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理想世界の想像者  作者: 夜兎守
3章【Sweet Days 】
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村雨邸へ

ブクマ・評価等してもらえると嬉しいです(*^^*)


 東雲邸から村雨邸への道中。

 やはりと言っていいのか、村雨先輩がいると賑やかだった。彼女のお陰で始終話題が尽きることもなく、楽しい道程を三人で歩むことができた。


 途中で見かけたコンビニに一言断ってから寄らせてもらい、適当に必要な品を購入し、それから再び村雨先輩の実家へと向かう。


 学園を通りすぎ、更に進む。

 この事から分かるように彼女たちの住む実家は、現在のオレの家とは真逆の方向にあるようだ。


 それでもオレの家よりは学園近いようで、学園を通り過ぎてから数分。辿り着いたのは、ドンとそそり立つ和風の大きな家であった。


 彼女たちも随分なお金持ちだったらしい。


 この世界では魔法の名家でなかろうと、他にも何かを誇れる家系も存在している。彼女たちの家系にとっては剣術なのだろう。


「さ、シロちゃん、あがってあがって」

「お邪魔します」


 オレは促されるままに家にお邪魔した。


 仮とはいえ、自慢できる程に立派な我が家。その倍はあろうかという玄関は、見ているだけで感嘆の息が漏れる。


「急に立ち止まってどうしたのですか?」


 訝しげに訊いてくる村雨。


「いや、家の大きさに驚いてたんだ。やっぱり村雨の家って凄い金持ちなのか?」

「別段金銭に困っている訳ではありませんが、それを言ったら天月先輩や天堂さんの家の方が大きいのでは?」


 確かに天月家や天堂家といった天族に名を連ねる家系の家は大きい。家というよりも、屋敷と呼ぶ方がしっくりくるレベルに当てはまる。


 でも、それとこれとは別問題だ。

 大きな屋敷と大きな家。最初から自分の知っている場所よりも、後から知った方が印象強いのが普通だ。


「それでもこの家も充分大きいって」

「そうなのですか?」


 不思議そうに首を傾げる彼女は、自分の家系の凄さがイマイチ理解できていない様子。


 そのことに笑いを誘われてしまうのは致し方ないことだろう。


「シロちゃん早く早くっ!」


 いつの間にか、靴を脱ぎ散らかして先に廊下を進んでいた村雨先輩が声を張り上げる。


「まったく、姉さんは」


 ため息をつきながらも、キチンと姉の靴を綺麗に揃える村雨は手慣れた様子だった。


「お前も大変だな」

「まったくです。是非とも貴方のお姉さんと交替してほしいものですね」

「それはオレが却下だな。凛姉はオレの姉さんだから、凛姉がいいって言ってもオレが認めない」

「……貴方はアレですか。俗にシスコンと呼ばれる変態の仲間なんですね。その内、持ち前の毒牙で天月先輩を……」


 戦々恐々。その四文字熟語が似合う表情で言われてしまう。


「おいこら、シスコンは変態の仲間じゃないし、オレは凛姉に変なことをするつもりなんてこれっぽっちもないぞ」


 ジト目で唸るような反論。村雨はサラッと流すだけだった。


「冗談ですよ。貴方にとって、天月先輩が大切なことは知っていますから」


 靴を脱ぎながら言う。


 もちろん自分の靴も綺麗に揃えることも忘れていない。こういう所が姉を反面教師としてきた彼女を形作る要素であったに違いないのだろう。


「あまりお喋りばかりしていると、姉さんがまた騒ぎ出すので早く行きましょう」

「あぁ、それもそうだな」


 村雨に習い、靴を揃えて脱いで家に上がらせてもらう。


 未だに声を出しながらブンブンと手を振っている村雨先輩を見て、妹である村雨は「やれやれ」等と言いつつも口元を緩めていた。


 その姿を見て、オレは思わず口にしてしまう。


「話を少し戻すけど、どちらにしろお前だって姉の交替を認めないだろ?」

「……案外そうかもしれませんね」


 小さな声ながらも肯定される。


「お前はアレだな。シスコンだ。村雨先輩が変なことをされない内に通報しとくか」


 携帯電話を取り出してボタンをプッシュ。

 その動作の最中に今度はこちらがジト目を向けられた。


「……つまらないことを根に持つ人ですね。そのような男性はモテませんよ」

「オレは別にたくさんの人に好かれたい訳じゃないから、モテようなんて思わないさ」

「ふむ、男性なら複数の異性に好かれたいと聞いたことがあったのですが、それは間違いだったということですか」


 男ならハーレムを目指したがる。まぁ、確かにそうかもしれない。

 だが、男というだけで誰もがその様な思考をしている訳ではない。あくまでそれは一部の者だけだ。


 故に名誉毀損だと訴えたあと、それがどこ情報か問い正したいものだ。


「他のやつがどうかは知らないけど、少なくともオレは違う。オレは自分を好きになってくれるのはたった一人でいいんだよ。本当のオレだけを見てくれて、本当のオレだけを受け入れてくれるようなやつ。その一人だけを振り向かすことができればオレは満足だ」


 何気無しに自然とこぼれた言葉。

 それが誰を指しているのかは、自分でもわからない。フィルターがかかったような思考では答えは見つかりそうもなかった。


 オレの言。それを目の前にいる村雨は真剣な表情で聞いていた。


 そして―――彼女は神妙な顔つきでこう言うのだ。


「男性の口からそのような真摯な台詞を聞くと、思いの他、気持ち悪いものですね」


 ……泣いてもいいだろうか。というか泣きたい。


 なにこの人? なにさらりと気持ち悪いとか言ってるの?


