模擬戦
ということで、午後の授業に入ります!
内容はサブタイトル通り、模擬戦です!
構成上またもや長くなりましたが、どうかお楽しみください(*^^*)
昼休みが終わり、午後の授業が始まった。
今日の午後の五・六限目は、まるまる全部が実技の授業に当てられている。
今オレが立っているのは、数々の運動施設に隣接している大きなドームで、魔法訓練所と名付けられている場所。
そこは魔法を使った実技の授業のために作られたドームで、強力な魔法を使用しても構わないようにかなり広く、頑丈な素材で出来ているらしい。
また余談だが、一学期末にある期末試験は幾つかの科目のペーパーテストに加えて、魔法の実技に関するものもあるらしく、その時にこの場所を使用するとのことだ。
その時には本格的に魔法を用いて戦闘をするらしく、一学期で一番盛り上がる一大イベントだと言っていた。
そんな場所に来てから八分が経過。
ようやくオレ以外の全員が着替えて集合した。
それから担当の教師を聞くため、ぐるりとと囲って円状になり、教師の指示を待つ。
「これから実技の授業を始める。今回の授業では一対一の模擬戦を行う。対戦相手が決まった者から随時戦ってもらおうと思う。模擬戦をしていない間はしている者から、自分に足りないものを学べるようにしっかりと見ていること」
教師の言葉に生徒達は「はい」と返す。
それを確認してから教師が「それでは今から各自相手を探してもらう」と言い、生徒達はすぐに動き出した。
一対一での模擬戦。秋人の言った通りの内容だ。
さっそく舞華を探すべく周囲を見回した。
が、如何せん人数が多いせいでなかなか舞華の姿が見つからない。
ていうか今気付いたが、明らかにクラスの人数よりも多い。
「確かクラス全員で二十六人だったはずだよな? なのになんでこんなにも人がいるんだ?」
うろ覚えだがそのくらいだったはずだ。だが、今ドームに集まっているのは確実に倍近くはいた。
オレの疑問には秋人が答えてくれる。
「それは二つのクラスが合同で授業しているからだよ。一つのクラスより、合同で授業した方が出来ることの幅も増えるし、一人一人の勉強にもなるかららしいよ。ちなみに合同になるクラスは変わることもあるから、覚えておくと役に立つかもね」
「へぇー、色々と考えてるんだな」
学園側も色々と工夫していることが垣間見え、思わず感心した。
そんなことより早く舞華を探さないとマズイ。
その考えが顔に出ていたのか、または秋人が鋭かったのかは分からないが、再び秋人が口添えした。
「天堂さんを探すなら、もう少ししてからの方が見つけやすいよ」
どういう意味だ? と考えていたが、しばらくして秋人の言葉の意味が理解できた。
犇めく大衆の生徒たち。各自で移動しながらペアを探している最中、ポツンと一人だけ動かずに突っ立っている奴がいた。
よく見ればそれは舞華であった。
そして、周囲は誰も近付こうとはしない。とどのつまり、完全に周囲からあぶれているらしい。
「……なるほどな」
誰にでもなく一人ごちる。
やはり、直接的に実力が反映される授業では、ただでさえ天族ってだけで一歩引かれてるものが二歩も三歩も引かれてしまうのだろう。
その光景を見て苛立ちが込み上げてくる。
花が自分で咲く場所を選べないように、自分では誰の子供として生まれるかは選べない。故に人間には生まれた環境に異差が生じるのは当然のことだ。
それでも全員が全員に共通している事がある。それは一人一人が同じ人間だということ。
人によっては様々な個性はあるかもしれないが、結局の所は上も下も無い対等な価値だとオレ自身はそう思っている。
だが、世の中はそれを是としない。
才能や実力、家柄、権力、財産。それらの要素だけで簡単に人に価値をつけようとする。
現に目の前で起こっているのも、舞華が天族だからという理由で、彼女を敬遠してるからこそ起こっている現象に他ならない。
