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無敵な須佐之男は追放されて出雲の王になる!  作者: 月見


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3/13

三話 出雲は修羅の国なのか!

挿絵(By みてみん)


 筑紫を発ってから数日が過ぎ、須佐之男(すさのお)たちを乗せた船は、ようやく出雲の沿岸へと近づきつつあった。


 海は穏やかで、帆にはほどよい風が吹きつけている。甲板に立った須佐之男は、退屈そうに海を眺めていたが、やがて遠くの海面に小さな影が動いていることに気づいた。


「父上、あれなんだ?」


 須佐之男が指さした先を、那岐(なぎ)も目を細めて見つめた。


「船だね。こちらに向かってきてないかい?」


「そうだな……寄ってきている」


 その船は明らかに進路を変え、こちらへ近づいてきていた。しかも、かなりの速さである。那岐はしばらく様子をうかがっていたが、相手がまっすぐ船首を向けてくるのを見て、表情を引き締めた。


「戦闘準備! みんな、敵襲に備えて!」


 那岐の声に船員たちが慌ただしく動き始める。武器を手に取る者、帆を調整する者、それぞれが持ち場についた。


「おっ、海賊のお出ましかい!」


 須佐之男は待ってましたとばかりに立ち上がり、甲板に置いてあった愛用の金棒へ手を伸ばした。


「須佐之男、金棒は使わないでね」


「え? なんでだよ」


「そんなものを振り回されたら、私たちの船まで壊れちゃうよ」


 那岐が心配するのも無理はなかった。


 須佐之男は生まれつき並外れた怪力の持ち主であり、通常の剣や槍では力に耐えきれず、すぐに壊れてしまう。


 そのため、見かねた那岐が特別に作らせたのが、鉄だけでできた巨大な金棒だった。


 全長は七尺。大の男が数人がかりでようやく抱えられるほどの重量があり、普通の人間には持ち上げることさえ難しい代物である。


 ところが須佐之男は、その金棒を片手で軽々と振り回す。まともに打ち込まれれば、木の盾どころか人間の身体すらひとたまりもない。


 まして船上で振り回されれば、敵より先に自分たちの船が壊れかねなかった。


「ちぇっ、仕方ねぇな。拳で相手してやらぁ!」


 須佐之男は金棒から手を離し、拳を握りしめた。


 やがて接近してきた海賊船は、こちらの船腹へ強引に接舷してきた。船縁に鉤を掛け、縄を引いて船同士を寄せると、武器を手にした男たちが次々と乗り込んでくる。


「積み荷を奪え! 逆らう奴は斬り捨てろ!」


 威勢よく叫んだ海賊たちだったが、甲板に仁王立ちする須佐之男の姿を見て、一瞬足を止めた。


 七尺もの巨体に、隆々と盛り上がった筋肉。その男が不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりと拳を構えている。


「おらぁーーー!」


 須佐之男が拳を振るった。


 最初に飛び込んできた海賊は、何が起きたのか理解する間もなく宙を舞い、そのまま海へと叩き落とされた。


「うりゃぁーー! どりゃぁーー!」


 二人目、三人目と、海賊たちが次々に吹き飛ばされていく。剣を振り上げた者も、槍を突き出した者も、須佐之男の拳が届くと同時に海へ放り出された。


挿絵(By みてみん)


