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次期竜王のつがい  作者: あいら


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7

休日の朝。

窓を打つ音で、サラは目を覚ました。

ぽつ、ぽつ、と規則的に響くその音は、すぐに強さを増していく。


雨だった。


「……結構降ってる」


寝台から起き上がり、窓に近づく。


ガラス越しに見える街は、薄い灰色に包まれていた。

石畳の道は濡れて光り、人々は足早に行き交っている。


傘を差す者。

フードを被る者。


それでも――動きは止まらない。


(雨でも、変わらないのね)


ルーナ神聖国では、こうはいかなかった。


土の道はぬかるみ、馬車は進みにくくなり、人の動きも鈍る。


だが、この国では違う。


石畳が水を受け止める、排水が機能する。


だから――止まらない。


「図書館、行く?」


後ろから、ミレナの声。


振り返ると、すでに支度を整えている。


「ええ、行くわ」


サラは頷く。


傘を差し、外へ出る。


雨粒が規則的に音を立てる。


石畳に弾かれ、水はきちんと流れていく。


靴が汚れることもない。


(やっぱり……すごいわね)


改めて思う。


ただの“道”ではない。


設計された“機能”だ。


図書館に着く頃には、裾がわずかに湿る程度だった。


大きな建物の前で、傘を閉じる。


重厚な扉を押し開けると、静寂が迎えてくれた。

一気に外の音が遮断され、外の雨音が遠くなる。


代わりに感じるのは、紙の匂い。

乾いたインクの香り。

サラは、自然と息を吸い込む。


(落ち着く……)


知識へのアクセスが、常に保証されている。

それはつまり、この国がどれだけ“学び”を重視しているかの証だった。


整然と並ぶ背表紙。


同じ形。

同じ大きさ。


(……綺麗)


手に取る。


紙は均一で、文字も整っていてぶれがない。


(これが……活版印刷)


ルーナ神聖国では、本は基本的に手書きだった。


写本。


一冊作るのに、膨大な時間と労力がかかる。


だから高価で、数も少ない。


内容も、限られていた。


だが、この国では違う。


(同じものが、何冊もある)


それだけで、価値が変わる。


広がる。


知識が、独占されない。


共有される。


席に座り、本を開く。


ページをめくる。


音が、静かに響く。


雨音と混ざり合い、心地よいリズムを生む。


農業の本。


歴史の本。


哲学書。


工学書。


次々と読み進めていく。


理解するたびに、世界が広がる。


(……やっぱり)


確信する。


(この国は、“知識”でできている)


ただ豊かなだけではない。


考え、試し、積み重ねてきた結果。


それが、今の姿。


「サラ」


気づけば、ミレナが隣に立っていた。


「昼」


「あ……もう?」


時計を見る。


いつの間にか、昼を過ぎていた。


「……早いわね」


「集中してた」


短い指摘。


サラは苦笑する。


軽く食事を取り、再び席へ戻る。


外はまだ雨のようだ。

だが、それがむしろ集中を助ける。


時間は、静かに流れていった。


そして気づけば――夕方。


閉館の時間。


名残惜しく本を閉じる。


(……もっと読みたい)


長時間本を読み続けたせいで、体はどこかだるくなっている、

しかしそれは心地よい疲れだった。


図書館を出ると、雨は少し弱まっていた。


空はまだ曇っているが、どこか明るい。


サラはゆっくりと歩き出す。


(いい一日だった)


静かで、満ちた時間。


知識に浸る休日。


それもまた、贅沢だと感じる。


――そして、別の休日。


朝。


窓から差し込む光で、目が覚める。


柔らかな日差し。


青い空。


「……晴れね」


思わず、笑みがこぼれる。


「今日は?」


ミレナが問う。


サラは、迷わず答える。


「食べ歩き」


「了解」


即答だった。


街へ出る。


太陽の下、すべてが輝いて見える。


ルーナ神聖国とは比べ物にならない程、人がごった返している。


町中に活気が溢れている。


屋台の並ぶ通りへ向かう。

そこには、色とりどりの料理が並んでいた。


「おじさん、これ何?」


指差す。


「エルディシア王国の焼き菓子だよ」


店主が笑顔で答える。


「甘くて美味しいよ」


「じゃあ一つください」


受け取り、一口。


「……美味しい」


素直に感想が出る。


外はさくっと、中はしっとり。

何かの果物だろうか、砂糖で煮た果物が、パイ生地に包まれている。

焼きたては香のよく甘さも程よい。


これはまた買わないと!

お気に入りの店リストに追加する事にした。


そうして歩いていると、肉を焼く香りが漂ってくる。


串焼きだろうか、普通はタレがついているが、

何やら独特なにおいがするスパイスがついているようだった。


「試してみようかしら……」


串焼きの店員に声をかける。

他国から行商に来たのだろう、訛りのある発音で商品を説明してくれた。


その説明を聞いて1本頼んでみる事にする。


「う……辛い!」


舌がひりひりする。


唐辛子とも違う独特なスパイス、

最初は抵抗があったが、無理やりたべ進め、

最後のお肉を食べる頃には、すっかり味に慣れてしまっていた。


「これは、普段は食べないけど、時々ふと食べたくなる、そんな味ね」


思わず、呟く。


知らない味。


新しい発見ばかりだ。


それを気軽に楽しめる。


「食べ過ぎ」


ミレナが言う。


「大丈夫よ」


「そう?」


「まだいけるわ」


即答する。


ミレナは小さくため息をついた。


歩きながら、笑う。


食べて、話して。


ただそれだけなのに、満たされる。


(こういうのも、いいわね)


何も考えず、楽しむ時間、それもまた必要だと感じる。


夕方、少し疲れた足で家へ向かう。


手にはいくつかの包み。

今日の成果だ。


家に着き、椅子に座る。


ふう、と息を吐く。


雨の日の休日。


静かに本を読む。


晴れの日の休日。


街を歩き、味を楽しむ。


どちらも――


今のサラの、大切な時間だった。


(……いい国ね)


ぽつりと、思う。


知ることができて。


楽しむことができて。


生きることができる。


お風呂で疲れを癒しながら、この国での日常を満喫していた。

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