十一話 王に即位してやる!
八岐大蛇が討伐され、長く出雲を苦しめてきた暴政は、ついに終わりを迎えた。
八人の頭目が支配していた港や鉄の鍛冶場は須佐之男の手に落ち、山の砦に潜んでいた恐ろしい大蛇も退治された。
各地に残っていた賊も次々と降伏し、奪われていた村々には平穏な暮らしが戻り始めていた。
この知らせは出雲の各地へ瞬く間に広まり、やがて周辺の国々にまで伝わった。
八岐大蛇の暴政から逃れるために故郷を捨てていた人々も、賊が滅んだと聞いて少しずつ帰還するようになり、荒れ果てていた田畑には再び人の姿が見られるようになった。
そして、出雲を救った英雄として、須佐之男の名が人々の間で語られるようになっていた。
「須佐之男様ーーー!」
「ありがとうございます! おかげで村に帰ることができました!」
「我らの英雄だ!」
「出雲の救世主!」
須佐之男が村を訪れるたびに、人々は仕事の手を止めて集まり、歓声を上げて迎えた。助けられた者は深々と頭を下げ、子供たちは大きな体をした英雄を見上げて目を輝かせた。
中には、わずかな食糧や酒を持参して感謝を伝えようとする者までいた。
「おいおい、そんなに持ってこなくてもいいぞ。お前らだって暮らしがあるだろうが」
須佐之男がそう言っても、人々は受け取ってほしいと譲らなかった。八岐大蛇の支配下では、働いて得たものを理不尽に奪われ続けてきたのである。
自分たちの意思で誰かに贈り物ができることさえ、彼らにとっては喜びになっていた。
そんな光景を眺めながら、那岐は穏やかに微笑んでいた。
「すっかり人気者になったね、須佐之男」
「ははっ! まあな! 俺が八岐大蛇を退治したんだから当然だろ!」
「ふふ、相変わらず自信満々だね」
「事実なんだから仕方ねえだろう。それに、こうして喜ばれるのも悪くねえ」
須佐之男は豪快に笑ったが、その言葉には以前とは少し違う響きがあった。
筑紫にいた頃の須佐之男は、戦場で敵を打ち破り、その強さを称賛されることを何よりも好んでいた。しかし、ここで人々が喜んでいるのは、敵を倒したという武勇そのものではなかった。
故郷に帰れること。家族と安心して暮らせること。明日も生きていけるという希望を取り戻したこと。
須佐之男がもたらしたものは、単なる戦の勝利ではなく、人々が当たり前に暮らせる日々だったのである。
やがて、須佐之男が滞在する場所には、各地の村を代表する者たちが次々と訪れるようになった。
彼らが口にする願いは、ほとんど同じだった。
どうか出雲に残ってほしい。
これからも自分たちを守ってほしい。
そして、出雲を治める新しい主になってほしい、と。
その声は日を追うごとに大きくなっていった。
そんなある日、須佐之男は那岐を呼び、これまで考えていたことを打ち明けた。
「父上、俺はこの地に残ることにした」
那岐は少し驚いたように息子を見つめた。
「出雲に?」
「ああ。筑紫には戻らねえ。俺はここで暮らす」
「櫛名を娶って大倭壱国に戻るって方法もあるよ。姫も、今回の働きを聞けば追放を解いてくれると思うけどね」
那岐にとって、須佐之男が出雲に留まることは必ずしも悪い話ではなかった。しかし、息子が本当に何を望んでいるのかは、確かめておきたかった。
須佐之男は腕を組み、しばらく考えるように視線を落とした。
「確かに最初は櫛名のためだった。あいつと結婚したくて八岐大蛇を退治すると約束したんだからな」
「うん、そうだったね」
「だが、もう櫛名だけの問題じゃなくなっている。俺を頼ってくる連中がこれだけいるんだ。今さら全部放り出して筑紫に帰れるかよ」
那岐は何も言わず、息子の言葉に耳を傾けた。
「八岐大蛇は倒した。だが、あいつらがいなくなっただけで、出雲がすぐ元通りになるわけじゃねえ。村も田畑も荒れているし、賊の残党だってまだどこかに潜んでいるかもしれん。だったら俺がここに残って、全部まとめて面倒を見てやる」
