望まぬ出逢い
またもや前後関係で話の長短のバランスがおかしくなってしまったΣ(-∀-;)
自分の未熟さに泣きそうです……
私立凪城学園では、午前に四限、午後に二限の計六限の授業日程で組まれている。
週五日間。その日ごとに割り当てられた授業を消化していくことになる。
今日は週始めの月曜日。午前中は一限目の数学から始まり、二限の物理、三限の世界史と続く。
魔法を扱わない学校にもある一般科目に関する授業だ。
はっきり言ってなんだが、今日習った範囲は一通り知識を取得しているので退屈にもほどがあった。なので内容は割愛させてもらう。
問題は四限目の魔法理論の授業。一、二、三限は物足りなかったが、この授業だけはオレの好奇心を大いに刺激した。
魔法理論とは名が示す通り、魔法に関する理論を学ぶ授業だ。今日の授業の議題はこれだった。
『世の中には、緩衝魔法や結界魔法などの人間が発動することの出来ない魔法がある。ではなぜ、意思を持たない機械が発動することが出来るのか』
これは特殊な魔法を作動させる装置を指して言っているらしい。
魔法に携わる以上、そういった技術があることは知ってはいたが、今まで気にも止めなかった些細な事だ。
それ故に理論的に考察したり、調べたりすることは無かった。そうなるからそうなる程度の理解度。つまり具体的なことは何も知らない。
だから、いざ自分で考えてみると難しかった。
教師が授業の内容を講義しているにも関わらず、話を聞き流しながら思考に没頭してしまう。
しばらくそうすることで一つの解が出た。
長い熟考の末に出た解は、それらの魔法が固有魔法の類いだからというものだ。
いきなり固有魔法とか言われても分からないだろうから、固有魔法について簡単に触れておこうと思う。
固有魔法とは、一個人が生まれつきに保有している魔法のことだ。故にその人だけの才能であり、他者に享受しようと決して使えることのない魔法。ざっくりと言ってしまえば、世界に一つだけしかない魔法と思ってもらってもいい。
はっきり述べるのならば、固有魔法を持っている人はオンリーワンで特別だと言える。
……まぁ、中には珍しい例として、同じ固有魔法を複数人が発現させたというケースもあるが、それを除けば本当に唯一の使い手だ。
固有魔法とはそれほど普通の魔法と違っており、使い手の少ない稀少な魔法である。
以上が固有魔法についての説明だ。
これでオレの考えは分かったはずだ。固有魔法に属する魔法だからこそ、固有魔法に類する緩衝魔法や結界魔法を使える人間が居ない。
対して機械なら話は別物だ。人工物であるものなら、構築、複製ともにでき、いくらでも魔法を発動することが出来る。
少なくとも、オレはそう結論付けた。
だがその推測は違っていた。
実際のところ人間の脳のスペックでは、緩衝魔法や結界魔法を発動する際に行う理論の構築や座標の指定、発動後の維持、使用する魔力の量や質、魔力の循環。これらの演算や行使が出来ないらしいのだ。
魔法はイメージが重要だと言われるが、今あげた要素もイメージの内の一つであり、この内の要素が一つでも欠けると魔法は発動しなってしまう。
そこで研究者達が考え出したのは、機械を用いて魔法を発動させる方法。人間の頭脳では到底無理な理論の構築や座標の指定などは、必要な情報を子細に入力することで。魔力については源さえ確保することさえ出来れば、後は機械が最適化して自動的に魔法を発動させてくれるという寸法である。
これだけ聞けばとても便利でいいと思うかもしれないが、便利な半面に当然デメリットも存在している。
そのデメリットとは、生産コストが高すぎることだ。この機械を一台作るだけで数十人の研究者が集まり、数年単位かけてようやく完成させることが出来る。
また金銭的な面をみると、一台作るのに二十億円以上と馬鹿にならない。
このデメリットが存在するために量産は不可。よって研究所や教育機関、軍事機関にしか支給されていない貴重なものらしい。
今日の授業で分かったのは一先ずそんなところだ。
一、二、三限のように既知の知識を学ぶのはとてもつまらないものだが、四限のように知らない知識を学ぶのはとても有意義で楽しい。
