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次期竜王のつがい  作者: あいら


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25/34

25(バルディス視点)

王宮の奥、光の届きにくい執務室。


表の華やかさとは切り離されたその空間で、バルディス・グランツは

裏社会の侍従頭から報告を思い返していた。


――違法娼館、壊滅。

――盗賊団、資金源数か所破壊。

――教会関係者、処理済み。


「……見事だな」


低く呟く。


その顔に、わずかな満足が滲んでいた、

結果は上々、相変わらず裏の人間は優秀だ。


(あの女……)


思考が、一点に収束する。


カトリーヌ。


裏の世界で生きる女。

ただの娼婦ではない。


違法娼館は壊滅させた。

しかし、その後女性達をきちんとフォローして、

元の世界に戻れるように手を回したのは彼女だ。


そして、


「繋がった、か」


椅子の背にもたれ、静かに目を閉じる。


王宮の裏と、下町の情報網。

これまで断片的だったものが、一つに結びついた。


これは大きい。


今後の動きは、格段に速くなる。


そして何より――


(流れを作った“起点”が、明確になった)


ゆっくりと目を開く。


机の上には、別の報告書が置かれていた。


サラ様。


それがたどり着いた名だ。


「……面白い」


口元が、わずかに歪む。


平民として暮らす女。

レストランで働き、図書館に通い、静かに日常を送っている。


だが、その実態は――


(あまりにも、凄すぎる)


指先で紙を叩く。


直接的な証拠はない。

だが、情報の流れを辿れば、サラ様の存在に行き着いて驚いた。


決して前には出ない。

だが、確実に“動かしている”


(表に出ない手を、使える人間か)


静かに息を吐く。


それは、稀有な資質だ。


多くの者は、どちらかに偏る。


表で輝くことを選ぶ者。

裏で蠢くことに慣れた者。


だが、サラ様は違う。


両方を理解し、必要に応じて使い分けている。


それは――


「竜妃の器だな」


ぽつりと、言葉が零れた。


その評価に、迷いはない。


そして同時に、ある人物の顔が浮かぶ。


クリストファー殿下。


次期竜王。


真っすぐで、優れた男だ。


疑う余地はない。


だが。


(綺麗すぎる)


バルディスは目を細める。


クリストファーは不正を憎み、正道を貫く、

それは美徳であり、王として必要な資質でもある。


だが同時に――


(それだけでは、守れないものもある)


現実は、常に正しくはない。


正論だけで片付くほど、世界は単純ではない。


時に汚れた手を使わなければならない場面がある、

切り捨てなければならないものがある、

見ないふりをしてはならない現実がある。


(あの方は、それを選ばない)


いや、選べない。


だから。


「私のような者がいる」


静かに呟く。


汚れを引き受ける役目、表に出ない処理、

秩序を保つための、非情な判断、

それらすべてを背負うために、自分はここにいる。


それでいい。


それが正しい。


そう思っていた。


だが。


(サラ様は違う)


視線を、再び報告書へ落とす。


彼女は、汚れを理解している。


そして必要とあらば、それを“使う”


躊躇がないわけではない。

だが、止まらない。


目的のために、手段を選べる。


それでいて。


(結果は、必ず正しい方向へ導いている)


そこが、決定的に違う。


ただの冷酷な人間ではない。


倫理を持ちながら、現実も見ている。


そのバランス。


それは――


「必要だな」


はっきりと、言い切れる。


この国に。


そして、次代に。


クリストファー殿下の隣に立つ者として、

サラ様は、あまりにも適している。


バルディスはゆっくりと立ち上がった。


窓の外を見る。


遠くに見えるのは、王都の一角にある一つの施設。


「図書館、か」


小さく呟く。


サラ様は、そこに通っている。


知識を求めて、あるいは、別の何かのために。


「早く直接お会いしてみたいものだ……」


決断は早い。


報告書だけでは足りない。


人は、実際に見なければ分からない。


バルディスは外套を手に取り、肩にかける、

そして、静かに扉へと向かう。


(さて……)


手をかける直前、わずかに足を止める。


(どこまで見せてくれるか)


試すような思考が浮かぶ。


だがすぐに、それを打ち消した。


試す必要はない。


サラ様は、既に結果を出している。


だからこれは――


「確認、だな」


扉を開く。


光が差し込む。


バルディスは迷いなく歩き出した。


王宮の裏を担う者として。


そして。


次代に必要な“存在”を味方につける為に。

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