↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
次期竜王のつがい  作者: あいら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/37

10

晴れている。

それだけで、気分は少し上がる。

それも休日とくればなおさらだ。


「いい天気ね」


サラは、ゆるく息を吐きながら空を見上げた。

雲はほとんどなく、澄みきった青が広がっている。


晴れた休日にする事は決まっている――食べ歩きだ。


「今日はどこ行く?」


隣を歩くミレナが、気だるげに聞いてくる。


「そうね……あの通り、まだ制覇してないのよね」


「ああ、揚げ物ばっかのとこ?」


「そう、それ」


 くすりと笑う。


「昨日は甘いものだったし、今日はしょっぱい系がいいわ」


「バランス取れてんのか取れてないのか分かんないな、それ」


「気分よ、気分」


石畳の道を歩く。


家族連れ。

恋人同士。

友人同士。

仕事らしくあわてて行きかう人。


人々の表情は明るい。


外食店が並ぶ通りに入ると、一気に香りが押し寄せてくる。


油の弾ける音。

肉の焼ける匂い。


「……いい匂い」


サラは小さく呟いた。


それだけで、少し幸せな気分になる。


「ほら、あれ」


ミレナが顎で示す。


すぐ先にバイト先が見えた。

相変わらず行列ができて盛況だ。


「やっぱり人気ね」


「七割はカツレツ頼むって話本当?」


「ええ、本当よ」


サラは頷く。


初めて食べた時の衝撃を思い出す。


薄く叩かれた豚肉。

サクサクの衣。

噛んだ瞬間に広がる旨味。


あれは確かに、多くの人を虜にする味だ。


「カツレツもいいけど、今日は唐揚げを試してみたいの」


「唐揚げ?」


「ショウユという珍しい調味料の料理らしいわよ」


「へえ」


ミレナが初めて聞いたという顔をする。


「開拓も大事でしょ」


とある店に入る。

ノレンといった変わった布が玄関に飾られているのが特徴的だ。


店内は混雑しており、ショウユと思わしき匂いが漂ってくる。


「唐揚げ定食一つ」


「はいよ」


「定食ってなに?」


「いわゆるセットの事ね」


「本当、この国いろんな文化が混じりすぎて、混乱する」


そんな事を言っていたミレナだが、唐揚げを一口頬張ると、

目を輝かせていた。


「何これ!美味しい」


「本当、これは当たりね」


もちろん、食べ歩きにはハズレもあるが、

こういった出会いがあるから食べ歩きは止められない。


味噌汁という変わったスープも飲み、店を後にする。


ぶらぶらと歩いていると、

下町の中心街の公園に来ていた。


ここの噴水は、数分ごとに水が出る向きが変わり、

見る者を楽しませてくれる。


そして、その水を求めて、小鳥が集まり、

可愛い小鳥も見れる、お気に入りの場所だ。


(……?)


ほんの一瞬。


だが、確かに誰かに見られている気配。


サラは、自然に視線を巡らせる。

特に不審な人物はいない。


(気のせいかしら)


そう結論づける。


ここは人が多い、視線くらいいくらでもある。


「サラ?」


「ん、何でもない」


ミレナの問いに、軽く答える。


その時、目の前に影が差した。


「……?」


顔を上げる。


そこにいたのは、一人の男性だった。


黒髪に眼鏡をかけた、整った顔立ちの男性だった。


服装は、下位貴族程度だろうか。


(……?)


サラは、わずかに首をかしげる。


見覚えはない。


だが、なぜか、彼の目がまっすぐこちらを見ている。


迷いなく。


強く。


(……何、この人)


違和感。


だが、不快ではない。


むしろ――


妙に、真剣だ。


次の瞬間。


彼は、片膝をついた。


「え」


思考が止まる。


周囲のざわめきが、一瞬で広がった。


「なに?」「え、プロポーズ?」「ここで?」


人々の視線が集まる。


だが、本人は気にしていない。


彼は、静かにサラの手を取った。


「ちょっ――」


抗議する間もなく、その手の甲に口づけが落とされる。


「結婚してください」


――沈黙。


数秒。


いや、もっと短いかもしれない。


だが、サラにとっては十分だった。


(……は?)


頭の中が、完全に止まる。


状況を整理する。


知らない男。

いきなり。

人前で。

片膝。

手の甲にキス。

結婚してください。


(……いや、意味が分からない)


どこからどう考えても、おかしい。


ミレナの方を見る。


彼女は腕を組んでいた。


そして。


「……変な男に絡まれてるな」


完全に他人事だった。


(助けなさいよ)


心の中でツッコミを入れる。


だが、現実は進む、

目の前の男性は、真剣そのもの、冗談でもふざけてもいない。

だからこそ、余計に意味が分からない。


「……あの」


サラは、ゆっくり口を開いた。


「お断りします」


即答だった。


周囲がざわつく。


「え、断った」「即答!?」「強い……」


だが、サラは気にしない。


「初対面の方に、いきなり求婚される理由がありません」


冷静に、淡々と告げる。


「そもそも、あなたのお名前も存じませんし」


当然の指摘。


だが、男性は微動だにしない、ただ、サラを見つめている。


(……何、この人)


断られることを想定していない。


そんな空気。


「……理由はあります」


彼が、静かに言う。


「あなたが必要だからです」


(余計に意味が分からない)


「申し訳ありませんが」


サラは、きっぱりと言う。


「私は、そんな曖昧な理由で人生を決めるつもりはありません」


視線を外す。


それが、終わりの合図。


「行きましょう、ミレナ」


「はいはい」


そのまま、歩き出す。


背後で、ざわめきが続いている。


だが、振り返らない。


(……何だったの、今の)


歩きながら、ため息をつく。


「モテるねえ」


ミレナがにやにやしながら言う。


「やめて」


「いやでも、あれはなかなか面白かった」


「面白くないわよ」


眉をひそめる。


「いきなり結婚って……普通に怖いでしょう」


「まあな」


「しかも真剣だったし」


(……あれは、冗談じゃない)


それだけは分かる。


だからこそ。


(関わるべきじゃない)


直感的に、そう思った。


だが。


ほんの一瞬だけ。


胸の奥に、何かが引っかかった。


あの視線。


あの確信。


(……気のせいよね)


すぐに打ち消す。


ありえない。


ただの偶然。


ただの変わった人。


それだけ。


「で、次どこ行く?」


ミレナが聞く。


「……そうね」


サラは、気持ちを切り替える。


「とりあえず、次は甘い物かな」


さっきまでの出来事を、頭の片隅へ追いやる。


「結局、甘い物なのね」


あきれ顔のミレナを見ながら、公園を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。