生徒会に入会?
どうにか羞恥に耐えてケーキを食べ終える。
村雨先輩? あの人は妹の手によって折檻され、縄で縛られて床に転がされている。なんだか喚いていたが、理由が理由だけに誰も助けない。
ようやく一段落したところで生徒会長が対面のソファーに腰を下ろす。彼はこやかに問うてきた。
「君は女性をかどわかす固有魔法も保有しているのかい?」
早々にいきなり失礼なことを宣いやがった。
どんな魔法だよ、それは。やっぱりこいつは殴ってやる。
そう思い立ち、すぐさま腰を浮かせ、クソ生徒会長様に向けて拳を振り抜いた。
腹の立つことに、机越しに放ったそれは届かず、あっさりとかわされてしまう。
「おおっと、いきなりなにするんだい君は? 危ないじゃないか」
「いいからさっさと殴られろ。それでボコボコにした後、川に捨ててやる。もちろん捨てる場所は三途の川だ」
「……僕もひどく嫌われたものだね」
「オレは負けることと、見下されること以外にもう一つムカつくことがあるんだよ」
「ほう、それは?」
「自分の立てたプランを崩されることだ。オレの言いたいことがわかったんなら殴らせろ、このクソ生徒会長」
再度振り抜く拳は、やはり机に阻害されて届かなかった。
「君は凛君と仲直りできて嬉しくないのかい?」
「嬉しいに決まってるだろ」
「……それなら僕が殴られる必要性は無いんじゃないかな?」
「あんたがムカつく。理由はそれで十分だ」
「そんな理不尽な理由なのかい!?」
驚愕を露にして叫ぶ生徒会長。
何が理不尽な理由だよこの野郎め。散々オレの周囲を掻き乱しやがったくせに、どの口がそんなふざけた口を利きやがるんだよ。
「今ならたったの一発で勘弁してやる。だから思いっきり殴らせろ。いや、拒否されようが絶対に殴ってやる」
「目が据わってる!? り、凛君、助けてくれないかな!」
あろうことか凛姉に助けを求める生徒会長。
凛姉はやれやれと首を振っていた。
「恭弥、止めなさい。暴力はダメよ」
「うんうん、さすが凛姉。いいこと言うね。ほら、君も凛君の言う通り、拳を治めるべきだとは思わないのかい?」
なんかプツンときた。
救いの手が差し伸べられたからって、すぐに調子に乗る奴がムカつくと感じるのはオレだけだろうか?
否、断じて否だ。
「……凛姉。あとで一つだけ何でも言うことを聞くから、止めないでくれ」
「もちろん止めないわ。むしろ一発なんて言わずに、何発でも殴って構わないわよ!」
嬉々として返事をし、立ち上がる凛姉の表情はとても輝いていた。というかあっさりと買収できたことに驚きだったりする。
「凛君の変わり身が早い!? って、ちょっと凛君、なんで僕を押さえてるんだい!? これじゃ逃げられ――――へぶっ!?」
凛姉のお陰で身動きが取れない生徒会長。
机を回り込んだオレの繰り出す右ストレートが、的確に顔面を捉えた。
それを受けて宙を華麗に舞う生徒会長。
この時、イケメン野郎は殴られて飛んでるだけで、絵になるもんだと実感した。実に腹立たしいことだ。このまま爆発してしまえばいい。
「これで今回は勘弁してやる。次は二発だからな」
「……………………」
そう吐き捨てるのだが、返事がなかった。よく見ると、ピクピクと痙攣している。
……もしかしてやってしまったのだろうか?
場の空気も「あーあ、知らないぞ」みたいな感じになっていた。
えっ? 悪いのってオレだけなの?
肯定も否定もない無言の重圧。
そんな気まずさ漂う空間で数分後。生徒会長はムクリと身体を起こす。
何事もなかったかのように復活した生徒会長はソファーに腰かけていた。そして仕切り直しだとばかりに切り出す。
「そろそろ生徒会に入ってくれる決心はついたかい?」
無駄にキリッとした表情を浮かべているが、頬が腫れているせいで台無しとなっていた。むしろ笑いを誘う。
自分のしたことながら……ナイスだ!
