複雑な想い
道場の扉を開いたその先。扉という遮蔽物が取り除かれた視線に映ったもの。オレはきっとその光景を二度と忘れることはないだろう。
なにしろ、オレにとって何よりも絶望の色でありながら、切っても切り離せないほどまでに最も関わりが深い色。瞳や髪が秘めた本来の色。
道場の中心に広がっていたのは―――那月から零れ落ちる紅蓮だったのだから。
ドクン、と心臓が大きく脈動した。同時に本能が全力で叫び出す。これ以上は視線の先の光景を見るな、と。早くも、心が、身体がけたたましいまでの警鐘をガンガン鳴らしている。
それでも……それでも、オレは視線を広がり続ける紅蓮―――命の源泉たる鮮血から目を逸らすことが出来ないでいた。
リアクションすら窮する程の光景。ただ一つだけ言えるのは、これから先の日常は音を立てて崩れ去ったということだけは間違いないのだろう。
……嗚呼、この感覚はあの時と同じだ。本当に嫌になるくらい全く同じである。立ち尽くしたまま、自分が自分でなくなるかのようなこの感覚は。
『………ごめん、オレが弱いから、そのせいでお前は………』
何度も何度も何度でも。数え切れないくらい口にした言葉。かつて共に過ごしていた、大切な人への謝罪の言葉。
シチュエーションは天と地ほども違う。そもそも那月の現状とオレは関係など無いに等しい。それにも関わらず、記憶に刻まれた消えることのない過去の記憶が呼び起こされたのは、きっと必然であることだけは確かだと感じてしまう自分が居た。
一つ息を吐き、大気を吸い込んだ。
そうすることで、大きく跳ねた心臓が余分に身体中に送り出した分の酸素を補給し、軋みを上げる意識のクールダウンをはかる。もっとも、それに大きな効果があることは期待していないが。それでもしないよりは少しはマシなはずである。
一拍置き、幾ばくか思考能力を回復させた後、改めて現状の把握を試みた。
まず目につくのは、紅蓮の中に佇む那月の姿。どうも、この嫌な現状だけはいくら現実から目を逸らそうとしても変わりそうもない。ただ、彼女の足元にはなぜか、砕け散った二振り分の刀の残骸が散乱していた。
それに加えてもう一つ。那月に気を取られ過ぎて気がつかなかったが、人影がもう一人分点在していた。
性別は男。年はまだまだ若そうに見えるが、年齢は二十歳の頃だろうか。その男が手に携えているのは血に濡れた一振りの刀。それで何を斬ったのかは一目瞭然だと断言出来る。
そして、何よりも看過できないのは、その刃が再び振られようと男の腕の動きに伴って動いていく瞬間だった。
ここまでくれば、誰が被害者で誰が加害者なのかなんて分かりきっていた。でも、なぜそうなっているか分からない。理解不能。その言葉が頭の中を蹂躙している。
だけど、そんなことは既にもう関係など無いに等しい。振りかざされる刀身を止めようと考える思考よりも、ずっと早く無意識に支配された身体が動いてしまう。
一歩目で強く踏み出す。
同時に無詠唱の刀剣創者の魔法で刀を創り出した。
二歩目で踏み込む。
空いていた距離など知ったことか。瞬間移動の魔法なんてものを見たことがあるが、その類いのモノなど必要もない。そんなものは魔法なんてなくても、いくらでも距離を詰めることは可能だ。
そして、三歩目で刀を振り抜いた。
人を斬る役割を持つ刃と刃がぶつかり、耳障りな金属音と火花が道場の中央部にて舞い散っていた。
一瞬だけ交錯する男の視線。その瞳からは気負い等は見てとれない。それはまるで、刀を握っているのならば、人を斬ることすら当たり前であるかのような氷に似た冷たさに満ちていた。
「弱いから、だよ」
男が小さな声音で囁くように呟く。その言葉が初めてオレが耳にする、相対している男の言葉だった。
「君が弱いから、何も守れないんだ。君が弱いから、こうやって守られているんだ。少しは自覚するといい」
