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カルディナ大陸には5つの国が存在している。
出身のルーナ神聖国はその名が示すように宗教国家で、
内陸に位置する小さな国だ。
そのルーナ神聖国を取り囲むように、
海に面した国が4つ存在してる。
東の上、ノクティア共和国
東の下、グランヴェルド帝国
西の下、エルディシア王国
そして西の上、ドラグレシア竜大国
伝説によると、2000年前、竜神によって築かれた国とされる、
その血を引く王家は、特別な存在として君臨している。
王は“竜王”
王妃は“竜妃”
ただの称号ではない。
この国において、それは“絶対的な象徴”だった。
「……無能な王が出たことは、一度もない」
ロザリーがぽつりと言う。
「記録上は」
ミレナがそれに答えて言う。
「……すごいわね」
思わず本音が出る。
王が優秀であり続ける国。
それが、どれほど異常なことか。
サラはよく知っている。
(普通は……ありえない)
権力は、腐るものだ。
どれだけ優れた人間でも、代を重ねれば必ず歪みが出る。
だが、この国にはそれがない。
――だからこそ。
(ここまで発展しているのね)
納得する。
飛空艇から見ても、整然と整えられた道は、
街を歩くとそれを身近に感じられる。
一歩、踏み出した瞬間から違いが分かる。
足元は、しっかりと敷き詰められた石畳。
凹凸が少なく、歩きやすい。
馬車が通っても、大きく揺れることはなさそうだ。
実際に目に入る馬車も、ルーナ神聖国とは全く異なっていた。
頑丈な木で組まれた車体。
屋根までしっかりと作られ、雨風を防ぐ構造。
そして――美しい。
実用性と装飾性が両立している。
(……違う)
何もかもが違う。
ルーナ神聖国では、道は土を均しただけの場所が多かった。
雨が降ればぬかるみ、移動も一苦労だった。
馬車も、大きな布で覆われた荷馬車が主流。
それが当たり前だと思っていた。
しかし。
(ここでは、それが“当たり前”ではない)
見上げる。
建物の間を、細い煙が上がっている。
「石炭だわ!」
思わず声を上げる。
「石炭?」
首を傾げるミレナに説明する。
「蒸気で動く機械や、トラムを動かしてるのよ」
「トラム?」
聞き慣れない言葉に、ミレナは首を傾げる。
すると、ちょうど目の前を金属でできた車体が、音を立てて通り過ぎた。
「……え?」
驚くミレナを面白く眺める。
馬がいない、それなのに動いている。
決められた軌道の上を、滑るように。
「……何、あれ」
ミレナはまだ信じらないようだ。
「乗り物よ」
「それは分かるけど」
思わず苦笑する。
(面白い……!)
トラムの事も知識としては知っていたけど、見たのは初めてだ。
本で読んだ世界が目の前に広がっている。
まるでおとぎの世界に迷い込んだようだ。
胸が高鳴る。
抑えきれないほどに。
さらに歩く。
人々の様子にも、違いがあった。
商人。職人。子供。
誰もが、きちんとした身なりをしている。
ルーナ神聖国では平民はみな同じような装いをしていた。
この国ではいろんな色、様々なデザインの服を着ている。
それだけで、”個性”を感じる。
貧しさが、見えない。
「……看板に普通に文字が書かれているわ、識字率が高いのね」
ルーナ神聖国では、貧しい者の中には、文字を知らない者もいた。
「教育が行き届いてるのね」
知識があるから、改善できる。
改善できるから、発展する。
単純だが、確かな流れ。
さらに。
「医療も進んでるそうよ」
「医療も?」
「そう」
短く答える。
「だから、寿命も長い」
想像以上の豊かさに、心が躍る。
「……でも」
ミレナは、ふと口にする。
「これだけ発展しているなら、他国から人が押し寄せてもおかしくない?」
「それが来ないのよ」
サラは少し意地悪な顔を作って答える。
「税が高い。物価も高い」
「……ああ」
ミレナは理解したようだ。
「簡単には住めないのね」
「そう」
選ばれた者だけが、生きられる国。
それが、ドラグレシア竜大国。
サラは、口元を緩める。
難しい。
簡単ではない。
だからこそ――
(やりがいがある)
胸の奥が、熱くなる。
家へ戻る途中。
サラは、ふと立ち止まる。
目の前には、整然とした街並み。
人々の流れ。
音。匂い。
すべてが、新しい。
「……決めたわ」
小さく、呟く。
「何を」
ミレナが問う。
サラは、ゆっくりと振り返る。
その瞳は、強く輝いていた。
「この国で――」
一拍。
そして。
「私は、あらゆる知識を吸収する」
宣言だった。
誰に命じられたわけでもない。
自分で決めた、最初の目標。
「全部、知りたいの」
技術も。文化も。仕組みも。
この国が、なぜここまで発展したのか。
どうすれば、それが成り立つのか。
「……いい」
ミレナが、小さく言う。
「らしい」
「そう?」
「うん」
短い会話。
しかし、それで十分だった。
それから――
二年の月日が流れた。
最初は戸惑いの連続だった。
言葉。生活。価値観。すべてが違う。
だが。
サラは、止まらなかった。
働き、学び、観察し。
一つ一つを吸収していく。
その姿は、まるで――乾いた大地が水を吸い込むようだった。
気づけばこの国の空気にも、すっかり馴染んでいた。
下町の喧騒。
店の匂い。
人々の笑い声。
それらすべてが、日常になる。
そして。
“サラ”という存在は、完全にこの国に根付いていた。




