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次期竜王のつがい  作者: あいら


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昼と夜の境目が曖昧になる時間帯。


王都の下町は、いつもより少しだけ柔らかい光に包まれていた。


石畳は夕日を吸い込み、金色と橙色が混ざったような色をしている。

通りを行き交う人々の声は、昼よりもゆるやかで、どこか安心感があった。


そんな中を、三人の影が歩いていた。


クリス、ダレン、サラの3人だ。


普段なら幸せそうな顔を崩さないクリス、

しかし、今、その顔は複雑な表情をしてる。


時は少し遡る。


「ダレンって本当にカツレツ好きね」


「まあ、基本嫌いな料理はないが、ここのカツレツは特別好きだな」


「クリスは?」


「え?」


「嫌いな料理とかあるの?」


暫く、言うか言わないか迷う沈黙がある。


「何?」


重ねて聞かれて、クリスはしぶしぶと言った風に言った。

おそらく弱みを見せるのに慣れていないのだろう。


「ベルジャミン料理・・・」


「ベルジャミン料理?」


苦しそうな表情で続ける。


「あの独特な香辛料は苦手で、でもどうしても食べないといけない時があって、

 無理矢理食べて、更に苦手になった」


「そうなのね」


サラは少し考える。


「他に好き嫌いはないのね?」


「ああ、甘い物辛いのも大丈夫だ」


「じゃあ今日は、ベルジャミン料理の店に行きましょう!」


「「え?」」


二人の声が重なり、

クリスの声は絶望に近い。


「私、食べ歩きが趣味で、お勧めの店があるの」


「でも・・・・」


言い淀むクリスに。


「決まりね」


と笑顔で告げる。


惚れた弱みか、クリスはサラには弱い。

結局、ベルジャミン料理の店に行くことになったのだった。








外見からしても、異国情緒あふれる外観。

看板には異国風の文字と、簡単な絵。


なんとも言えない香辛料の香が、店の外まで漂っている。


木製のテーブルが並び、壁には見たことのない模様の布がかかっている。


店中に所狭しと小物が置かれ、更に雰囲気を盛り上げる。

伝統音楽だろうか、普段聞くことのない楽器の音楽が流れていた。


「いらっしゃい!」


店主らしき男が明るく声を上げる。


サラは自然に視線を巡らせる。


ルーナ神聖国ではまずない店だ。


ダレンが席に座る。


「アルコール頼む?」


サラは気軽に聞くが、


「俺は水でいい」


とダレンが返す。


クリスもダレンもアルコールを口にした事がない、

一度聞いたが、エールやワインは好きなようだ、

なら、気軽に楽しんだらと思うが、頑としてそこは譲らなかった。


「……すごい雰囲気だな」


ダレンは店の内装に圧倒されているようだった。

店内の8割ぐらいの席が埋まっていてにぎやかだ。


サラはメニューを見ながら言う。


「じゃあ、クリスはコムタルム、私はこっちのセットね」


クリスは諦めたのか、無言で頷く。


「俺は・・・どうしよう・・・・・」


悩むダレンに、サラは告げる。


「前、お勧めを聞いた時、フォー・ボーがいいと聞いて、美味しかったわよ」


「どんな料理なんだ?」


ダレンが興味ぶかそうに聞く。


「麺料理で、牛肉の出汁、いろんなトッピングがあって、

 初心者は店にお任せがいいかも」


「じゃあ、それで」


3人のメニューが決まってオーダーを済ます、

料理が来るまで、何気ない会話をするも、

クリスの表情は硬いままで、どこか決意を秘めた表情をしていた。


(食事一つでそんなに真剣になる事ないのに)


クリスのそんな表情を、サラは面白く見たのだった。






コムタルムが届く。


ライスという珍しい穀物の上に、香辛料で味付けされた肉が乗っている。


クリスはかなり覚悟を持って、口にした。


「おいしい・・・・?」


心底意外だったらしく、その目は驚きで見開かれている。


「でしょう?」


サラは自慢げだ。


「このライスという穀物が、香辛料を丁度調和してくれるのよ、

 慣れると癖になるわよ」


「ライス?米とは違うのか?」


「似た穀物だけど・・・

 米は水分が多くて、ライスはぱさぱさで縦長なのが特徴ね」


「へえ」


「ベルジャミン料理はこのライスの粉で作った麺が多いのだけど、

 少しだけライスそのものの料理もあるの、

 麺料理はスープが薄い事もあって、

 香辛料の味が強いけど、ライスならそんなに感じないわ」


「たしかに」


そう言っていると、サラとダレンの料理も運ばれて来た。


ダレンは、


「うーん、最初はクセがあるが、慣れればうまいな」


と呟いていた。


しばらく食べ進め、サラが器を差し出す。


「どうぞ」


クリスは一瞬止まる。


「……それは」


「私のスープよ」


「それは分かるが」


「コムタルムにはこのスープも合うのよ、食べてみて」


何気なく差し出された器に胸がどきどきする。


(間接キスじゃないのか……)


サラの表情は変わらない、単にスープを薦めただけの表情だ。


私はこんなにも意識しているのに。


少し俯きがちになりながらも、サラの期待の視線を受けて、

スープを口に運ぶ。


「美味しいよ」


「でしょう?」


そのはじける笑顔に、まだ胸がどきどきする。


どこまで、自分に好きにさせる気なんだ?


自分の気持ちをかけらも気づいていないサラに、

胸が少し苦しくなった。






店を出る。


夕暮れはさらに深くなっていた。


空は赤から紫へと変わりつつある。


ダレンが伸びをする。


「いやー、今日は平和だったな」


その言葉に、クリスは小さく笑う。


「平和、か」


サラは少し前を歩いている。


風が彼女の髪を揺らす。


クリスはその背中を見る。


(彼女との距離はだいぶ縮められたと思うが、彼女はどうなのだろう)


あくまで、まだ友人だ、恋人でさえない事に寂しさを覚える。


彼女が優れた格闘術を身に付けているのはダレンがら聞いた、

父親が商人として成功していて、財力が大きく、

身代金目的で誘拐される恐れもあったので、

専門家を雇い、身に付けたという。


ドラグレシア竜大国の王都で一軒家を持ち、

更に同居人までいるとなると、ルーナ神聖国出身である事を考えれば、

相当な資産家なのだろう。


ならば、平民だとしても、そういったいわばプロを相手どる技術を、

身に付けていてもおかしくないと、ダレンと話し合った。


少しづつ彼女の事を知っていっている。


でも、もっと知りたい。


サラが振り返る。


「どうしたの?」


クリスは一瞬だけ言葉に詰まる。


だが、すぐに答える。


「いや……いい時間だったと思って」


サラは軽く頷く。


「よかった」


それだけ。


だが、その一言が妙に心に残る。


沈黙。


サラは気づかないまま歩いている。


クリスはその背中を見ながら思う。


(早く私だけの存在にしたい)


(”つがい”だと国中に宣言したい)


手をぎゅっと握りしめ、何とか感情を抑えていた。

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