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次期竜王のつがい  作者: あいら


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22/37

22(騎士団長視点)

騎士団という場所は、基本的に騒がしい。


剣がぶつかる音、靴底が石床を叩く音、命令が飛び交う声――

そのすべてが常にある。

そんな喧噪の中、騎士団長である私、マクシミリアン・クロイツは立っていた。


今日の訓練場も同じだった。


朝の光が石造りの壁に反射し、白く眩しい。


訓練用の剣が並び、若い騎士たちが整列している。


そこに一人の男が入ってきた瞬間空気がぴりりと引き締まる。


ドラグレシア竜大国の王太子――クリストファー・ファン・デラ・ドラグレシア。


ここでは、彼はただの“訓練参加者”として立っている。


決して特別扱いは希望しない、一騎士として剣を振るう。


しかし、その姿は周りの視線を自然に集める。


(やはり、王者としての資質をお持ちだ)


私は毎回そう思う。


「始める」


合図とともに訓練が始まる。


剣が交わる音が響く。


“必要な分だけ強い”


それが彼の戦い方だった。


若い騎士が一人、彼に挑む。


金属音が響く。


何度目かの剣戟の末、その騎士は剣を弾かれていた。


動きは速く、乱れがない。


(完璧だ)


そう思うのは、私だけではないだろう。


周囲の騎士たちも同じ表情をしている。


騎士の中でも、王宮の騎士、その中でも近衛騎士ともなると、

選びに選ばれた精鋭ぞろい、その中にあって決して劣っていない。


むしろ、政務もあり、訓練ばかりではないのに、

近衛騎士より強い事さえあった。


クリストファーに勝てる近衛騎士は数十名程度、

それ程にクリストファーは強い、十分すぎるぐらいに。


それ程の力を手にしても、決して努力を怠らない姿勢は、

若い騎士はもちろんの事、年を重ねた騎士も忠誠を誓うに十分だった。


訓練が終わると、空気が一気に緩む。


汗を拭く音。


水を飲む音。


クリストファーは静かに剣を収めた。


私は近づく。


「本日も見事でした、殿下」


これは事実だ。


社交辞令ではない。


だが、クリストファーは少しだけ視線を上げる。


「……そうか」


短い返事。


そのあと、少し間があった。


そして、意外な言葉が続く。


「だが私は完璧ではない」


私は一瞬、耳を疑った。


「完璧ではない、とは?」


クリストファーは少しだけ視線を逸らす。


「苦手なものもある」


騎士団長としての経験上、この手の発言は珍しくない。

若手騎士から相談を受ける事、

壮年の騎士の愚痴を聞く事も多い。


だが、彼の口から出ると意味が違う。


”完全無欠の王太子”


“弱さを必要としない人間”だと思っていた。


「殿下にも苦手なものが?」


思わず問い返す。


クリストファーは一瞬沈黙する。


そして――


「ある」


その言葉は、やけに静かだった。


私は少しだけ興味を持つ。


「差し支えなければ、お聞きしても?」


普段だったら聞かなかったかもしれない、

しかし、クリストファーのその目には“聞いてほしい”という色があった。


(……珍しい事もあるものだ…………)


「ベルジャミン料理だ」


私は一瞬だけ理解が遅れた。


「料理……ですか」


「そうだ」


彼は少しだけ真面目な顔で言う。


「香辛料の独特な味が苦手だったのだ」


それだけで、理由としては十分だ。


だが次の言葉が予想外だった。


「だが、それを克服できた」


私は目を細める。


「克服、ですか」


クリストファーは小さく頷く。


そして、少しだけ声の質が変わる。


「彼女のおかげだ」


その瞬間、空気がわずかに変わった。


“彼女”


その言葉が意味する人物は限られている。


サラ様。


私はすぐに理解する。


だが、口には出さない。


クリストファーは続ける。


「サラに薦められた、そうしたら美味しいと感じた」


(これは完全なノロケですな)


ほんわかした気分で、王太子を見る。


「彼女がいれば、どんな困難も克服できる」


その言葉を心強く思う。


「彼女のスープを少しもらった」


私は一瞬言葉を失う。


(彼女のスープ……?)


それは貴族社会では軽い意味ではない。


むしろ距離が問題だ。


私は慎重に言葉を選ぶ。


「殿下、それは……」


だが彼は遮る。


「問題はない」


即答だった。


そして、少しだけ笑う。


「私は、彼女と同じ物を食べた」


その表情を見て、私は理解する。


戦略ではない。


政治でもない。


ハニートラップでもない。


単なる好意を向けられる。


それがこの王太子には本当に嬉しかったのだ。


「”つがい”様にお会いするのが楽しみです」


「早く紹介したい」


「”つがい”様となれば、皆命を懸けてお守りします」


「・・・・うん、多分それは必要ない」


「必要ない?」


「むしろ、騎士達が負けないか心配だ」


「”つがい”様の話ですよね?」


クリストファーは意味深にほほ笑む。


「いずれ分かるさ、私も負けてはいられない」


そう心からほほ笑む王太子に、騎士団長は首を傾げるのだった。

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