事後のお話②
変わらず主人公は悲劇気取りを炸裂Σ(-∀-;)
あまりに「イラッ」と来るかもですがどうかお付き合いを……
ようやく姉さんと舞華は話を終えたらしい。
通話を切った携帯を手渡してきた。
「で、どうだった?」
曖昧な表現だが、十分に伝わったらしい。
舞華は苦笑いしながら、
「なんかすごい人だね……」
と、心なしか疲れたような笑みを浮かべている。
この表情を見るに舞華はおそらく姉さんにイジれたに違いない。
姉さんには気に入った人をイジってしまうという悪癖がある。しかも、たちが悪いことに人柄のせいで怒ろうにも怒れないというおまけ付き。
それは直接の会話だろうが、電話越しの会話だろうが変わることはない。
故に舞華には御愁傷様と言う他ないようだ。
不意に「あっ、そういえば」と舞華が声をあげた。
「お姉さんからの伝言で、『今回あなたが使ったのは二月分よ。もう少し自分を大切にしなさい。それとたまには顔を見せてね』って」
その言葉を聞いたと同時に、オレは再び姉さんに電話をかけていた。
プルルルルルッ!
プルルルルルルルッ!
しばらくして『お掛けになった電話番号は、現在電波の届かない所にいます』というメッセージが流れる。
おそらく再びオレが掛け直すことを見越して、携帯電話の電源を切ったのだろう。
「ちっ」
軽く苛立ち舌を打つ。
ふざけるなよ。いくら姉さんでもこれだけは許せないぞ。
オレに直接言うのならむしろ嬉しいことなのだが、わざと舞華に伝言として言わせるのだから始末におえない。
しかも分かりやすいように、
『今回』
『あなたが使った』
『二月分』
『自分を大切にしなさい』
などと連想しやすいヒントになるワードを並べて言いやがった。
何を考えてるんだあの人は。このことは、オレが第三者には知られたくない隠し事だとあの人もよく知っているだろうに。
今すぐにでもあっちに帰って、説教を小一時間ほどしてやりたい気分になった。
「どうしたの?」
心配したように、ひょいっとオレの顔を覗きこんでくる舞華。その仕草に少しだけ怒りが和らぐ。
「なんでもない。ちょっと思う事があっただけだ。気にしないでくれ」
苦笑いしながら誤魔化した。
しかし、その誤魔化しが意味を為さないことに気が付いてしまう。
舞華は納得してくれたにも関わらず、藤十郎がオレを険しい表情で見ていたからだ。この様子だと多分、姉さんの言葉の真意に気付いてしまった可能性がある。
オレは藤十郎に向けて『黙っててくれ』とアイコンタクトをはかった。
それを受けた藤十郎は複雑な表情を浮かべた。それでも構わず送り続ける。
それでようやく藤十郎は根負けしたように頷いた。
それにより一先ず安心した。舞華にはこの秘密を絶対に知られたくはない。
「舞華。オレは当主と話があるから二人きりにしてくれないか?」
この件については藤十郎にだけでも話しておいた方がいい。万が一の為にもそう提案した。
「……それは私が居たらできない話なの?」
きゅっと服の端を掴む震える手。僅かに揺れる瞳。
またオレが何も告げず、居なくなってしまうのではないか。舞華からはそんな不安が見てとれた。
「心配すんなって。今はただ当主に大事な話があるだけだから」
「……どんな話なの?」
尚も舞華は食い下がる。どうやら絶対にオレの側から離れないつもりでいるらしい。
やっぱり信じてもらえないようだった。一度失った信頼を取り戻すのは難しい。
「それじゃ約束しよう」
「約束?」
舞華はその言葉に不思議そうに首を傾げた。
それに対してきちんと誠意が伝わるように、しっかりと舞華の目を見て話す。
「ああ、約束だ。オレは二度と勝手に舞華の前から居なくならない。お前が望んでくれるのなら、オレはずっとお前の隣に居るよ。だから……一度だけオレを信じてくれないか?」
その言葉に舞華は一瞬だけポカンとしたものの、顔がみるみる真っ赤に染まっていく。
「そ、それ、プ、ププロ、ポ……!?」
オレの突然の誓いに、舞華は困惑したらしく、人語すら喋れなくなったらしい。
プシューと音を立てて、完全にショートしてしまっている。なんでそんな反応をしているのか分からないが、もう一度頼み込んだ。
「約束は絶対に守る。だから今は、当主と二人だけで話をさせてほしい」