「そうか……」
那岐は静かに頷いた。
「民の声も凄いからね。今ではすっかり出雲の英雄だ」
「英雄か。悪くねえ響きだな!」
須佐之男は嬉しそうに笑ったが、すぐに真剣な表情へと戻った。
「父上、俺は新しい宮を建てるつもりだ」
「宮を?」
「ああ。そこを俺の拠点にして、出雲を治める。そして、その宮で俺は王に即位する!」
「王に?」
那岐は思わず聞き返した。
須佐之男ならば、いずれそのようなことを言い出すかもしれないとは思っていた。しかし、こうして本人の口から聞かされると、やはり簡単に頷くわけにはいかなかった。
「須佐之男、王になるということは、ただ強ければいいというものではないんだよ。これからは民の暮らしにも責任を持たなければならないし、他の国との付き合いも考えなければならない」
「わかっている。だからこそ、俺がやるんだ」
須佐之男は迷わず答えた。
「それに、出雲をまとめたら大倭壱国の連合にも参加しようと思っている。姉上の倭国統一にも協力できるだろう?」
「姫のためにも?」
「ああ。俺が出雲の王になれば、姉上にとっても心強いはずだぜ!」
那岐は小さく笑った。
「ふふ、そうだね。出雲ほどの国が連合に加われば、その影響はとても大きいと思うよ。ただ……」
那岐が言葉を濁すと、須佐之男はすぐに察した。
「大名持(あめのふゆきぬ)の天之冬衣のことか?」
「うん。冬衣殿は八岐大蛇に領地を奪われていたとはいえ、長く出雲を治めてきた王だからね。須佐之男が新しく王を名乗れば、当然、対立することになるよ」
「だろうな」
「今は須佐之男を慕う民が多いけれど、昔から冬衣殿に仕えてきた人々だっているんだ。せっかく八岐大蛇を倒して平穏になったのに、今度は王位を巡って争いになってしまったら悲しいでしょう?」
須佐之男はしばらく黙っていたが、やがて力強く答えた。
「悪いが、譲る気はねえ。俺は俺の国を手に入れる」
那岐は息子の顔をじっと見つめた。
そこには、かつて筑紫で騒動ばかり起こしていた末っ子の面影があった。しかし同時に、多くの民から頼られ、その期待に応えようとする男の決意も感じられた。
「……わかったよ」
那岐は小さく息をついてから、穏やかな声で続けた。
「少し時間を貰うけど、私の方でも手を打ってみるね。冬衣殿とは、できれば争わずに話をまとめたいから」
「おう、感謝するぜ、父上!」
「ただし、須佐之男も勝手に冬衣殿へ戦を仕掛けたりしないでね」
「わかってるって! もう八岐大蛇を退治したんだ。今さら戦なんぞ起こす気はねえよ」
「それなら安心だね」
那岐は微笑んだものの、息子の豪快な性格を思えば、多少の心配は残っていた。
それでも、須佐之男が自分の意思で新しい道を選んだのである。いつまでも父親が先回りして決めてしまうわけにはいかなかった。
那岐はその後、天之冬衣の館を訪れて交渉を始めた。
八岐大蛇から出雲を解放した須佐之男の功績と、民衆から寄せられている期待を説明し、争いを避けながら新しい統治体制を築けないかと話し合ったのである。
しかし、冬衣も長年王として出雲を治めてきた人物であり、簡単に自らの地位を譲るわけにはいかなかった。
交渉はすぐにはまとまらず、那岐は今後の対応を考えるため、一旦、大倭壱国へ戻ることにした。
一方、出雲に残った須佐之男は、新しい宮の建設を進めていた。
八岐大蛇から解放された村々から人々が集まり、木材を運ぶ者、柱を立てる者、屋根を作る者と、それぞれができる仕事を引き受けた。
鍛冶場を取り戻した職人たちも道具の製作や修繕に力を貸し、宮の建設は着実に進んでいった。
須佐之男もただ指示を出すだけではなかった。