ようやくこの任務を受けて良かったと実感できることが二つに増えた。
もちろん一つ目は新しい友達ができたことだ。
なんたってオレには友達が少ないからな。……うん、自分で言ってて悲しくなったよ。
さて、長々と語っていたが、実はこの語りも一種の現実逃避だったりする。今オレはとても重大な危機に面していた。
現在は四限も終わり、時刻は十二時三十分。つまり昼休憩に突入している。周囲のクラスメイト達は、仲の良いもの同士で集まって弁当箱を広げたり、談笑していたりと様々だ。
それらの動きを見て、オレはどう昼休みを過ごそうかと考え初めた時、ふと気付いたんだ。――――昼食が無いことに。
色んなことで頭が一杯になっていたせいで、すっかりと失念してしまっていた。
昨日からの不運な出来事に続いて、つまらない一般科目の授業。そして今の出来事にがっくりさせられる。
とどめをさされたオレが体力気力共にゼロまで削られ、ぐったりと机に突っ伏していると、やたらとテンションの高いやつが近付いてきた。
「恭弥ぁー、飯食いに行こうぜー」
「どこにだよ……?」
オレが覇気のない声で答えると、武はテンションの高いまま、当たり前であるかのように言った。
「学食に決まってるじゃねぇか」
「ここ学食とかあるのか!?」
あまりにも大きな声を出したせいで、注目を集めてしまう。生命維持ともいえる食事が出来ないと思っていた矢先、学食があると知らされれば、武ほどとはいかないががテンションが上がるのは許してほしい。
昼食を確保したことに気が抜け、思わず声に出して呟いてしまう。
「はぁ、よかった……。昼飯抜くと午後は地獄だからな」
「ははっ、それには僕も同意かな」
近くに居たらしい秋人もオレと同意らしく苦笑いしている。それから時計に目をやり、時間を確認した。
「そろそろ移動しないと学食の席が無くなっちゃうよ」
その言葉に不可視の衝撃が奔る。
「武、秋人、今すぐ学食に行くぞ!」
「う、うん、そうだね」
オレが席を立ち、急かすと、武と秋人が若干引きぎみながらも頷いてくれた。
話もまとまり、学食に行くことが決まったオレ達三人は教室を出ようとする。
教室の扉をくぐり抜けようとした時のことだ。
「東雲君」
と、誰かに後ろから呼び止められた。
「ん?」
声の主の方へ振り向くと、そこに立ってのは舞華だった。
「私も一緒に行ってもいいかな?」
「オレは構わないけど」
オレ一人で決めるわけにもいかないので、二人に意見を求めようとしたが、彼らは彫像のように固まってしまっていた。
なんでこいつら固まってんだ? もしかして舞華みたいな美少女に話しかけられたから緊張してるとか?
まったくウブな奴らだな。
「おい、いつまでフリーズしてるんだ?」
固まっている武達の目の前で二、三度手をヒラヒラ振ると、ようやく硬直が解けたらしい。急に武が詰め寄ってきた。
「恭弥! お前どういうことだよ!?」
「なんのことだよ?」
「『なんのことだよ?』じゃねぇ!」
うるさいな。普通の声の大きさでも十分聞こえるんだから、耳元で大きな声出すんじゃねぇよ。鼓膜が破れたらどうしてくれるんだ。
大体なんでそこまで声を荒げているのかさっぱり分からん。オレはお前のテンションに全然ついていけないぞ。
武は変わらぬテンションで続けた。
「天堂さんから昼飯の誘いを受けてんだぞ!? 朝といい今といい、結局、どんな関係なんだよ!? どういうことか説明しやがれ!」
またその質問か。答えられない質問は出来るだけ控えてほしいものだ。
「それはだな……」
朝と同様に言い淀んでいると、舞華が割って入ってきた。
「東雲君は前に私が街で男の人に絡まれていたのを助けてくれたの。だから朝はお礼が言いたかったから呼び出して、それでその時にお昼をご馳走する約束をしたの」
あれを呼び出したとは言わないんだぞ。あれはある意味、拒否権の無い尋問だ。
と心の中でツッコんでいると、横に見事に騙された奴がいた。
「そ、そうだったんですか」
武の緊張混じりの声。
オレは盛大に吹き出す。いくら舞華が相手だからといって、緊張しすぎだろ。さっきまでのテンションはどこにいった?