オレはそういうのが大嫌いだ。
周囲に対して感じる苛立ちを内側に留めながら、舞華に近寄り声をかけた。
「よっ、天堂」
すると舞華もこちらに気が付く。
「東雲君、どうしたの? 早くしないと相手が居なくなっちゃうよ?」
舞華はどこか寂しそうな表情しながらも微笑みを浮かべている。その笑みは、舞華自身これは仕方ないと諦めているように感じられた。
手を伸ばせば届くからしれないものを自分から諦めている。そのことがオレの事でもないのに堪らなく嫌で腹立たしかった。
だからオレがやることは一つしかない。
諦めている舞華の方へと手を伸ばし、無理矢理引っ張り上げてやる。
昔と違う『東雲恭弥』としてのオレが舞華にしてやれることには限度がある。その分、これから先のために一つでも彼女の助けになりたかった。
昼に続き、舞華の瞳をしっかりと見ながら、再び彼女に申し込んだ。
「オレと模擬戦してくれないか? オレも相手がいないないから困ってたんだ」
発したその言葉に周囲に居た奴等がギョッと驚いたような反応を示す。
そんな周りの反応を無視して、舞華の気持ちを確かめた。
「天堂さえよければ、オレの相手になってくれないか?」
舞華は目を見開いた。それだけ舞華にとっては驚きが大きかったようだ。
それからの沈黙。舞華はオレの言葉に悩んでいるように見えた。
それでいい。オレが舞華に与えたのは、彼女自身が相手を選ぶ権利。ここで是にしろ、非にしろ、自分の気持ちを表に出すことが次の一歩に繋がる。あとは彼女の気持ち次第だ。
舞華は小さな口で自分自身の気持ちを紡ぐべく、震える口を開いた。
「東雲君がいいんなら、私も東雲君がいい。東雲君が私の相手になってほしい」
振り絞った声。ぎゅっと閉じられた瞼。そして、告げた気持ち。
その選択が舞華自身で進んだ、これからの切っ掛けになる新たな一歩。舞華はその一歩を踏み出した。
勇気を振り絞った舞華に向け、オレは柔らかい笑みを送る。
「そんなに緊張しなくてま大丈夫だって。もう友達なんだから、お互いに気楽にいこうぜ」
「う、うん、ありが――」
舞華が何かを言おうとした。
しかし、そこで彼女の声は途絶えてしまった。
まったく聞き覚えのない不愉快な声によって。
「なーにが大丈夫だよ。友達だよ。笑わせんなよ、劣等種の分際で」
「あ?」
視線を向けた先には、グレーの髪をこれでもかと言うほどにワックスが何かでツンツンに立てた、目付きの悪い男子生徒。
そいつは他人を見下すような嘲笑を浮かべて立っていた。
「……こいつ誰?」
いきなりの不愉快な闖入者に顔をしかめながら訊くと、舞華も同じような表情をしながら答えた。
「……天城院雅貴。彼もこの学園にいる天族の一人よ」
「ってことだ。分かったか? 劣等種」
初対面にも関わらず、初めから他人を見下した傲慢な口調と態度。どこまでも他人を馬鹿にし、蔑む。
目の前にいるのは、自分が優れていると思っている人間の典型的なパターンであり、一番嫌いなタイプの人間だとすぐに分かった。
いつかオレを捨てた天月の人間のように。
こいつが目の前にいる。たったそれだけで苛立ちが募っていく。
オレはあくまで嫌悪感を包み隠さずに天城院に問うた。
「で、そのお偉い天族様が何の用なんだ?」
「お前みたいな劣等種に用なんてねぇよ。俺が用があんのはそこの天堂舞華だ」
天城院はオレの方へゴミでも見るかの様な視線を向けた後、舞華の方へ視線を動かした。
「なに?」
視線の対象となった舞華は不快げにキツイ視線を返す。彼女は天城院に対して、嫌悪感を包み隠そうともしていなかった。
天城院は舞華の視線を正面から受け止めるも、反応を気にした風もなく、自分の要求を命令口調で端的に告げた。
「お前が俺の相手になれ」
「いや」
考えるもなく舞華はバッサリと切り捨ててしまう。
まぁ、当たり前だ。こんな奴に命令口調で言われて「はい、喜んで」なんて言うやつが居るわけない。