吹き出しそうになるのを堪えながら、オレは毅然として答えた。
「以前も言った通りにオレは生徒会には入りません。却下ったら却下です。大体、そんな簡単に入れるもんなんですか、生徒会って?」
「まぁ、ちょっと面倒な手順は踏まないといけないね」
生徒会長はそう言い、入会までの手順を説明し始めた。
まず、生徒会長、生徒副会長は、選挙にて選出される。
残りのメンバーは引き抜き制。人数制限は生徒会長の任意とするようだ。
次にその他のメンバーが引き抜きで生徒会に入るための条件について。
一つ。生徒会長と他役員一名以上の推薦があること。
二つ。その上で教職員会議にかけ、半数以上の賛成を得ること。
三つ。上記をクリアし、入会に必要な書類に生徒会長からの承認の印を貰うこと。
四つ。同書類に過半数以上の教職員から承認の印を貰うこと。
「という訳で君は既に一つ目の段階を突破してるわけだ。現メンバーで君を拒む者は居ないからね。それと同時に三つ目も済んでいるようなものだ」
「なんでそんな無駄な手順なのか疑問なんですけど。明らかに一つ目と三つ目、二つ目と四つ目って一緒にやればよくないですか?」
「あはは、僕もそう思うよ。なんでも昔は生徒会長の容認だけでよかったみたいなんだけどね、身内だけで役員を固めて独裁的な統治を敷いた世代があったらしいんだ。それが原因でね」
「ほんと、どの時代も愚かなトップは居るもんですね。現に目の前にも居るようですし」
「……随分と僕には容赦がないね。あまりにも虐められて泣きそうだよ」
こほん、と咳払い。生徒会長は改めて口を開く。
「さて、説明も一通り終わったことだけど、どうかな?」
「いや、手順が分かったところで入らないことには変わりないですけど。面倒な仕事は嫌ですし」
そう答えたところで横から、くいっくいっと袖を引かれた。
そちらを向くと、
「入ってくれないの?」
と、瞳を僅かに潤ませた上目使いでオレを見つめてくる凛姉の姿。
その姿はひどく愛らしくて抱き締めたい―――ではなく、とてもずるい。
そんな風に頼まれたら断れないじゃないか。
我ながら単純と言うか、なんと言うか。シスコンすぎてものも言えない。
一つ深いため息を吐いたオレは拒むことを諦めることにした。
「……分かりました。一つ条件を呑んでくれたら生徒会に入ります」
「ほう、その条件とは?」
興味深々とばかりに身を乗り出してくる生徒会長にオレは答えた。
「人を紹介して欲しいんです」
こちらに利がある条件を付ける。それがオレにできる最大の譲歩。
すると途端に真面目な顔になり言う。
「……よし、分かった。君の好みはどんな女性だい? 年下年上貧乳巨乳ロリから熟女まで僕があらゆる人脈を使って君のリクエストに答えて見せよう」
何を勘違いしてるのか、とんちんかんな事を宣う馬鹿が一人。
あまりにも得意気に言うものだから、オレまで半ば真剣に返してしまった。
「そうですね。オレの好みは年――いたたたっ、痛いって凛姉。冗談だからつねらないでくれ」
何気なく話に乗ったところ急に女性陣の視線が冷たくなり、凛姉に至ってはささやかな暴力に訴えてきた。
なんでオレだけそんな目に遭わないといけないんだよ。目の前の奴にもやってくれ。
そんな切実な思いが届くはずもなく、話は軌道修正を辿った。
「こほん、気を取り直して。どんな人を紹介して欲しいんだい?」
「剣に関する二つ名を持つ人物です。更に指南を出来る人なら言うこと無しです」
「なんで剣なんだい? 君なら魔法の方がいいと思うんだけど」
「オレは剣術を極めたいんですよ。それに魔法は極める必要がありませんから」
オレの剣術は未だに完成されていない。
それは独特なスタイルのため、ある一定の条件下でしか100%の力を発揮できないからだ。しかもその条件が三つもあり、どれもが都合良く満たせるものではなかった。
そのせいもあって、普段のオレでは本来のスタイルで剣を扱うことが出来ない。
何故そんな残念な成長をしてしまったのかというと、全ては師匠に原因がある。