「どうしたんだい?」
秋人がオレの様子を見て、不思議そうにしていた。
「いや、武の反応が面白くてな。ガチガチになって敬語とか似合わないと思わないか?」
「まあ、確かにね。と言っても、流石にあれはどうかと思うけど、基本的にみんなあんな感じだよ」
「そうなのか?」
つまり身分の違いから周りから一歩引かれてるってわけか。同じクラスの奴でこれなら、多分他のクラスの奴らはもっとひどそうだ。
かなり失礼な物言いだが、友達とか少ないんじゃないだろうか。
だけどもしそうなら、これはクラスメイト同士の距離を縮めるいい機会に他ならない。
舞華は自分の地位や力を誇示しないタイプの性格である。故に他の天族よりも親しみやすいはずだ。
それなのに馴染めていない理由としてあげるのなら、周囲の固定概念がそれを阻害をしているということ。だから、その固定概念を取っ払い、少しでも溝を埋めていけば、彼女を取り巻く環境は改善される。
まずはその一歩だ。
「お前達も天堂が一緒に来てもいいか?」
二人にそう訊くと、
「僕は構わないよ」
「あ、あぁ」
と舞華の同伴を肯定してくれた。
ちなみに武はまだ緊張している。その事に軽く呆れてしまう。少しは秋人を見習え。
「んじゃ行くか」
オレは先頭を歩き出す。すると秋人が一言。
「恭弥は学食の場所を知ってるのかい?」
投げ掛けられる言葉に歩む足は止まる。理由? 分かりきったことを聞かないでくれ。
「もちろん決まってるだろ。知ってるわけがないじゃないか。だから案内してくれよ」
と、仄かな羞恥を誤魔化すように堂々と言う。
「まったく君ってやつはアレだね」
「アレってなんだよ……」
「馬と鹿がくっついたやつだよ」
どうやら馬鹿と言いたいらしい。甚だ失礼なやつだ。顔を合わせて初日にして、遠慮なくディスってきやがる。
「そいつは武だけで間に合ってるさ。そんなことより早く行こうぜ。ゆっくり食べる時間が無くなっちまう」
「そうだね」
オレの言葉で三人は動き出した。
その最中、「誰が馬と鹿が合体した謎の生き物だ!」と抗議の声があがっていたが当然スルーした。残念ながら、やはりこいつは真性の馬鹿で間違いないようだった。
それはともかく。オレたち四人は廊下を歩む。
「天堂はよく学食で昼を食べてるのか?」
「ううん、時々だよ。いつもは家の人に作ってもらったお弁当なんだ」
「へぇ、やっぱり天堂の家だと豪勢な弁当なんだろうな。当然美味いんだろうし、少し羨ましいな」
「それじゃ東雲君の分もお願いしてあげようか?たぶん、東雲君の分のお弁当も作ってくれると思うよ」
「いや、流石に家の人に悪いからいいって。気持ちだけ貰っとくことにするよ」
てな具合で、歩きながらのコミュニケーションも忘れない。最初はぎこちなさがどうも取れなかった会話も、時間の経過に連れてほんの少しではあるが解けていった。
その間、オレはフォローに回りっきりだったのは言うまでもない。
しかし、それでいい。それが今のオレが舞華にしてやれる最善だ。
会話をしながら学食へ向かっていると、案外早く学食についたように感じた。
学食に着くと、武が指をさしながら分かりやすく利用方法を説明をしてくれる。
「恭弥、こっちだ。まず最初にここで並んで食券を買ってから、あそこのおばちゃんに渡して飯が出来るのを待つんだ。出来たら呼ばれるからそれを取りに行く。んで、食い終わったらやつあそこに持って行けば、後はあっちが片付けてくれるようになってる。分かったか?」
「ばっちりだ。説明してくれてサンキューな」
ちなみに武が説明している途中、おばちゃん呼ばわりされた御姉様方(ここ重要)がギロリとこちらを睨んできて地味に怖かったのは内緒だ。
説明が終わったことろで、食券を買うために四人で列に並んだ。ようやく自分の順が来たので武の説明通り食券を買おうとするが、それより早く舞華が動く。
「東雲君は何が食べたい?」
「ん?」
突然の質問に素頓狂な返しをすると、舞華は声を潜めながら言う。
「お礼するって言ったじゃない」