もしいたとしたら、余程の被虐趣味者かネジの飛んだ奇人くらいだ。当然の如くそんな性癖を持ち合わせていない舞華は、関わらないでオーラ全開で天城院を突っぱねた。
「大体、私の相手はもう決まってるの。貴方が目の前にいるだけで不愉快だから、早くあっちに行って」
何かこいつにまつわる嫌なエピソードでもあるのだろうか? そう思えるほどに舞華の言葉には容赦がない。舞華にしては意外な一面だ。
「あん? お前の相手ってのは、もしかしてこの劣等種の事か?」
クイッと親指で指してくる。
……舞華の言う通り、目の前にいるだけで不愉快な奴だった。その指ポッキリと圧し折ってやろうか。
「そうよ。分かったらどこかに行って」
舞華の言葉に天城院は深くため息を吐く。
「おいおい、よく考えてみろよ。そこにいるのは劣等種だ。天族の相手が務まるわけねぇだろ」
「だとしても私が貴方の相手になる理由はない。それに天族だから何なの? 少なくとも私はそんな肩書きなんてどうでもいい」
天城院は先程よりも大きなため息を吐いた。
「まったく、昔から全然成長しないとか馬鹿にもほどがあるだろ。そうやって劣等種と馴れ合ってれば、『欠陥品』が戻ってきてくれるとでも思ってるのか?」
やれやれと下らなそうに首を横に振る。
ブチリ、何かが切れる音がした。
「うるさい! あいつは関係ない! それに『欠陥品』でもない!」
「魔法が使えない上に逃げ出した奴を『欠陥品』以外になんて呼べばいいんだよ。それとも、お前も『欠陥品』といる内におかしくなったのか?」
分かりやすい挑発の言葉。次の瞬間、怒号と魔力の渦が空気を震わせた。
「何も知らないくせに知ったようなことを言わないで! 冷徹なる氷よ、我がもとに集え! 願うのは絶対なる凍結! ここに全てを凍てつかせる永久の氷を――希氷の祈り!」
その瞬間、舞華による魔力を媒体とした魔法の行使によって世界は改変された。
世界に拡散している多くの魔法師。その中でも日本国内に限定。日本の象徴たる天族の家系には、それぞれ得意な分野の魔法があるとされている。
ある家系は炎の魔法を得意とし、またある家系は氷の魔法を得意と謳う。それは遺伝からなるもので、家系によって得意な魔法は異なっている。
例をあげるのなら、オレが居た天月家は最も炎の魔法に特化した一族である。他の属性を使える者もいるが、やはり一番得意としているのは炎の魔法である。
それ故に日本国内では、最も炎の魔法に長けていると言われているほどだ。
そして、舞華の家系の天堂家は最も氷の魔法に特化した一族。天月と同じく、日本国内では氷の魔法において、彼女の一族に敵うものは少ないだろう。
そんな舞華の発動させた魔法。
激しく吹き荒れる吹雪。
一部の隙もなく凍てつく地表。
舞華の背後に現れた無数の氷槍。
この一瞬にして、これだけの事象の改変を行っていた。
突然の舞華の魔法の発動に、周囲は恐怖の悲鳴を上げる。
それは当然だ。舞華の発動させた魔法は尚も規模を広げ、周囲まで飲み込もうとしていた。
やがてその魔法の矛先は天城院に向かう。全ては敵を凍てつかさんとするように。
それを見て、「これなら楽しめそうだ」と天城院は口元を歪めて笑う。相当なネジの飛びようだ。
次第に張り詰めていく空気。空気が冷たいというのもあるが、この刺すような凍てつきはそれだけではないのだろう。
不穏な空気が漂う中。オレがするべき行動といえば……
「とう」
舞華の脇腹を人差し指でツンとつつく。
「わひゃぁっ!?」
途端に上がる舞華の珍妙な悲鳴。オレはそれを聞きながら、更にツゥーと指を奔らせた。
「ふあうぅっ!?」
あがる二度目の珍妙な悲鳴。
素っ頓狂な声と共に、舞華の魔法が掻き消えていった。
まるで何かに飲み込まれるかのように消えゆく魔法は、細氷を散らしキラキラと輝いている。
「あ、あれ? 私の魔法が……」
自分の発動させた魔法が消えたことに目を瞬かせる舞華。
