魔法の発現
オレは三人に向けて、安心して見送れるように笑んだ。
「そんなに心配しなくても大丈夫。なんせオレは最強だからな。誰が相手だろうが、誰にも負けねぇよ」
そして、彼らの返事を待つことなく歩を進めていく。
大きく開けたフィードには、しびれを切らした天城院。それと困りきった顔をした教師が立っていた。
「やっと来たか、劣等種」
天城院は変わらずの様子。本当に他の言葉を本当に知らないのかどうか不安になってくる程だ。
当然、天城院をナチュラルにスルーし、教師に話しかけた。
その際に「無視すんじゃねぇ!」と怒鳴っているがそれすらもスルーした。オレのスルースキルは一級品だ。この程度ではものともしない。
「すいません、転入したばかりで色々疎いので、できればこの模擬戦についての説明してもらえないでしょうか」
なぜか珍獣でも見るかのような顔をされてしまう。
「どうかされたんですか?」
「……いや、なんでもない。それでは、これから簡単に説明させてもらう。まず、フィールドについてだが、ここには特殊な結界魔法が張られている。そのお陰で、この結界内では肉体へのダメージは完全に遮断されるようになっているから、怪我の心配はしなくていい」
「それじゃ受けたダメージはどこに行くんですか?」
「魔法や物理的に受けたダメージは、精神の方へと蓄積される様になっている」
随分と便利な魔法を開発したものだ。肉体ダメージを精神ダメージに変換する結界魔法か。
実に個人で発現させてみたくなる魔法だ。頭の中のメモ帳に二重丸をして記しておく。
「当然、蓄積されれば、耐えきれず気を失うこともある。それに痛覚も消えるわけではないから、勘違いしないように」
「それって不味くないですか? ほら、ショック死とか」
「もちろんその対策もとられている。それでも痛いことにはかわりないんだから無理はするなよ、絶対だぞ」
そう強く念を押された。
心配してくれるのは有難いが、やはりオレが負ける前提で話を進めている。本当に泣きそうになってきた……
「分かってますよ、無理はしません」
内心を隠しつつ答えてから、体をほぐすために軽くストレッチをする。
「お前はその格好で闘うのか?」
「はい、まだ着替えをもっていないもので。それと最後に武器の使用について教えてもらえませんか?」
「武器は魔法によって作られたものならば使用は認められているが、補助用の武器なら学園側の許可が必要になるぞ」
「分かりました。色々教えていただきありがとうございました」
大まかなことを把握し、十分にストレッチをしてほぐしてから、模擬戦を始めてほしい旨を伝えた。
「それではこれより模擬戦を開始する。どちらかが戦闘不能になった時点で決着とする」
教師はそれだけ言って、戦闘の邪魔にならないようにオレたちから距離をとる。
「それでは両者構えて――――試合開始!」
高らかに宣言される始まりの合図。
それとは別に気にしなければならない方のことに気を割く。
「頼むから、約束は守ってくれよ?」
オレは一つの魔法を使った。
「虚実の霧よ、全てを隠せ。真実も嘘も、全て偽れ――濃霧の包幕」
瞬間、オレを中心に立ち込める深い白い霧。それは瞬く間に広がっていき、オレと天城院を囲うようにして現れた。
満遍なく覆われたフィードには二人きり。これで外からの視認と介入を防止することになる。
どうやら当分の間は、自由に魔法を発動させることができるらしい。今回は十全に魔法を使えそうだ。
「おい、これはなんのつもりだよ?」
この場にいるもう一人が訊ねてくる。
「決まってるだろ。オレは闘ってる姿を誰にも見られたくないんだ」
人に見せるには目の毒だからな、と声に出さずに付け足す。
こいつは徹底的に潰すと決めている。今回、オレが魔法が使える以上、その光景は人に見せられたものじゃない。
しかし、天城院は言葉の意味を取り違えてしまう。
「あんだけほざいといてよく言いやがる」
言葉の意味を『オレがボコボコにされるのを見られないようにした』と素敵で的外れな勘違いをしていた。