あの人とタイマンで闘り合っている内に、自然とその独特なスタイルが身に付いてしまったのだ。
師匠の指南上での格言が『自分の一番輝く所を伸ばせ』だけに、そのスタイルで戦闘をせざるおえなかった。
それで師匠に改善したい旨を伝えると、
『邪道の剣でも勝ち続ければ王道になる』
とか名言っぽいことを宣い、結局最後まで教えてもらえずに指南の過程は終了。その後『赤銀の剣聖』なんて重々しい二つ名まで勝手に付けられてしまった。
だが、オレ自身はそれに納得していない。
理由は一重に完成もされていない未熟な剣だからだ。それにオレはまだまだ強くなる必要がある。
だからこそオレは普通の剣術を学び、全面的に剣を極める必要がある。
「……魔法は極める必要がない、か」
口の中で小さく転がすように呟くと、オレに品定めするかのような視線を送ってくる。
正直、男にこんな視線を向けられても気持ち悪いだけで、あまりいいものではない。
「そんなに熱い視線を送られても、オレは付き合えませんよ?」
生徒会長はジョークに対してにこやかに、
「安心してくれていいよ。僕には婚約者が居るからね。君に懸想なんてしないよ」
と、至極全うな返事をしてきた。
ジョークに対して、今みたいな素の返しをされるのが一番困るんだよな。
そのような事を考えながら、脱線してしまった話の軌道を本来の軌道へと戻した。
「それで、結局のところは紹介してもらえるんですか?」
「ああ、そうだったね。それなら今すぐにでも紹介できるよ。……ほら」
そう言ってある方向を指差した。
その指先を追うとそこに居たのは、無邪気な笑顔でブンブンと掲げた刀を振っている村雨先輩と、相変わらず冷静な表情で竹刀袋を携えている村雨の姿だった。
村雨先輩はいつの間にか、刀剣創者の魔法にて縄を切って脱出していたようだ。
「もしかしてあの二人が?」
「いいや、二つ名持ちなのは六花君の方だ。彼女の持つ二つ名は――」
「『剣舞姫』なんだよっ」
生徒会長の台詞を遮って突如乱入してきた村雨先輩は、自慢するように自己主張の激しい胸を反らしていた。
そのせいでたゆんと揺れ動く豊満な双丘は、健全な男子高校生にとって軽く目の毒だ。
だが、それよりも衝撃的だったのは、この人が二つ名を持っていたことに他ならない。
失礼な話だが正直なところ、かなりアホで残念そうな人だと思っている。確かにドームでの剣技は才能に溢れていたが、普段の姿はコメントし辛いくらいにアレな人という評価は変わらない。
それ故にオレの頭は事実を受け付けることが出来なかった。
オレは一度目を伏せてから、再び開き、気を取り直すように問う。
「……さて、くだらない冗談は終わりにして、結局のところ紹介できますか?」
すると村雨先輩は、
「私の扱いがひどいっ!?」
とショックを受けたような声を上げながらも、すごい勢いで詰め寄ってくる。
「私はこれでも本当に二つ名を持ってるんだよっ!」
あまりにも近くまで詰め寄ってくるものだから、必然的に座っているオレは見上げる形になる。
すると視界一杯に映り込むのは豊かな二つの山脈。
制服越しにでも分かるその大きさの確たるや。悲しいことにオレの視線はそこに吸い寄せられてしまう。
これも男の性だ。半ば諦めてぼんやりと眺めていると、思わず情けない声を上げてしまった。
「いたっ、ちょっ、凛姉!? 痛いって!」
「いつまでジロジロと見てるのかしら恭弥?」
凛姉が仏頂面をしてオレの二の腕をぎゅっとつねってくる。
やはり女性の胸を不躾に眺めるのは失礼な行為のようだ。凛姉も同じ女性として許せなかったのだろう。
オレは慌てて目を逸らした。
すると、村雨先輩は胸を強調するようにぐっと突き出し、魅惑の一言を。
「触ってくれてもいいんだよ?」
悲しいかな男の性……。
甘い誘惑を目の前に、再び吸い寄せられてしまうオレの視線。
うん、決めた。オレは将来はエベレストに住む。
もちろんネパールの北緯27度59分16秒、東経86度56分40秒にあるヒマラヤ山脈に連なるものではない。
じゃあ、どこの山かって?