「お礼ってオレは何もしてないぞ。それにあれは秋人達を納得させるためだろ?」
「それもあるけど……。その、朝のお詫びもしたいから」
「あー……」
正直悪いのは完全にオレなのだが、真実を知らない舞華には知るよしもない。
変に意固地になって断るのもおかしいし、素直に従うことにした。
「分かった。お言葉に甘えさせてもらうことにする」
罪悪感を感じつつもそう答えるも、いかんせんメニューの種類が豊富でどれにしようか悩んでしまう。唐揚げ定食、焼き魚定食、ヘルシー定食、パン系、麺系どれも捨てがたい。
考えている間に後ろが混んできた。そこで秋人に意見を求めてみる。
「なぁ、ここのオススメとかってあるか?」
「うーん、難しいね。ここはどれも美味しいからね。無難に日替わり定食とかどうだい?」
「ん、それにするか」
オレは日替わり定食、舞華はヘルシー定食、秋人は焼き魚定食、武はラーメンを選んで食券をおばちゃんに渡す。
出来上がりまで驚きの早さを誇る一分。
出来上がった定食をうけとり、四人で座れる席に腰を落ち着かせる。
それから、「いただきます」と手を合わせてから、オレは日替り定食を食べた。
うん、美味しい。このレベルの学食なら毎日食べても飽きないだろう。
日替り定食を夢中になって口に運んでいると、ふと思い出したように秋人が訊いてきた。
「そういえば、この後の実技は学校指定の服に着替えるんだけど、恭弥は持ってるのかい?」
もちろんそんなものは持っていない。家にも置いてなかったから、多分学校で発注しなければならないのだろう。
出来ればその服も、制服と一緒に用意といて欲しかった。
どうにもやる気が削がれてくる。魔法が飛び交う授業を制服のままでやるなんて「どうぞ汚して下さい」と大声で言ってるようなもんじゃないか。しかも制服は白だから汚れが目立ってしまう。
「あまり気が進まないが、このままってのはありなのか?」
「うーん、ありと言えばありだけど本当にドロドロに汚れちゃうんじゃないかな」
そうは言うが、すぐに解決できる問題じゃない。もし汚れたらその時なってからどうすればいいのか考えよう。
そう自己完結してから、オレは興味本位で訊いてみた。
「それより、実技ってどんなことをするんだ? やっぱりひたすら練習って感じか?」
「うーん、一番多いのは二人組でペアを作ってから、その相手と一対一か、別のペアと二対二で闘う模擬戦かな。その次に魔法の上達を目的とした自由な練習だね」
「へぇ、楽しそうだな」
実戦に限り無く近い形で、自分の実力が測れるって事だな。この形式なら、互いが互いを刺激しあって、大きな成長が見込める。
それに自由な練習ってのも魅力的だ。自分が練習したい魔法を自分のペースに沿って練習することが出来る。これほど良いことはない。
それにしても模擬戦の場合はペア作りがネックになりそうだ。一対一の場合は自分と対等くらいの相手でなければならないし、二対二の場合はお互いを引き立てあえる相手でなければならない。
お互いに引き立てあえるペアだと良い成績に繋がるし、逆に足を引っ張りあうペアだと最低の成績になる。
そう考えれば相方を決めるのは、かなり重要な問題になりそうだ。
「その二人組ってのは誰が決めるんだ?」
「それは自分達で決めるんだよ」
箸を置いた舞華が話に加わってきた。喋る時にキチンと箸を置くなんて行儀の良いこと舞華に出来たのか。
記憶に残っている舞華と比べ、思わずそんな感想が漏れそうになった。
失礼な事を考えていると舞華は不思議そうに首を傾げていた。
「どうかしたの?」
「いいや、なんでも無い。そっか自分たちで決めるのか」
転入初日で友好関係が少ないオレにとって、各自でペアを作るとか不安にも程がある。最悪ぼっちだけは避けたい。
「なぁ、天堂。オレと組んでくれないか?」
もしこれで駄目だったら秋人や武に訊いてみるしかない。
舞華はこう返してきた。
「本当に私でいいの?」
質問に質問に返されても困るんだが。一体どういう意味だろう?