それを裏付けるように、馬鹿にするような笑みを浮かべている。
オレは勘違いの可笑しさに笑いながら、はっきりと言葉にして伝えてやる。
「こっちの方がお前には都合がいいと思うぜ。なんせオレにやられるところを誰にも見られずに済むんだからな。ありがたいと思えよ」
「上等だ!」
これからどうなるかも知らず、威勢よく吼える天城院。
あんだけ他人を見下してたんだ。日本有数の天族の実力がどの程度のものか試させてもらう。
天城院は手をかざし、魔法の言葉を紡ぐ。
「炎よ、焼き払え――火炎球」
天城院の手のひらから大きな火球が放たれた。
それぞれの魔法には下級、中級、上級と三段階が設けられている。下級から上級に向かうにつれ、難度も性能も上方へ変わりゆく。
火炎球。この魔法は名の示す通り、超高温の炎の球を敵に向けて打ち出し、焼き尽くすものである。
この魔法は下級に位置しており、炎属性の適正さえあれば誰にでも使える、基本的な炎の魔法の一つだ。
ありふれた魔法でも、天族が使えば相当なものだった。手のひらから放たれ、こちらに飛来する火炎球は直径三メートルほどか。
本来の火炎球に比べて、倍以上も大きなものだと言えた。
「まぁ、流石は天族ってところか」
魔法の性能は、魔法自体の性能も重要だが、やはり大事なのは扱う魔法師自身だ。
魔法というのは、大雑把に例えるなら魔力を具現化させるものである。そこに様々なプロセスが加わり、性能を十分に発揮する。
つまり、元の基礎となる魔力が高ければ、性能もあがってくる。基本である下級魔法でここまでのモノを出せることから、天城院は一般水準よりも上位に位置する魔法師だと評価できるだろう。
オレは一直線に目掛けて飛んでくる火炎球を横に跳躍することでかわした。この魔法は直線上にしか効力を及ぼせないため、避けることは容易い。
しかし、それだけで終わるはずもない。
「おらおら、気ぃ抜くなよ!」
かわした先にも放たれる火炎球。それも大きく跳躍することでかわすも、天城院の攻撃の手が止まることはない。
かわした先に何度も放られてくる火炎球は、まるで今相対している天城院のように、鬱陶しく、面倒だった。
「どうした、この程度で限界なのか?」
火炎球を避ける最中、天城院の不愉快な声が耳を突く。このままいい気にさせとくのも癪に障った。
「冷たき壁よ、この身を守れ――絶氷の壁」
すぐさま詠唱して魔法を発動させた。
現れたのは、巨大な氷の壁。その氷の壁は、オレと天城院が放った火炎球を隔てるように聳え立ち、炎の脅威から身を守った。
絶氷の壁はシュウゥゥゥゥー、という氷が溶ける音がするも、未だに壁としての役割を果たしている。
「いいね、いいね、最高だ。ちったぁ出来ますってか? ……劣等種ごときが笑わせんじゃねぇよ! 螺旋の炎よ。敵を呑み込み、燃やし尽くせ――猛炎の渦!」
天城院が哄笑を上げながら発動したのは、中級に値する炎の魔法。膨大な熱量を孕んだ炎の塊が、螺旋を描きながら猛威を振るうべく迫ってくる。
そして、その魔法は数発の火炎球を防いでいた絶氷の壁を呆気なく溶かしきってしまう。
「おいおい、どうしたんだよ? 自慢の壁が消えちまったぞ?」
見ているだけで不愉快さを感じさせる笑みを浮かべながら、天城院は再び同じ魔法を放ってくる。
実際、腹立たしいことだが、今のオレが発動させれる絶氷の壁では、こいつの中級以上の炎の魔法は防げないようだ。
炎と氷。考えるまでもなく相性が悪かった。もちろんどちらが、なんて言わなくても分かるだろう。
「本当に面倒くさい奴だな。……やっぱり、いつも通りにやるか」
最早、防御は無意味。魔法での防御を諦めたオレは、動きを止め、その場で立ち尽くすしかない。
天城院はその様子に粘り着くような笑みを深めた。
放たれる魔法。迫る螺旋を描く炎は、静止を選んだオレをついに飲み込んだ。
その炎は確かな熱量を持ち、焼き尽くさんとばかりに唸りをあげ、身体を蹂躙していく。