決まってるだろ。それは目の前にある魅惑的な山脈だ。
―――なんて残念な思考は長くは続くことはない。
「ちょっ、ほんとに千切れるって!」
オレをつねる指にますます力を込める凛姉。
「ごめん! それ本当に痛いから! 許してくれ! 離してくれ!」
その後、何度も謝罪を重ねた末に、つねる指を離してどうにか許してくれた。
ようやく解放された二の腕を擦っていると、再び生徒会長が割り込んでくる。
「それで交渉は成立でいいかな?」
さっきの馬鹿らしいやり取りのせいで、すっかりと本来の目的を忘れてしまっていた。
オレが村雨先輩に剣術を習うかどうか。それが問題なんだよな……。
こういう時は、良い所と悪い所を順番に挙げてみることにしよう。
まず良い所として挙げられるのは、自分の身近に居るということだ。
そもそも星の数ほどいる魔法師の中で、二つ名を持っている人は少ないと言える。更にその中で特定の技能に関する二つ名を持つ人は、ほんの一握りしか居ない。それが武具に関する二つ名なら尚更だ。
この世界には魔法という技能が存在している。
だからこそ魔法というものに頼り、武具という直接的な攻撃方法に頼ることがない。それ故に彼女のように剣の名を持つ人物が身近に居るのはありがたい。
次に挙げるのは悪い所だ。
それは単純になにより不安であるということ。口車に乗せられてオレを刀で襲い、それを妹に諫められ、仕舞いには頭をどつかれて泣き目になっていた。
それに加えてかなり失礼な私見かもしれないが、頭の中にお花畑が広がっていそうだ。しかも、そこで無邪気に蝶々を追っかけているイメージがわくほど残念な人物像。
だからこそすぐに決めかねているのだった。
「一つ訊きたいんですけど、村雨先輩ってどのくらいできますか?」
村雨先輩を指差しながら問うていると、
「村雨先輩って他人行儀だよっ。だから六花って呼んでっ!」
ぐい~っと顔を寄せてくる村雨先輩。
実際にあんたは他人だろ。それを手のひらで押し返しながら返事を待つ。
「おそらく国内でもトップクラスじゃないかな? そもそも日本には剣の二つ名を持つ人は六花君を含めて二人しか居ないんだ」
日本国内では二人しか居ない。
やっぱりどこでもそんなもんなのか。
世界規模で見ても、最高峰を誇る『剣聖』の名を持つ人はオレと師匠の二人しか居ないんだから、例え同格でなくとも日本国内に少ないのも頷けた。
「分かりました。交渉成立です」
「六花君もそれでいいかな?」
「うんっ。シロちゃんは可愛いから全然オッケーだよっ!」
全然オッケーって言葉の使い方がおかしくないか?
普通は、全然の後には『~知らなかった』とか『~ダメだ』みたいに否定する言葉が続かなければおかしいはずだ。
それにシロちゃん……。
もしかしてオレのことなのか?
