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次期竜王のつがい  作者: あいら


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15/36

15(ロイド視点)

ロイド・カザールは子爵の身分を持っている為、

若くして警備隊の隊長に就任した。


そして、その長の役に相応しく、

剣術、体術共に磨き、民を守ってきた。


この国民には慕われ、この国の力になれている事に、

誇りを持って仕事にあたっている。


クリスという男性が、警備隊を呼びに来た、

盗賊が現れたというのだ。


盗賊は本来夜に家に忍び込むなどする。

普段昼間から暴れたりしない。


何か裏があるかもしれないなと、

頭を巡らせながら、あわてて現場に駆け付けた。


一番心配なのは、市民に被害が出ない事だ、

幸いな事に、クリスという男性の友人が、

騎士で応戦していると聞いた事だ。


実際の被害はどの程度か・・・・

そう、心配して現場に着いた時、見たのは異様な光景だった。


石畳の上に転がる男たち。

その中央に静かにたたずむ、一人の少女。


後で名前はサラと聞いた。


先ほどまで人質に取られていたはずの少女は、

何事もなかったかのように立っていた。


衣服に乱れはない。

呼吸も乱れていない。

表情も、普段と変わらない。


(……異常だな)


ロイドは内心で呟く。


彼は長年、下町の治安を預かってきた。


喧嘩、強盗、殺し合い――

数えきれないほど見てきた。


だから分かる。


あの状況で。


あの距離で。


刃を突きつけられた状態から。


無傷で制圧するなど、あり得ない。


偶然ではない。


運でもない。


(技術だ)


しかも、生半可なものではない。


無駄がなかった。


迷いがなかった。


(……まるで)


そこまで考えて、ロイドは目を細める。


(戦場に立っている人間のようだ)


だがそれすら、しっくり来ない。


兵士の動きとも違う。


騎士の動きとも違う。


もっと、静かで――冷たい。


「隊長」


部下が声をかけてくる。


「盗賊は全員確保しました」


「ああ」


「数名、気絶しているだけで重傷者はいません」


ロイドは小さく頷く。


(加減しているな)


殺していない。


必要以上に傷つけてもいない。


だが、確実に戦闘不能にしている。


(完全に制御されている)


そこまで分かって、ロイドは小さく息を吐いた。


(……これは厄介だな)


ただ強いだけならいい。


だが――


強さを制御できる者は、別だ。


視線を再びサラへ向ける、

今は、あの黒髪の男と赤髪の男と話している。


そして、事情聴衆で聞いたのだが、

赤髪の男性はダレンと名乗った。


そして見せられたネックレスは、近衛騎士の証。

近衛騎士の仕事は王族の護衛。

本来、下町にいるはずがない。


不思議に思ったが、子爵程度が聞いていい話でない事は確かなので、

必要な事だけ確認して、それ以上は聞かなかった。


そして、そのダレンが、自分の命が危ないと分かっても、迷わず剣を捨て、

膝をついた存在。


近衛騎士に膝を着かせる存在など王族しかいない。


しかし、竜妃ではない。


(となると・・・)


サラ・・・いやサラ様


彼女が次期竜妃。


そうとしか考えられない。


ドラグレシア竜大国において、絶対の存在。


竜王の血を引く者が、ただ一人選ぶ“つがい”。


理屈ではない。

血でもない。

身分でもない。


直感で選ばれる存在。


そして、そのつがいは例外なく――


国に何かをもたらしてきた。


商才。

芸術。

政治。

発明。


形は違えど、すべて“必要な力”。


(ならば)


サラ様のあの力は何か。


戦闘技術か?

判断力か?


(いや、もっと凄いものかもしれない)


ロイドは、確信に近いものを抱いた。


だが同時に。


現実も見えている。


(民は歓迎するだろう)


今日の一件。


盗賊を制圧し、民を救った。


噂はすぐに広がる。


「勇敢な少女」

「美しい救い手」

「強く、優しい存在」


下町の人間は単純だ、

目の前で救われれば、それだけで喝采を送る。


(問題は――)


貴族だ、それも高位の。


(認めるはずがない)


身分のない女。


それが“つがい”になるなど。


特に――


(フェルディナ公爵家)


竜妃として、最有力だった家。


(確実に反対する)


感情ではなく、理屈で。


(面倒だな)


ロイドは小さく息を吐いた。


だが。


だからこそ。


(今のうちに、土台を作る必要がある)


貴族は理で動く。


だが民は、感情で動く。


ならば――


(先に民を動かす)


支持を作る。


空気を作る。


“受け入れるのが当然”という流れを。


ロイドは振り返る。


部下の一人に目を向ける。


「――噂を流せ」


「は?」


「今日の件だ」


部下は一瞬戸惑う。


「ですが、正式な発表は……」


「要らん」


即答だった。


「事実だけでいい」


自ら危険に飛び込み、人質を救い、盗賊を制圧したこと

それだけでいい、余計な装飾はいらない。


(事実の方が、強い)


「……分かりました」


部下は頷く。


ロイドは続けた。


「侍女のネットワークを使え」


部下の目がわずかに見開かれる。


侍女たちは、ただの使用人ではない、

屋敷と屋敷を繋ぐ、情報の流通網。


貴族の裏話から、街の噂まで、

最も速く、最も広く伝わる経路。


「……承知しました」


ロイドは再びサラ様を見る。


今はもう、ただの少女にしか見えない。


穏やかで、落ち着いていて、どこか柔らかい。


だが――


(騙されるな)


あれは本質ではない。


見せている顔の一つに過ぎない。


(本質は、あの瞬間だ)


迷いなく、命を賭ける判断。

迷いなく、敵を制圧する技術。


そして――


(誰よりも冷静だ)


「……面白い」


ロイド・カザールは踵を返す。


やるべきことは決まった。


民を動かす。

空気を作る。

そして――


(次期竜妃に無事就任して頂く)


そのための布石を、静かに、確実に、打っていった。

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