生徒会のお仕事
章の増設のお知らせです。
『ナイトの駒』からを区切りとして3章にさせてもらいました。
普段は荒仕事の多い恭弥にとってのごく普通な日常ということで、甘い日常こと【Sweet Days 】という題目にしました。
これからもどうかお付き合いを(*^^*)
放課後。
オレは早急に生徒会の仕事を片付けるために、生徒会室へと赴いていた。
「んで、来たのはいいけど、何をすればいいんだ?」
「今は貯まっている書類の整理と予算の割り振りといったところかしら」
オレの質問につまらず答えたのは凛姉。
相も変わらず普段は凛々しい立ち振舞いである。
それがふと可愛らしくなり、年相応の少女となる。
そのギャップは反則だと思えるほどに破壊力があり、とても魅力的な人物だ。男としては如何ともし難いものがある。
ある意味で危険な彼女に向けてオレは言った。
「それじゃ、その書類とここ数年の予算案の統計データ、各行事と各部活動の実績が詳細に分かる資料を用意してくれないか?」
「えぇ、分かったわ」
しばらくして、ドサッと目の前に積まれるのは膨大な書類と資料の数々。最早、机の大半が紙で埋まっている。
しかしながら心の中ではこう思っていた。
これくらいの量ならオレ一人でも簡単に捌けそうだ、と。
「取り合えず、これで半分ほどかしら」
……どうやら判断は早計だったらしい。積み上げられた書類はこの二倍ほどあるようだ。
「ねねね、シロちゃん。シロちゃんはこれ全部一人でやるつもりなの?」
「勿論そのつもりですけど」
何か問題でもあるのだろうか?
「やや、これは一人でやる量じゃないって」
「それじゃあ、みんなでやりましょう。元々それが普通なんだから」
別に一人でいいって。
そう言う暇もなくテキパキと膨大な書類を五人分に分けていく凛姉。その姿からは仕事馴れしてるのがよく分かる。
本当は一人で終わらせるつもりだったんだが、仕事量が大幅に減って大分楽になった。オレは手元にある渡された書類を読み分け、次々と種類別に区別していく。
学校行事、部活動関連、備品の補充について、意見要望などの括りで分別していく。
黙々と手だけを動かしていく。
五分割しているだけもあって、担当分が少なくなっていたので思った他あっさりと終わってしまう。
他の四人を見ると彼女達は未だ、書類と格闘していた。
四人の作業の進行状況は、大まかに言うとこんな感じだ。
凛姉はこの手の仕事に慣れているらしく、手際よく次々に手元の書類を片付けていた。残りは大体、二分の一くらいになっている。
村雨もそれなりに早いと思う。凛姉までとはいかぬものの、彼女は初めてとは思えない程のスピードで仕分けしていく。
あとの二人は、大体同じくらいのスローペースながらも頑張っている。手元の書類とにらめっこし、机の上の書類とにらめっこし、また手元の書類とにらめっこ。視線があちこちに動き回り大変そうだ。
仕舞いには手を頭にやり、「うなーっ!」と叫んでいる。
っていうか村雨先輩。なんであんたはそんなに手際が悪いんだよ。一応オレ達より歳上だろ。先輩なら少しは良いとこ見せろよ。
至極真っ当なことを考えながら、オレは勝手に予算の割り振りに取り掛かった。
記入すべき空白欄は、月毎の予算予定と年間通しての予算予定。来月と再来月のは確定申告しないといけないらしいが、それ以降のはあくまでも形として予算を立てていればいいと書類に記載してあった。
それを何より先に頭に叩き込み作業を開始した。
まずここ数年の統計データを元に大まかに当たりをつけ、その後に部活動の実績や行事などの要素も加えて情報を書き出し、それを吟味する段階。
どうやら資料を見る限り、この学校は運動部より文化系の部活の方が盛んらしい。メジャーな部活からマイナーな部活まで、それなりに良い成績を残している。
それに比べ運動部の成績はまちまちだ。成績の良き年もあればひどく悪い年もある。どの部活も伝統的強豪というには物足りないものばかりだった。だが資料を見る限り、所属している部員の数は圧倒的に運動部の方が多いらしい。
次に学校行事。定期的な試験や修学旅行、定番の文化祭など、その他にも様々な行事が存在する。
更に備品などの補充etc.etc。
オレは悩みに悩んだ末、情報と照らし合わせた予算を的確に割り振り、出来たものを凛姉に提出しに行った。
「こら、ちゃんと頑張らないとダメよ」
黙々と仕事を取り組んでいた凛姉が顔を上げ、開口一番の言葉がこれだった。
