? さっきから会長さんのことばかり見て、どうかしたの?」
「いや、なんていうか……あのじいちゃん、以前どこかで会った気がするんだよな。いつだったか……」
十年前の記憶を掘り起こそうとするが、残っているのはゲームの感覚と強烈な敗北感ばかりで、肝心の顔が思い出せない。
「桐山くんだったね! 早速始めようか」
「あ、はい!」
賽目の呼びかけに応じ、両者はリフト型のコントローラー席に乗り込んだ。巨大な盤面を俯瞰し、操作するための特別席だ。
手元の操作パネルは最新のタッチパッド式。置きたい場所を指先で指定するだけの、シンプルかつ直感的なインターフェースだ。
スクリーンに六十四マスの略図が表示され、ランダム抽選が始まる。
先手・黒は賽目。後手・白は剣。
中央に四つの石が互い違いにセットされ、戦いの火蓋が切られた。
『――GAME START!!』
電子音声が響き渡る。先手の賽目が淀みない動きで最初の一手を打った。
中央の白石を挟み、黒へと変える。
後手の剣もすぐに応戦。賽目の動きをなぞるように石を置き、白を広げていく。
序盤は静かな立ち上がりだった。盤面は右下方向へと緩やかに広がっていく。
(一見、何の変哲もないオセロだが……気になるのは、俺も賽目さんも持っているあの“スペシャルストーン”だ。あれがこの盤面をどう変えてしまうのか。それまでは、定石通りに進めるしかない……!)
剣は新要素『スペシャルストーン』を警戒していた。
本来、オセロは【二人零和有限確定完全情報ゲーム】に分類される。
運の要素が入り込まない、純粋な実力勝負。コンピュータでさえ完全解析には至っていない深淵なゲームだ。
その完成されたルールに、盤面を逆転させる異物が混ざり込んだらどうなるか。
その答えは、この石が握っている。
ゲームは着々と進み、ついに右下の角を巡る攻防へと差し掛かった。
(……あら? 剣くん、もしかして角を取るために誘導してる?)
傍らで見守るみのりが気づく。
オセロにおいて四隅の角は絶対の聖域だ。一度取れば決して覆されず、終盤の逆転劇を支える拠点となる。
角を制する者がオセロを制す。それはこの世界の常識だ。そして――。
「よしッ! 右下の角、いただきだ!」
剣の指がパッドを叩く。白の石が右下角に収まり、隣接する黒石が次々と白へ翻った。
だが、その達成感は一瞬で凍りつく。
「――!? 剣くん、上!」
みのりが叫び、上空を指差した。
そこから降ってきたのは、賽目が放った「赤い」オセロ石だった。
――バチィィィィィン!!!
凄まじい衝撃音と共に、右下角に鎮座していたはずの白石が、物理的に弾き飛ばされた。
「……えぇ!? 角に置いた石が、手元に戻ってきた!?」
驚愕する剣の目の前で、さらなる異変が起きる。
居座った赤石がドロリと黒く染まり、通常の黒石へと変貌したのだ。そのまま周囲の白石を、無慈悲に黒へと塗り替えていく。
――そう、これが超次元のオセロ。
凝り固まった常識など、いとも容易く翻される。
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次回もゲームウォーリアーをお楽しみに!!




