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理想世界の想像者  作者: 夜兎守
1章【Unexpected encounter】
21/71

白銀の戦意

お読みいただいている読者の皆さん、ありがとうございます。


さて、本作品についてですが、タグに『厨二』を追加しようと思います(*´∀`)


当分、主人公が無自覚で自虐しまくりの悲劇気取りしてて、「イラッ☆」っとくるかもしれませんが、これからも生暖かい目で読んでやって下さい


 

 オレは目元を覆って嘆息した。


「……最悪だ」


 今、視線の先に映っている光景。


 それは複数の残党たちだった。

 見た感じおそらく五十人以上の敵が居る。つまり残りのほぼ全員。


 これを最悪以外の言葉で表せるだろうか。

 いや、この言葉以外あり得ないだろう。


「ネズミは見つかったか?」

「いえ、まだです」

「早く見つけろ! 奴らはまだこの工場の中に居るはずだ!」


 どうしたものだと頭を抱えていると、敵の会話が耳に届く。


 その会話を聞く限り、オレたちが侵入していること事態は既にバレているようだ。どうも時間を掛けすぎたらしい。


 出口へ向かうにはここを通らなければならない以上、どうやら闘るしかない。


 オレは限りなく小さな声音で二人に告げた。


「オレが一人で闘ります。貴方は天堂を頼みましたよ」

「東雲君!?」


 舞華の悲鳴にも近い叫び。その顔は驚愕に染まっていた。


 まぁ、一般の人間から見たらこの人数を一人で相手するなど正気の沙汰じゃない。


 だが、それは一般からの視点だ。オレはその一般の枠に当てはまらない。

 この件に関しては魔法が使える以上、オレは力を振るえる。だからこそ簡単には負ける気はなかった。


 少なくとも八割方は潰してみせる。そうすれば残りの敵は、藤十郎一人でもなんとかなるだろう。


 そう判断しての発言だったが、舞華は心配そうな顔でこちらを見ていた。


「そこまで心配そうな顔すんなって」


 舞華の頭の上にポンっと手を置いて、軽く撫でる。


「オレなら大丈夫だからさ」


 安心させるように微笑んで、もう一撫でしてから意識を切り替えた。


「さてと、そんじゃ、とっととやりますかね。これが終わったら、美味いものでもご馳走して下さいよ、当主殿?」


 そう藤十郎へと軽口をたたき、自らを鼓舞した。


 ふざけるのもここまでだ。非日常は日常へと変わり行く。


 敵はまだこちらに気付いていない様子。それなら先手必勝かつ短期決着がベストな選択である。


「それじゃ、いくか」


 呟きと同時に、身体強化により何倍にも引き上げた身体能力で瞬時に飛び出し、一瞬にして敵との距離を詰めた。


 そして、適当な獲物に狙いを付け、勢いを乗せた拳を振り抜いた。


「ぐぁっ!」

「がぁ!」


 手近に居た五人の顎を順番に手足による打撃で打ち抜いて、五人とも壁際まで吹き飛ばす。五人は白目を剥いて、ドサッと音をたたて地面に倒れ込んだ。


 当然その中心にいるオレには、多々なる視線が集まりつつあった。


 そこに威圧感の類いは感じられなかった。


「な、何なんだお前ぇは!?」


 敵の一人がオレに向かって叫んだ。それを皮切りに、周りにいる奴等が一斉に殺気立つ。


 オレはそれを意に介さず、周囲の敵をぐるりと見渡した。


 そうして、安堵の息をつく。


 こいつ等はあるがままの感情を剥き出しにして、本来すべき行動に移せていない。


 一対複数人の戦闘。

 定石ならば、己たちの役割に適した陣形を組むなり、囲んで叩くなり、それなりの方法をとるはすだ。


 にも関わらずこの体たらく。精々、素人に毛が生えた程度の烏合の衆と断定せざるおえなかった。


「この程度の連中に策を巡らそうとしたオレが馬鹿だった。これなら強行突破で十分じゃねぇか……」


 口から思わず本音がこぼれてしまう。


 それを耳ざとく聞き付けたらしい。


「ざけんじゃねぇ! 風刃ウインドカッター!」


 敵の男が怒鳴りながら風の魔法を放ってきた。