生徒会長もオレと同じ疑問を持ったらしく村雨先輩に訊ねていた。
「シロちゃんってのは、まさかとは思うけど東雲君のことかい?」
すると、眩いほどの笑顔で答えた。
「うんっ。白銀の髪だから、白銀の白をとってシロちゃん。可愛いでしょ? ね、シロちゃん」
可愛いでしょ? って、そんなこと訊かれても困るんだけど。
オレは苦笑いを返すことしか出来ない。
それを尻目に彼女は釘を刺すように、ビシリとオレを指差す。
「だからシロちゃんも村雨先輩なんて呼ばずに、私のことは六花と呼ぶようにっ!」
と言われても、呼び方を直すつもりはない。
この学園では先輩後輩の関係だし、これからも無難に村雨先輩と呼ぶのがいいだろう。
「これで話はまとまったね。それじゃ今日から君も仮だけど、生徒会執行部の一員だ。これからよろしく」
笑みを浮かべながら、生徒会長は出会った時と同じように右手を差し出してきた。
だがオレは浮かべられているその笑みがひどく気に入らなかった。オレも同じように右手を差し出した。今度はきちんと握り返す。
そして握った後にこちら側に引っ張り、他の誰にも聞こえないように耳元で忠告した。
「……あんたのその『全部予定通り』みたいな面が気に食わないから言っとくぞ。なんであの場所に居合わせて、なんで写真を撮ったのか。なんでオレを生徒会に引き入れたのかは詮索しない。だけど一つだけ覚えとけ。あんたがオレの大切な人の害になると判断したら、あんたを家ごと徹底的に潰してやる。それを肝に命じとけよ」
聞く者がぞっとするような低い声音と共に、有りっ丈の誠意を叩き付けた。
それにも関わらず本人はどこ吹く風。
「君の考えているような心配は要らないよ。僕は君に興味を持っただけだからね」
食えない笑みを浮かべる生徒会長の言葉は、嘘か真か判断が着きにくいものだった。
未だに募る疑心を解くように、彼は生徒会室に居る全員を見回して言った。
「それじゃ新メンバーが三人も居ることだし、改めてお互いに自己紹介しようか」
新しいメンバーとは、オレ、舞華、村雨の一年生である三人のことだろう。
最初に生徒会長が自己紹介を始めた。
「僕は三年生の天城院泉里。皆も知っての通り、この学園の生徒会長であり、天城院家の次期当主候補だ。二つ名は『魔法図書』を拝命している。これからよろしく」
生徒会長はどうやら二つ名持ちらしい。
……なんだか毎回生徒会長と言うのは面倒になってきた。今度からは会長でいいか。
やはり、彼も天族なだけあって、それなりの実力を有しているらしい。
それに続いて、凛姉がさっきまでの甘々な雰囲気を一変させ、凛々しい振る舞いで自己紹介をする。
「私は二年生の天月凛。生徒副会長で次期天月家当主候補よ。二つ名は『紅の舞姫』。これからよろしくね」
凛姉も二つ名持ちらしい。
『紅の舞姫』おそらく、炎の魔法からくるものだろう。
嫌味のようであまり言いたくないが、流石は天月の息女といったところか。
村雨先輩が手を挙げて凛姉に続いた。
「次は私だねっ。私は二年生の村雨六花。そこに居るなっちゃんのお姉ちゃんだよっ。役職は書記で二つ名は『剣舞姫』。ちなみに『刀剣創者』を保有してるよ。みんなよろしくっ!」
元気一杯で明朗な自己紹介。まるで小学生の自己紹介を見ているようだった。
彼女はこれからオレが師事することになる先輩だ。
『刀剣創者』という刀剣を精製する固有魔法を保有し、尚且つ剣術まで身に付けている。しかも実力は折り紙付きときた。それが『剣舞姫』という二つ名をもたらしたのだろう。
上級生の三人が自己紹介を終えたところで、次は一年生であるオレたちの番。
三人でアイコンタクトを交わし、誰から自己紹介をするのか決めた。
まず最初に口を開いたのは村雨だった。
「一年の村雨那月です。二つ名は残念ながら所持していません。そこの姉共々迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いします」
ペコリと丁寧なお辞儀する村雨。
彼女は姉と比べて落ち着きがあり、とても礼儀正しい人のようだ。あんな姉を持ったからこそ、そういう風に育ったのかもしれない。
二番目に舞華が続く。
「えーと、一年の天堂舞華です。二つ名はありません。一応私も天堂家次期当主候補です。至らない点ばかりで迷惑を掛けるかもしれませんが、よろしくお願いします」
村雨と同じように頭を下げる舞華。
上級生の前だからか、いつもより大人しい。
まるで借りてきた猫のようだ。いや、舞華の雰囲気からしたら、借りてきた仔犬?
