絆を賭けた闘い
その日からは気が重かった。
原因は何より、予想外の事態のせいである。
先日の件。結果から言おうと思う。オレの思惑通りには何も進まなかった。
むしろ、繰り返される日常は嫌な方向へと変わることとなる。
いつものように朝起きて、朝食をとってから家を出て、舞華と肩を並べて学園に向かう。そこまではいつもと同じである。
しかし、この後からが違う。
一番最初に学園の校門で出会うのは、関係を絶ったはずの姉であった天月凛。
彼女は何かを口にしようとするも、口を開くことはなく無言で見つめてくるだけだった。オレは当然のようにその横を素通りする。
これが一つ目の変化。はっきり言って遣るせなかったが、それでも、その時はそれで終わりだと思っていた。
だが、残念ながらそれだけでは終わらない。
彼女は授業と授業の合間の休憩にも、オレの在籍するクラスの前に来て、時間の許す限り外から無言で視線を送ってくる。
さらには昼休憩には学食の入り口で待ち構え、無言でオレたちの近くで黙々と食べる。
それがここ二、三日続いていた。
まるで堂々としたストーカーのようだ。
陰からまたこそこそ言われるようなネタが増えたことに頭が痛くなる。また、同時に彼女の姿を見て、何かしらの感情を持っている自分がいた。
そんな出来事と自分に苛立ちを帯びながら、今現在、オレは顔へ向かってくる蹴りを自身の手で力任せに払っていた。
身体強化を纏っている蹴りは、何の対処もなしに食らえば一撃で昏倒させる威力をはらんでいる。
だが、相手と同じく身体強化を纏ったオレには意味を成さない。身体強化を纏うもの同士の近接戦は、魔力による異差はあれど、ほとんど生身同士の殴り合いと同じだ。
オレは仕返しとばかりに顔に一発入れてやろうと突きを繰り出したが、武はそれを読んでいたらしい。
身体を半歩下げる事でそれをかわされてしまった。
振られる大きな拳。それがオレの顔に目掛けて飛んでくる。
オレはスウェーバックでかわし、その流れで地に手を突きながら後退した。
「やるじゃねぇか、恭弥! まさかお前がここまで闘れるとは思ってなかったぜ!」
ジリジリと互いの距離と呼吸の読み合いとなる戦況の中、武は快活に声をあげる。オレはその声に答えない。
今度はこちらから攻める番だ。強化された脚力で地を蹴り、突貫を仕掛ける。
武の顎を狙った掌での打撃―――と思わせ、武が防御の姿勢に入った瞬間に身を沈ませて足払いを狙う。
「甘いな、恭弥――大地の甲殻!」
詠唱を破棄した魔法の発動。地面から隆起した土塊が武の脚に絡み付き、鎧のように覆ってしまう。これでは足払いなど出来るわけがなかった。
咄嗟に目的を変更。ただの足払いから、土の鎧ごと脚部を砕く威力をもつ鋭い蹴りへ。
だが、それは無意味に終わった。
武の魔法を打ち破るには、もともと足に込めていた魔力では足りないようだ。いとも容易く弾かれて終わってしまった。
堅いものを蹴ったせいか、足には鈍い痛みが広がっていく。
「ちっ」
一度体勢を立て直そうとするも、屈んだオレを目掛けてくるのは魔法と身体強化を同時に纏っている武の蹴りでの反撃。
それを身体を無理矢理捻り、どうにか避ける。
「マジかっ!?」
避けられたことがそこまで意外なのか、武が驚いた表情をして一瞬だけ身体の動きを止めた。
その一瞬が命取りだ。
オレは武の地面に着いている方の足に自身の足を絡ませる。その後、武自身の力が向いている方向に合わせ、自分の身体を支点に足を捻ることで勢いよく転倒させた。
武も中々やるが力技だけでは足りない。技巧面も磨くべきだ。
何が起こったのか分からないという表情のまま崩れ落ちた武の背中に陣取り、その腕を取った。それを後ろ手に捻ることで関節をきめる。
「あいたたたたっ! ギブっ、ギブだっ!」
オレは下で喚く武を無視して更に捻り上げた。
それから、これ以上すれば関節が外れるというギリギリを保つ。
「ちょっ、恭弥!? ギブっ、ギブだって、ヤバいって、肩が外れちまう!」
必死にギブアップをアピールする武に、オレは憮然として返事を返した。
「取りあえずオレに謝れ。話はそれからだ」