「天堂さんが言ってるのは、『自分は天族だけどそれでもいいのか?』って事だよ」
オレが頭の上にハテナマークを浮かべていると、秋人がこそっと小さな声で耳打ちしてくれた。それを聞いて、舞華の質問が腑に落ちた。
一昔前から、この日本国内では、一般の魔法師と天族生まれの魔法師の間には大きな溝が存在している。それは家柄であったり純粋な実力差。
誰もが勝手に作って、勝手に意識した絶対の壁だ。
だけどオレにはどうでもいいことである。いちいちそんなこと気にしたりしないし、仮にとはいえ元天族の一人だ。どこにも問題は見当たらない。
「天堂さえ良ければ、オレと組んで欲しい」
舞華にそう告げると、秋人と武も「知らないぞ」二人揃ってと呆れていた。
そんなこんなで四人ともが食べ終わり、教室に戻ることになった。
教室への帰路。再び来た道を四人で移動する。
その最中に秋人は声を潜めながら、こちらに寄ってきた。
「恭弥、本当に大丈夫なのかい? いくら実力に自信があったとしても、模擬戦が一対一だったら、天族に挑むのは無謀だよ」
それは模擬戦に際しての忠告。これが一般に属する魔法師の意見。
誰もが迷うことなく断じることができるほどに、天族は魔法に長けた存在である。秋人がこのようなことを言うのも頷ける。
オレはその忠告を肯定した。
「そうだな。そうかもしれないな」
「……だったらなんで君はあんなことを言ったんだい?」
「有り体に言えば気に食わないんだよ、何もかも全部。オレもお前も、あいつも同じだろ。普通に笑って、普通に泣いて、普通に苦しんで。オレたちは何も変わらない人間だ。なのになんで勝手に壁なんて作ってるんだよ」
オレの苛立ち混じりの本音の発露に秋人は目を丸くした。
「無謀ってのは所詮、一つの結果としての可能性だ。次の時間、オレがそれを証明やるよ。一般も天族も天才も欠陥品も関係ない。すべては身勝手な価値観の決めつけだってな」
そう言って話しに区切りをつけた。わずかな沈黙を経て呟きが耳を打つ。
「……君は不思議な奴だね」
何を思って秋人がそう呟いたかは知らない。でもオレは肩をすくめるだけに留めた。それから小粋な軽いジョークを一つ。
「ミステリアスな方がモテるだろ?」
「……訂正、君は可笑しな奴だね」
「そう見えるんならそうなんじゃないか。それがお前にとってのオレの認識だ」
「君は自分のことを他人事みたいに言うんだね」
秋人は呆れるように「ふぅ」と言ってから視線を舞華に移した。オレもその後を追う。
映るのは機嫌の良さげな舞華の背中。
「あんなに楽しそうな天堂さんを見るのは初めてだよ。僕らも彼女も変わらないってのは案外、的を射ているかもね」
「だろ? 普段は目に見えていないだけで、知らないことは沢山あるんだぜ」
今にも鼻唄を歌い出しそうな舞華に、ゼンマイの切れかけの人形みたいな武。二人の後ろでオレと秋人は言葉を交わしながら、異差のある二人を眺めながら背中を追いかける。
ちょうど階段に差し掛かった辺りだろうか。
「あっ」
舞華が小さな声を上げた。それから飼い主を見つけた仔犬のようにパタパタと走り出していった。
「こんにちはっ」
舞華は誰かに向かって、気持ちの良いくらいの挨拶をする。誰かに会った時にしっかりと挨拶出来るのは、とても良いことだ。
オレは肝心の相手は誰なのだろうと思い、顔を確認して――――心の底から後悔した。
真っ赤に燃え盛る紅蓮の長髪。同色に染まった強い光を灯した双眸。非常に整った顔立ちに、モデルのような抜群のスタイルを兼ね備えた凛々しい雰囲気を持つ女生徒。
