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次期竜王のつがい  作者: あいら


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19/37

19(カトリーヌ視点)

夜は、嘘を柔らかくする。


高級娼館《ル・ルミエール》の灯りは、昼間よりもむしろ穏やかだった。

薄紅のカーテン越しに揺れるランプの光は、すべてを美しく見せるためにある。


ここに来る者は皆、“現実”ではなく“夢”を買いに来る。


だがその夢が、どれほど歪んだ材料でできているかを知る者は少ない。


カトリーヌ・ド・ラ・ロワールは、鏡の前で髪を整えていた。


淡い金色の髪を指先で滑らせ、紅を薄く引く。


鏡の中の自分は、いつも通り完璧だった。


(今日は“いい客”が来る)


そう思いながらも、胸の奥には微かな冷たさがあった。


彼女は“高級娼婦”。


「カトリーヌ、準備はいいかい?」


扉の向こうから支配人の声がする。


「ええ」


短く答える。


今日の客は“特別”だと聞いていた。


身なりは地味。だが、紹介状がある。


応接室は、いつもより少し重い空気だった。


客として通された男は、黒いローブを着ていた。


年は若い。だが、目の奥に疲労がある。


「リュート、と申します」


名乗りは丁寧だった。


だが声が震えている。


カトリーヌは微笑む。


「ようこそ、ル・ルミエールへ」


彼の目がわずかに揺れる。


(教会の下働きね……)


すぐに分かる。


教会の下働き程度が来れる程、この店は安くなく、

しかも一番ランクが高い私を買えるはずがない。


紹介状の主から、書類を手にしたら、

本来の報酬の3倍の金額を支払われる約束だ。


リュートの顔色は悪い。

とても娼館に来た者の顔色ではない。


ここに来た理由は一つしかない。


逃げられない事情。


あるいは――弱み。


部屋は静かだった。


「ワインをどうぞ」


そう言って手渡すも、リュートは一口も飲まない。


リュートは唇を噛んだ。


そして、ようやく本題を出す。


「盗賊の話を、知っていますか」


「ええ、噂なら聞くわ」


軽い世間話のように続ける。


「娼館に女性を売り飛ばしている」


「それも噂のひとつね」


リュートは震える手でカップを握った。


「私は……その記録を見てしまいました」


沈黙。


その一言は、重すぎた。


カトリーヌはゆっくりと目を細める。


「記録?」


「教会の帳簿です。……マグヌス司教の指示で」


カトリーヌは何も知らないという顔をする。


マグヌス・サン=クロワ。


教会の中枢にいる男。


カトリーヌは静かに息を吐いた。


「それで、あなたはなぜここに?」


リュートは視線を落とす。


「逃げられません」


短い言葉。


だがそれは、真実だった。


「記録を見た者は、消される」


「それは怖いわね」


大げさに体を震わせて答える。


「ある人物から聞きました、

 ここで証拠を渡せば、守ってもらえると」


「ええ、聞いているわ、約束する」


窓の外には、夜の街が見える。


美しい光。


しかしその裏には、同じだけの闇がある。


(この国は、いつもそうだ)


光と闇が、同じ場所にある。


リュートは小さな封筒を取り出した。


震える手で差し出す。


「これが……記録です」


封筒の中には、数枚の紙。


取引記録。


金の流れ。


娼館の名前。


そして、教会の印。


カトリーヌはそれを一枚ずつ見た。


(やはり……繋がっている)


盗賊。


娼館。


教会。


そして、マグヌス。


カトリーヌは紅い唇をゆっくりと開く。


「今夜は楽しみましょう」


その言葉に薄い布の服を脱ぐ。


リュートはごくりと唾を飲んだ。

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