 剣の修行を開始する前にもう心が折れそうだ。


 オレの心情をいざ知らず。村雨は続けて言う。


「しかし、いいと思いますよ、そういう誠実さ。貴方に想ってもらえる女性は幸せになれるでしょうね」


 それだけ言い残して廊下を歩き出す。


 ……なんだ、村雨はクーデレなのか?


 ツンデレとヤンデレに並ぶ派閥の一つ。普段はやたらクールで冷たい態度をとるくせに、なぜか時々無性にデレるやつ。


 いや、それはないか。クーデレがデレるのは、意中の相手だけだ。出会ったばかりのやつに惚れるなんて今時の漫画やドラマでもあり得ない。


「早く行きますよ」

「あ、あぁ」


 オレは折れそうになっていた心を持ち直し、彼女の背中を追った。


 玄関から進み、長い廊下を歩いていく。

 角を曲がったところで外に面した廊下に切り替わった。


 そこでまず目を引くのは、一面に広がる立派な日本庭園という光景。


 和の調和。植えられた木々、敷き詰められた敷石、小さな池には鯉が気持ちよさげに泳いでいる。一目見ただけで、日々丁寧に手入れされているのがよく分かる風景だ。


 オレがしきりに感心していると、またもやいつの間にか高速移動し、近くに来ていた村雨先輩が訊いてきた。


「シロちゃんは鍛練する時、人が居る場所と誰も居ない場所だと、どっちがいいかな?」


 問われる二つの選択肢。なぜその問いをされたかはわからないが、オレはその問いに答えた。


「できるなら誰も居ない方がいいです」

「じゃあ、私達専用の道場でやろっか」


 私達『専用』ときた。そんなものがあるのか。自分達専用の道場とか、どんだけ金持ちだよ。


 オレが思わず絶句していると、


「それじゃ、行こーっ!」


 と言ってマイペースで村雨先輩はスタスタと歩いていく。


 着いたのは一つの道場。

 中に入ってみると、そこまで広くは無いものの、剣を振れるだけのスペースは裕にある場所だ。このような修練の場を個人的に持っているとは羨ましい限りである。


「シロちゃんシロちゃん、早速これに着替えてくれるかな?」


 差し出されたのは、白胴着と紺袴という日本順頼の武芸者のスタイル。

 動きにくそうでいて、意外にも動ける服装。どうやら、本日はこの服装にて剣術の鍛練に励むらしい。


「分かりました」


 オレはそれを受け取って着替えようとするが、彼女達が居るせいで着替えれない。

 異性が居る場所で服を脱ぎ出したら、ただの変態になってしまう。この歳で日本の警察と知り合いになるのは勘弁だ。


「えーと、オレはどこで着替えればいいんです?」

「ここでだよ?」


 キョトンと首を傾げる村雨先輩は、本当に不思議そうにしている。この人はやはり馬鹿らしい。


「オレに異性の前で裸になれと?」

「もちろんっ」


 その瞬間、ゴチンッ!

 重く鈍い音が道場にこだました。


「いたいじゃないっ! 何するのさっ!」

「五月蝿いです。さっさと行きますよ」


 村雨先輩をどついた村雨は、バタバタともがく彼女の首根っこを掴み、ずるずると引きずっていく。


「ありがとな」

「いえ、当たり前のことですので」


 お礼に対して、謙遜でもそう言える村雨は本当にできた人間だ。彼女はそのまま、何かを喚く村雨先輩を引きずり、この道場を去っていった。


 それを確認してからオレは着替え始める。


 上着を脱いで上体を露にし、それからすぐにオレは手早く胴着を着込み、着替えを終わらせた。


 着替えの後はすぐに柔軟運動を始めておく。


 手足の主な筋を伸ばし、他にも色々な部位を丁寧にほぐしていった。

 何の予備動作もなくいきなり剣を振ったりすれば、ついていかない身体が壊れてしまう。だからこそ念入りにしなければならないのだ。


「でもまさかこんな身近に剣の二つ名持ちが居るなんてな。割りとツイてるのか、オレは?」


 ふと漏れた呟き。それが自分の思考として再認識されたところで、いやいや、と頭を横に振った。


「前もこんなこと言ってて、あいつにツイてるんじゃなくて、何かに憑かれているの間違いだ。寝言なら寝て言えとか言われたもんな……」


 肩を並べていた相棒と過ごしてきた思い出。

 思い浮かべただけで妙に切なくなってきた。


 そうしている内に、胴着に着替えた二人は道場に姿を現したのだった。

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