舞華は、首が落ちてしまうのではと心配になるほどブンブンと激しく縦に振った後、すごい勢いで走って部屋を出ていった。
一度扉を開けて、本当に舞華がいなくなった事を確認してから、藤十郎に向き直る。
これからする話はかなり重大な話だ。表情を引き締めて意識を切り替えた。
「それじゃ、大事な話をしましょうか」
「うむ、なかなかに見事なプロポーズだったよ。舞華を嫁にやろうじゃないか」
はい、シリアスタイム終了。重大な話にも関わらず出鼻で挫かれた。
この馬鹿当主がいらんボケをかましたせいだ。
こちらは真剣な話をしようとしていただけに、すごく腹立たしかった。今なら、一回くらい思いきり殴っても許されていいに違いない。
「なにやら君から不穏な空気を感じるのだが」
冷や汗をかきながら焦ったように藤十郎。そんな藤十郎に笑いかける。
「気のせいだと思いますよ。それよりも知ってますか? 最近の若者は随分とキレやすいって。もしかしたらオレも、うっかり手が滑って、偶然にもこの屋敷を丸ごと潰しちゃうかもしれませんね」
拳をバキバキと鳴らしながら、藤十郎に黒い笑みを携えて近付いていく。
「待ってくれ! 私が悪かった!」
対して激しく狼狽し始めた藤十郎。
銀氷の牢獄、神喰らい、白の世界、刀剣創者によって創られた無数の黒剣。あんなデタラメな魔法の数々を見せられ後だと、本気で焦るのは無理ない。
「本当にそう思ってますかね?」
「あ、あぁ、もちろんだとも」
首がが落ちてしまうか心配になるほどブンブンと縦に振って肯定する姿は、流石親子だと言いたいくらいに似通っていた。
心なしか、この当主の扱い方も分かってきた気がする。
「冗談はこれくらいにして、話を始めましょう」
藤十郎がポツリとこぼした、「君が言うと冗談に聞こえない」という発言をスルーして確認を取った。
「さっきオレに当てられた伝言を聞いて、何か気付いたことがあるんでしょう?」
ストレートに本題を切り出す。
今更いちいち遠回りするつもりは無い。どうせ気付かれている可能性があるのなら、隠し立てする必要は皆無である。
「君の魔法についてだ」
やっぱり気付いていたか、と内心で苛立つ。
姉さんがあれだけヒントになるようなワードをばらまいたんだ。勘が良い人なら気付くのも当然と言えた。
「で、どんなことに気付いたんですか?」
「君は魔法を使う度に何かを失う。根拠としては、さっきの伝言の『今回』は事件の事。『あなたが使った』は魔法。『二月分』は失ったもの総量。最後の『自分を大切にしなさい』というのはそれを決定付ける為のものといったところか」
それを聞いて、先よりも小さいながらも、ふつふつと怒りが込み上げてくる。
完璧にバレてるじゃないか。姉さんには本気で説教しないといけない。これはもう既に決定事項だ。
深く溜め息を吐いてから本当の事を説明する。
「正解ですよ。オレが魔法を使うには代償が発生します」
代償が発生する。そのワードに藤十郎の眉がピクリと動いた。
彼は硬い声で問うてくる。
「その代償とは?」
その眼光は嘘を吐くことは認めない。そう物語っていた。
「オレ自身の天命。いわゆる寿命ですね」
藤十郎は口を半開きにし、目をこれでもかというほど大きく見開いていた。
その顔は、兎を追っていたら獅子に出会ったかのような表情によく似ている。おおよそ当たりを付けていたものの、予想よりも重いもので驚いたに違いない。
「それでは君は今回の件で、寿命を二月分も失った事になるということなのか?」
「そうなりますね」
あっけらかんとそう返した。
その返答に藤十郎は酷く険しい表情になる。
「君は何とも思わないのかね」
ひどく圧し殺した低い声。
この質問にも馴れていた。オレの隠している秘密を知った人は皆、この問いをしてくる。誰しもが藤十郎と同じように険しい表情を浮かべながら、だ。
「何とも思いませんよ。所詮、一つの命に過ぎませんから」
今回は舞華を助ける為には魔法が必要だった。
だからオレは自分の命を使った。
だからオレは平然としていられる。
だからオレは一切後悔などしていなかった。
「ふざけているのか! 君は自分の命を何だと思ってるんだ!」
遂に藤十郎が怒鳴った。
その顔に浮かんでいるのは本気の怒り。それはオレを心配しての事だろうか。それとも考え方に対しての怒りであるのか。