 それも魔法の詠唱を省いて、だ。


 魔法の詠唱を破棄して発動出来る者は数少ない。

 魔法とは詠唱することを基盤とし、その魔法の持つ特色をイメージすることから始まる。その後、イメージを己の魔力に乗せて世界に顕現させ、事象を改変させる技術。

 前段階の詠唱と魔法名の詠唱があって、初めて十全な効力を発揮する。


 よって、詠唱こそが魔法発動の鍵とも言えるだろう。


 それを無しに魔法を発動させた。最後まで詠唱したものと比較すると威力は劣っているであろうが、余程修練していなければ出来ない技法だ。


 連中の評価を上方へと修正する必要があるらしい。


「魔法の詠唱破棄なんて、よく覚えられたな。MP(マジックポリス)のライセンス持ちでも出来ないやつの方が多いんだぞ」


 それだけぼやき、オレはその場から動かず、あえてその身に魔法を受けた。


 沸き上がる魔法の余波を腕を薙ぐことによって振り払い、自分が無傷であることを敵に知らせる。


「なっ、なんだと!?」


 敵の顔に狼狽の色が浮かんだ。相手方にとっては、それほどに型破りなアクションだったと見える。


 今は見た目や効果重視の強力な魔法など必要ない。

 

 身体強化によって魔力を纏った身体は、それ自体に魔法への対抗力も付く。

 転入初日で起こった模擬戦。その際にした魔法の無力化。その延長に位置する。

 例えるならば、魔法に対する擬似的な鎧だ。


 自分の長所を生かした、絶対の一。それこそがこの場を静める最大の武器となると確信した。


「オレが魔法を避けるとでも思ったか? いちいちそんな面倒なことするはず無いだろ」


 オレは避けることが最善であると分かっていて、その行動を破棄していた。


 それは次々と迫り来る魔法を一つ一つ回避に徹していれば、自分の攻撃に繋がらないのはおろか、無駄な体力を消費するという、負のスパイラルに陥るからだ。


 つまりは避けなければ無駄な体力を使わず、攻勢に回れる。

 身体強化した肉体ならば、ある程度は防護の役に立ち、同時に敵を倒すための手段となる。


 それに加えて小さからぬ動揺を引き出すことになるのも一因だ。

 動揺は混乱を、混乱は不安を、不安は恐怖を誘発していき、結果、無と置き換えていいほどに白に染まる。

 そして人は未知に対して何も考えることが出来なくなってしまう。


 現に目の前の集団は行動を停止して、愚かにも棒立ちしてた。


「お前たちも見ただろうが、オレの固有魔法は魔法を消す魔法だ! お前たちの魔法はオレには効かないぞ!」


 口端をつり上げて全体に響く大声でそううそぶいた。同時に後ろから迫り来る魔法掻き消し、手を広げながら周囲にいる相手を威圧してみせる。


 変化は目に見えるほど顕著に現れた。


 たかだか言葉の威圧に対して、かなりの者がたじろぎ、中には背中を見せた者まで居たのだ。


 だいの大人が高校生に脅されて、無防備に逃げ惑う姿のなんと情けないことか。


 この程度の連中に日本のMPは何をしていたんだと問いただしたい。職務怠慢にもほどがあるだろう。

 それを良しとしているのならば、MPなど辞めてしまえ。


 オレは二重の意味で呆れながら言った。


「さっさと終わらせてもらうぞ」


 残党は残り約五十人。残り魔力は四割程度。全員がこのレベルだとしたら余裕だ。


 身体強化により強化された脚力で床を蹴る。


 それを合図としたように複数の魔法が一斉に飛び交った。


 それはオレに狙いを付けて発動した魔法ではない。あくまでオレが来たから遠ざけるために反射的に使った。それだけの強い意思のない無意味な魔法。


 こんなのじゃ敵が何人いようが、魔法が何発向かって来ようが全く関係無い。


 迫りくる魔法を拳で弾き、脚で蹴り墜とすことで無力化する。地道にだが、着実に手近に居る敵を一人、二人と少しずつ無力化していった。


 その最中で魔法の詠唱を口ずさむ。


「創りしは万物を断ち切り、世界の理を斬り伏せる至上の刃なり」


 左手に銀色の刃を持つ一振りの刀が現れた。その上に更に詠唱を重ねる。


「共に在りし汝にを与える。その銘は――重複する傷剣(ペインレペティション)