大勢で運ぶような大木を一人で軽々と持ち上げては、周囲の者たちを驚かせたのである。
「おおおっ! 須佐之男様、そんな大木をお一人で!」
「はははっ! この程度、軽いもんよ!」
そんな騒ぎも、いつしか建設現場の日常になっていた。
そしてある日、須佐之男と櫛名は、建設途中の宮を並んで眺めていた。
すでに主要な柱が立ち、建物の形も見え始めている。周囲では多くの人々が働いており、木を打つ音や互いに声を掛け合う声が絶えなかった。
「随分と出来上がってきましたね」
櫛名が嬉しそうに言った。
「ああ。もう少しで完成だ。なかなか立派な宮になるだろう?」
「はい。こんなに大きな宮ができるなんて、少し前までは考えられませんでした」
櫛名は宮を見上げながら、須佐之男と初めて出会った日のことを思い出していた。
あの頃の出雲は、八岐大蛇の暴政によって人々が苦しみ、いつ娘狩りに遭うかもわからない恐ろしい土地だった。
自分自身も賊に攫われそうになり、もう助からないかもしれないと思ったところを、須佐之男に救われたのである。
あの日から、まだそれほど長い月日が流れたわけではない。
それなのに、今では八岐大蛇が滅び、村々に平穏が戻り、目の前では新しい宮まで建てられている。
何もかもが夢のようだった。
「須佐之男様、実は一つ、お話ししておきたいことがあるのです」
「ん? なんだ?」
櫛名は少し恥ずかしそうに笑った。
「私たちが初めて出会った時のことなのですが……」
「ああ、あの時か。懐かしいな!」
「須佐之男様、私を助けてくださった直後に結婚してほしいと仰いましたでしょう?」
「おう! 一目見て惚れたからな!」
あまりにも堂々と答えられ、櫛名は思わず頬を赤らめた。
「そ、それでですね。私、八岐大蛇を退治して出雲を平穏にしてくださったら結婚をお受けすると申し上げましたけれど……」
「ああ、覚えてるぞ」
「実はあの時、無理難題を申し上げて、遠回しにお断りしようとしていたんです」
櫛名は申し訳なさそうに頭を下げた。
しかし、須佐之男の返事は意外なものだった。
「わかってたぞ」
「……え?」
櫛名は驚いて顔を上げた。
「わかっていたのですか?」
「そりゃあな。いきなり結婚してくれなんて言われても困るだろう。俺だって、それくらいの自覚はあるぞ」
「でしたら、どうして……」
「決まってるだろう。俺は本気だったからだ!」
須佐之男は何でもないことのように答えた。
「八岐大蛇を倒せばいいって言うんだから、倒してやればいい。それで出雲も平和になるなら、悪い話じゃねえだろう?」
櫛名はしばらく呆然としていたが、やがて堪えきれなくなって笑い出した。
「ふふっ……あははっ! 本当に須佐之男様らしいですわ」
「なんだよ、笑うことねえだろ」
「だって、八岐大蛇を退治するなんて、誰にもできないことだと思っていたんですよ? それを本当に達成してしまうなんて、今でも信じられません」
「だから言っただろう。俺に任せておけってな!」
須佐之男は得意げに胸を張った。
櫛名はそんな彼を見上げながら、改めて不思議な縁だと思った。
初めて出会った時から、その七尺もある大きな体と、たくましい姿は自分の好みにぴったりだった。けれど、どれほど好みの男性であっても、初対面で結婚を決めることなどできるはずがなかった。
だからこそ、無理な条件を出して断ろうとしたのである。
ところが須佐之男は、その約束を本当に果たしてしまった。
それだけではない。
彼は自分を救い、村の人々を救い、今では出雲全体を守ろうとしている。
最初は、その圧倒的な力があれば出雲を救えるかもしれないと期待していた。しかし、共に過ごすうちに、櫛名の気持ちは少しずつ変わっていた。
今では、須佐之男がそばにいるだけで安心できたし、彼が豪快に笑う姿を見ていると、自分まで嬉しくなるのである。