「ひゃはははははっ! あっけねぇ! あっけねぇな、おい! この程度でよくあんな口が利けたもんだ!」
轟々と燃え盛る炎の音とともに響き渡る嘲笑。
その顔には、弱者をなぶる快楽に溺れた悪魔のような壮絶な笑みが浮かんでいる。
が、その悪魔の哄笑は一つの声によって断ち切られることになった。
「随分とぬるい炎だな。避けて損した気分だ」
「なっ……!?」
冷めた声と同時に炎が消し飛ぶ。
「おいおい、どうした? 自慢の魔法が消えちまったぞ?」
何が起こったか理解出来ていない天城院に、さっき言われた言葉を皮肉を込めて返してやった。
「黙れ! この劣等種が!」
自分の言葉をそっくりそのまま返された天城院は怒りに身を任せ、何度も何度も同じ魔法を発動した。
幾重にも奔る炎のラインが一点を目指して押し寄せてくる。
その対象となっているオレは、怯えるでもなく、叫ぶのでもなく、ただただ静かに炎がこの身に迫るのを待っていた。
そして、炎が手に届く範囲に入った瞬間――――腕を薙いた。
「なんで、だよ……」
腕を薙ぐ。たったそれだけの動作で、氷の魔法を破った魔法が消えていた。
「随分と呆気ない。この程度でよくあれだけの口が利けたもんだな」
またもや同じ言葉を返す。
「調子に乗んじゃねぇよぉぉぉっ!」
オレの挑発に乗り、魔法を本能に任せて打ち出しまくる天城院の目には、ある種の感情が垣間見えていた。
「少しは学習しろよ」
薙がれる腕。天城院の放った全ての魔法は、役割を果たすことなく霧散していく。
「くそっ、なんで、なんだよ……なんで……!」
未知であろう出来事を目の前に呆然と呟く天城院。
あれだけ調子に乗っていた天城院が混乱し、一つの感情が大きくなっていることに満足したオレは、タネを明かした。
「分からないなら教えてやるよ。オレが今したのは、魔力を使った身体強化だ」
それは魔力を体に纏う事によって、身体能力を何倍にも引き上げることができる魔力を応用した技法。
だけど今回は少しだけ使う用途が別にあった。
「魔力はより大きな魔力の前では意味を成さない。今のは、お前が使った魔法に込められていた魔力より、オレが纏った魔力の方が圧倒的に上だった。だからオレの腕に触れたお前の魔法は掻き消えた。思ったより簡単な話だろ?」
魔力はより大きな魔力の前では意味を成さない。互いの属性の相性にもよるが、基本的にその定義は揺るがない。
オレの出したのは氷。天城院が出したのは炎。だから相性で負けた。
だが今度は視点が違う。圧倒的質量の魔力を纏った腕で、それ以下の魔力量の魔法を薙いで掻き消した。
大元を辿れば同じものであるのだから、当然大きな方が勝つ。
自転車と大型トラックが衝突すれば、大型トラックが勝つのと同じ道理だ。
けれども。
実際、理論上では単純なことだが、普通の人は誰もこんな愚行はしない。一度でもミスをすれば、自分は無防備なまま多大なダメージを負うことになり、それが敗北や『死』に直結する。
それを考えるならば、完全に避けきるか、魔法を使って対抗するのが正解である。
そんな中でもオレがこんな方法をとるのには理由がある。
一つ目は、オレ自身が持っている馬鹿げた魔力量である。魔法を掻き消す為には多量の魔力が要るが、元々尋常でない量の魔力を宿しているオレにはなんてことはない。相手や規模によるが、それを補って余るほどにはある。
二つ目に、オレはあまり魔法を使いたくないからだ。その理由は他人には知られたくない。
まぁ、なんにせよ重要なのは、オレは魔法を掻き消すことができるということだ。
自分の魔法が消えたことに天城院は茫然自失として立っていた。
「やっぱり口だけか。少しは天族らしい魔法を見れると思ってたのに、お前にはがっかりだ」
これ以上続けても、意味はない。すでに勝敗は決していた。
天城院が魔法を放って、オレが掻き消す。それが何度も続き、途中で魔力切れで天城院が倒れる。
それが目に見えている間近なビジョン。だけど、オレはそれをよしとしない。オレはまだ何もしていない。