どちらにせよ、それを前にしてもオレは冷静でいられた。
「それじゃあ、質問です。あなたの前に百人と百五十人の2つのグループがあります。その2つのグループの人たちは死に瀕していました。あなたには片方のグループを救える力しかありません。さぁ、あなたはどっちを救いますか?」
何の脈絡もない唐突な質問。その質問に藤十郎は怒りを圧し殺した声で返してくる。
「……なぜそんな質問になるんだ」
「いいから質問に答えてください」
オレの有無を言わせない口調に、藤十郎は渋々といった様子で答えを模索する。
「選びたくはないが、私なら百五十人のグループを助ける」
まぁ、それが妥当な選択だろう。
人間の命の価値は平等だ。だからこそ、藤十郎は数の多い百五十人の方を助けると言った。
「そうですね。そうすれば五十人分の命が多く助かる。では次の質問です。人数は変わりませんが、百人の側に舞華がいたとしたらどうします?」
舞華を含めた百人のグループ。さっきと同数の百五十人のグループ。
舞華を少ない方に入れただけで、質問の根本事態は何も変わっていない。そのどちらを救うのかという問い。
「そ、それは……」
その問いに藤十郎は言い淀み、結論がなかなか出せないでいた。
当たり前だ。人間の命の価値はどこまで行こうが平等だ。
しかし、感じる重さは違う。人間は自分の大切な人の命は何よりも重く感じ、無関係な人の命は軽く感じる。
自分の大切な人が少ない百人側にいる。それでも助ける側として正しいのは、もう片方の百五十人側の方。
それは藤十郎も頭ではきちんと理解している。だからこそ自分の意思や感情が邪魔をして答えが出せれなかった。
「さらに条件を加えます。もう片方にも大切な人が居たとしたら?」
それでも尚、淡々と条件を追加していく。どこまでも最低で最悪な条件を。
「……選べるわけがないだろう」
藤十郎はさっきまでの怒りを忘れたかように弱々しく答えた。
どちらも選べない。それは当然だ。自分の大切な人を助けるために、自分の大切な人を犠牲になんて出来るはずがない。
それを分かっていてオレは質問した。そのまま質問を続ける。
「じゃあ、こうしましょう。もしあなたが自分の命をかけた場合に限って、大切な人がいる双方のグループ、つまり二百五十人全員を救えるとします。さて、どうしますか?」
「そんなの助けるに決まっている」
今度は即答だった。考えるまでもないとばかりに。
オレはその答えが欲しかったのだ。
「オレがしてるのは同じ事ですよ」
「――――っ!?」
藤十郎は言葉を失った。これまでの質問の意図がようやく分かったのだろう。
藤十郎は自分の命で、二百五十人が助かるなら助けると言った。オレは自分の目的や大切な人を守るためならば、命を削る事に躊躇いはない、所詮一つの命だと切り捨てた。
かなりの拡大解釈だが同じ事だ。自分の大切な者の為なら、自分の命は軽い。この二つはそれを雄弁に物語っていた。
「……君の魔法がなぜ命を削るのか教えてもらっていいかい?」
かなり無理矢理かつ強引でひどい話の転換。それでもそのまま話に乗ることにした。
なぜ命を削るのかという問い。もうここまで話したのだ。今さら隠すつもりはない。
「それはオレが神域だからです」
「神、域?」
聞き覚えのない単語に藤十郎は首を傾げた。
藤十郎がこのワードを知らないのは無理もない。この神域というワードを知っているのは神域である本人。またはそれに親しい者だけだ。
「神の領域に足を踏み入れた者。神の領域に達した者。それらに準ずる者の事です」
「神の……」
神の領域。到底理解出来ない言葉だろう。
「これは人間が振るうための力じゃないんですよ。だから人間が使えば代償が発生する」
神域の人間によって発生する代償は違う。オレの場合は自身の天命だったのだ。
「いったい、なぜ君が……?」
最後まで出てこない言葉。なぜ君がそんな力を宿しているのか。おおかたそんなところだろう。
「それはオレが、この魔法に対応する苦悩を抱えていたからです」
「対応する苦悩……?」
「ある者は目の前で最愛の人を犯され、その後にその人を無惨に殺された。ある者は目が不自由で何も見えない事をいいことに、さんざん道具として扱われた。ある者は周囲にいる全ての人間に寝ても覚めても暴力を振るわれ、次第に心を閉ざしていった。だからこそ自分の運命を、世界を、深く強く憎しみ、呪い、嘆き、哀しんだ。そして心に闇を抱え、枠を越えた力を得てしまった」