「本当にスミマセンでした! いきなり殴りかかった俺が悪かったです! だから今すぐその手を離してください!」
文字通りにオレの下で低姿勢で謝っている武。
こうなったのは理由がある。
現在は五、六限の二時間があてられている実技の授業中である。今日の授業の内容は、自分たちの能力向上を目指した基本的に自由な練習だった。
担当の教師がそれを周りの生徒に告げると、各自のスペースを確保すべく動き始める生徒たち。
それを他所に、近状の出来事に悩んでいる最中、突然オレに殴りかかってきた馬鹿野郎が一人いたのだ。
何を隠そう、そいつの名前は篠原武。真性の筋肉馬鹿であり、重度のバトルジャンキーだ。
いきなり殴りかかってきた理由も、いち早く闘いたかったという単純極まりないものである。
だが、考え事をしている時にいきなり殴りかかられたオレとしては、迷惑としか言いようがない。
せめて一言でも断ってからなら話は別だったんだがな、と、心の中でぼやいてしまうのは仕方ないだろう。
オレはこれ見よがしにため息をついた。
「さて、そろそろカウントをとるか。ワン、ツー、ス――」
「ちょっ、やめれくれないのかよ!……っておい! 力入れないでくれ! マジで!」
カウントをしながらさりげなく力を入れると、オレの下で懸命に喚く武。
事の発端が発端だけに周囲も止めない。むしろ反省しろとばかりに、武を咎める視線の方が多いとすら感じられる。
「反省したか?」
「反省した! 反省したから離してくれ!」
「まったく……」
オレは拘束している手を離してゆっくりと立ち上がり、武へと手を差し伸べた。
「サンキューな、恭弥」
オレの手をとる武は、なぜか嬉しそうに口元を緩めていた 。このタイミングだと、はっきり言ってめちゃくちゃ気持ち悪い。
「いや、天城院のことがあったから、どっちかというと魔法のが得意かと思ってたんだが、まさか近接戦も出来るなんてな! 俺じゃまだまだ勝てなさそうだ!」
オレの手を借りて立ち上がる武は、自分の敗北をものともせずに笑っていた。
しかし、オレは武の言葉に呆れてしまう。
「お前、何か勘違いしてないか?」
「うん?」
「始めから最後まで手を抜いてた奴が何言ってんだよ。そういうのは全力を出して、その上で負けてから初めて言えよ」
「………………」
オレの指摘に、武が目を丸くした。
「あからさま過ぎて、逆に分かりやすかったぞ。最初の一撃で沈めてやろうと思ったくらいだ」
こいつは全力で戦わず、まるで品定めでもするようにオレと向き合っていた。
自分の意思による力の調整。言葉で言うのは簡単だが、実際にやろうとすることは難しい。
以前、身体強化は魔力と肉体の掛け算だと言った。
武はどちらかと言えば、肉体の方に比重が寄りがちだが、決して魔力値が低いわけではない。
最大値がどのくらいから分からないが、少なくともまだやれるだろう。
「天城院の時は喧嘩が弱そうなんて言って悪かったな。今の模擬戦でそれが間違いだってよく分かったぜ」
「おだてたって何も出ないぜ?」
オレが肩を竦めてそう返すと、今度は武がこれ見よがしに言った。
「まぁ、尤も、なんでか知らねぇけど、恭弥は魔法を使いたくないみたいだしな。今の殴り合いで分かったけど、お前、魔法より近接戦の方が得意なんだろ?」
今度目を丸くしたのはオレの方だ。
「図星って顔だな」
してやったりという武の顔が勘に触った。そっと武の額に手を添え、力を込めてやる。
「あいたたたっ、なぜアイアンクロー!?」
オレは爽やかな笑みを武に向ける。
「気にするな。ただのスキンシップだ」
「そんな理不尽なスキンシップがあってたまるか!……って痛いから! 本当に割れる!」
「どうせ割れたって中身が入ってないから困らないだろ? それに割れないように絶妙な力加減を心掛けているつもりだ。あとドーム内には結界魔法があるから頭が割れる心配もいらん」
「ナチュラルに失礼なことを言う奴だなお前は! それに要らん気遣いする暇があったら離してくれ!」
「そうか、気遣いが要らないんなら本気で潰そうか」
「そ、そういう意味じゃねえよ! この腹黒女誑し!」
「よし、せっかくだし本当に潰してやろう」
