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理想世界の想像者  作者: 夜兎守
3章【Sweet Days 】
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村雨流剣術

ブクマ・評価して頂けると嬉しいです(*^^*)


 胴着に着替え終え準備体操をしていたところ。

 そうしている内に、胴着に着替えた二人が道場に姿を現す。


「おーいっ、シロちゃーん。おまたせっ」


 いつもと同じ大きな声でブンブンと手を振る村雨先輩。


「ん? なんかいつもと……?」


 近付いてくる二人に、オレは違和感を覚えた。


 いや、今の二人を見れば、オレでなくても違和感を感じるはずだ。それくらい違和感があった。


「呆けた顔をしてどうしたんですか?」


 怪訝そうな表情をした村雨にそう言われてしまった。


 確かにオレはそう言われても仕方ない表情を浮かべていることだろう。 

 だけどそれは当たり前のことだ。なにしろ、二人の女性の象徴であるモノが無くなっているからだ。


 村雨先輩は言うまでもなく豊満な巨乳であり、村雨は巨乳とまではいかないがそれなりに大きかった。


 それが舞華のように平坦なさら地になってしまっているではないか。これで疑問に思わない方がおかしい。


 もしかして新手のドッキリか?

 大きくなっちゃったならぬ、小さくなっちゃったみたいな。それとも舞華のまな板病(?)に感染したとか。


「いや、だって、それ……」


 ぷるぷると震える指で指し示す。


 オレの言わんことを察したらしい村雨先輩は事も無げに答えた。


「着替えてたら『ぽろっ』て取れちゃったの」

「と、取れるんですか!?」


 衝撃の事実の発覚だ。

 まさか着脱が可能だなんて知らなかった。


 オレがあり得ない事実に心底驚いていると、なんだか村雨が可哀想な人を見る目で見てきた。


「貴方は馬鹿ですか。これはサラシを巻いてるだけですよ」


 この冷めた鋭利な視線だけで虫くらいなら簡単に殺せそうだ。それほどにひどく冷めていた。


「な、なんでそんなことしてんだよ……」


 恥ずかしさのあまり、ぶっきらぼうな言い方になってしまう。まさかそんな理由だったとは。あんな嘘を信じた自分が恨めしい。


 そんなオレの態度を気にせず、村雨は質問に答える。


「剣を振るう時にすごく邪魔になるんですよ………」


 あぁ、そっか。確かに二人ほど大きければ、剣を振るう時に、揺れたりつっかえたりしそうだもんな。


 憂いを秘めた表情で言う彼女は、なんだか本当に悩んでいるようだった。女性には女性だけの悩みがある。それを一つ学んだ気がする。


「そんなことより、シロちゃんがどれくらいの実力なのか見せてくれないかな?」


 馬鹿みたいな冗談に騙されたオレもどうかと思うが、騙した本人がケロッとしているのが腹が立つ。


 それでも我慢だ。


「この前の模擬戦で見せたじゃないですか」

「あれだと足りないかなーって。だから改めて、ね?」

「分かりました。どうやって見せればいいですか?」

「んー、そうだね……。じゃあ、なっちゃんと試合してもらおうか。シロちゃんが相手だと、私の方が歯止めが効かなくなっちゃうしね」


 そう言って、「はい」と一本の木刀を手渡してくる。


 受け取って、二、三度振ってみるが、本当に何のへんてつもないただの木刀だった。


「ルールは簡単だよ。魔力での強化あり、魔法無しの打ち合い。相手が降参を認めるか、私が止めるまでの時間無制限勝負ね」


 とどのつまり、ただの打ち合いか。


「了解です」


 オレと村雨は互いに少し離れ、向き合って木刀を構えた。


 その動作の中で身体に魔力を纏わせて、身体強化をしておく。


「二人とも準備はいいかな?」


 村雨先輩の確認に二人同時に頷いた。


「はい」

「いいですよ」


 オレは開始間際に対戦者へと一言投げ掛ける。


「お手柔らかに頼むよ」


 村雨はその言葉に答えない。

 黙って木刀を正眼に構えるだけだった。


 それが決闘の準備が整った合図になったらしい。

 村雨先輩が一歩前に出る。


 得物は優劣の差がほぼ無いであろう木刀。対決の場は彼女の家の敷地内の道場。障害物など存在しない場所だ。


 ここなら純粋な力比べができるだろう。


「お互いに手は抜かないこと。いいね?」


 村雨先輩が前に出てきたことで、この場の緊張が一気に高まってゆく。


 交錯する視線。対戦の相手である村雨が息を呑むことまでしっかりと分かる。


 村雨先輩が右手を上げ、


「それでは―――」


 大きく息を吸い、その右手を下げた。


「―――始めっ!」


 こうして、戦いの火蓋が切って下ろされた。