彼女の名前は聞くまでもない。オレは彼女を知っている。おそらく特徴から鑑みれば、予想は十中八九当たっている。
女生徒の名前は天月凛。かつてオレが姉として慕い、凛姉と呼んでいた人。そして、最も会いたくなかった天月家の人間でもある。
その人がオレの目の前にいた。
「あら、舞華じゃない。こんな所で会うなんて珍しいわね。何かしてたの?」
その声は澄み渡るように涼やかで、聞くものを魅了するような響きを持っている。しかし、今のオレにはそんな良いものには聞こえなかった。
「うん。さっきまでクラスメイトの人と一緒に学食で昼食を食べてたの」
凛姉に笑顔で対応する舞華。談笑を始めた天族の二人を尻目に、オレはかなり焦っていた。
まさか凛姉までこの学校に居ると思っていなかったのだ。やはり下調べをしなかったのは痛い。
余裕があまりないオレは、
「秋人、武、さっさと行くぞ」
彼らだけに聞こえるように言ってから、二人を引っ張って歩き出す。
これは考えた上での行動ではない。衝動的なリアクションに他ならなかった。
「ちょっと待ちなさい」
ちょうど二人の隣を通り抜けたタイミングで、凛姉に制止を呼び掛けられる。その声に早くも、オレの背中からはドバドバと大量の冷や汗が溢れ出ていた。
もう五年も会っておらず、外見も大分変わっている。
だがバレる確率はゼロじゃない。実際に舞華は真相までは辿り着かなかったものの、初見でオレを天月恭弥だと断定した。もしかしたら、凛姉もそう判断する可能性がある。
「何か御用でしょうか?」
多少ぎこちなさが目立つが、どうにか笑みと呼べる表情で振り返った。
「貴方達が舞華の言っていたクラスメイトでしょう?」
「はい、そうですけど、それが何か? 用があるのなら、時間がないので早くしてもらえませんか?」
事務的で無愛想な対応。凛姉と舞華は特に変わらないが、秋人と武は揃って顔を青ざめさせていた。
悪い、二人とも。お前たちの気持ちも分かるが、それに構っている余裕は無いんだ、許してくれ。オレは一秒でも早くこの場から離れなければならない。
それなのに。
「せっかくだからお互いに自己紹介をしましょう。私は二年生の天月凛よ。三人ともよろしくね」
淑女の微笑みを携えながら自己紹介をする凛姉は、端整なその顔でまじまじとオレの顔を見つめていた。
今の自分の現状を鑑みれば、自己紹介なんてものをしている場合じゃない。それでもこの状況からは到底逃げ出せそうにもなかった。
「僕は一年の鷹宮秋人です。よろしくお願いします」
「お、俺……僕も一年の篠原武、です」
秋人は比較的早く落ち着きを取り戻したらしく、丁寧な自己紹介をした。対する武は相変わらずの様子。こんな状況でなければ、大笑いしているところだ。
だが、そうもいかない。
次はオレの番だが、いかんせん悪い状況に陥ってしまっていた。自分の姓は言えても、自分の名前まで言うのはかなりマズい。
最悪の場合、凛姉のレーダーに引っ掛かってしまえば、朝の二の舞だ。
オレは焦りと動揺を圧し殺しながら口を開く。
「はじめまして。オレは一年の東雲と言います。先程は急なことに思わず動揺してしまいました。無礼な態度をとってしまい、済みません」
オレはわざと自分の名前の方を名乗らずに自己紹介をした。それを悟られないように、さっきの出来事の謝罪を重ねる事でその事実を霞ませるように仕向けたつもりだ。
「さっきのことなら別に気にしてないわ。それよりも私が気になっているのは貴方の下の名前。よかったら教えてもらえないかしら?」