突然投げ掛けられた言葉の真意はオレには何の脈絡も無さすぎて到底理解などできなかった。
ただ、男の言葉の真意を理解出来る者は当然存在する。それは闖入者であるオレなどではなく、根本からの当事者である那月。
投げ掛けられた言葉に対し、背後に居る彼女の身体に力が宿るのが目では確認出来ないまでも、背中越しに感じられた。
そして、臨界点に達した瞬間に一息に弾けてしまう。
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」
怒りに満たされた咆哮とともに、ほとんど根元側しか刀身の残っていない刀で男に斬り掛からんと那月は牙を剥く。そこにいつもの鋭いキレはない。ただ単に感情に任せた乱雑な突貫にしか思えなかった。
しかし、だ。それはあまりにも戴けない選択に他ならない。
オレは男と刃を合わせたまま半歩だけ身を引き、合わせて那月の腕を掴み、その進行を止めた。
「その手を離して下さいッ! 私は………私はこの男を………ッ!」
フゥーフゥーと息を荒げながら、男を憎々しげに睨み付ける那月の視線。
それを冷酷な視線で受け止める男は刀身の競り合いから一歩身を引き、握る刀についた血を震い落としながら那月に言葉を返していた。
「下らないな。そこの折れた家宝とやらの刀も、村雨流の剣術も、本当に下らない。ここに入門したのも時間の無駄だったみたいだ」
「くっ……!」
「君もそう思わないか? 弱者を守る騎士君?」
男の言葉と共にこちらに向けられるのは二つの視線。一つは男の同調を求めるかのような視線。もう一つは那月の怒りと恥辱に震えた視線。
そんな中でも部外者のオレが返すことの出来る数少ない言葉はこれくらいのものしか存在しない。
「よくもまぁ、人様を真剣で斬っておいて、ぬけぬけとそんなことが言えるな、あんた」
ふてぶてしくオレはそう言いきった。
再度、息を大きく吐き、大気を吸い込んでクールダウンをはかる。ここで感情に囚われ、会話を止める訳にはいかない。加害者被害者は明らかになっているが、正確な状況を判断するためにも、先ずは情報を集めることが先決だ。
オレは頭を切り替えることで煮えくる感情を鎮め、冷静な思考をすることにに徹した。
「君はその娘を庇うのか? 始めに斬りかかってきたのはそっちだっていうのに」
「那月から? そんなわけあるか。大方、あんたが那月を煽ってそう仕向けたんだろ」
「さぁて、どうだろう。それは君の想像にお任せすることにしようか」
はぐらかすような笑みを浮かべる男。どうもその解釈で間違いないようだ。このタイプの人間は質問に対して、口頭での答えでなく、態度で示してくるものだ。経験上、こういった人物を数え切れないほど相手してきた。
「それより、君は村雨流の剣術をどう感じてる? 俺は君の質問に答えたんだ。良かったら参考程度に教えてもらえないだろうか」
大した答えも寄越さない上に、男はそれよりと現状を切って捨てた。そこに罪悪感、後悔などの感情は見受けられない。
何も分からなかった先までとは違い、現状が僅かにでも理解できた以上、こちらも完全に見切りをつけるべきなのだろう。これが最後の質疑応答のつもりで、男の言葉にはあえて答えを示した。
「………村雨流の剣術は実戦向けの剣術だ。少なくとも競技用や護身用なんかより、よっぽど戦闘に特化している流派としか現時点では評価できない」
「くっ、くははははっ、やっぱりそうだよね! どうだい! 俺だけじゃなかっただろう! この流派の剣術は実戦向きだって判断したのはさ! 守るための剣術なんかじゃないって判断したのはさ!」
オレの言葉に男は突如、さも可笑しげに笑い出した。
反して那月は悔しげに唇を噛み締める。強く、強く、血が滲むほどに強く。ただただ与えられる屈辱に耐えるように震えていた。
「わざわざ実戦に適した技術を競技用に成り下げるなんて愚の骨頂じゃないか! なんで刃を自らなまくらにするんだ? なんで自ら刃を潰すんだ? まったく理解ができないね!」