「今度はオレの番だ」
天城院に聞こえるように告げた後、一つの魔法を発動した。
「創りしは万物を断ち斬り、世界の理を斬り伏せる至上の刃なり」
本来は詠唱と魔法名から成る魔法の行使。
だが、オレがしたのは、魔法名も名乗らないただの詠唱。しかし詠唱だけでそれは事足りた。
空いていた左手にずしりと重さが加わる。今、オレの左手に握られているのは―――
「か、刀……!?」
「ご名答。これは刀剣創者っていう固有魔法だ。なかなかに珍しいだろ?」
刀剣創者――――それは己の魔力を媒体として自由に刀剣を創り出す固有魔法の一つ。世界にも数えるほどしかない希少な魔法の一つだった。
天城院の震える声に短く答え、天城院の方へと歩を進めた。
「く、来るな! 来るんじゃねぇよ! 鋭き雷よ、我が元に集いて敵を貫け――雷の貫槍!」
ようやく放心状態から脱した天城院が発動したのは雷の上級魔法。槍を型どった雷が、凄い早さで迫ってくる。
「無駄だ」
その程度では脅威にもならなかった。迫ってくる雷の槍を手にした刀で斬り伏せる。
天城院の放った魔法は、真っ二つになり、容易く霧散してしまう。
「お前に本物の魔法ってやつを見せてやるよ」
刀を持っていない右手を天へと掲げる。
「天をも切り裂く黒き雷鳴。死を告げる轟音と共に此処に来たれ――黒天の鳴動」
詠唱の終了と共に手を降り下ろした。呼応するかのように、黒い雷が天から一筋、地へと落ちる。
ズガァァァァァァァァァン!
大地を揺らす程の衝撃音。その後に残ったものは、底の見えないどこまでも深い穴。魔法によって穿たれた大きな穴だけだった。
「これが魔法だ。分かったか?」
これはオレが編み出した雷属性に類する魔法で、オレが扱う魔法の中でも、脅しとして使うことに最も適している魔法の一つである。
効果は至って覿面。雷によって深く穿たれた穴を見て、顔を青く染め上げてガクガクと震えだした。
「さぁて、これで的当てでもするか?」
そう言いながら一歩、また一歩と恐怖を煽る様にわざとゆっくり近付いて行く。
それにつれて、天城院も怯えながら一歩、また一歩と後ずさっていく。
「冷たき壁よ、この身を守れ――絶氷の壁」
今度は防御のための発動ではない。天城院の後退する進路を塞ぐために発動した。
「ひぃっ……!?」
壁にぶつかった天城院は情けない悲鳴を上げて、壁を背にしたまま尻餅をつく。
後ろへ後退出来なくなった天城院は這いずりながら右へ行こうとする。
それをまたも絶氷の壁で塞ぐ。
今度は左へ這いずる。
それも塞ぐ。
最後に残されたのは、オレの方へ進む選択肢のみの一択。
「や、やめろ。く、来るな。オレが悪かった」
天城院の媚びる様な言動が再び苛立ちと不快感をもたらす。
「都合がいいこと言ってんじゃねぇよ」
前方も壁で塞いで前後左右を囲み、完全に天城院を隔離する。それから唯一空いている上側に向かって刀を放った。
「降りしきれ」
ただ、そう呟く。それだけで投げた刀が複製され、隔離されている天城院の頭上へと幾本も降り注ぐ。
聞くに堪えない悲鳴を聞きながら、更に呟く。
「砕け散れ」
その言葉と共に四方を囲んだ壁が、天城院を下敷きにして崩れ出した。
ほどなくして崩壊の音が止み、場を包むのは静寂。天城院は完全に沈黙していた。
これで模擬戦はオレの勝ちで終わったということになる。さっさと退場するか、と魔法を解こうとして、天城院に言っとかないといけない事があったのを思い出す。
……って事は、あの自意識過剰でウザイ天城院の所まで行かないといけないのか。
そう思って目を向けるが、自分がやったとはいえ、山積みになった氷の破片を見てげんなりした。
この破片の山の中から天城院を発掘しなければならないのだ。魔法を解けばいい話と思うかもしれないが、今解けば周囲を覆っている霧も消えてしまい、これからしようとしていることが出来なくなる。
「面倒い……」
