13
夕暮れの街は、柔らかな橙色に染まっていた、
スイーツ店を出た三人は、石畳の通りをゆっくりと歩いている。
「いやー、あれは当たりだったな」
ダレンが満足げに伸びをする。
「特にあのタルト、本当に美味しかったわ」
サラも頷く。まだ少しだけ余韻が残っているようで、声が弾んでいた。
「君があれほど喜ぶとは思わなかった」
クリスが静かに言う。
「何よ、甘いもの好きで悪い?」
「いや、むしろ――」
言いかけて、クリスは言葉を止めた。
(また言いすぎる)
先ほどダレンに釘を刺されたばかりだ。
その様子に、サラはくすっと笑う。
「なによ、続き言いなさいよ」
「……いや、やめておく」
「気になるじゃない」
「えっと……今度にするよ」
軽く流され、サラは少しだけ頬を膨らませた。
そんな何気ないやり取りの最中だった。
――悲鳴が、響いた。
「きゃああああっ!」
三人の足が止まる。
空気が一瞬で変わる。
遠くない。すぐ先の広場の方だ。
「……行くぞ」
ダレンの声が低くなる。
次の瞬間、三人は駆け出していた。
広場は混乱に包まれていた。
倒れた屋台、散らばる荷物、人々の悲鳴。
そして、その中心に――数人の男たち。
粗野な服装、手には剣。
明らかに、ただの喧嘩ではない。
「盗賊か……!」
ダレンが舌打ちする。
男の一人が近くの男を蹴り飛ばし、笑った。
「金目のもん全部置いてけ!」
逃げ惑う人々。
泣き叫ぶ子供。
その中で、サラは一瞬だけ目を細めた。
(……最低ね)
怒りはある。
だが、それ以上に冷静だった。
状況を見極める目。
人数、位置、動き。
「クリス」
ダレンが短く呼ぶ。
「ああ」
クリスはすぐに頷いた。
「警備を呼ぶ」
「頼む。ここは俺が抑える」
二人の視線が交わる。
無言の信頼。
次の瞬間、クリスは踵を返し、全力で走り出した。
残されたダレンは、ゆっくりと前に出る。
「おい」
低い声。
盗賊たちの視線が向く。
「そこまでにしとけ」
「なんだてめえは」
「通りすがりだ」
軽く肩をすくめる。
だがその目は、鋭い。
「逃げるなら今のうちだ。警備が来る」
「はっ、脅しか?」
男の一人が笑う。
「一人で何ができる」
ダレンは小さく息を吐いた。
「……言ったろ、今のうちだって」
次の瞬間、動いた。
地面を蹴る音すら小さい。
一瞬で間合いを詰め、最も近い男の懐へ。
「っ!?」
驚く暇もない。
拳が鳩尾に叩き込まれる。
男は息を詰まらせ、その場に崩れ落ちた。
「なっ……!」
残りの盗賊たちが構える。
剣が抜かれる。
「ちっ、面倒だな」
ダレンは周囲を確認する。
逃げ遅れた人々がいる。
下手に長引けば危険だ。
(手早くいく)
男が斬りかかってくる。
振り下ろされる刃。
ダレンはそれを紙一重でかわし、腕を掴む。
そのまま体をひねり――
「もらった」
剣を奪い取る。
流れるような動き。
「くそっ!」
もう一人が突っ込んでくる。
ダレンは奪った剣で受け流し、足を払う。
転倒。
間髪入れず、柄で首元を打つ。
意識が飛ぶ。
「あと五人か」
軽く息を整える。
そのとき――
「いやああああ!」
鋭い悲鳴。
ダレンの視線が動く。
一人の盗賊が、女性の腕を掴もうとした。
その時、それまで後ろで様子を見ていたサラがさっと動く、
明らかに女性を庇って、前に出た。
盗賊の首領と思われる男性は、サラを拘束し、
首元に刃を当てる。
「動くな!これ以上来たらこいつを殺す!」
空気が凍る。
ダレンは足を止めた。
(まずい、最悪だ)
距離がある。
サラは”次期竜王のつがい”
なんとしても守らないといけない人物、
その人を危険にさらしてしまうなんて・・・
「動くなよ」
盗賊が低く言う。
ダレンに一瞬焦りが生まれる。
(くそ……!)
自分の判断ミスだ。
「その剣、捨てろ」
命令が飛ぶ。
「……」
ダレンは迷わなかった。
剣を手放し、カランカランと剣が落ちる音が響く。
その音がやけに大きく響いた。
「最初からそうすりゃいいんだよ」
残り盗賊がダレンに向かう。
その瞬間。
サラの目が、わずかに細められた。