続けて男はつまらなさそうにそう吐き捨てた。
「だからこの流派は師範や師範代を含めて全員馬鹿みたいに弱いし、家宝の刀もこんな直ぐに折れてしまうようななまくらなんだよ。本当に下らない」
……これがこの件の根幹。何が本当に下らない、だ。それはこっちの台詞だ。そんな下らない一個人の思惑で那月は傷付いたのだ。
加えて、床に散らばっている折れた刀身と破片。二振り分あるそれは、一つは那月の刀。もう一つが家宝とされてるらしき刀なのだろう。
それだけ分かればもういい。万が一。億が一。男の言うように那月に過失があるかもしれないという可能性があった。
だからここまで我慢に我慢を重ねてきたのだ。だけどもう何も必要な情報などないようだ。故にオレはオレの意志で、オレの矜持に乗っ取って力を存分に振るえる。
手の内にある、ある種の感情が乗り移った鈍色。その切っ先を正面に向けていく。向かうは男の喉元。それでも男は淡く嘲笑うだけだ。
「君まで俺に刃向かうのか? やめときなよ。俺はいずれ剣聖になる男だ。君程度じゃ到底敵わない」
ふざけるな。思わずそう吼えそうになる。燻る感情が徐々に膨れ上がり、思考は更に先へ進んでいく。熱く沸き出した感情の激流はとてもではないが、もう歯止めが利きそうにない。
「笑わせんじゃねぇよ、剣聖になる? そんなこと例え『焔の剣聖』が認めようが、オレが全力で否定してやる。あんたは剣聖に相応しくない」
それだけ言って男を思い切り蹴り飛ばした。
刀での闘いに意識を警戒させていたにも関わらず、不意打ち気味の蹴りがきたことに意表を突かれたのか、男は意図も簡単に壁際まで吹き飛んでいく。
オレは最後まで見届けるなどという事はせず、未だに腕を掴んでいる那月を視界におさめた。
肩から腕にかけてを真っ赤な血に染め、床へ鮮血を垂らしながらも、傷口など知ったことかと怒りに勇んでいる彼女。それでも流れ出た血の量が多いせいか、心なしか顔色が悪く見えてしまう。気丈に立ってこそ居るが、青ざめた表情を見れば悠長にしている間がないことは一目瞭然だった。
オレは刀をその場に突き立ててから掴んでいる那月の腕を解き、彼女の負った患部を少々強引に露出させた。
そのアクションで苦痛に顔を歪めるが、煽られたとは言え、真剣同士の斬り合いをした大馬鹿者にはちょうどいい薬になるはずだと内心で言い含める。
オレは一つの魔法を使った。
「宵照す光よ、救われぬ者に癒しの祝福を―――聖治癒」
魔法の詠唱。発現させたのは光属性の下級魔法である聖治癒。淡く灯る小さな光が、那月の患部を包み込んでいく。
すると、みるみるうちに塞がっていく傷口。数瞬後には出血は当然のこと、傷跡すら残らず消えていた。
その事に少なからぬ安堵を覚える。これでうら若き乙女の柔肌に傷跡でも残っていようものならば、目も当てられなかった。それが刀傷ならば尚更である。
「一応治してはやったが、当分は動かすな。それとある程度は血も戻ってるが、元の量までは戻ってない。しばらく安静にすること。いいな?」
呆ける那月は返事をする余裕もなかったようだ。返答は返ってこない。
「あとはこっちもか」
那月からは視線を外し、目的は折れた刀の残骸に移る。
片や刀身が刃こぼれでボロボロになり、刀とは呼べないモノの残骸。片や血がへばりついた根元付近で折れた刀の破片。どちらが那月の所有物で、どちらが家宝の刀なのかは、ある程度推測できた。
オレは今にも朽ちてしまいそうなほどに刃こぼれした無様な刀を手に取り、折れた部分の接合部を合わせてから撫で上げる。それだけで十分だった。
「なん……っ!?」
那月が短い叫びを上げたと思ったときには、すでにボロボロの刀は那月によって手元からもぎ取られていた。
「よかった……よかったです……」
元通りに直った刀を胸に抱え、安堵の息をこぼす。その瞳には微かに雫さえ浮かび、身体は小さく震えていた。