そんな櫛名の前で、須佐之男はふいに真剣な表情になった。
「櫛名」
「はい?」
「改めて、言わせてくれ」
須佐之男は櫛名へと向き直り、その顔をまっすぐ見つめた。
「八岐大蛇を倒した約束は関係ねえ。俺が勝手に言い出して、お前が条件を出しただけの話だ。だから、あの約束に縛られる必要はねえぞ」
「須佐之男様……」
「俺はお前が好きだ。これから先も、ずっと一緒にいたいと思っている」
須佐之男は一度だけ息を整えると、はっきりと言った。
「櫛名、俺の妻になってくれないか?」
櫛名は目を見開き、しばらく須佐之男を見つめていた。
最初に求婚された時は、あまりにも突然で驚くばかりだった。
けれど、今は違う。
目の前にいるのは、自分を助けてくれた英雄であり、出雲の人々のために力を尽くしてくれた人であり、何より、自分が心から慕っている男性だった。
櫛名はそっと目を閉じ、一度深く息を吸った。
そして、改めて須佐之男の目を見つめ、微笑んだ。
「はい、喜んで」
その言葉を聞いた須佐之男の表情が、ぱっと明るくなった。
「本当か!」
「はい。約束を果たしてくださったからではありません。私自身の気持ちで、須佐之男様の妻になりたいと思っています」
櫛名は少し照れながらも、最後まで目を逸らさずに言った。
「私も、須佐之男様を心からお慕いしております」
「櫛名!」
須佐之男は喜びのあまり、櫛名の体を軽々と抱き上げた。
「きゃっ! 須佐之男様!?」
突然のことに櫛名は驚き、慌てて須佐之男の首に腕を回した。
「はははっ! 嬉しいぜ! これからずっと一緒だな!」
「もう、いきなり抱き上げるなんて……」
そう言いながらも、櫛名は幸せそうに笑っていた。
須佐之男は腕の中の櫛名を見つめ、そっと顔を近づけた。櫛名も目を閉じ、二人は静かに口づけを交わした。
周囲では宮の建設が続いていたが、二人はしばらく互いのことしか見えていなかった。
やがて櫛名を抱いたまま、須佐之男は空を見上げた。
「はあ……なんてすがすがしいんだ!」
八岐大蛇を倒し、出雲に平穏を取り戻し、今では多くの民から慕われるようになった。
そして何より、心から愛する櫛名が妻になってくれるという。
筑紫を追放されて出雲へやってきた時には、こんな未来など想像もしていなかった。
須佐之男の胸には、これまで経験したことのないほど晴れやかな気持ちが広がっていた。
そんな彼の言葉を聞いて、櫛名はふと思いついたように口を開いた。
「すがすがしい……でしたら、この宮の名を須賀の宮とするのはいかがでしょう?」
「須賀の宮?」
「はい。須佐之男様がこれほど晴れやかな気持ちになられた場所ですもの。きっと素敵な名になると思います」
須佐之男は建設中の宮を見上げた。
ここは、自分が新しく国を治めるための場所であり、櫛名と共に暮らす場所でもある。
そして、出雲の人々にとっても、新しい時代の始まりを象徴する場所になるのだろう。
「いいな、それ!」
須佐之男は豪快に笑った。
「決めたぞ! この宮の名は須賀の宮だ!」
「ふふっ、ありがとうございます」
「よし! 早く完成させねえとな!」
須佐之男はそう言うと、櫛名をようやく地面に降ろし、再び建設現場へと歩き始めた。
その後、須賀の宮の建設は順調に進み、やがて完成の日を迎えた。
新しい宮が完成すると、出雲各地の村々から祝いの品が届けられるようになった。米や酒、海産物、布、鉄製品など、人々はそれぞれの土地で用意できる品を携えて須賀の宮を訪れた。
中には遠方から何日もかけてやってきた者もおり、宮の周囲には連日のように人々が集まっていた。
須佐之男に対する期待は、もはや一部の村だけに留まるものではなかった。
八岐大蛇の支配から解放された者たちは、新しい王の誕生を望んでいたのである。