オレはそんな彼女の頭の上に拳を落とした。もちろんちゃんと手加減はしておく。
「い、いった~」
「これで少しは落ちつけたか、お嬢様?」
頭を抱えてうずくまる少女に問う。
すると、舞華は恨みがましく視線を飛ばしてきた。
「いきなり何するの!?」
「それはこっちの台詞だ。何いきなりバトルムードになってるんだよ。オレ達まで巻き込むつもりか?」
「うっ、だ、だって……」
ようやく自分が何を仕出かしたのか理解したらしい舞華は、まったくの正論を前に言葉をつまらせた。
オレは尚も説教を続ける。
「だっても何もない。あんな軽い挑発に乗って魔法をぶっ放すやつがあるか。少しは自分の立ち位置を理解しろ。後になってから後悔するつもりなのか、お前は?」
「で、でも、だって……」
言い訳をしようとする舞華に、オレは無言の圧力をかける。本来、素直な舞華はすぐに折れた。
「……ご、ごめんなさい」
「分かればいい」
オレの言葉にシュンと肩を落として消沈する。もう魔法を行使したり、天城院と闘う意思は無いように見えた。
これでこちらの消火はすんだ。あとはもう一人の馬鹿の処理をしなければならない。
くるりと振り向くと、もう一人の馬鹿は苛立ちを顔に湛えていた。
「ちっ、劣等種の分際で余計なことしやがる」
天城院は顔にだけでなく、自分の心を言葉にまで出している。非常によく相手の気持ちが伝わってきた。
とりあえずオレも同じように今の心情を言葉にしてみる。
「家柄しか取り柄のない屑が喋るな。せっかくの綺麗な空気が汚れて不味くなるだろ。環境破壊するくらいなら、地面にでも埋まって肥やしになってろ」
場を支配した驚愕混じりの重い沈黙。
原因はオレの発言だった。
……あらあらまあまあ、何てことだろうか。苛立ちのあまり、思わず汚い言葉を発してしまった。
紳士(?)にあるまじき行為だ。
でも、まぁ、いいか。
オレはこいつが気に食わない。
自分の思うことが何でも通っていることが。
自分の家柄が優れていることを理由に、他人を見下すことが。
なにより、舞華を侮辱したことが一番気に食わなかった。
それに大元に関わっているのも『欠陥品』のオレなのだから、この件を片付けるのも『欠陥品』がするべきだ。
だからささやかな種を撒いてみた。とっておきの言葉の種を。
「劣等種ごときが、誰に向かって口を利いてんだよ! 俺が誰か分かってんのか!」
天城院は待つまでもなく怒号をあげる。
案の定と言えばいいのか、あっさりと言えばいいのか分からないが、撒いた種は早くも芽を息吹かせたみたいだ。あとは何度も何度も水を注ぎ、芽の成長の経過を見守るだけ。
「知ってるよ。さっきも言った通り、家柄しか能のない屑だろ? あっ、それと今しがた女の子にフラれた可哀想な奴でもあるか。いくらフラれたからって、悪口ばかり言ってると、誰も相手にしてくれなくなるぞ?」
オレの言葉に天城院は、口をパクパクさせてアホ面を晒していた。
まさか自分がこのような罵倒を受けるとは夢にも思っていなかっただろう。ざまぁみろって感じだ。
しかし、イマイチ注ぐ水の量が足りていないようだ。まだ実がならない。
続けて水を注いでみた。
「今度は金魚の物真似か? ウケを狙うんなら、もう少しマシな芸をした方がいいぞ。ほら、お前の普通の顔とか。それなら十分に受けを狙えると思うぞ」
グッと渾身の笑顔でサムズアップ。ピキッと天城院のこめかみに青筋が浮かんだ。
ようやくオレの言葉が理解できたようだ。だんだん顔に怒りが表れてくる。
「劣等種が舐めた口利いて――――」
「だから喋るんじゃねぇよ。無駄に高いプライド持ちやがって。女の子にフラれたんだから、素直に布団の中で狸寝入りでもしてろ。まぁ、同情はするぜ。なんせ劣等種のオレに負けちまったんだもんな。これでお前も劣等種の一員だ」
ポンと肩に軽く手を乗せ、うんうんと頷いてそう言ってやる。
オレの言葉を聞く天城院には、さっき以上に青筋が更に増えていく。ちょっと多くて気持ち悪い。