 銀色をした刀身から変質した、夕闇色をした両刃の黒剣。


 その黒剣を使い、斬る、斬る、斬る。手当たり次第に敵を斬っていく。


 敵は悲痛な叫び声を上げて倒れていく。


 しかし、それだけだ。

 肉体を一切付けることなく、凝縮した痛みを一瞬という間に斬った対象に感じさせる能力。この能力のお陰で敵の体には一つ足りとも外傷は見当たらない。


 藤十郎の出来るだけ外傷を減らせという面倒なオーダー。このオーダーを守るのにこれほど適した魔法はないだろう。


 斬る、斬る、斬る。縦横無尽に駆け回り敵を斬り裂く。


 その数が二十を越えた頃、変化が起きた。


「歳は見た感じ十五、六の辺りか。実力もそれなりにある。歳の割には上々だ」


 敵側から称賛の言葉が掛けられたのだ。


 その声の主は集団の中からゆっくりと歩み出てきた。


 身長は百九十センチ前後。分厚い胸板と広い肩幅、服越しにでも分かるほどに隆起した厳めしい筋肉。

 インテリらしき副リーダーの男と真逆で、この男からは獰猛、それでかつ洗練された鋭い雰囲気が滲み出している。


 一目で分かった。明らかにこいつは他のやつらとは違う。


 警戒を最大に強め、いつ襲い掛かってきてもいいように身構えた。


「お前、相当に強いな」


 ズシリと重みのある低い声。その声は強靭な鋼を連想させる。


 男は笑みを浮かべながら、こちらへと向かってくる。


「………………」

「お前、仲間になる気はないか?」


 男の口から出た言葉はまさかの勧誘であった。現在進行形で相対している敵を勧誘するなんて突飛にも程がある。


「なんの冗談だ? そうやって油断させようってか?」

「本気だ。お前を仲間に迎えたい」


 一部の間もなく答えられる回答。


 オレがこいつらの仲間になる? 笑わせるんじゃねぇよ。

 オレが動く理由。オレはただ自分の不文律に従って動いているだけだ。


 幼馴染みの舞華に手を出した。だからこそ気に入らない。


 それだけあればこいつ等を害虫と見なし、駆除するには十分過ぎる理由だった。


「素敵なお誘いどうもありがとう。だけど断らせて貰うぜ。オレは屑の仲間になるつもりは毛頭無いからな」

「それは残念だな。気が進まないが、仲間にならないなら殺すしかない」


 男は口では残念と言いながら、全く残念そうな素振りを見せていない。最初からオレがどう答えるのか分かっていたのだろう。


 男はどこまでも楽しそうに笑っている。

 オレも挑発するように笑った。


「あんたにオレを殺す事が出来るのか?」

「それなら確かめてみるといい」


 その声が聞こえた時には、既に男はオレの眼前で拳を振りかぶっていた。


 頬を拳で強く殴打される感覚が骨に響く。


 身体強化で魔力を纏っているために、防御力も普段の何倍も上がっている。それをもろともせず、オレは後方へと勢いよく吹っ飛ばされていた。


「ってぇな……」


 じんわりと感じる鉄の味。どうやら今ので口の中を切ったらしい 。直ぐに体勢を立て直し、口に溜まった血を吐き出した。


「どうだ? これでも無理そうか?」


 たった一度の接触。これだけでこの男がどのくらいの力量なのかが分かってしまう。


 男がしたのはただの身体強化。


 それは自身の肉体と魔力のかけ算だ。

 元々の肉体が弱くても、纏う魔力が強ければ身体能力はその数倍にもなる。

 元々の肉体が強ければ、纏う魔力が弱くても身体能力は同じように数倍になる。

 もちろん両方兼ね備えている場合は、言葉にするまでもない。圧倒的かつ爆発的に身体能力が跳ね上がる。


 この男は肉体と魔力の両方が秀でているタイプの魔法師で間違いない。

 さっきの動き出しが全く見えなかった。気付いたら目の前に居てそのまま殴られ、後ろに吹っ飛ばされていたのだ。


