↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
次期竜王のつがい  作者: あいら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/34

12

昼下がりのレストランは、いつも通りの賑わいを見せていた。


油で揚げる音、皿の触れ合う軽やかな響き、客たちの楽しげな笑い声。

その中心で、サラは慣れた手つきで料理を運び、注文を取り、軽やかに動いている。


「カツレツ一つ、セットね。すぐ出るわ」


「はいよ!」


厨房から返ってくる調理人のダンの声に、サラは小さく頷いた。


もうすっかり、この場所は自分の居場所になっている。


最初は戸惑いばかりだった下町の空気も、今では心地いい。

誰も肩書きで見ない。誰も期待を押し付けない。


――自由。


その言葉を、サラは実感していた。


「おいサラ、水くれ!」


「はーい、今行きます!」


パスタを口いっぱいに頬張って、喉につまった客に水を差しだす。

男性は一気に水を喉に流し込み、


「助かった」


と涙目に言っていた。


そんなやり取りすら、楽しい。


そのとき、入口の扉が開いた。


カラン、と軽やかな音。


視線を向けたサラは、一瞬だけ動きを止める。


(……あ、また来たわね)


見慣れた黒髪の男と、その隣にいる赤髪の男。


クリスとダレンだった。


クリスにいきなりプロポーズされて困ったが、

その後ダレンに改めて驚かせた事を謝罪され、

なんとなく、友人に近い関係になっていた。


ダレンの懐にするりとはいってくる、

人柄の良さも原因かと思っている。


「おう、空いてるか?」


ダレンが気軽に手を上げる。


サラはすぐにいつもの調子に戻り、笑顔で答える。


「席、ご案内しますね」


「相変わらず余裕だな」


「とんでもない、大忙しよ」


軽口を交わしながら、二人を席へ案内する。


クリスは席に座りながら、じっとサラを見つめていた。


その視線に、サラは気づかないふりをする。


(……また)


あの、まっすぐすぎる目。


逃げ場を与えない、熱のこもった視線。


「注文は?」


「おすすめで頼む」


クリスが即答する。


「それ、いつも言ってるじゃない」


「君の選ぶものは外れがない」


さらりと言われて、サラは一瞬だけ言葉に詰まった。


「……そういうこと、普通に言わないの」


「事実だ」


「ほら出たよ、こいつこういうの平気で言うからな」


ダレンが肩をすくめる。


「顔赤いぞ、サラ」


「赤くなってない!」


思わず声が大きくなり、周囲の客がくすっと笑った。


サラは咳払いを一つして、表情を整える。


「……前もカツレツだったから、今日はオムライスにする?」


「それで」


クリスが迷わず答える。


「俺はカツレツ、ここの最高なんだよ」


ダレンも注文が決まったようだ。


「はいはい」


注文を書き留めて、サラは厨房へ向かう。


背を向けた瞬間、小さく息を吐いた。


(……なんなの、あの人)


距離が近い。言葉も、視線も。


まるで遠慮がない。


けれど、不思議と嫌ではない。


むしろ――


(……落ち着かない)


自分の心の方が、騒がしい。


料理を運びながら、サラはいつも以上に意識してしまっていた。


伝票を置いている時、ダレンが言った。


「このあと時間あるか?」


「仕事が終わったら、いつもは図書館だけど」


「今日はいい所行かないか?」


「どこに?」


ダレンはにやりと笑う。


「ロイヤルステレット」


サラの目が、ぱっと輝いた。


「……本当?」


ロイヤルステレットは、王宮料理人を退職したシェフが、

趣味で開いた小さなスイーツ店だ。


完全予約制で、なかなか食べれない事で有名だった。


「ああ、たまたま空きが出たらしくてな」


「行く!」


即答だった。


クリスがわずかに目を細める。


「そんなに甘いものが好きなのか」


「好きよ」


迷いのない答え。


「そうか」


その表情はどこか柔らかく、満足そうだった。


ロイヤルステレットは、街の少し奥まった場所にあった。

外観からして、どこか上品で洗練されている。


「ここ……」


サラは思わず見上げる。


「気に入ったか?」


「ええ、すごく」


その声は、明らかに弾んでいた。


店内に入ると、甘い香りがふわりと広がる。


焼き菓子、クリーム、フルーツ。


繊細で美しいスイーツが並んでいる。


「すごい……」


サラは一つ一つを見て回りながら、目を輝かせていた。


まるで子供のような表情。


クリスは、その様子をじっと見つめる。


(……こんな顔もするのか)


無防備で、素直で、愛らしい。


「これと……これもいいわね」


「全部頼めばいい」


当然のように言うクリスにぎょっとなる。


「そんなに食べられないわよ!」


「残ったら俺が食べる」


「だからって」


ダレンが吹き出した。


「いや、ほんとお前ら面白いな」


サラは頬を少しだけ膨らませる。


結局、いくつかのスイーツを選び、席に着いた。


最初に運ばれてきたのは、フルーツタルト。


サラはフォークを手に取り、一口。


「……美味しい」


その一言に、全てが込められていた。


目を細め、幸せそうに微笑む。


「そんなに美味しい?」


クリスが問いかける。


「ええ。これ、絶妙よ。生地の軽さも、クリームの甘さも」


言葉が止まらない。


「へえ」


「あとこの果物、たぶん特別に熟成させてる。普通じゃ出せない味」


ダレンが感心したように頷く。


「よく分かるな」


「食べれば分かるわよ」


「いや、普通はそこまで分からん」


サラは少しだけ得意げに笑う。


その表情に、クリスの視線が吸い寄せられる。


「君は、本当に――」


ふと、言葉が漏れる。


「何?」


サラが首をかしげる。


「……美しい」


空気が一瞬、止まった。


サラの手がぴたりと止まる。


「な、なに言ってるのよ急に」


「思ったことを言っただけだ」


「こういうの、ほんと平然と言うからなコイツ」


ダレンが苦笑する。


「本気だ」


クリスは真剣だった。


視線は逸らさない。


「君の笑顔は千本の薔薇でも敵わない」


「……やめて」


サラは視線を逸らす。


頬が、わずかに赤い。


「落ち着かないわ」


「なぜだ?」


「なぜって……」


言葉に詰まる。


クリスの言葉は、真っ直ぐすぎる。


飾りもなく、遠慮もない。


だからこそ、逃げ場がない。


「おいクリス、そのへんにしとけ」


ダレンが口を挟む。


「過剰だ」


「過剰?」


「褒めすぎって意味だよ」


「そうなのか?」


「そうなの」


サラが即答する。


「普通はそんなに言わないの」


「だが事実だ」


「だからそれが問題なの!」


ダレンが笑いを堪えながら言う。


「ほらな、こうなる」


サラは小さく息を吐く。


けれど――


どこか嬉しそうでもあった。


時間はあっという間に過ぎていく。


甘い時間。


穏やかな会話。


心がほどけていく感覚。


店を出る頃には、夕方の光が街を染めていた。


「今日は楽しかったわ」


サラが素直に言う。


「それは良かった」


クリスが穏やかに返す。


「また行こうぜ」


ダレンが軽く言う。


「次は別の店な」


「ええ、ぜひ」


サラは微笑む。


その笑顔に、クリスの胸が強く鳴った。


(……やはり、この人だ)


確信が静かに積み重なっていく。


一方でサラは――


(……困るわね)


自分の心の変化に気づいていた。


この時間が、楽しいと思ってしまうこと。


そして――


クリスの言葉が、少しずつ心に残っていくこと。


(本当に、困る)


そう思いながらも。


その表情は、どこか柔らかく緩んでいた。


甘い余韻が、まだ消えないまま。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。