この言は全て事実だ。神域になった者は、誰しも心に消えることのない深いキズを刻まれている。
故に心の苦悩に対応した魔法を宿した。それが神域の人間だ。
「君はどんな……?」
オレの抱えている心。それは――――
「孤独です」
「……でも君には……君には舞華や姉がいたではないか」
確かにそうだ。オレの側には舞華や凛姉が居てくれた。
だが、それとこれとは別だ。
二人のオレを気遣うような態度。大切だと思っている二人から向けられたそれが、あの頃のオレにとっては辛かった。対等で在りたい相手からの情けほど、惨めに感じられるものは無い。
それ故にオレの心はぽっかりと穴が空いたように感じられ、どこまでも冷たくひえきり、いつも孤独だった。
それにこの魔法が発現したのは、その時期ではない。もう少しあとのことだ。
胸の中でそう反論しながら言葉を紡ぐ。
「一つ昔話をしましょうか」
その一言に藤十郎は訝しげな表情になるも、オレはそれを意に介さず話始めた。
「昔々あるところに孤独な神様が居ました。
彼は食べるのも一人、遊ぶのも一人、寝るのも一人、喋るのも一人、笑うのも一人、泣くのも一人。
何をするも毎日が内容もない、がらんどうな日々を送っていました」
藤十郎はオレの話に口を出さなかった。ただ静かにオレの話に耳を傾けていた。
それを確認したオレは話を続けた。
「彼は考えました。誰もいないのなら、自分が創り出せばいいと。
彼にはそれだけの力が有ったのです。
そして彼は創り出しました。人を、動物を、様々な生命を。
沢山の生命が犇めく賑やかな理想の世界を。
それが彼の唯一望んだものでした。
自分の望みが叶った彼は、ようやく孤独ではなくなります。
毎日が多くの存在に囲まれた楽しい日々。
それが来る日も来る日も続いた。
そんな中で、ある日に彼は言われました。
『私達は貴方に近付きたい。その力を私達にも分けて下さい』と。
彼は心から喜びました。
相手自らから、この自分に近付きたいと言ってくれたです。これが嬉しくないはずがありません。
彼は喜んで自分の力を分け与えました。
そして誰もが彼を自分を敬愛し、求めた。
それは彼にとって幸福の日々でした」
一度に喋り、喉が渇く。
一度話を切ったところで藤十郎は口を開いた。
「それはいい話ではないのか?」
今のところはそう感じられるだろうな。
淋しい孤独からの離脱。その後、周囲から敬愛されて求められた。いかにもハッピーエンドだ。
しかし話はこれでは終わらない。ここから始まるのだ。
オレはゴクリと唾液を嚥下し、喉を潤してから、静かに続きを語った。
「幾年経った時のことでしょう。
その幸福な日々は唐突に終わりまを告げました。
なんと彼は周りの全てに裏切られたのです。
いつの間にか周囲にとっては、自分達より強大な力を持つ彼の存在は疎ましく感じられるようになっていたのです。
彼を擁護しようとした者は皆殺され、彼もまた命を狙われた。
彼は心を許した者達に裏切られた事を深く哀しみました。
絶望の底に突き落とされた彼は、全てを諦めてしまいます。
絆を取り戻すこと、全てに抗うこと、そして何より生きることを。
それにより彼は力を奪われ、無力な存在へと成り下がってしまいました。
周囲はそんな彼を見て嘲笑った。
『お前には何もない。お前は常に孤独だった。何を勘違いしていたのだ』と。
裏切られた彼は、もう何もしませんでした。
彼には再び長い孤独という時が訪れた。
そんな彼は誰にも知られることなくひっそりと一人死にましたとさ」
オレは一頻り語り終え、一息吐いてから問うた。
「この話は本当にあった出来事の断片ですけど、最後まで聞いてどう思いました?」
「……私は可哀想な話だと思った」
可哀想、ね。その感想に心の中で苦笑いがこぼれた。まるで同情されたかのように感じたからだ。
「オレは魔力という力があったにも関わらず、魔法を使えないと知った途端に手のひらを返され、蔑まれ、そして捨てられた。もう一度聞きますが、どう思います?」
オレの言葉に藤十郎が、はっきりと息を呑む音が聞こえた。