「あだだだだっ、ちょっ、冗談じゃ済まないって! 割れる割れる!」
本格的に叫んで悶絶し始めた武。そろそろヤバそうに見えたので、掴んでいる手を離した。
「し、死ぬかと思ったぜ」
大袈裟な、とも感じたが、武の顔には本当に三途の川を見た人のような表情が浮かんでいた。
「とにかく闘り合うなら、せめて一言でも断ってからにしてくれ」
「言ってからなら闘ってくれんのか?」
「もちろんだ」
オレは鷹揚に頷いて返す。
オレ自身も武との闘いは結構楽しかった。
命のやり取りをする本物の実戦と違い、怪我することを一切気負う必要がない模擬戦は程好い刺激になることに違いない。
それに丁度いいガス抜きにもなった。少しは悶々としていたものが晴れた気がする。
もう少し欲を言えば、剣を打ち合わせる相手が居れば最高だったりする。
剣の腕は使わなければ使わなかっただけ錆びていってまう。せめて三日に一回は振るいたいものだ。
「約束だぜ! また闘ろうな!」
「あ、あぁ、約束だ」
武の勢いにたじたじになりながらも頷く。
「よっしゃ!」
武の目はキラキラと輝いていた。
どれだけ殴り合いたいんだよお前は……。
楽しいといっても、殴り合いの約束なんかで喜ばれるとなんだか微妙だ。
「本当に呆れるよね」
横から割り込んでくる別の声。その声の方を見ると、秋人と舞華が苦笑いしながら武を見ていた。
「まったくだ」
そう返したところで、ドーム内が新たな喧騒に包まれた。
なんだ? と思い視線を向けると、二人の少女が入り口から姿を現し、歩を進めていた。
片方は憂いを帯びた紅蓮の少女。
片方は朗らかな表情をしているライトブラウンの少女。
その二人は授業担当の教師の方へと向かって行った。
「何なんだあれは……」
唖然としながらも漏れた呟きに秋人が答えた。
「天月先輩と村雨先輩だね」
いや、そんなことは分かってる。
オレが問題視してるのは、なんで彼女たちがここに居るかってことだ。
今は一年生の実技の授業中。二年生の彼女たちがここに居るのはおかしい。その事に嫌な予感を感じた。
案の定、それは大当たりすることとなったようである。彼女たち二人は教師を伴い、こちらへと近付いてきた。
「東雲、天堂。この二人が生徒会関連でお前たちに用があるらしい」
その後、村雨先輩が秋人や武、教師に視線を向けると、彼らは彼女の意図を察したようで離れていった。
「やあやあ、久しぶりだね、二人ともっ。元気してるかなっ?」
にこーっ、と明るい声での挨拶。
なにが元気してるかな、だ。あんたたちのせいで、元気になりかけてたのに一気にブルー満面だよ、こんちくしょう。
朗らかにかけられた声に対して出たのは、思いの外冷たいものだった。
「何の用ですか、村雨先輩? 今は授業中ですよ。その事も分からないくらいのお年頃なんですか? 蝶々なら、探せば外にいると思いますよ。追いかけてきたらどうですか?」
もう一人の少女を無視するような物言いに、無視された少女はきつく唇を噛む。
そんな相方が隣に居るにも関わらず、
「うーん、なんて言えばいいかなぁー」
と、のほほんとした様子で人差し指を口元に当てて考える。
やはりこの人はマイペースそのものだった。辛辣な物言いにも一切動じない。
少しして言葉が見つかったのか、彼女はポンと手を打ち鳴らした。
「ざっくり言っちゃえば、二人の実力を試してこいって会長に言われたんだよっ」
うん、それならこのふざけた状況も納得だね。
……とりあえず、あのニヤケ面クソ生徒会長様は次会ったら全力をもってぶっ飛ばすことにしよう。
「その必要は無いですよ。村雨先輩も知っての通り、オレは『欠陥品』だ。実力を試す価値なんてありませんよ。……それに目的はそれだけじゃないですよね?」
そう言ってチラリともう一人へと視線を向けると、村雨先輩はおたおたと手を振り始める。
「べ、別にそんなことないのですよっ! あわよくばリンちゃんと仲直りしてもらおうなんて、はいっ、ないですよっ!」
……なんとも分かりやすい反応だった。素直なことは良いことだけど、何から何まで駄々漏れだぞ。
「そういうことなら、なおさら面倒です。オレはその人と関わりを持つつもりはないですから」
