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ルティーナ王女の件を収めた後、
食事を再開しようとしたが、思い通りにはいかなかった。
サラを取り囲むかのような貴族の列。
辺境伯グレイヴに至っては、
神を拝むかのような目を向けている。
「私でできる事なら、何でも致します。
お金でも、宝石でも、なんでもご希望を・・・・」
「そんな、かまわないわ」
笑顔で言うと、またざわめきが広まる。
「平民でいらっしゃるとか、
身分をご希望でしたら、養女としてお迎えします、
辺境伯は侯爵と同等の身分、最高の生活をお約束します」
「身分は必要ないの」
「しかし」
「身分が必要なら私が用意する」
声を上げたのが、フレデリック・フォン・フェルディナ公爵とあって、
周りは更ににぎやかになった。
「公爵様が?」
グレイヴ辺境伯は驚きが隠せない。
その時、王宮侍女から声がかかった。
「サラ様、竜妃様より。
今回の礼として、本日は王宮でお休み頂くようにとの事です」
さすが竜妃、情報の伝達と判断が早い。
サラは笑顔で返す。
「お礼は竜妃様がして下さるとの事、
王宮で過ごせるなんて、こんな贅沢はありません、これで十分です」
サラが何も受け取る意思がない事には気づいたが、
それでもあきらめず続ける。
「今回の御恩は忘れません、
何か困った時は何なりとおっしゃって下さい」
そう言って、深く頭を下げるグレイヴに笑顔を見せて、
貴族の列から王宮の奥へと逃げるように向かった。
王宮の奥、そこで用意されていたのは、
ただの男爵の同行者に対する待遇ではない、
国賓クラスに対する待遇だった。
ドレスから用意された、夜着に着替える。
その夜着もシルクのサラサラとした、着心地が最高の一級品だった。
そうして、マッサージを受け、足をもんでもらう。
さすが、王宮侍女。
全てが一流で、天国にいるような心地になった。
「ご不便はございませんか」
控えていた侍女が、丁寧に頭を下げる。
「ええ、最高よ」
「何か必要なものがあれば、すぐにお申し付けください」
「ありがとう」
侍女は一礼し、下がる。
しばらくして。
「失礼いたします」
別の侍女が入ってくる。
その後ろにはワゴン、
そこにはいくつものボトルとグラスが乗っている。
「ワインでございます」
マッサージの後、何か飲み物をと言われ、
ワインを希望していたのだ、
王宮にあるワイン、期待は膨らむ。
「もしよろしければ、飲み比べを」
「最高だわ!」
侍女が手際よく準備をする。
グラスに、少量ずつ注がれていく。
色も香りも違う。
「こちらは南部の葡萄を使用したもの、こちらは熟成期間が長く――」
ソムリエの説明を聞きながら、一口口に含む。
(……美味しい)
率直な感想。
雑味がない。
香りも複雑で、口に含んだ後の余韻が長い。
「なるほどね」
そして次。
違いを確かめるように、ゆっくりと味わう。
だが――
(……少し強いわね)
アルコールの度数が高い。
気づけば、体がほんのりと熱を帯びている。
視界が、わずかに柔らかくなる。
思考が、少しだけ軽くなる。
「……いいわね」
自然と、言葉がこぼれる。
侍女たちが静かに微笑む。
さらに一口。
そして、もう一口。
気づけば、グラスがいくつも空になっていた。
「……サラ様」
控えめな声。
「少し、お顔が赤いようですが」
「そう?」
ふわふわした感覚のまま答える。
酔ってきている感覚はあるが、ドラグレシア竜大国の、
しかも王宮で貴賓出される最高級ワインを楽しめる機会など、
もう二度とないかもしれない、限界まで飲むつもりだった。
肩の力が抜け、余計な思考が削ぎ落とされていくのを感じる。
「少し、休まれた方が……」
「そうね」
その方が多く飲めるかもと思って、少し間を開ける。
侍女たちは視線を交わす。
そして、一人が口を開いた。
「本日は、大変なご活躍でございました」
「……そうかしら」
「辺境伯令嬢をお救いになられたこと、皆、感銘を受けております」
「大げさね」
サラはくすりと笑う。
「それに――」
侍女は続ける。
「王女殿下の怒りを収められたことは、簡単にできることではございません」
「……そうね」
否定はしない。
だが、誇るつもりもない。
「もしよろしければ、竜妃様が褒美をと仰せです」
その言葉に、サラは少しだけ首を傾げた。
「褒美?」
「ええ」
「王宮として、何かお望みのものを――」
そこまで聞いて。
サラは、ふっと笑った。
そして――
グラスを軽く揺らしながら、言う。
「必要ないわ」
あっさりと。
侍女たちが、わずかに驚く。
「ですが……」
「だって」
サラは、少しだけ視線を遠くに向けた。
酔いのせいか、その声は普段よりも柔らかい。
「力がある者が、弱い者を助けるのは――当然でしょう?」
静かに。
だが、はっきりと。
完全に酔っぱらっている、それが逆に本心だと信じられた。
侍女たちは、動けなかった。
ただ、その言葉を受け止める。
(……ああ)
一人が、内心で思う。
これは――
(間違いない)
別の侍女が、確信する。
理由や理屈ではないのだ。
当然のように助ける。
それを“義務”ではなく、“自然”として語る。
そして、イグナリアの言語を話す知識。
怒り狂う王女に冷静に話しかけれる度胸。
(この方は……)
言葉には出さない。
――竜王のつがい。
竜妃様が、ほんの数人の精鋭の侍女のみに、
サラが”つがい”である事を告げ、
平民の少女が”つがい”である事を、あなた達はどう思うかと。
その存在をその目で確かめるように言われていた。
サラはそんな空気の変化に気づかないまま、ただグラスを傾ける。
「……美味しいわね、あ、ご褒美ワインにするべきだったかしら?」
小さく笑う。
その無防備な表情に、侍女たちはさらに確信を深めた。
(ああ……)
(この方が)
(未来の――)
誰も口にはしないが思いは同じだった。
民を守り、導く存在。
竜王と共に、この国の柱となるお方。
自分達の誇りにかけて、お仕えする、
もう一分の迷いもない。
自然と皆頭を下げる、未来の竜妃に向かって。