そして、ついにその日が訪れた。
須賀の宮には各地の村の代表者や豪族たちが集まり、宮の前にも大勢の民衆が詰めかけていた。
これから須佐之男が重大な宣言を行うと聞きつけ、遠方から訪れた者までいる。
人々の期待が高まる中、須佐之男は宮の前に姿を現した。
七尺もある堂々とした体格は、集まった人々の中でもひときわ目立っていた。
その姿を見た途端、あちこちから歓声が上がった。
「須佐之男様ーーー!」
「我らの英雄!」
「出雲の救世主!」
須佐之男はその声に応えるように片手を高く掲げた。
すると、次第に人々の声が静まっていった。
須佐之男は集まった民衆を見渡し、大きく息を吸った。
「皆の者、聞け!」
その声は、広場に集まった人々の隅々まで響き渡った。
「俺は筑紫からこの地へやってきた。最初は海賊を調べて退治するだけのつもりだったが、出雲で見たものは、賊に苦しめられる民の姿だった!」
須佐之男は一度言葉を切り、集まった人々を見回した。
「だが、もう八岐大蛇はいねえ! 海も港も鍛冶場も取り戻した! これからは誰にも怯えることなく、この地で暮らせるようにしてやる!」
民衆の間から歓声が上がった。
「俺はこの出雲に残る! お前らが安心して暮らせる国を作るためにな!」
須佐之男は力強く胸を張った。
「そして、今日この日より、俺は出雲の王に即位する!」
一瞬の静寂のあと、宮の前は大歓声に包まれた。
「おおおおおおっ!」
「我らの王だ!」
「須佐之男様が出雲の王に!」
「新しい王の誕生だ!」
長く八岐大蛇の暴政に苦しめられてきた人々にとって、それは新しい時代の到来を告げる宣言だった。
須佐之男がいなければ、今も故郷へ帰ることができなかった者がいる。家族を奪われ、暮らしを壊され、明日への希望さえ失っていた者たちがいる。
そんな人々が今、新しい王の誕生を心から喜んでいた。
須佐之男は歓声が少し落ち着くのを待ってから、もう一度口を開いた。
「それから、もう一つ知らせがある!」
民衆の視線が再び須佐之男へと集まった。
「俺は櫛名を娶り、妻とする!」
その宣言に、今度は驚きと喜びの声が一斉に上がった。
「おおっ! ご婚姻も!」
「王の即位に、ご結婚まで!」
「なんとめでたい!」
櫛名は突然大勢の視線を向けられ、恥ずかしそうに頬を染めた。
しかし、須佐之男が手を差し伸べると、その手を取り、彼の隣へと進み出た。
二人の姿を見た民衆からは、さらに大きな歓声が上がった。
「櫛名様、おめでとうございます!」
「出雲に新しい主が生まれたぞ!」
「須佐之男王、万歳!」
歓喜する人々を前に、須佐之男は満足そうに笑った。
そして隣に立つ櫛名の手を握り、もう一度大きな声を張り上げた。
「これからの出雲は俺が守る! 皆で豊かな国にしていこうぜ!」
その言葉に応えるように、人々の歓声が再び響き渡った。
櫛名は夫となる須佐之男を見上げた。
出会った頃は、ただ途方もなく強く、豪快で、少し困った人だと思っていた。
それが今では、出雲の民からこれほどまでに慕われる人物になっている。
そして、その隣に自分が立っていることが、何よりも嬉しかった。
須佐之男もまた、民衆の歓声を聞きながら、自ら選んだ新しい道に胸を躍らせていた。
筑紫では度重なる騒動の末に追放された身だったが、出雲では誰もが自分を必要としてくれている。
この地には守るべき民がいて、共に生きる妻がいる。
そして、自分の力で築いていく国がある。
須賀の宮で行われた王位宣言と婚姻の知らせは、やがて出雲の隅々にまで広まっていった。
八岐大蛇の支配から解放された人々は、新しい王の下で始まる未来に希望を抱き、各地でその誕生を祝ったのである。
こうして、かつて筑紫を追放された無敵の須佐之男は、多くの民に望まれ、出雲の新しい王となったのだった。