片や孤独の中で力を使い、色々な者達に囲まれるようになった。しかし、疎まれた彼は裏切られて力を失ってしまう。そして孤独に戻り、その中で死んだ。
片や力を持つが故に周囲に持て囃された。しかし、その力には意味が無く、周囲の者達は手のひらを返して蔑み疎んだ。そして孤独になり、遂には捨てられ、死に瀕していた。
このどこか似通った二つの孤独。これこそがこの力を手にした由縁だ。
「だからオレにはこの力――孤独な神様と同じ『創造神』の魔法が宿り、契約を交わすことが出来た」
だからオレは、自分の魔法ではない創造の魔法しか使えない。だけど創造の魔法にて使いたい魔法を創造し、自分の意思でそれを扱う事が出来る。
その代償として天命がすり減っていくのだ。
これを知ってどう思っただろうか。藤十郎の方へと視線を向ける。
すると藤十郎は深く深く頭を下げていた。
「……本当にすまなかった」
そして謝罪を口にした。何かしらの感情を圧し殺した震える声。
そこには、
自分の考えが浅かった事に対しての謝罪、
心の闇を暴いた事に対しての謝罪、
同情した事に対しての謝罪、
それらの意味が込められた謝罪だった。
「顔を上げて下さい」
その言葉を受け、藤十郎は顔を上げる。
オレは藤十郎に向けて言った。
「オレの勝手な一人語りなんでそんなに気にしないで下さい。それに大丈夫ですよ。オレはもう救われてますから」
オレは今、笑えていると思う。
何しろオレにとって、希望の光とも言える二人の姿を思い浮かべているのだから。
「オレを救ってくれた二人は、オレに沢山のものをくれました。生きるための夢や希望。笑顔や温もり。返しきれないくらいに沢山のものを。だからオレはこうして笑って生きていられるんです」
二人が居たからこそ今のオレがある。天月に縛られたままで、二人に出会っていなければ、何も始まらなかっただろう。
「だからこそオレは大切なものを守るためにこの力を使いたい。この力を孤独なんかじゃない。もっと別のものを掴むために使いたい。そう思っているんですよ」
オレの胸に秘めた願い。これが成就されれば物語のように、たくさんの人が笑っていられる結末が訪れる。
オレにとって大切な人が。その人にとって大切な人が。さらにその人にとって大切な人が。
これから未来を憂いたり悲観せずに、みんな安心して幸せに笑っていられる日常。
それを叶える事が出来るのだ。だからこそオレはこの力には感謝している。
「……君は強いな」
藤十郎の小さな呟き。それが深く胸に染みた。
「オレ自身は弱いですよ。一人だと何も出来ませんでしたから」
オレには希望の光が側に居てくれる。オレにはたくさん貰ったものがある。
だからこそオレはこうして笑っていられる。
「オレの話はこれで終わりです。この話は内密に頼みますよ」
笑みを添えながら話を締め括った。
誰に、というのは藤十郎には言わなくても通じただろう。
これはあまり他人に知られたくはない。自分の心を知られるのが嫌なのと同時に、この思いは胸の内に留めておきたいからだ。
「約束しよう」
「ありがとうございます」
姉さんが何を思ってわざと知られるように言ったのかは分からない。だけどその事にはきっと何かしらの意味があるからこそ、そうしたんだと思う。
全てを藤十郎に話し終えた今ならそう思えた。オレはその意味をここにいる間に見つけたい。
「オレは日本に残ることにしました。これからもよろしくお願いします」
「……うむ。君もようやく舞華の婿になる決心がついたようだな」
うんうん、と、しきりに頷いている藤十郎。
その行動を見て、オレの中にある何かがプツンとキレた。真剣な選択をしたにも関わらず、藤十郎は最後の最後でボケをかましやがったのだ。
しんみりとしたこの空気を、自分なりに拭い去ろうとしたのだろう。だが、それは冗談の選択ミスだ。
やっぱり一回くらい屋敷ごと潰しといた方が、今後のためにもなるはずだ。
「天をも切り裂く黒――――」
「待ってくれっ! 私が悪かったからっ!」
「本当にそう思ってるんですかね?」
ジト目で問うオレに対して、首をブンブンと縦に振る藤十郎。
早くもこのやり取りに馴れてきた気がする。
出来れば今日中に一章を終わらせます
時話、あまりの悲劇気取りさに主人公が叩かれるかも?