しかし、それはほんの刹那の出来事。彼女は直ぐさま顔を上げて、躊躇いがちに声をかけてきた。
「……あの、恭弥さん、先ほどは怒鳴ってしまい、すみませんでした。それと傷だけでなく刀まで直してありがとうございます。私はもう大丈夫です。ですから、恭弥さんは下がっていて下さい。私情に友人を巻き込むわけにはいきませんから」
那月はそう言って男が吹き飛んでいった逆側まで進み、修復されたボロボロの刀を壊れ物を扱うようにそっと置いた。あのボロボロの刀がどんな代物かは推し量れないが、彼女がどれだけ大切にしているのかは十分以上に伝わってくる光景だった。
そして、那月は振り返る。
その時の彼女の表情は、弱々しい顔でも泣きそうな顔でもなく、確かな意志を宿す凛とした剣士そのものに変わっていた。
意気込みは十全だが、忘れてはならないのは刀はボロボロの役に立ちそうもないものしか修復していないということ。しかもその刀さえ手放したのだ。つまり、実質上、那月の得物は何もないと言える。
「なぁ、那月。得物もないのに勝てるつもりなのか?」
「勝てるのか勝てないかなんて、やる前から考えるだけ無駄です。それに何が何でも私が勝たなくてはいけないんです。父さんを、姉さんを、門下生の方々を貶されて。そして、何より自分の誇りである村雨流まで貶されたにも関わらず、尻尾を巻いて引き下がるような軟弱者に甘んじるつもりは私にはありませんから」
強い光の宿った瞳だ。那月の有りっ丈の想いの籠った言葉は、思わず心を魅了されてしまうほどに目映さを感じさせる。
「だから私は例え村雨流が闘いに適しているものだとしても、身に付けた力を傷付ける為の闘いではなく、守る為の闘いに使いたいと常に思っています」
一歩、また一歩と踏み出す度に彼女から溢れる闘気は増していく一方だ。その姿は先程まで怪我を負っていた者とは思えないほどに芯の強さをうかがわせてやまない。
ここで彼女に向け、負けるなよ、だなんて気の利かない言葉を贈るほどオレも鈍くはなかった。
「汝の刃が切り開くのは、怨敵の膓に非ず。その刃で切り開くのは可能性という未来成り、か」
「何ですか、それは?」
「色んな意味で残念な人だけど、オレが尊敬している剣術の師匠が言ってた言葉だ。その言葉の意味がようやく分かったなと思ったら、つい口にな」
想いを袞らせる那月が歩を踏み出す度に、互いの距離は縮まっていく。
薫風のように清らかでいて、炎が燃えるように熱く、それ以上に宝石に劣らぬ美しさを今の彼女は放っている。
だからなのだろう。オレは彼女が手の届く範囲に来たとき、その輝きに誘われるようにして半ば緊張しながらも手を伸ばしてしまう。それはまるで、あらゆる生物を吸い寄せる甘い蜜に似た香りに囚われているかのようだった。
そんなオレと相対する那月はいつもと同じで、鋭さの中に優しさを滲ませた瞳をオレに向けて――――
「むぎゅうっ!?」
と意味不明かつ情けない悲鳴を上げていた。もっとも、その情けない悲鳴はオレが伸ばした手で、那月の鼻をむぎゅーっと摘まんでいるからに他ならないわけだが。
危うく彼女の放つ魅力に呑まれて魅了されるところだった。オレは「ふぅー」と一つ盛大なため息を吐き、那月から手を離したあと、取り合えず言いたいことをそのままぶちまける事にした。
「なーにが、巻き込むわけにはいきませんだ。軟弱者に甘んじるつもりはありませんだ。へっぽこ剣士が笑わせんじゃねぇよ」
「はい? え? ふ、普通、ここは『頑張ってこい』と笑顔で送り出すところでは………?」
「あ? いっぺん負けたくせに生意気言ってんじゃねぇよ。青春ドラマみたいなやり取りがしたいなら、女優にでもなってから言え」
あくまでも那月は「頑張ってこい」と笑顔で送り出されると思っていたようだ。思ってもみなかっただろう罵倒にポカンとしていた。