おそらく仕事が一人で出来ないから、手伝ってもらおうとしていると勘違いしているらしい。ひどい見解だ。
オレは首を振ることでそれを否定した。
「いやいや、仕事が終わったから見てもらいに来たんだ」
「はい?」
キョトンと目を瞬かせる凛姉に、オレはもう一度言った。
「だから終わったから見てくれ」
そう言って仕分けた書類と、割り振った予算案の用紙を手渡す。それに目を通した凛姉は驚いた表情を浮かべていた。
「こ、これ恭弥一人でしたの?」
「なんかマズかったのか?」
「普通、予算案の割り振りは生徒会メンバーで話し合いながらするものなのよ」
「あー、んじゃやり直しか……」
それを早く言って欲しかった。
せっかくの努力が無駄になってしまった。
オレはガックリと肩を落とすも、凛姉は首を横に振るう。
「いいえ、見たところ不備はなさそうだわ。むしろよく一人で出来たわね。一応、これはもう一度目を通してから、会長に渡しておくわ」
感心した風に言う凛姉に、オレは冗談混じりに笑みを返した。
「お褒めに預かり光栄だ」
「書類の仕分けも完璧だし文句なしよ。本当にすごいわ」
手放しで誉めちぎる凛姉。
だが、オレにとってはこれくらいの仕事なら出来て当然だった。
なぜなら、三ツ首ノ猟犬での仕事に比べたら楽過ぎるからだ。
なにせ、三ツ首ノ猟犬の結成時に出た書類の量は想像を絶するものだった。床から自分の身丈程の書類の山を見たときは、思わず泣きそうになったのを覚えている。ちなみに分割してその量だった。
オレはそれを時間は掛かりはせど、全部自力で全て捌いたのだ。
そして普段からも割りと多い書類量を捌かなければならないのだから、この手の作業はやっている内に自然と馴れてしまっていた。
「それじゃあ、恭弥は休憩してていいわよ」
「ん、りょーかいだ」
オレは休憩を貰ったので、一服するために備え付きの品を拝借して自分で紅茶を入れた。
が、一息吐くために元の場所に座ろうとしたところで、村雨先輩が泣きついてくる。
「シロちゃーん。私の分も手伝ってよぅ」
オレは彼女を優しい目で見つめ返し、キッパリとした口調で言う。
「イヤです」
その返事が、村雨先輩はお気に召さなかったらしい。
彼女は頬を膨らませ、拗ねた様子でこちらを睨んでくる。更には涙目で抗議を申し立ててきた。
「シロちゃんはおねーちゃんの扱いがぞんざいなんだよっ!」
「いやいや、村雨先輩はオレの姉じゃないでしょうが。そういうのは妹である村雨にでも言ってやって下さい」
すると未だに書類と格闘中の村雨が顔を上げ、面倒そうな表情を浮かべた。
「私に振らないで下さい。第一、平等に割り振られた仕事なら自力で片付けるべきです」
「ってなっちゃんが言うんだもん……」
そう言ってしょんぼりと肩を落としてしまう。
その様が見てられなくなり、オレは仕方無く手伝うことにした。我ながら甘いものだと思わざるおえない。
「分かりました。手伝いますから元気出して下さい」
「やったーっ、シロちゃん大好きっ」
目に見えて明るくなる村雨先輩。
単純と言うか何と言うか。本当に現金な人だった。
「お礼にちゅーしてあげるねっ!」
「そんなことしてきたら、熱烈なディープキスでお応えしますよ」
面倒なので適当にそう返すと、
「それじゃさっそく。ん~」
村雨先輩は目を伏せて、桜色の可愛らしい唇を上向きに尖らせ、ぐっと顔を寄せてきた。
彼女の魅力に当てられたのだろう。
迷わずオレも――って、んなわけあるわけがない。
「ちょっ、なんで本気にしてんですか!?」
慌てて村雨先輩の顔を押し返し、なんとか唇を奪われるのを防いだ。本当にしてくるとかあり得ないだろ……。
「何してるのよ六花! 冗談でもそういうことは止めなさい!」
オレに追従するように言う凛姉は、ひどく怒った様子だった。
「えー、なんでリンちゃんが怒るの?」
「恭弥が私の弟だからよ!」
「じゃあじゃあ、お義姉さん、私にシロちゃんを下さいっ!」
えっ!? と。この場の全員が顔を村雨先輩へと向けた。
何言ってんだよ、この人は……。やっぱり頭の中がお花畑なのか?
冗談か本気か分からないだけに、この場に居る本人以外の全員が呆然としていた。
凛姉が数秒して叫んだ。
「誰がお義姉さんよ! 恭弥はあげるつもりは無いし、私は貴女の義姉になる気もないわ!」
うん、ちょっと待とうな、凛姉。
なんでオレの与奪権を凛姉が握ってるんだ?
