↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
次期竜王のつがい  作者: あいら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/37

18

ドラグレシア竜大国の昼は、いつも騒がしい。


石畳の通りを馬車が軽やかに走り、

屋台からは焼き立てのパンの香ばしい匂いが漂う。


遠くではトラムの車輪が規則正しい音を刻み、

人々の会話がその隙間を縫うように流れていく。


サラはその喧騒の中に立っていた。


白いエプロンを軽く直しながら、木製の扉に手をかける。


「いらっしゃいませ!」


扉が開いた瞬間、店内の空気がふわりと変わる。


香ばしい油の匂いが一気に広がる。


今日も店は混んでいた。


「サラ、テーブル3、追加でカツレツ!」


奥からマルタの声が飛ぶ。


「了解」


短く返事をして、サラは滑るように動く。


この店の看板料理は“カツレツ”だ。


薄く叩かれた豚肉に細かいパン粉をまとわせ、黄金色になるまで揚げる。

それを特製のソースとともに出す。


シンプルだが、なぜかやみつきになる。


ルーナ神聖国では考えられない調理法だった。


「サラ、これ運んで!」


「はい」


軽やかに皿を持ち上げた。






サラの仕事が終わるちょっと前、店の扉が再び開いた。


入ってきた二人の男を見て、サラの手がほんのわずか止まる。


(……あの二人)


一人は、黒髪に青い瞳。


もう一人は赤髪に緑の瞳。


見慣れた顔。


クリスとダレンだった。


ダレンが軽く手を振る。


「よぉ、忙しそうだな」


「いらっしゃいませ!」


サラはいつものように笑顔で応える。


クリスは一瞬だけ目を細め、サラを見た。


「今日もカツレツで」


ダレンが席についてそうそうに注文する。


いつも何がいいか聞いて、いろんなメニューを試すクリスとは違い、

ダレンはカツレツ以外を注文した事がない。


仕事が終わった後、3人でパフェを食べる事になった。


ダレンの紹介する店はいつもハズレがない、

決して高級店ばかりではなく、

600年前から続いている店などもあるが、

どの店も美味しく、サラを楽しませてくれる。


サラはこの2人と出かける事を、

今では当然のように思い、心待ちにしていた。


今日、テーブルに届いたパフェも、

色鮮やかなフルーツがふんだんに使われ、

何層にも重ねられたアイスが美味しそうだ。


「この前の盗賊の事だけど、何か分かったの?」


サラが不思議そうに聞く。


いきなり昼間から暴れていたのだ、何かあってもおかしくない。


「その後調査が入って」


ダレンが顔を顰めて言う。


「盗賊が女性攫い、違法な娼館を作り、そこで売っているそうだ」


「え?」


サラは驚いた顔をする。


クリスが続ける。


「可能性が高い。だが証拠がない」


「証拠がない?」


違法な娼館を作れば、すぐ分かりそうな物だが・・・


「書類を偽造している、権力者の協力があるな」


難しい顔をするダレンを見る。


「昼間暴れていたのも、そのバックのせいだろう」


「貴族とか?」


「いや、厄介な事に、教会が絡んでる可能性が高い」


その瞬間、サラの肩がわずかに動いた。


教会。


ルーナ神聖国は教会の総本山だ。


大陸中の信仰を集める教会は、歴史も古く、格式も高い。


それを利用するなんて・・・とても許せる事ではなかった。


「とにかく頭がいい人物のようだ、

 盗賊と繋がっているのが誰か、まったく分からない」


「あくまで推測だからな」


クリスの声は静かだった。


だが、その静けさの中に怒りがある。


サラは息を殺していた。


(教会が……娼館に関与……?)


ルーナ神聖国で学んだ教義が、脳裏に浮かぶ。


もしそれが本当なら――


(見過ごす事はできない)


サラの中で、何かが音を立てた。







パフェを食べて、クリスとダレンと別れ、

図書館にも寄らず、すぐに家に向かった。


同居人のミレナはすでに夕飯の準備をしていた。


青い髪をまとめ、テキパキと動いている。


「サラ、今日は図書館行かなかったの?」


「命令よ」


その一言で、ミレナの手が止まる。


「調査してほしいことがあるの」


サラの声は静かだった。


しかし、その言葉には重さがある。

人に命令をし慣れた者だけが持つ、絶対的な声。


ミレナは少しだけ目を細めた。


「何を調査致しますか?」


「娼館と盗賊。それと……教会」


サラはダレンとクリスとの話をする。


「かしこまりました」


ミレナはその場にに膝をついて、正式な礼を取る。


ミレナの仕事は料理と掃除。

確かに普段はそれだけだ。


護衛すらしない、そんな必要はないからだ。


ただ、普段決して見せない顔がある。


隠密。


これがミレナが、サラの侍女として選ばれた理由だった。







数日後。


ミレナは淡々と報告を持ち帰った。


「繋がっておりました」


短い言葉だった。


だが、それだけで十分だった。


テーブルの上に置かれた書類。


盗賊組織の資金流入、非合法の娼館が書かれている。


そして、ひとつの名前。


マグヌス・サン=クロワ。

全ての元凶。


リュートという下働きが証拠を見ているが、

下働きが証拠を持ちだすのは命がけの為、

信頼されていない我々では対応不可。


サラはその文字を見つめる。


だが同時に理解する。


あくまで情報だけだ、“証拠”とはならない。


サラが言う。


「これだけじゃ足りないわね」


「申し訳ございません」


「ここはルーナ神聖国ではないわ、仕方ない事よ」


ミレナは優秀だ、ミレナで不可能なら、他の誰でも不可能という事だ。


だが、その瞳は冷えている。


教会が悪事を働いた事が公になると、民の信仰心が薄れる。


それに、ドラグレシア竜大国の権威にも関わり、

裏で処理する必要がある案件だ。


(ルーナ神聖国でも同じだった)


“正しさ”だけでは動かない世界。


必要なのは証拠。


そして力。


サラはゆっくりと息を吐く。


「……手が出せないわね」


ミレナは少しだけ視線を上げる。


「いかがなされますか?」


サラはすぐには答えなかった。


窓の外を見る。


空は青い。


あまりにも、平和に見える。


サラは静かに言った。


「確実な証拠を手に入れましょう」


ミレナはわずかに目を細める。


「どうやってですか?」


サラは怪しくほほ笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ロザリーからサラになりいきいきとしていて、一段と美しくなったように感じました。クリスの溺愛っぷりにはこちらまで照れてしまいますね。でも、クリスにはサラがふさわしいと思います。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。