正直、那月の反応こそがこっちの方にとって、思ってもみなかったリアクションであると強く物申したい。
「だいたい、お前は傷こそ治ってるけど、一応怪我人なんだから大人しくしてろってさっき言ったばっかだろうが」
「ですがそれでも私は闘わないといけません。私の大切なものを穢したあの男だけは絶対に許すつもりはありませんから」
「そうは言っても、単に言葉で馬鹿にされただけだろ? 実際に馬鹿にされた奴等がお前みたいに斬られたりしたわけじゃない。それにこれ以上はただの怪我じゃすまないかもしれないんだぞ?」
「………それでも、です。私は私の意志で、私の矜持に乗っ取って身に付けた力を振るいます。例え、恭弥さんであっても、この件に関してはこれ以上口を出さないで下さい」
オレが考えていたのと同じ言葉が正面からぶつけられてしまう。
怒るわけでもない。拒絶するわけでもない。それでいて突き放すような口調。だけど、それはきっと違うのだ。なにしろ、那月の放つ突き放すような口調とは裏腹に、別の感情が垣間見えてしまっていたから。
それがオレの身勝手な勘違いならばどれ程良かったことか。那月という少女は彼女の姉と方向性は違えど似ていて、良くも悪くも感情が表に出やすい。だから、今、彼女が抱えている思いは手に取るように分かってしまっていた。
それに対して思うことは一つ。やはり、昨日感じたことと全く以て同じであった。
オレは本人にも向けて言ったが、村雨那月という少女のことが本気で大嫌いみたいだ。
周りに優しく、自分の心に真っ直ぐで、そういった側面での人柄は好感を持っている。容姿も非常に整っていて、クールな雰囲気を裏切り気さくさもある。
そんな那月の事をそう思ってしまうのは、きっと心の底の何処かで彼女に理不尽な嫉妬しているからだと今認識した。昨日の時点では、ふと感じただけだった。それでも、その事が先程の言葉でハッキリとしたのだ。
自分の見えなかった感情を自覚している間にも、那月はオレを内心を隠せていない瞳で見つめている。どうも、彼女よりも弱いオレにはその視線には耐えられそうもなかった。
だから………だからオレは床に突き刺したままの刀を手に取り、言霊を力に変えるのだ。
「共に在りし汝に銘を与える。その銘は、夢幻の鏡界をさ迷う者―――『狂夜』」
手元の刀には、重複する傷剣のような見た目の変化はない。しかし、内包されている確かな変化だけはしかと感じていた。
故に。
オレは手にした刀剣、狂夜で―――
那月を斬り裂いた。
「……な、ぜ………」
驚愕に瞠目し、口元を痙攣させながら崩れ落ちる。不思議とその過程には出血など存在しなかった。
「悪いな。残念ながら、オレはお前を闘わせるつもりはないんだ。へっぽこ剣士は大人しくしてろ」
崩れ落ちた那月は立ち上がろうとする。一度………二度………三度………四度。だが、全て失敗に終わる。
「昨日、オレにいってくれたよな? オレが傷つくことで心を痛めてくれるって」
オレは背を向けながらそう語りかけた。返事が返ってこないのは承知の上だ。原因はオレがよく理解している。例えそうだとしても那月には伝えておきたかった。
「さっきさ、血を流してる那月を見たとき、本当に心臓が止まるかと思った。今でもその姿が頭から離れなくて、絞られてるみたいな圧迫感を感じてるよ」
言いたいこと、伝えたいことはまだまだ山ほどもある。だけど、この場所ではそれを総じた言葉だけを簡潔に口にした。
「那月が傷付くとオレも悲しいんだ。だから、今回だけはオレがお前の誇りを守るのを赦して欲しい」
その一言だけ告げて、会話を断ち切ったのだった。
長い間、放置になっていて大変申し訳ございませんでしたm(_ _)m
ただ、そんな中でも読んで下さる読者の方が居るようでとても嬉しかったです。
これからもリアルとの折り合いをつけながら更新を続けるつもりなので読んで頂けると感激です(*^^*)