 これは非常にマズい。正直なところ、消耗した今のオレなら良くて相討ち、最悪負けるという、かなり不利な勝負になる。


 これまで培った直感がそう告げていた。


 ツゥーっと嫌な冷や汗がこめかみを垂れ、下へ下へと流れていく。


「どうした? 顔から余裕の表情が消えたように見えるぞ?」

「冗談にしては笑えるな。あんたごときにオレが負けるわけないだろ」


 そう言いつつも、どうすれば打開出来るかを頭の中で模索する。尤も、これといって良い案は浮かばない。


「闘ってる途中に考え事してる暇はないぞ!」


 男は身体強化を施した脚で踏み出した。

 瞬く間にオレとの距離を詰め、再び拳を振りかぶる。


 それに対して、更に魔力を纏う事で先程よりも身体強化を強めた。それによってこの男の動きにもギリギリで反応出来るようになる。


 男の拳をいなし、男が完全に振り切った所で腕を掴んで体ごと引き寄せる。そのまま空いた腹に膝蹴りを入れた。


「ぐっ……!」


 男は苦悶の表情を浮かべるも、直ぐに体勢を立て直し、殴り掛かってくる。

 それを頭をあえて突き出すことで勢いが乗る前に殺し、額で受け止めた。鈍い痛みが残るも、殴られるよりは大分マシだ。


 その後オレはバックステップで一度距離をとった。させるかとばかりに距離を詰めてくる男。


 そこから始まるのは拳の応酬だった。顔を殴られては殴り返し、腹を殴られては殴り返すの繰り返しだ。


 他の敵メンバーも、そのやり取りを呆けたように眺めている。


 男が一際大きく拳を振り上げた。そこから勢いよく降り下ろす。


 重量の乗りきった拳の鉄槌。それを掠める形でどうにか避けた。


 次の瞬間、ズドォォォォォン! 


 拳で殴ったと思えない程の轟音と共に、地面が粉々に粉砕された。


 あと少し避けるのが遅かったら、オレも巻き込まれて終わっていたかもしれない。


 回避後、その体勢のままでいた男。

 オレは直ぐ側にあった男の顔を思いっきり蹴り飛ばした。男はその場で耐えきれずに吹っ飛んでいく。


 このまま終わってくれればそれでいい。

 そう願うが、残念ながらこの程度では叶わないようだ。男は口から血まじりのツバを吐き、立ち上がる。


「なかなかやるな。もしかしたら負けるかもしれん」


 そう言いつつも、楽しそうに笑っている男。その佇まいに嫌な予感がした。


 双方はお互いの負わしたダメージにより、すでにボロボロになっている。そんな状況で笑ってられるってことは何かしらの余裕を保っていられる強みがあるということだ。


 それこそ、切り札(ジョーカー)と言って遜色ないほどの何か。

 もしそれが大規模な攻撃系の魔法だった場合、オレは限りなく負けに近付くことになる。


 今現在の魔力残量はおおよそ三割程度。この状態で強力な魔法が来た場合、防御に回してしまえば、それで即終了だ。


 自分の底が見えかけている事を知られないために、余裕を装って提案する。


「だったら諦めて降参したらどうだ? この場にはオレだけじゃなく、天堂家の当主もいる。あんた程度じゃ、足掻いたって勝てやしないさ」

「そんなことはどうでもいい。せっかく骨のある奴に会えたんだ。全力を出さないでどうする」


 次の瞬間、男に変化が起きた。男の拳の回りに、黒いもやのようなものが纏わり付き始めたのだ。

 蔦のように男の腕に絡み付き、ざわざわと領域を広げていく。


 しかし、それから先の変化は見られなかった。

 あくまで拳に黒い靄が纏わり付いているだけにしか見えない。


 これが男の隠し持っていた切り札。

 その効力がどんなものか分からない。形状は靄とあやふや。用途も不明。目に見えて効果が現れている様子もない。


 あれが何かも分からない状況で近付くのは無謀だと判断し、小手調べ迄に魔法を使うことに決めた。


「燃え盛る炎よ、焼き払え――火炎球(ファイヤーボール)