「ふっ!」


 村雨先輩の試合開始の合図が出た瞬間。


 列帛の呼気と共に村雨が鋭く踏み込んできた。

 開始直後の先制攻撃。シンプルなモノだが、鮮やかな足さばきと同時に振るわれる木刀は、速く、そして重い。


「はっ!」


 低い姿勢から滑るように移動しながら、村雨の握る木刀が下段から跳ね上がってきた。


 初撃の次は二撃、三撃、四撃と。

 下から、左から、袈裟に。オレが木刀を振るう隙など与えないとばかりの気迫で幾度も振るわれてくる。


 オレは次々に打ち込まれる剣撃の一つ一つを自身の木刀を使い、丁寧に受け止め、捌いていく。


 反撃の隙も見出ださせぬ連撃。瞬く間に後退をせざる負えなくなる。驚くほどの速さではないが、相手との間の取り方や淀みのない動作から見るに、彼女も十分やり手の剣士のようだ。


「防戦一方ですか?」

「あんまり余裕がないんだよ。少しは手加減してくれ、なっちゃん」


 とは言いつつも、こういった軽口を叩くだけの余裕はあった。


「誰がなっちゃんですか!」

「うわっ、今の危ねぇっ!?」


 一瞬、本気で焦った。

 迷いもなく側頭部を狙いにくるとは、恐ろしいやつだ。


「今の避けなかったら絶対に頭蓋骨が砕けてたぞ。やっぱりもう少し手加減してくれよ。怖くて怖くて泣きそうだ」

「それなら貴方も本気でやることですね」


 緩むどころか、さらに激しくなる剣撃。


 何度も木刀を打ち合っている内に、ふと気付いたことがあった。

 なぜかオレの握っている木刀が、所々凹んでしまっていた。確か受け取った時には、こんな凹みは付いてなかったはずだ。それならこの打ち合いの最中で付いてしまったと考えるのが妥当だろう。


 疑問を抱えている間も剣撃は止まない。


「考え事とは随分と余裕ですね」


 普段より冷たい声で言い放った村雨。


「村雨流・閃の伍―――九重ここのえ


 彼女は静かにそう呟いた。


 振るわれる木刀を受け流す要領で重ね、いなそうと試みる。


 だが、結果から言ってそれは失敗に終わった。


「つぅっ……!?」


 今までとはまったく比較にならない程の衝撃が、オレが木刀を握っている左腕に走る。


 オレは素早くバックステップで後退し、一度距離を空けた。

 その最中で落としそうになる木刀を逆の手に持ち変える。これ以上ない隙だらけの中でも村雨は追撃して来なかった。だから安心して、ある一つの行動に移すことができた。試合中にする行動ではないとは思っている。それでもオレは自分の手を見つめてしまっていた。


 木刀での一撃を受けた左手。

 今、オレのその左手は小さく痙攣している。


 なぜ、そうなっているのか。それが分からないほど馬鹿ではない。オレは村雨の木刀を受け止めた。それ事態は問題ではないのだ。


 問題は『九重』という技だ。

 どういう原理なのかは知らないが、木刀一本で起こせる衝撃ではない。まるで車にぶつかられるような衝撃のようにすら感じられた。


 その衝撃を左手に持つ木刀で直に受け止めた訳だから、身体強化をしていたとしてもダメージが大きい。身体強化をしていなければと思うと、ゾッとしてしまうレベルである。


「距離を取れば安心、などと思っているのは甘いですよ」


 村雨はオレ目掛けて木刀をゆるりと振るう。


「村雨流・閃の肆―――風切かざきり


 途端に全身の毛穴が逆立つ程の悪寒を覚えた。


 オレは本能的に横へと跳びずさる。


 ヒュンッと耳元を通りすぎていく風切り音。

 視界の中には、ハラリと数本の白銀の細い糸が宙を舞う。


 それが何かは言うまでもない。それはオレの髪の毛だった。


「……そんなのずるいだろ。なんかのチートかよ、こんちくしょうめ」


 魔法でも何でもないただの技。

 おそらく彼女は何らかの方法にて、斬撃そのものを飛ばしてきていた。それがオレの髪の毛の数本を持っていったということだ。


『閃の肆・風切』と『閃の伍・九重』

 不可視の斬撃を飛ばす技と謎の強烈な衝撃を与える技。

 肆と伍ということは、さっきの二つ以外にも、前にまだ三つも剣術の型があるのだろう。もしかしたら、伍番以降の型もあるかもしれない。


 一瞬だけ怯みもしたが、それを考えた途端、背筋がゾクゾクしてきた。


「いいね、最高だ。やっぱりこうじゃなくちゃ、やり甲斐がないもんな」


 未知との邂逅。

 それは新たなる刺激と興味の芽生え。全てを見てみたい、そして自分のものにしたいという感情が内側で燃え上がる。


 オレは右手に移した木刀を握り直し、あらためて構えた。


 ちょうどその時、


「止め」


 と村雨先輩の制止を呼び掛ける声がかけられたのだった。


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