普通そこはオレの意思だろ。
といっても、この人とそんな関係になるつもりは一切無いんだが。
その事を考えている内にも、村雨先輩はぷうぅと頬を膨らませている。
「ちぇー、リンちゃんのいじわる」
「意地悪でもなんでもないわ! 当然のことよ!」
「いじわるだよっ」
オレは、ぶぅーぶぅーと抗議の声を上げている村雨先輩を作業に戻らせるため、宥めにかかった。
「そこまでにして下さい。仕事を手伝ってあげますから、早く終わらせちゃいましょう」
「はーいっ」
手をあげて返事する姿は良い子そのものだ。それにやはり感情の切り替えが早い。
「んじゃ、残ってるやつ半分下さい」
言うより早く書類は手渡された。
「はい、半分だよっ」
「………………」
「は、半分だよっ!」
うるうるとすがるような上目遣いで見上げてくる村雨先輩。
「……確かに半分ですね」
然り気無く半分より多いが、仕方なく目を瞑ることにした。
彼女から半分より少しだけ多めに書類を受け取った後、それに加えて舞華からも同量くらい受け取る。
それから入れた紅茶を飲んで一服してから、二度目の作業に取り掛かることにした。さっきまでと同じように、書類を黙々と手早に捌いていく。
「うわっ、早」
「ええ、本当に早いわね」
「本当に目を通しているんでしょうか」
「ねねね、シロちゃんシロちゃん、それちゃんと読んで分けてるの?」
その姿を見ていた四人は目を丸くしていた。
「勿論ですよ。読んでなきゃ仕事ができないでしょうが」
「それじゃ何かコツとかあるの?」
コツと言われても慣れとしか言えない。聞くより慣れろというやつだ。酷かもしれないがこう言う他ない。
「真面目にやってれば、すぐに出来るようになりますよ」
「えぇーっ、なんかすごい裏技的なやつを期待してたのにぃー」
不満そうに漏らす村雨先輩にオレは言った。
「努力に勝る裏技は無いですよ」
オレは常日頃からそう思っている。
努力し続ければいつかは報われる事を知ったからだ。
よく分かる例えをするならば、『凡才が天才になることは不可能だ』と世間ではよく耳にする。
確かにオレもそう思う。元から才能を持っていない人間が、生まれつき才能を与えられた人間になれるわけがない。
だが、凡才でも天才を越えることは出来る。
どんなにスタートラインが絶望的でも諦めてはいけない。
才能が無いというのはスタートラインにマイナス値が付いているわけではなく、ただゼロからということだけ。元より才能というプラス値が付いていないだけ。
故にどこまでも必死に足掻き、何度転んでも立ち上がり、前だけ見て進み続ければ、いつかは天才にすら勝てる。それをここ数年で教えてもらった。
オレはやんわりと笑い、仕事の続きを促した。
「さっさと仕事を片付けちゃいましょう」
「うんっ」
村雨先輩の元気な返事を聞いてから、オレは会話を断ち、また仕分けの作業に戻った。
それから日が傾いた頃にオレたち全員は仕事を終えた。
「う~ん、やっと終わったよ~」
気の抜けた声を上げたのは村雨先輩。
ぐっと伸びをしてからバタンと机に突っ伏す様は、一仕事やり遂げた達成感に満ち溢れていた。彼女の力の抜けた叫びを見て、微笑ましく感じてしまう。
オレは凛姉の方を向いて訊いた。
「これで仕事は半分終わりなんだよな?」
「ええ、恭弥が予算案まで片付けてくれたお陰で、あとは残りの書類だけね」
「それじゃ、残りは家で片付ければ全部終わりだな。凛姉、書類持って帰ってもいいか?」
「なくさないようにすれば問題ないわ」
凛姉から持ち帰りの許可が出た。これで今日中に生徒会の仕事を終えることができるわけだ。
凛姉の返事を聞いたオレは、再び突っ伏している村雨先輩に向き直った。
「これで剣術を教えてくれますよね?」
「もちろんだよっ。私はいつからシロちゃんに剣を教えればいいの?」
学園生活に差し支えない程度でありながらも、できるだけ早く習いたい。
「金曜の放課後からはどうです?」
「んー、土日はどうする? お泊まりでもオーケーだよ?」
つまり二日と半日はずっと剣を振れるわけだ。
その申し出は願ったり叶ったりだった。
「じゃあ、泊まり込みでお願いします」
「りょーかいだよっ!」
その元気な返事を聞き、オレのテンションは鰻登りに上昇していた。新たな剣の技術に加え、自分の技術を研磨する場所が確保できたのだ。これで喜ばない方がおかしい。
オレは金曜の放課後が楽しみでしょうがなく、とてもその時が待ち遠しかった。
年甲斐もなく、わくわくしているのは仕方のない事だろう。
リアルのゴタゴタのせいで、本日から十日ほど更新出来ないかもしれませんΣ(ノд<)
なのでフリーな本日中にあと一、二話ほど更新させていただきます。よければどうぞ読んでやってください(*^^*)