「でも、ほら、今のまま現状維持でいいのかな。結構、色んな噂がされてるよ?」
「へぇ、どんなのですか?」
「天族であるリンちゃんを袖にしたーとか、リンちゃんの秘密を握って脅してるーとか。……はたまた君がリンちゃんの弟の『天月恭弥』なんじゃないかー、なんてね」
さっきまで慌ててたクセに、うって変わってイジワルな笑みでウインクを一つ。
くそ、何気に可愛らしいのが腹立つ。ぜひとももう一回やってみて欲しい可愛さだった。
そんな内情をおくびにも出さず、肩を竦めるに留めた。
「確かにそれは厄介ですね」
噂というものは聞く者にとって面白いと感じたり、あり得ないと思うものほど、恐ろしい早さで広く拡散していく。
だからこそ厄介だ。
それがオレの出生に関することなら、なおさらである。
万が一にも天月の本家に伝わるようなことがあってはならない。そうなってしまえば、それ相応の手段をとらせてもらうしかなくなってしまう。
「で、それがどう実力を見るのと関係してるんですか?」
「私が提示するのは解決法だよ。ほら、リンちゃんから言わないとっ」
「きゃっ、六花!?」
突然、トンと押し出すように背を押された天月先輩は動揺の声を上げてつんのめる。
オレはただただ冷たい視線を送った。
それを受け、彼女は視線をあちこちにユラユラ揺らし、なかなか口を開こうとしない。
「リンちゃんが言わないならお開きにしちゃうよ?」
「い、嫌よっ、私は……っ!」
「それを私に言ってどうするの?」
「………………」
村雨先輩の言葉に遂には押し黙ってしまう。
そのやり取りを見やる複数の視線。周囲とはそれなりの距離があるから声までは届かないだろうが、その仕草が、表情が噂を助長させる原因になる。
「さっさとしてくれませんか?」
ため息と共に告げられた言葉で、ようやく覚悟が決まったようだ。ぎゅっと拳を握り、彼女は声を振り絞る。
「わ、私とここで勝負して!」
「……………………」
「それで私が勝ったら、また……一緒に……」
尻すぼみになっていく語気。なぜか言葉はそこで途切れてしまった。
おそらく一度体験した拒絶が真新しい傷になっているせいだと思う。
途切れてしまった彼女の言葉。その後に続くであろう言葉は―――きっと『一緒に暮らそう』だろうな。
その甘美な響きのなんたるや。それはオレも彼女も望むもの。
……だからこそオレは再び断ち切らなければならない。
それが最低限の互いの生活を守ることになる。とらぬ算段をまるですべてを分かっているかのように、村雨先輩が口を挟んできた。
「君が勝負に勝てば、リンちゃんは二度と君に近付かない。それなら噂も消えて、君の憂いも晴れる。これなら勝負する意味もあるよね?」
あらかじめ用意された台本を読み上げるように、すらすらと台詞を紡いでいく村雨先輩。
いや、おそらく『ように』ではないのだろう。
あのクソ生徒会長が吹き込んだであろう台詞。それはオレにとって頷かざるおえない筋書きであった。
こちらも譲れるところは譲るしかない。だからこそと言うのだろうか。オレは彼女たちに一つの案を提示した。
「勝負の方式はタートルブレイク。ルールは簡単、攻撃側と防御側に分かれて闘う。攻撃側はただ防御側に攻撃するだけ。防御側は攻撃側から自分たちの身を守ればいい。勝ち負けの判定の仕方は、攻撃側は一撃でも身体に当てればその時点で勝ちとなり、防御側の負けとなる。逆に攻撃を与えることが出来なければ、攻撃側の負けで、防御側の勝ちになる。そのルールでなら闘ってもいい」
「へぇー、閉じ籠ったカメさんの甲羅を破るってのを比喩してるのかな?」
「まぁ、そんなとこです。で、乗りますか? 降りますか?」
「もちろん私は乗るよ。リンちゃんはどうするの?」
村雨先輩の確認を受けた相方は、躊躇いがちにコクリと頷いた。
「本当にいいんだね? この勝負で負ければ、リンちゃんは弟との繋がりは完全に無くなるんだよ?」
「……それでも、私は……」
「うん、じゃあ、決まりだね。勝負は二対二のタッグマッチで、制限時間は授業終了までってことでいいかな?」
授業の終了までは残り十分ほどある。
