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次期竜王のつがい  作者: あいら


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王宮の夜は、光で満ちていた。


外から見た時も十分に美しかったが、中に入るとそれは別格になる。


高く広がる天井。

無数に吊るされたシャンデリア。

磨き上げられた床は光を反射し、まるで水面のように揺らめいている。


壁には精緻な装飾と絵画。

どれもが過剰にならない絶妙な配置で、空間に品位を与えていた。


(……これ程とわね)


ルーナ神聖国の王宮には何度も出入りしていた。

なので、どうしても比べてしまう。


まず規模が違う。


調度品一つ一つが、明らかに、一つも二つも格上だ。


これが発展をし続けた国の余裕。


ルーナ神聖国では、質の悪さを誤魔化すかのように、

赤色を使ったり、ごてごてと飾り立てていたが、

ドラグレシア竜大国はむしろシンプルだ、

そのシンプルさが質の高さを、存分に示していた。


サラは広間の端に立っていた。


壁際。


人の流れから少し外れた場所。


いわゆる――“壁の花”


ルーナ神聖国では決していなかった場所。


だが、それは意図的な選択だった。


「本当にここにいるのか?」


クリスが気を使って聞いてくれるのを、頷いて肯定する。


中央に出る必要はない。

むしろ、端にいる方がよく見える。


誰がどこに立ち、誰と話し、どんな視線を交わしているか、

すべてが俯瞰できる。


手元にはグラスを持っているが、中身にはほとんど口をつけていない。

静かに視線を会場を巡らせる。


(……一致してきたわね)


頭の中にあるのは、図書館で読み込んだ貴族名鑑。


肖像画と名前、家系、役職。


それらをひとつひとつ照合していく。


――あれが財務を担う伯爵。

――あちらが軍務の重鎮。

――あの夫人は外交に強い。


実際の仕草や空気を見れば、紙の上の情報よりもはるかに理解が深まる。


(思ったより分かりやすい)


権力を持つ者ほど、隠しきれないものがある。


視線の動き。

他者との距離。

話しかけられ方。


それらすべてが、その人間の“位置”を語っている。


サラはわずかに口元を緩めた。


(やっぱり、来て正解ね)


その時だった。


「お困りのことはありませんか」


不意に、声がかけられる。


低く、落ち着いた声。


振り向く。


そこに立っていたのは――


(冢宰)


バルディス・グランツ。


王宮の中枢にいる男。


表にはあまり出ないが、ほぼすべてを把握している存在。


サラは一瞬だけ目を細め、それから自然に微笑んだ。


「そうね」


わざと、少し考える素振りを見せる。


「一つだけあるわ」


バルディスは少し眉を動かした。


「なんでしょうか」


その声音は丁寧だが、注意深い。


サラは、ほんのわずかに間を置いた。


そして――


「困っていることが、一つもないの」


静かに言った。


一瞬の沈黙。


次の瞬間。


「……それは、何よりです」


バルディスが笑った。


心からの笑み、それは作られたものではない。


その瞬間――


周囲の空気が変わった。


(……あら)


ざわめきが広がる。


小さく、だが確実に。


視線が集まる。


(そういう反応になるのね)


サラは内心で納得する。


冢宰が笑う、それは珍しいことなのだろう。


「何かおかしなことを言ったかしら」


「いえ」


バルディスは静かに首を振る。


「むしろ、安心しました」


「そう」


「ええ」


短いやり取り。


だが、その裏には多くの情報が含まれている。


その視線を、サラは正面から受け止める。


逃げない。


隠さない。


ただし、見せすぎない。


数秒の沈黙。


やがて、バルディスは軽く一礼した。


「今夜は、良き時間をお過ごしください」


「ありがとうございます」


それだけ言って、彼は去っていく。


残された空気が、まだざわついている。


(……少し目立ったかしら)


だが、問題はないだろう。


横にいたクリスが、目をまん丸にしていた。


「バルディス……殿と知り合いなのか?」


「ええ。図書館で時々お話をしているの、とても博識で素敵な方よ」


クリスは去っていった、バルディスの方を見つめる。


「どうしたの?」


「いや、珍しい事もあるものだと……いや、何でもない」


そう言って、いつもの笑顔を向けてくれる。


しばらくして、音楽が流れ始める。


ダンスの時間、

中央のスペースに、人が集まっていく。


サラは動かない。


壁際のまま。


だが――


「サラ」


クリスが手を差し伸べていた。


今日は正装。


黒髪に眼鏡、

だが、その立ち姿は隠しきれない。


(……こう見ると、かっこいいわね)


胸がどきっとしたのを感じる。


「一曲、どうだろうか」


サラは一瞬だけ考え――


「いいわ」


その手を取った。


中央ではなく端に近い場所、それでも十分だった。


音楽に合わせて、一歩踏み出す。


体が、自然に動く。


リズムを刻み、回転する。


(……久しぶりね)


だが、忘れてはいない。


体に染みついている。


クリスのリードも、正確で安定している。


(上手い)


クリスのダンスの腕は、明らかに上級者のものだった。


気づけば、周囲の視線が集まっていた。


中央ではない。


端の方。


それでも――


(思っていた以上に注目を集めてしまったわね)


ただ、ここでダンスを無理に止めれば、余計に注目される。


音楽に身を任せることにする。


回転。


一瞬、視線が交わる。


クリスの目が、わずかに揺れている。


(……本当に幸せそうね)


その表情に、少しだけ笑みが浮かぶ。


曲が終わる。


自然に、動きが止まる。


拍手が沸き起こる。


サラは軽く一礼し、すぐに壁際へ戻った。


(……これ以上は目立たないようにしないと)


そうして、飲食スペースに移動した。







やがて、会場の照明がわずかに落とされる。


人々のざわめきが、自然と収まっていく。


(……始まるのね)


中央に、一人の男性が現れる。


フェルシーナ。


派手ではない装い。


だが、その佇まいには確かな自信がある。


静かに、言葉が紡がれる。


一つ一つの言葉が、空間に落ちていく。


飾りすぎない表現。

だが、確実に心に届く構成。


そして――


(つがい……)


テーマは明確だった。


竜王と、そのつがい。


唯一無二の存在。


選ばれることの意味。


結ばれることの必然。


それを、美しく、洗練された言葉で描いている。


(……なるほど)


サラは静かに聞きながら思う。


この国において、“つがい”は特別だ。


制度ではない。


血でもない。


直感と、本能。


それが、最上位の価値として認められている。


(面白いわね)


詩が終わる。


静寂。


そして、大きな拍手。


会場全体が、その価値を理解している。


それが分かる。


(……やっぱり)


サラは小さく息を吐いた。


「この国で、つがいは特別」


誰に言うでもなく、心の中で呟く。


その時。


ふと、ある人物の顔が浮かんだ。


(……クリス)


あの真っ直ぐな視線。


迷いのない言葉。


そして――


最初に会った時の、あの行動。


(……何を考えているのかしら)


少しだけ、興味が湧く。


これまでは、単なる友人。


だが今は――


(少し、気になる)


ほんのわずかに、だが確かに意識が向いている。


しかし、今はクリス以上に意識が向く存在がある、

目の前に広がる、魅惑の料理達だ、

サラはお皿にいろんな料理を載せて、次々と食べ進める。


(そんな事より、今は食事よ!)


そんなサラをクリスは幸せそうに眺めていた。

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