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次期竜王のつがい  作者: あいら


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30/34

30

ルティーナ王女の件を収めた後、

食事を再開しようとしたが、思い通りにはいかなかった。


サラを取り囲むかのような貴族の列。


辺境伯グレイヴに至っては、

神を拝むかのような目を向けている。


「私でできる事なら、何でも致します。

 お金でも、宝石でも、なんでもご希望を・・・・」


「そんな、かまわないわ」


笑顔で言うと、またざわめきが広まる。


「平民でいらっしゃるとか、

 身分をご希望でしたら、養女としてお迎えします、

 辺境伯は侯爵と同等の身分、最高の生活をお約束します」


「身分は必要ないの」


「しかし」


「身分が必要なら私が用意する」


声を上げたのが、フレデリック・フォン・フェルディナ公爵とあって、

周りは更ににぎやかになった。


「公爵様が?」


グレイヴ辺境伯は驚きが隠せない。


その時、王宮侍女から声がかかった。


「サラ様、竜妃様より。

 今回の礼として、本日は王宮でお休み頂くようにとの事です」


さすが竜妃、情報の伝達と判断が早い。


サラは笑顔で返す。


「お礼は竜妃様がして下さるとの事、

 王宮で過ごせるなんて、こんな贅沢はありません、これで十分です」


サラが何も受け取る意思がない事には気づいたが、

それでもあきらめず続ける。


「今回の御恩は忘れません、

 何か困った時は何なりとおっしゃって下さい」


そう言って、深く頭を下げるグレイヴに笑顔を見せて、

貴族の列から王宮の奥へと逃げるように向かった。







王宮の奥、そこで用意されていたのは、

ただの男爵の同行者に対する待遇ではない、

国賓クラスに対する待遇だった。


ドレスから用意された、夜着に着替える。

その夜着もシルクのサラサラとした、着心地が最高の一級品だった。


そうして、マッサージを受け、足をもんでもらう。


さすが、王宮侍女。


全てが一流で、天国にいるような心地になった。


「ご不便はございませんか」


控えていた侍女が、丁寧に頭を下げる。


「ええ、最高よ」


「何か必要なものがあれば、すぐにお申し付けください」


「ありがとう」


侍女は一礼し、下がる。


しばらくして。


「失礼いたします」


別の侍女が入ってくる。


その後ろにはワゴン、

そこにはいくつものボトルとグラスが乗っている。


「ワインでございます」


マッサージの後、何か飲み物をと言われ、

ワインを希望していたのだ、

王宮にあるワイン、期待は膨らむ。


「もしよろしければ、飲み比べを」


「最高だわ!」


侍女が手際よく準備をする。


グラスに、少量ずつ注がれていく。


色も香りも違う。


「こちらは南部の葡萄を使用したもの、こちらは熟成期間が長く――」


ソムリエの説明を聞きながら、一口口に含む。


(……美味しい)


率直な感想。


雑味がない。


香りも複雑で、口に含んだ後の余韻が長い。


「なるほどね」


そして次。


違いを確かめるように、ゆっくりと味わう。


だが――


(……少し強いわね)


アルコールの度数が高い。


気づけば、体がほんのりと熱を帯びている。


視界が、わずかに柔らかくなる。


思考が、少しだけ軽くなる。


「……いいわね」


自然と、言葉がこぼれる。


侍女たちが静かに微笑む。


さらに一口。


そして、もう一口。


気づけば、グラスがいくつも空になっていた。


「……サラ様」


控えめな声。


「少し、お顔が赤いようですが」


「そう?」


ふわふわした感覚のまま答える。

酔ってきている感覚はあるが、ドラグレシア竜大国の、

しかも王宮で貴賓出される最高級ワインを楽しめる機会など、

もう二度とないかもしれない、限界まで飲むつもりだった。


肩の力が抜け、余計な思考が削ぎ落とされていくのを感じる。


「少し、休まれた方が……」


「そうね」


その方が多く飲めるかもと思って、少し間を開ける。


侍女たちは視線を交わす。


そして、一人が口を開いた。


「本日は、大変なご活躍でございました」


「……そうかしら」


「辺境伯令嬢をお救いになられたこと、皆、感銘を受けております」


「大げさね」


サラはくすりと笑う。


「それに――」


侍女は続ける。


「王女殿下の怒りを収められたことは、簡単にできることではございません」


「……そうね」


否定はしない。


だが、誇るつもりもない。


「もしよろしければ、竜妃様が褒美をと仰せです」


その言葉に、サラは少しだけ首を傾げた。


「褒美?」


「ええ」


「王宮として、何かお望みのものを――」


そこまで聞いて。


サラは、ふっと笑った。


そして――


グラスを軽く揺らしながら、言う。


「必要ないわ」


あっさりと。


侍女たちが、わずかに驚く。


「ですが……」


「だって」


サラは、少しだけ視線を遠くに向けた。


酔いのせいか、その声は普段よりも柔らかい。


「力がある者が、弱い者を助けるのは――当然でしょう?」


静かに。


だが、はっきりと。


完全に酔っぱらっている、それが逆に本心だと信じられた。


侍女たちは、動けなかった。


ただ、その言葉を受け止める。


(……ああ)


一人が、内心で思う。


これは――


(間違いない)


別の侍女が、確信する。


理由や理屈ではないのだ。


当然のように助ける。


それを“義務”ではなく、“自然”として語る。


そして、イグナリアの言語を話す知識。

怒り狂う王女に冷静に話しかけれる度胸。


(この方は……)


言葉には出さない。


――竜王のつがい。


竜妃様が、ほんの数人の精鋭の侍女のみに、

サラが”つがい”である事を告げ、

平民の少女が”つがい”である事を、あなた達はどう思うかと。

その存在をその目で確かめるように言われていた。


サラはそんな空気の変化に気づかないまま、ただグラスを傾ける。


「……美味しいわね、あ、ご褒美ワインにするべきだったかしら?」


小さく笑う。


その無防備な表情に、侍女たちはさらに確信を深めた。


(ああ……)


(この方が)


(未来の――)


誰も口にはしないが思いは同じだった。


民を守り、導く存在。

竜王と共に、この国の柱となるお方。


自分達の誇りにかけて、お仕えする、

もう一分の迷いもない。


自然と皆頭を下げる、未来の竜妃に向かって。

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