うん、イメージ的にはピッタリな気がする。そう思うと無性に撫でたくなってしまう。
でもそうするわけにもいかず。一番最後に自己紹介するのはオレだ。
「先日ここに転入してきた一年の東雲恭弥です。二つ名は無し。天月に捨てられた欠陥品だけど気にせずに接して下さい。あとオレの存在は天月には勿論のこと、他人には内緒にしてくれるとありがたいです。これからよろしくお願いします」
そう無難に自己紹介を済ませた。
二つ名は名乗らなかったのはご愛嬌だ。
なにしろ平然と『赤銀の剣聖』や『異端者』『オメテオトル』だなんて名乗れるはずがない。
どれも世界規模で知られている上に、誰にその名が授けられたのかは一部の人間しか知らない。
それなのにもし一般に知られれば、必然的に大きな騒ぎになる。
特に『赤銀の剣聖』と『オメテオトル』はバレると厄介にも程がある。
言わずとも『オメテオトル』は、世界最強のMPの部隊である三ツ首ノ猟犬の序列第一位に君臨していることで有名になっている。
その正体が実はただの高校生でした、なんて知られたら完全にアウトだ。
次に『赤銀の剣聖』
こちらはバレるとかなり面倒極まりない。なにせ新しい剣聖になるためには、現存している剣聖にその資格があるかどうかを認められなければならないからだ。
初代の『焔の剣聖』は周囲に認められ、剣聖を名乗ることになったが、二代目以降はそう決められている。故に剣聖に認められるが為に、挑んでくる輩が後を断たないのだ。
オレも修行の合間にその場面を見ることが幾度となくあったのだが、あれは精神の衛生上あまりよろしくない。
挑戦者が来ては負かして追い返し、また来ては負かして追い返す。その度に挑戦者が剣聖との実力差に絶望したり、剣の道を諦めたような顔をするのを見なければならないのだ。
中には次への挑戦に意欲を燃やす人も居るが、前者の方が圧倒的に多かった。
だからこそ、そういうのは断固お断りだ。
そういう訳でオレは二つ名を明かさなかった。
オレの自己紹介の『二つ名は無し』のフレーズで会長がピクリと反応し、『天月に捨てられた欠陥品』のフレーズに凛姉が悲しそうな顔で眉をひそめた。
会長は別にどうでもいいとして、凛姉の方はマズかった。
正直なところ、自分で言う分になら全く気にならないせいで、思わず口が滑ってしまっていた。
「あー、悪い。とにかく普通に接してくれって意味で言ったんだ。だからそんな顔しないでくれよ。な?」
慌てて付け加えるも凛姉の顔は曇ったままだ。
会長はその空気を払拭するように手を叩きながら言った。
「さて、みんな自己紹介を終えた事だし、今日は解散にしよう。新メンバーの加入は東雲君の入会が承認されてから、追い追い生徒達に伝えるという事でいいかな?」
それに各々の反応を返したオレたちは、会長の言う通りに解散したのだった。
という訳で、恭弥は生徒会に仮入会となりました。
今後どうなるのかは要注目(?)かも
前話後書きにてブラックな裏話をすると言ってましたが、あと少し先になりそうです
稚拙な話を読んで下さる読者の方、いつもありがとうございます(*^^*)