知恵を働かせた言葉選び。
だが、残念なことにそれは意味を成さなかったようだ。あくまで淑やかに微笑みを浮かべている凛姉だが、目はだけは笑っておらず、真剣そのもの。
これでオレはフルネームに名乗らなくてはいけないようになった。心の中では苦い顔をするも、表では緊張したような面持ちで再度口を開く。
「すいません、緊張してて忘れてました。オレの下の名前は――――」
オレの言葉はそこで遮られた。誰でもない凛姉の声によって。
「恭弥でしょ。どう? 合ってるかしら?」
やっぱり、凛姉も気付いている可能性がある。どうしてこうも簡単にバレるんだ。自分では昔と比べて、顔つきや雰囲気とか結構変わったと思うんだが、こんなにもあさっさりバレるってことは、実はそんなに変わっていないのか?
浮かび上がってくる疑問より、目の前の問題をクリアせねばならなかった。これからどう追求を逃れるのが有効か考える。
少しの沈黙を挟み、重くなった口を動かした。
「凄いですね、大正解です。天月先輩って実はエスパーだったりします?」
顔に張り付けている驚いた表情がどこまで持つのか心配だ。
「いいえ、残念ながら違うわ。もし本当に私がエスパーだったら、貴方の考えも見通せるのにね。そうね……私が分かった理由は、貴方と会った事があるような気がするからよ。確か五年ほど前のことだったかしら」
凛姉は『五年ほど前』というワードを強調していた。それはオレが天月を離れた時期。それを出してきたってことは、どうやら朝のリプレイになりそうだ。
この腹の探り合いを手っ取り早く終わらせる為にも、オレはこの場で最悪のカードを切るしかなかった。
「誰かと間違ってませんか。朝も天堂に似たような事を言われましたよ。確かそいつの名前は……天月恭弥でしたね。居なくなったと聞いたんですが、もしかして先輩の身内の方なんですか?」
これだけは使いたくなかったが、そうも言ってられなかった。この追及から逃れる為だ。
オレの発した言葉に凛姉の笑みが凍り付いた。それから舞華に視線をやる。
「舞華、今のは本当?」
舞華はそれに対して頷いた。言葉こそ無かったが、多分今ので十分に伝わっただろう。これで正体がバレる確率はゼロに近付いたはずだ。
今度こそ逃げさせてもらう。
「天月先輩、オレたち次は実技の授業なんです。時間的にそろそろ行かないといけないんで、これで失礼しますね」
何か考え込むように黙っている凛姉に暇乞いし、軽く頭を下げた。
「ええ、長く引き留めてしまってごめんなさい。できれば、また今度お茶でも飲みながら、ゆっくりとお話しましょう」
凛姉は再び淑女の笑みを浮かべていたが、その瞳からは未だに諦めの色が見られなかった。止まらない冷や汗と動揺している心情を隠しながら爽やかな笑みを返す。
「機会があったら誘ってください。楽しみにしてます」
その返事に満足したらしい凛姉は背を向けて去っていく。オレを含めた四人は、見えなくなるまでその背中を見送り続けた。
「本当についてねぇ……」
誰にも聞こえない小さな呟きは、ひっそりと響く。そして、空気に溶けてひっそりと消えた。
ということで、かつての姉の凛と再開を果たしました
でも姉弟の話の内容が腹の探り合いとはこれ如何に
恭弥にとっては予期せぬどころか、望まぬ出逢いでした
話は変わりますが、次話からはお待ちかねの模擬戦に入ります!
魔法を使った者同士のぶつかり合い
恭弥の魔法の餌食になるのはいったい誰なのか……(;゜∀゜)