 その勢いは凄まじく、乗り込んできた十人の海賊は、わずか十発の拳ですべて海の中へ消えてしまった。


「はっはっは! どうした、もう終わりか!」


 須佐之男が豪快に笑う一方、海賊船に残っていた男たちは顔を引きつらせていた。


「ば……化物だ……」


「なんだ、こいつ……人間じゃねぇ……」


 もはや略奪どころではない。恐怖に駆られた海賊たちは慌てて鉤を外し、船を離そうとし始めた。


「おい、逃げる気か! 逃がすな、追え!」


 須佐之男が船員たちに叫んだが、那岐は海賊船の様子を眺めながら首を横に振った。


「無理だよ……」


「なんでだよ!」


「向こうは強襲用の速い船だし、こちらは食糧や酒を満載した輸送船なんだから。追いつけるわけがないよ」


「くそっ!」


 須佐之男が悔しそうに船縁から身を乗り出したときには、海賊船はすでに大きく距離を取っていた。軽い船体を生かして風を受け、見る見るうちに遠ざかっていく。


「もうあんなに離れちまった……」


 須佐之男は拳を握りしめたまま、逃げていく船を睨みつけた。


 結局、海賊船を追うことはできず、一行は再び出雲へ向けて航行を続けることになった。


 那岐は遠ざかる船影を見送りながら、静かに口を開いた。


「でも、これで出雲の海に海賊がいることは、ほぼ確かめられたね」


 須佐之男は鼻を鳴らし、まだ見ぬ出雲の地へ視線を向けた。




 それからしばらくして、船はようやく出雲の海岸にたどり着いた。


 海岸近くの入り江に船を寄せると、那岐は上陸の準備を進める船員たちに声をかけた。


「船はそのままでいいよ。荷も降ろさずに積んでおいて。何かあったらすぐに出航できるようにしておいてね」


 先ほど海賊に襲われたばかりである。現地の情勢がわからない以上、安易に船を離れるわけにはいかなかった。那岐は船員たちに留守を任せると、傍らにいた息子へ顔を向けた。


「須佐之男、私たちは上陸して様子を見に行こう。まずは人里を探さないとね」


「おう! やっと陸に上がれるぜ!」


 須佐之男は待ちかねたように巨大な金棒を肩に担ぎ、軽々と船から飛び降りた。七尺もの長さがある鉄の塊を、まるで木の棒でも扱うかのように振り回す息子を見て、那岐は苦笑する。


 二人は人里を探して南へ向かった。海岸から離れるにつれて木々が増え、緩やかな起伏のある土地が広がっていく。しばらく歩いたところで、須佐之男が前方に数人の人影を見つけた。


「おっ、父上! 人がいるぞ!」


 須佐之男は大きく手を振った。


「おーーーい!」


「ちょっと待って、須佐之男。何だか様子がおかしいよ。あれは……」


 那岐が目を凝らすと、男たちは一斉にこちらを振り向いた。いずれも粗末な身なりで、腰には剣を帯びている。しかも二人を見つけるなり、互いに何やら声を交わして武器を抜き始めた。


「剣を持っている。野盗だ!」


「また賊かよ! 海から上がったばかりだってのに!」


 男たちは抜き身の剣を構え、二人めがけて駆け出してきた。


「須佐之男、今度は金棒を使っていいよ」


「待ってました!」


 須佐之男は嬉々として肩の金棒を握り直した。


「でも、できれば誰かを……」


 那岐が言い終えるより早く、須佐之男は地面を蹴って飛び出していた。


「おらぁぁぁーーー!」


 凄まじい勢いで振り抜かれた金棒が、先頭を走っていた男をまともに捉えた。


 鈍い衝撃音とともに男の身体が砕かれ、勢いよく吹き飛んでいく。あまりの出来事に、後続の男たちは思わず足を止めた。


「なっ……何だ、こいつは!」


「化け物め! くたばれ!」


挿絵(By みてみん)


 一人の男が剣を構え、須佐之男の脇腹めがけて突き立てた。


 ところが、刃は肉を貫くどころか、硬い岩にでも突き当たったかのように弾かれてしまった。


「な、何だと!?」


「悪いな。妖気を身体に纏うと、大抵の攻撃は通用しなくなるんだ」


 須佐之男は平然と笑い、驚愕する男を見下ろした。


「ふ、ふざけるな!」


「悪いな。ふんっ!」


 再び金棒が振るわれた。


 逃げようとした男も、背後から斬りかかろうとした男も、須佐之男の圧倒的な怪力の前には何の抵抗もできなかった。金棒が唸りを上げるたびに男たちは吹き飛び、次々と地面に倒れていく。


「おらぁ! どりゃぁ!」


 それは戦いというより、もはや一方的な蹂躙であった。


「須佐之男ー! 誰か一人生きて捕らえてほしいんだけど!」


 那岐が慌てて声を張り上げたときには、すでに最後の男が金棒の一撃を受けて倒れたところだった。


「ふう、片付いたぜ!」


「……須佐之男?」


「ん? どうした、父上」


「だから、誰か一人生きて捕まえてほしかったんだけど……」


「あっ」


 須佐之男は金棒を肩に担ぎ直し、倒れている男たちを見回した。


「わりー……たぶん遅かった」


 那岐は深いため息をついて、一人ずつ様子を確かめていった。しかし、金棒の直撃を受けた男たちは、いずれもすでに息絶えていた。


「……あーあ。せっかく現地の話を聞けると思ったのに」


「仕方ねぇだろ。向こうから襲ってきたんだぜ?」


「それはそうだけどね。できれば海賊のことも聞いておきたかったんだよ」


 那岐は困ったように眉を下げた。海上では海賊に襲われ、ようやく上陸したと思えば今度は野盗である。しかも、いずれも武器を手にして襲いかかってきたのだから、穏やかではない。


「それにしても、海でも陸でも襲われるなんて……」


 那岐が周囲を見渡していると、須佐之男もさすがに妙だと思い始めたらしい。金棒を担いだまま、真顔になって父へ尋ねた。


「父上……出雲は修羅の国か?」


 那岐はしばらく黙って息子を見つめ、それから小さく肩をすくめた。


「……荒れているのだけは間違いないようだね」

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