 炎属性の基本たる下位魔法。詠唱によって現れた直径二メートル程の火球を男に向かって放つ。


 ……男はその場から動かなかった。これまで魔法を無力化していたオレのように悠然として、ただ手を前に翳して立っていた。


 然るべくして火球は男に着弾する。


 だが。


「……マジかよ」


 目の前で起こった信じられない光景に渇いた呟きがもれる。目の前のに立っている男には、傷が一つとして見当たらなかった。


 そのこと事態は別に問題ではない。

 元よりかなりの密度の魔力を纏って身体強化をしているのなら、放った魔法を無力化されるのは分かっていた。


 だけどそれがより大きい魔力によって掻き消されるという意味でならだ。


 だが、この男は違った。オレが放った魔法を吸収した(・・・・)のだ。


「どうだ? 俺の強制強奪(オーバードレイン)は」


 強制強奪。それがこの黒い靄の正体である魔法の名称なのだろう。


 これはおそらく固有魔法。分類するなら特殊防御系に分類される。効力は見たところ魔法の吸収といったところか。


 大体のあたりをつけていると、


「来ないのか?」


 男は余裕の笑みを浮かべる。オレはそれに対して再び炎の魔法で答えた。


「無駄だ」


 オレが放った炎の魔法は再び全て吸収されてしまう。


 今なら自分と相対した者の気持ちが分かる気がした。


 それはかなり面倒の一言に尽きる。戦闘中に自分の魔法が消されることほど厄介な事はない。


 それは魔法が意味を成さなくなるからだ。魔法師の持つ魔法というアドバンテージが失われれば、魔法師は一般人と大差ない。

 そうなれば近接戦の心得がない魔法師は、実戦に於いては木偶同然となる。


 尤も、それは近接戦の心得がなければの話。


 オレには近接戦の心得が有る。


「それなら!」


 先程の二倍近く大きい火球を一発放ち、そのすぐ後ろに付いて男に接近した。


 火球はやはり吸収されて消えてしまうが、本命はこっちだ。


 遮蔽物による目隠し(ブラインド)からの一撃。


 男との距離を詰め、がら空きの腹部へと拳を突き立てた―――が、それは男の手に掴まれることによって阻まれてしまった。


「やっぱり勘違いしているな」

「なんの――」


 なんのことだよ。そう言おうとしたところで異変が起きた。


 身体に纏っていた魔力がなくなっているのだ。


「勘違いしているようだから教えてやる。この強制強奪は魔法を吸収する魔法じゃない。この魔法は、魔力自体を吸収して奪い、自分の物にする魔法だ」


 明かされる魔法の特性。その内容に空いた口が塞がらない。


「それにこいつはこんな事も出来る」


 男の手が近付いてくる。それを後ろに下がる事で回避しようとした。


 だが、離れることは叶わない。オレの手は、男のもう片方の手によって掴まれているからだ。


 男は魔力を纏って身体強化をしている。

 オレは魔力を奪われて身体強化が解けている。


 これでは勝負にすらならない。文字通りに赤子の手を捻るようなものだ。


 男の大きな手はオレの頭を掴んだ。


 そして、軽々と持ち上げられてしまった。


「ぁぐっ……」


 ギリギリと頭を強く締め付けられ、苦悶の声が口から漏れる。


 拘束を解こうと身体強化を施そうとするも、魔力を吸収されままならない。

 それどころか、使われていないはずの残留魔力までが失われているようだった。おそらく今もこの男に吸収されているのだ。


「気が付いたか? この魔法は人間から直接魔力を奪う事も出来るんだ。残念だったな、魔法を消す魔法とやらが発動すらできなくて」


 オレの戯れ言をこの男は信じていたようだが、そのようなことは最早どうでもいい。


 問題は別だ。オレの残留魔力は刻々と減り出した。


 ゆっくりと確実にゼロに近付いていく。


 魔力が完全に無くなる。この場でそれだけは絶対に避けたい。


「は……な、せ」


 痛みのせいで喋ることすら儘ならない。辛うじてその一言だけ口にすることが出来た。


「お前が仲間になるっていうのが条件だ。もし仲間になるのなら解放してやる」


 そこで出された条件。


 仲間になればこの痛みから解放される。もうこいつと闘わなくて済む。この条件を呑む事が今回の騒動の、現在最も近くにある結末だろう。


 ……それでもオレは、自分の不文律は破るつもりは毛頭ない。


 ペッとツバを吐いてから、切れ切れに言った。


「こと……わ……る」

「……残念だ」


 男は今度こそ心底残念そうだった。


 同時に魔力の吸引速度が上がり始めた。さっきまでのようにゆっくりとではない。急激に無くなっていく。


「こ、の……」


 必死に抵抗するが男の手は放れない。


 残りの魔力が一割を切る。


 それでも男は止めない。


 残りあとわずか。


「く、そ……」


 もう身体強化を施すだけの魔力もない。


 やがて。


 オレは抵抗することを諦めてしまった。


「これで終わりだ。お前の魔力は全部いただいた」


 遂にオレの魔力がゼロになる。


 バキンッ!


 何処からか金属製の鎖が無理矢理に引きちぎられたような甲高い不愉快な音が響く。


「中々楽しかったぞ。だから……もう死ね」


 男はその音に気付いた様子もなくそう告げて、オレをさっきオレが飛び出した側の壁に向かって投げ捨てた。


 それといった抵抗も出来ず、オレは派手に壁へと突っ込んでいく。


 ぶつかる強い衝撃。余りの勢いにオレが突っ込んだ壁は崩れ出して、土煙が宙を舞う。


 視界を覆う遮蔽物に身が覆われていく。


 そんな時。


 近くで誰かの切迫した悲鳴にも似ている叫び声が耳に届いた。


「東雲君っ!」


 ぼんやりとした意識のなか、オレは―――

のちにストーリー内で触れるかもですが、一応ここでも説明しときます


「○○○○――△△△△」

と、厨二チックな前文と魔法名で詠唱するのが完全詠唱

「○○○○」や「△△△△」

と、どちらか片方だけで詠唱するのは詠唱破棄

「…………」

前文も魔法名も無しに魔法を発動するのが無詠唱です


上から下に行くに連れて難度が上がっていきます

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