「なんにせよ、お前みたいな奴が調子こいてんじゃねぇよ。お前ごときが百人いようが、オレの相手にすらなんねぇ……いや、やっぱり今のなし。お前みたいなのが百人もいたら、ゴキブリみたいで気持ち悪い」
ピキピキッ。青筋が一気に倍くらいに増えた。
その光景に対して感じたことは一つ。人間ってこんなにも青筋を浮かべられたのか。
これは新しい発見だ。っていうかやっぱり気持ち悪い。今すぐ目の前から消えろ。
そういった感想を抱いていると、天城院が吼えた。
「上等じゃねーか! そこまで言うなら力の差を見せてやる! 俺と勝負しやがれ!」
怒号混じりの挑戦状。これで全部思い通りになった。こんなにも簡単に撒いた種は実をつけた。
あとはそのまま収穫する作業だけだ。オレが天城院を潰すという単純な収穫作業を。
これで合法的かつ徹底的に叩きのめせる。思い通りに運んで内心ほくそ笑んでいると、天城院が何やら大声で喚いていた。
「聞いてんのか劣等種!」
あまりにも思い通りすぎて気が抜けていた。もう少し引き締めなければ。
「さっきから劣等種劣等種うるせぇな。それしか言葉を知らないのか? そんな無知で残念なお前には、オレが『惨めな敗北』っていう素敵な言葉のプレゼントをしてやるよ」
周りがさっきよりも騒がしくなっていた。どうやら注目を集めすぎたみたいだ。
「こっちにこい! 二度とそんな口が利けなくしてやる!」
天城院は相当に頭に血が上っているらしく、周囲を意に介すことなく開けた場所に一人で行ってしまった。
「……馬鹿は扱いが楽でいい」
オレはそう感想を漏らしたあと、舞華の方に向き直る。
そこには随分と丸くなったお嬢様がオレを睨んでいた。
……女の子に対して、丸くなったは失礼な表現か。まぁ、何が言いたいのかというと、舞華が「これでもか!」ってくらいに頬を膨らませていた。
その姿は大変可愛らしい。本人は怒りを表現しているのだろうが、むしろ逆だ。あのやり取りの後だと、すごく和まされてしまう。
これぞ癒し系マスコットってな。これなら『なんと驚きの二九八円。疲れたあなたも見るだけで癒されます!』なんて売り文句で商品化したら売れそうだ。
現在進行形で癒されながらも、オレは舞華の頬を両手で挟み込んだ。柔らかく、スベスベした感触に軽くドキリとするものの、そんな様子をおくびにも出さず、そっと圧力をかけた。
途端にプヒューと間抜けな音を立てて空気が抜けていく。空気の抜けた風船のように萎んでいった舞華は、元のサイズの顔にまで戻ってしまう。
途端に舞華はキッと睨み付けてきた。
「んっ!」
なぜかまた頬を膨らませたお嬢様。何をしたいのか分からないが、とりあえずオレも再び圧力をかける。
そして、プヒューと音を立てて萎む。
「むぅ~!」
三度目のトライ。舞華は空気が漏れないように口をキュッと固く閉じ、挑発的な視線を向けてきた。
なんか、本来の目的から逸れてないか?
そう思いつつも、ついつい手は動いてしまう。これまでと同じようにゆっくりと圧力をかけていく。
ギュッ、ギュッ、ギュッ。
あれ? 空気が抜けない。
「ふっふーん」
オレの心の声を読み取ったのか、頬を膨らませたまま、したり顔を浮かべる舞華。
そういえば、こいつって昔から変なところで負けず嫌いだったような気がする。オレが天月にいた頃は、ゲームにしてもかけっこにしても同じ感じだった。
じゃんけんでは負けても、ゲームの負けは認めない。
鬼ごっこで負けても、かけっこの負けは認めない。
昔はオレに負ける度に、もう一回もう一回と際限ないリベンジをよく申し込んできて、オレはその度に勝負したものだ。
それを思い出したオレは、負けるわけにはいかなくなった。今回も負かしてやることにしよう。
そう結論を出したオレは心を鬼にして、舞華を負けさせるべく更に圧力を強くした。
「んっんー!」
グッと圧力に耐える舞華。何がそこまで彼女を駆り立てるのだろうか?