それに二対二のタッグマッチか。オレはさっきから一言も発していない舞華の方へと視線を寄せる。
彼女はどうしていいのか分からないといった表情で困惑を露にしていた。
そのような心理状態で魔法を行使できるのか。
そのような不安定な心理状態で正しい判断ができるのか。
出来るわけない。相手が相手だけに。状況が状況だけに。舞華は全力で闘うことは不可能に近いだろう。
それに彼女まで傷付けてしまう可能性もある。やはりこれ以上は巻き込むべきではない。
「いや、二対一でお願いします。こっちはオレ一人でいい」
そう言ったところで横から袖を引かれた。
「……私も、やる、から」
辛そうに声を絞り出す舞華。声と同様に表情も辛さをたたえたものだが、それでもその瞳にブレはなかった。
「分かった」
舞華が自分自身の意思で決めたことであるなら、それを否定するのは不粋というものだ。彼女が望むのなら、とことん付き合ってもらうとしよう。
「それじゃ、始めましょうか」
「攻守はどうやって決めるのかな?」
「好きに選んでいいですよ。どうせ勝負に勝つのはオレたちだ」
「自分で『欠陥品』とかいってるわりには随分と自信家なんだね」
「なんせ相手が炎の魔法師と剣士ですからね。二人じゃオレの相手にもなりませんよ」
「……君はとんだウソツキさんだね。そんなこと本心では思ってないくせに」
村雨先輩はボソリと呟いた。その声はあまりにも小さ過ぎて届かなかった。
「何か言いましたか?」
「ううん、何でもないよ。じゃあ、私達は攻撃側に回るね。リンちゃんもそれでいい?」
「……ええ」
その後、オレと舞華もその選択に同意する。
攻守が決まったところで、オレ達は互いに距離をとった。
この時点ではこちらが有利に傾いていた。
攻撃側は防御側に攻撃し、防御側は攻撃側から身を守る。防御側は一撃でも防御出来ずに攻撃されたら負けといった、一見すれば防御側が不利なルール。
だが、実はそれは違うのだ。
オレは『防御する』ではなく、『身を守る』と言ったのだ。誰も防御側が攻撃してはいけないなどとは言っていない。
つまりは、だ。身を守るために、そもそもの要因足る攻撃側を潰すのも有効であるということ。
現在の距離は目測では大体、十五メートルほど。相手の片方は剣士。近接戦に持ち込むには多少苦しい距離。
その距離を移動する合間に広範囲に作用する魔法を叩き込めば、それで彼女は落ちる。舞華にはそれだけの魔法があった。
希氷の祈り。一度見ただけの氷属性の魔法。
あの魔法はオレも見るのは初めてだった。おそらく舞華のオリジナルの魔法だろう。あれほど自由度の高い魔法はなかなかお目にかかれない。
基本的に魔法の役割は一つ。燃やすならば燃やす、凍らせるなら凍らせる。過程、結果は違えど、大抵は役割は一つと決まっている。
それでも舞華の魔法は複数の役割を持っていた。
瞬く間に地表を凍らせ、無数の氷の槍を生成し、周囲に吹雪を起こす。
言葉にするなら、広範囲殲滅魔法。この魔法を使えば、大概の敵は瞬殺できる。
問題は相手側のもう一人の少女だけ。
彼女の得意とするのは炎属性の魔法。氷の魔法を得意とする舞華とはすこぶる相性が悪い。
そして、今回オレは魔法を使う機会が無いことを祈っている。それでどれだけ闘れるのか。現時点では優勢ながらも、情況を見極めながら闘う必要がある。
「いつでもいいですよ。かかってきて下さい」
その言葉に他三人が臨戦状態に入る。
「舞華、頼んだぞ」
「……うん」
覇気の薄い返事。それも仕方ないと言えば仕方ない。
でも、舞華が自分の意思で選んだ以上、しっかりとしてもらわなければ困る。
そんな心情を察したのか、舞華は無理をしたように笑んだ。
「大丈夫、やれるよ」
そんな時だった。
いつまでも見つめ合うオレと舞華のやり取りを中断させるように、村雨先輩は高らかに詠う。
「求めるは比類なき最強の刃。私はここに誓う。この刃にて剣の頂きに立つことを――刀剣創者」
鈴を転がすように綺麗に澄んだ声音。
オレが愛用する魔法と同じ魔法であるはずなのに、オレとは全くと言っていいほどに違う詠唱。
そこには、一振りの壮麗な刀があった。




