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休日の朝。
窓を打つ音で、サラは目を覚ました。
ぽつ、ぽつ、と規則的に響くその音は、すぐに強さを増していく。
雨だった。
「……結構降ってる」
寝台から起き上がり、窓に近づく。
ガラス越しに見える街は、薄い灰色に包まれていた。
石畳の道は濡れて光り、人々は足早に行き交っている。
傘を差す者。
フードを被る者。
それでも――動きは止まらない。
(雨でも、変わらないのね)
ルーナ神聖国では、こうはいかなかった。
土の道はぬかるみ、馬車は進みにくくなり、人の動きも鈍る。
だが、この国では違う。
石畳が水を受け止める、排水が機能する。
だから――止まらない。
「図書館、行く?」
後ろから、ミレナの声。
振り返ると、すでに支度を整えている。
「ええ、行くわ」
サラは頷く。
傘を差し、外へ出る。
雨粒が規則的に音を立てる。
石畳に弾かれ、水はきちんと流れていく。
靴が汚れることもない。
(やっぱり……すごいわね)
改めて思う。
ただの“道”ではない。
設計された“機能”だ。
図書館に着く頃には、裾がわずかに湿る程度だった。
大きな建物の前で、傘を閉じる。
重厚な扉を押し開けると、静寂が迎えてくれた。
一気に外の音が遮断され、外の雨音が遠くなる。
代わりに感じるのは、紙の匂い。
乾いたインクの香り。
サラは、自然と息を吸い込む。
(落ち着く……)
知識へのアクセスが、常に保証されている。
それはつまり、この国がどれだけ“学び”を重視しているかの証だった。
整然と並ぶ背表紙。
同じ形。
同じ大きさ。
(……綺麗)
手に取る。
紙は均一で、文字も整っていてぶれがない。
(これが……活版印刷)
ルーナ神聖国では、本は基本的に手書きだった。
写本。
一冊作るのに、膨大な時間と労力がかかる。
だから高価で、数も少ない。
内容も、限られていた。
だが、この国では違う。
(同じものが、何冊もある)
それだけで、価値が変わる。
広がる。
知識が、独占されない。
共有される。
席に座り、本を開く。
ページをめくる。
音が、静かに響く。
雨音と混ざり合い、心地よいリズムを生む。
農業の本。
歴史の本。
哲学書。
工学書。
次々と読み進めていく。
理解するたびに、世界が広がる。
(……やっぱり)
確信する。
(この国は、“知識”でできている)
ただ豊かなだけではない。
考え、試し、積み重ねてきた結果。
それが、今の姿。
「サラ」
気づけば、ミレナが隣に立っていた。
「昼」
「あ……もう?」
時計を見る。
いつの間にか、昼を過ぎていた。
「……早いわね」
「集中してた」
短い指摘。
サラは苦笑する。
軽く食事を取り、再び席へ戻る。
外はまだ雨のようだ。
だが、それがむしろ集中を助ける。
時間は、静かに流れていった。
そして気づけば――夕方。
閉館の時間。
名残惜しく本を閉じる。
(……もっと読みたい)
長時間本を読み続けたせいで、体はどこかだるくなっている、
しかしそれは心地よい疲れだった。
図書館を出ると、雨は少し弱まっていた。
空はまだ曇っているが、どこか明るい。
サラはゆっくりと歩き出す。
(いい一日だった)
静かで、満ちた時間。
知識に浸る休日。
それもまた、贅沢だと感じる。
――そして、別の休日。
朝。
窓から差し込む光で、目が覚める。
柔らかな日差し。
青い空。
「……晴れね」
思わず、笑みがこぼれる。
「今日は?」
ミレナが問う。
サラは、迷わず答える。
「食べ歩き」
「了解」
即答だった。
街へ出る。
太陽の下、すべてが輝いて見える。
ルーナ神聖国とは比べ物にならない程、人がごった返している。
町中に活気が溢れている。
屋台の並ぶ通りへ向かう。
そこには、色とりどりの料理が並んでいた。
「おじさん、これ何?」
指差す。
「エルディシア王国の焼き菓子だよ」
店主が笑顔で答える。
「甘くて美味しいよ」
「じゃあ一つください」
受け取り、一口。
「……美味しい」
素直に感想が出る。
外はさくっと、中はしっとり。
何かの果物だろうか、砂糖で煮た果物が、パイ生地に包まれている。
焼きたては香のよく甘さも程よい。
これはまた買わないと!
お気に入りの店リストに追加する事にした。
そうして歩いていると、肉を焼く香りが漂ってくる。
串焼きだろうか、普通はタレがついているが、
何やら独特なにおいがするスパイスがついているようだった。
「試してみようかしら……」
串焼きの店員に声をかける。
他国から行商に来たのだろう、訛りのある発音で商品を説明してくれた。
その説明を聞いて1本頼んでみる事にする。
「う……辛い!」
舌がひりひりする。
唐辛子とも違う独特なスパイス、
最初は抵抗があったが、無理やりたべ進め、
最後のお肉を食べる頃には、すっかり味に慣れてしまっていた。
「これは、普段は食べないけど、時々ふと食べたくなる、そんな味ね」
思わず、呟く。
知らない味。
新しい発見ばかりだ。
それを気軽に楽しめる。
「食べ過ぎ」
ミレナが言う。
「大丈夫よ」
「そう?」
「まだいけるわ」
即答する。
ミレナは小さくため息をついた。
歩きながら、笑う。
食べて、話して。
ただそれだけなのに、満たされる。
(こういうのも、いいわね)
何も考えず、楽しむ時間、それもまた必要だと感じる。
夕方、少し疲れた足で家へ向かう。
手にはいくつかの包み。
今日の成果だ。
家に着き、椅子に座る。
ふう、と息を吐く。
雨の日の休日。
静かに本を読む。
晴れの日の休日。
街を歩き、味を楽しむ。
どちらも――
今のサラの、大切な時間だった。
(……いい国ね)
ぽつりと、思う。
知ることができて。
楽しむことができて。
生きることができる。
お風呂で疲れを癒しながら、この国での日常を満喫していた。




