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次期竜王のつがい  作者: あいら


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20/37

20(バルディス視点など)

ドラグレシア竜大国の王宮の朝。


いつもと同じく、侍従の一人が投書箱の書類を集めた。


大抵、大根が高くなって困っているや、

野良猫がゴミをあさって困っているなど、ささいな事だ。


そでも、民の声をきちんと拾う姿勢に、

侍従はこの国の懐の深さと余裕を感じていた。


今日はどんな内容だろうか。


先日は鶏の鳴く声で赤子が泣いて困るという内容で、

これはこれで、意外と解決が大変だったなと気楽に思う。


手にしたのは、茶色い大き目の封筒。


さして厚みもなく、何気なく開封する。


そして、その書類の文字を見て、目を見開いた。


「すぐにこの書類を宰相に!」


投書箱の内容は、大抵下級官吏か警備に渡される程度、

過去一度も宰相の元に渡った事などない。


その、なかった事が起きている。


内容はマグヌス・サン=クロワが盗賊と繋がり、

女性を売っている証拠だった。


しかも、どんなに調査しても分からなかった、

違法娼館のありかまで、きちんと調べてある。


裏の、しかもプロの仕事だ。


背筋に冷たい物が走る。


「なぜこんな物が・・・・」


投書箱などにあっていい物ではない、

国の国家機密にしなければいけない程の文章。


侍従の手は震えていた。









王宮という場所は、常に二つの顔を持っている。


ひとつは、民に見せる“秩序”

もうひとつは、誰にも見せない“処理”


バルディス・グランツは、

その“見せない側”にも属していた。


冢宰。


それは名目上、国家の行政を統括する役職だ。


だがそれだけではない、

国が壊れないように、壊れかけた部分を“静かに消す”

彼はそれを理解していた。


書類は静かに机の上に置かれていた。


封蝋のない茶色い大きな封筒。


司教マグヌス・サン=クロワによる、

盗賊組織の関与と娼館への人身売買。


王宮でいくら調査しても分からなかった情報、

裏のその裏の情報。


それが、投書箱に入っていた。


バルディスは目を閉じる。


そこに、


「失礼します」


と、一人の侍従が現れた。


どこか神経質そうでありながら、きりりとした顔をした壮年の侍従。


「マグヌス・サン=クロワ、教会の司教だ」


「はい」


「秘密裏に消せ」


侍従の表情は変わらない。


普段はどこででもいる侍従。


しかし、裏の仕事を請け負う頭でもある。


「遺体はどうしましょう」


「残した方がいい」


「はい」


「病死で構わない」


その一言で、すべてが決まる。


男は頷いた。


「では毒を利用します」


「マグヌスに病気はない、怪しまれないように、

 数度に分けて、体調を崩したようにみせかけるのだ」


「承知しました」


男は静かに去った。


バルディスは窓の外を見る。


王都は平和だった。


馬車が走り、人々が笑う。


それは“結果”だ。


(それでいい)


彼はそう思う。


理想では国は守れない。


必要なのは、均衡だ。










―数日後―


報告はあまりにも静かに届いた。


「マグヌス・サン=クロワ、病により死亡」


書類にはそれだけが書かれていた。


王宮の記録としては“病死”。


だがバルディスは理解していた。


(成功したか)


彼はゆっくりとペンを置く。


同時に別の報告も届く。

リストに挙げられていた違法娼館全てが潰れ、

女性全員が解放されたという報告だ。


同時に、盗賊の資金もいくつか回収しておいた。


バルディスは書類をめくる。


彼は小さく息を吐く。


これは偶然の成果ではない。


“設計している”


その人物は、闇から浮かび上がるかのように、

存在を露わにした。


この手ではつかめない存在として、

いつでも姿をくらませる存在として・・・・


この自分さえ、その人物の手のひらの上で踊らされている。


この国の裏に、新たな力がいる。

しかも、我々の味方として。


ならそれで十分だ。


バルディスはぬるくなったコーヒーを啜った。

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