↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
次期竜王のつがい  作者: あいら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/34

31(ルティーナ視点)

夜は更けていた。


王宮の一室――客人として用意された部屋は、静寂に包まれている。


重厚な扉の内側、

外の喧騒は、完全に遮断されていた。


「……納得がいきません」


沈黙を破ったのは、侍女のエリシアだった。

 

控えめではあるが、明確な不満を含んだ声音。


ルティーナは、窓辺に立ったまま振り返らない。


「何がかしら」

 

淡々とした問い。

だが、それは“聞いている”という意思表示でもあった。


「本日の件でございます」


エリシアは一歩前に出る。


「あのような……」


一瞬、言葉を選び――


「大したことのない装いの女性が持つ、小さな赤い石一つで許すなど」


はっきりと言い切る。


抑えた言い方だが、本音は隠れていない。


「到底、釣り合うとは思えません」


沈黙。

数秒。


ルティーナはゆっくりと振り向いた。


その表情には、怒りはない。


ただ――

わずかな呆れ。


「……見えていないのね」


「え?」


エリシアが目を瞬かせる。


理解できない、という顔。


ルティーナは静かに歩み寄り、テーブルの上に置かれた小箱を手に取った。


中には、あの赤い石のネックレス。


石は小さく、装飾も簡素、

知らない者からすれば、特別な価値は感じられない。


だが――


「これの価値が、分からない?」


静かな問い。


エリシアは少し戸惑いながらも答える。


「……申し訳ありません。美しいとは思いますが、それ以上は……」


「そう」


ルティーナは小さく頷いた。


「それが普通よ」


その言葉に、エリシアはさらに困惑する。


「普通、でございますか?」


「ええ」

 

ルティーナは石を指でつまみ、光にかざした。


深い赤。

ただの赤ではない。

内側からわずかに光を孕んでいるような、独特の色。


「これは、“市場に出ない”石なの」


「……市場に、出ない?」


「ええ」


ルティーナは静かに説明する。


「正確には――出せない」


エリシアの眉がわずかに動く。


「希少、という意味ではございませんか?」


「それだけじゃないわ」


ルティーナは首を横に振る。


「希少な宝石なら、いくらでもある。でも、それらは“値段がつく”」


そして――


「これは違う」


はっきりと言い切る。


「取引されないのよ」


その言葉に、エリシアは息を呑む。


「……では、どうやって」


「限られた経路でしか動かない」


ルティーナの声は静かだが、確信に満ちている。


「ルーナ神聖国の王族、もしくはそれに準ずる家系」


一瞬、言葉を切る。


「よほど特別な繋がりを持つ者」


エリシアの目が見開かれる。


「そのようなものを……あの女性が?」


「ええ」


即答。


迷いは一切ない。


「ルーナ教のなかで、神の心臓が変化したと言われる特別な赤い石があるの、

 この大陸でもっとも神聖な石、だからめったな事では流出しない」


エリシアはごくりと唾を飲んだ。


「しかも、躊躇なく差し出した」


そこが重要だった。


価値を理解していなければ、出せない。

理解していても、普通は出せない。


だが――


(サラは、迷わなかった)


それがすべてを物語っている。


「……では」


エリシアは慎重に言葉を選ぶ。


「あの方は、ルーナ神聖国の高位の貴族か何か……」


「特別な身分である事は確かね」


それに・・・と続ける。


「それだけではないわ」


ゆっくりと、石を戻す。


そして、エリシアを見る。


「あなた、気づかなかった?」


「何に、でございますか」


「空気よ」


短い言葉。


だが、その意味は重い。


「あの場で、誰が主導権を握っていたか」


エリシアは思い返す。


王女であるルティーナ。

怒り、場を支配していた存在。

だが――


(……あの瞬間)


サラが現れた時、空気が変わった。


明確に。


「……あの女性が」


小さく呟く。


「そう」


ルティーナは満足げに頷いた。


「私の怒りを、“否定せずに”収めた」


そこが重要だった。


否定すれば対立になる。


迎合すれば価値が落ちる。


だが、サラは違った。


「正面から受け止めて、別の道を提示した」


それは簡単なことではない。

王族相手に、それをやるのはなおさらだ。


「しかも、言葉も完璧」


イグナリアの言語。

発音、抑揚、どれも自然だった。


「……ただの平民では、ありませんね」


単なる知識ではない。

 

経験。

判断力。

そして――「器」

 

その一言に集約される。

ルティーナは、ゆっくりと息を吐いた。


「……サラ」


小さく呟く。


「間違いないわね」


「何が、でございますか」


エリシアが問う。


ルティーナは、はっきりと答えた。


「次期竜王のつがい」


一瞬、時間が止まる。


エリシアの目が大きく見開かれる。


「……まさか」


「まさか、ではないわ」


淡々とした否定。


「むしろ、それ以外に説明がつかない」


断言。

迷いは一切ない。


「……しかし」


エリシアは戸惑う。


「あのような……身なりの方が」


「関係ないわ」


ルティーナは即座に切り捨てる。


「おそらく平民の振りをして、

 この国の貴族の交流を観察していたのでしょう」


エリシア愕然とした。


「……楽しみね」


小さく呟く。


「次期竜妃、何としても味方につけたい存在ね」


エリシアは何も言えなかった。


ただ、その言葉の重さを受け止めるだけだった。


静かな夜の中で。

一人の王女は、この国が更に発展していく事を確信していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。