「ほらほら、さっさと出しちゃえよ。そうすれば楽になれるぞ?」
「んんっ! んんっ!」
舞華は膨らませた両頬を挟まれたまま、いやいやと首を振る。連動して動く黒髪ポニーは、綺麗な弧を描きながら宙を左右に激しく揺れていた。
それもまたじゃれている仔犬のような可愛らしい魅力を放っている。
「いつまで待たせるつもりだ! 早くしやがれ!」
少し離れた所から放たれる天城院の怒号。せっかく和んでいたのに台無しだ。
オレは「はぁー」と大きなため息をつく。どうせなら、あんな馬鹿は放っておいて、舞華と遊んでいたかった。
だが、そうもいかない。なんせ故意に喧嘩を売らせて、更には買ってしまったからだ。
なんだか今更ながら面倒になってきた。それせいで出たため息だったのだが、勘違いした舞華は先ほどとは違い、表情を曇らせてしまう。
「ごめんね……。私が巻き込んだみたいで……」
「お前は謝らなくていい。謝るのはこっちの方だ。オレの方から頼んでたのに、結局ダメにしちまった。それにお前を止めといて、オレが喧嘩を買っちまったしな」
気にするなと、あくまでおどけて答える。
「ううん、今はそんなことより、一体どうするつもりなの? 彼はあれでも一応天族なんだよ?」
……謝罪をそんなこと呼ばわりされると地味に傷付くんですが。
「天堂さんの言う通りだよ。どうするつもりなんだい恭弥?」
落ち込んでいると、舞華とはまた別の声が訪ねてきた。声の主は秋人。いつの間にか武と共に近くまで来ていた。
「どうするって何がだ?」
曖昧な表現に困り、問い返すと、武が半眼で呻いた。
「おいおい、状況が分かってねぇのかお前は」
「それなら分かってるつもりだぞ。オレはこれから、あそこにいる馬鹿を叩き潰してくればいいんだろ?」
「簡単そうに言うけれど、勝算はあるのかい?」
訊いてくる秋人を含め、舞華も武も心配気な表情を浮かべていた。なんだか、三人共が、オレが不利な前提で話を進めているのは気のせいだろうか?
「なぁ、もしかして三人共、オレがあいつに負けるって思ってる?」
「そ、そんなことないよ」
と目を逸らしながら気まずそうに答える舞華。
恭弥のメンタルに百のダメージ! 効果は抜群だ!
「はっきり言えばそうだね」
と本心を隠さずに言う秋人。
恭弥のメンタルに九九九のダメージ!恭弥は力尽きた……。
「お前、喧嘩とか弱そうだし」
とズバッと本格的にトドメをさしにきた武。
恭弥さんはすでに力尽きてます! オーバーキルはやめて! これ以上は泣いちゃう!
三人の肯定とも呼べる返事にショックを受けていると、
「早くしろ!」
と馬鹿が大声で吼える。
うるせぇよ、バーカバーカ。オレのこの切ない気持ちがお前に分かるかよ。
そっちに行くまで黙って砂遊びでもしてやがれ――――とは思うが、いつまでも放置しとくわけにもいかなかった。
「A frog in a well doesn't know the big sea――ってな」
「何か言った?」
「いーや、なんでもない。独り言だから気にしないでくれ」
何気無くこぼれた呟きに舞華が反応するも、オレは苦笑いで誤魔化した。
それから三人に向けて、安心して見送れるように笑みを送る。
「そんなに心配しなくても大丈夫。なんせオレは最強だからな。誰が相手だろうが、誰にも負けねぇよ」
そして、彼らの返事を待つことなく歩を進めた。
模擬戦の話の一話目
ここで新たな天族の一員が出てきました
現状、『天月』『天堂』『天城院』ですね
また『天月』『天堂』両家の得意な魔法属性も明らかに
『天城院』は何の属性が得意なんでしょう?
次話、恭弥が魔法で無双します
いったいその魔法の真価とは……?