そう呟きながらも、えっちらおっちらと掘削作業をしていると、割とあっさり天城院を堀り当てた。
天城院はオレの魔法から受けたダメージで気絶しており、オレが自分で引っ張り出さざるおえない。面倒だと感じながらも、氷片の山から離脱させる。
引っ張り出したは良いが、一向に目を覚ます気配はない。……それなら無理矢理に起こすしかない。
「冷たき水よ。敵を穿て――水球弾」
出力を最低まで弱め、天城院に被せた。
力加減を間違えないように、地味に気を使う。一歩間違えば、完全に死者に鞭打ちの状態だ。
やるのなら起きていた時にした方がスッキリするだろう。
不穏な事を考えながら、それを三度繰り返した所で天城院はようやく目を覚ます。
「ゲホっ……ゲホっ……」
「やっと起きたか」
それを確認してから身体強化を身体に施し、天城院の頭をアイアンクローの要領で掴んで持ち上げた。
「ィギッ……は、放せ……」
苦痛に顔を歪めた天城院は、オレの手を両手で掴むようにして逃れようとする。
「ジタバタするなよ。面倒いから」
抵抗しても無駄なことを分からせるために、掴んでいる手に力をかけた。
「わざわざ起こしたんだ。きちんとオレの話を聞いてくれよ?」
そう前置きをしてから、言いたいことを言う。
「確か始める前にさ、力の差がどうのって言ってただろ? それについてはどうだった?」
天城院はその問いに答える事が出来ない。オレの手が額をギリギリと締め付けているせいだ。
それでも喋り続ける。
「オレもこういう時にはさ、お前の言う力の有る無しは重要だと思うんだ。今の場合に当てはまる暴力っていう力が無かったら、お前みたいに他人を見下す屑な奴等を徹底的に叩き潰せないからな」
更に額を掴む手に力をかけていく。
「オレはお前みたいに、他人を見下して害する奴等がこの世で一番大嫌いだ。そういう奴等には一切の容赦はしない」
オレは人間の価値には上も下も無い対等なものだとオレは思っている。
ただし、そこに例外は存在する。他人を見下し、差別し、食い物にする。そして自分の欲望のままに動き、奪い、侵し、殺す。
この内一つでも該当する屑な奴には、オレはそいつと同じように徹底的に差別し、同じように扱い、理不尽な力で捻り潰す。
それに加えて、自分で正しいと思う事を成し遂げる時や大切な人を護るためならば、オレはどんな代償があろうがこの異端な力を使うことに躊躇しない。
それがオレの決めた、自分に課している唯一無二で絶対の不文律だ。
「最後に覚えとけよ? オレは自分の大切な人を悪く言われたり、傷つけられることが何よりも許せないんだ。それが今回の引き金になった。今回はこれだけで済ましたけど、次はこんなもんじゃ済ませないぞ」
自分の意思を告げてから、掴んだ天城院の頭から手を離す。天上院はそのまま地面に引かれるように崩れ落ちた。
その顔は「こんなはずじゃなかった」と語っている。
「ったく、どいつもこいつも……」
その慢心や傲慢さがあるからこそ、今の現状に陥っていることに気付いていない。
なまじ天族というネームバリューがあるために自然とそう育ってしまうのだろうが、結局のところ壁にぶち当たってしまえばそれまでだ。自分の思い通りに運ばず、停滞してしまう。
と言っても、まぁ、オレには一切として関係のないことだ。どうせもうこいつと関わることもないだろう。
そう判断して魔法を解いて、刀と氷の残骸、フィールドを包み隠していた白い霧を消した。
「これで終了っと。ホント、オレが魔法を使えたらよかったのにって、無いものねだりするのは仕方ないよな」
模擬戦を終えたオレは、大きな欠伸を噛み殺して伸びをする。
今日は精神的に疲れた。さっさと家に帰って、甘いものが食べたい。
それが初の模擬戦を終えての感想だった。
わぁぁぁぁぁぁぁぁ! 一斉に多くの声援と拍手が響き渡る。
それはこの場に居た全員が、オレの勝利を祝福してくれているように感じられたのは気のせいではないだろう。
大きな声援と拍手と共に、オレの初めての模擬戦は幕を引いた。




