第8話
「……いきなり、何を言い出すんだ?」
「二日連続で2年1組の生徒が謎の死を遂げているでしょ? なんか、明日以降も毎日一人ずつ誰かが死んじゃうような気がするんだよね。どうしてそんなことが起こるのか、その理由はさっぱりわからないけど。それで、明日は私の番かなって思ったの」
クラスメイトが二日連続でなくなっているという事実から、毎日誰かが死んでいくという推測を立てることは別に不思議だとは思わない。だけど──。
「なぜ明日が自分だと思ったんだ? 根拠は?」
「根拠? 根拠はないよ。ただの直感」
莉璃はそう言い、人差し指で自分の頭を指差した。
直感だと?
「──そんな直感は当てにならない」
「知らないの七希? 女の勘ってものは結構当たるものなのよ」
「当たるわけがない!」と、叫びたかった。でも俺はその言葉を言えずにいた。明日誰が死ぬのかを俺は知っている──。
非情な真実を伝えたくない。何より、俺は莉璃の死を受け入れたくない。
「俺はお前に……死んでほしくない」
願望が声となる。莉璃は「ありがとう」と言って微笑んでいる。
「怖くはないのか? 自分の直感が当たると言うのなら、お前は明日、死ぬことになるんだぞ? どうして笑っていられるんだ?」
「怖いに決まってるじゃん。でもね、怖いからこそ笑っているんだよ。笑っていないと、今すぐにでも心が崩壊するかもしれないからさ。笑顔はね、心を癒す唯一の薬なんだよ」
そう言って莉璃はまた微笑んだ。
願わくばその微笑みを、ずっと見ていたい。
スマホを見る。画面には「22:00」という時刻が表示されている。
莉璃の命は残り2時間しかない。
一体どうすればいいのだろうか? 何をすることが正解なのだろうか?
莉璃の死を防ぐことはできないのだろうか?
脳をフル回転させるが何も考えが浮かばない。
「七希、昔の思い出話でもしようよ」
自分のバカさ加減に嫌気がさしていると、莉璃はそのような提案をしてきた。
「幼稚園の時から振り返ってみようか」
俺と莉璃は幼稚園から高校までずっと一緒だ。こんなにも長い付き合いの同級生は他にいない。
「七希って、幼稚園の頃ミニトマトが嫌いだったよね? 給食でミニトマトが出た時、いつもこっそりゴミ箱に捨ててたの、実は私知ってるんだよ?」
幼き頃の罪を告白され、冷や汗が出そうになる。
「──マジかよ」
「マジだよ。手品師顔負けの素早さでお皿からミニトマトを取ってたの、目撃しちゃったんだよね。給食の時間が終わって、休み時間にティッシュ5枚ぐらいで包んでミニトマトが見えないようにしてから捨てる抜け目の無さもしっかり見てたよ。さすがだね」
なんだか無性に恥ずかしい。
「頼む、忘れてくれ」
「それは無理なお願いだなあー」
「そこをなんとか」
「そう言われると余計に忘れられないよ。代わりと言うわけじゃないけど、私の秘密を一つ教えてあげるよ」
一体どんな秘密を教えてくれるのだろうか。
「私は幼稚園の頃、ブロッコリーが苦手だったの。だから給食でブロッコリーが出た時はいつも、こっそりゴミ箱に捨ててたんだよねー」
「お前もかよ!」
思わずツッコミを入れてしまった。
「あはははっ!」と愉快に笑う莉璃。それにつられて俺も頬が緩む。なんだか久しぶりに笑ったような気がした。
笑っている場合ではない、そんなことは分かっている。それでも俺たちはその後も、笑いながら思い出話に花を咲かせていった。
「もうこんな時間かあ。そろそろ帰ろっか」
中学二年生の頃に起きた、『授業中先生に「帰れ」と言われて本当に帰ってしまった岡島君事件』についての話が終わると、莉璃はそう言ってきた。
時刻は23時。高校生が子供だけで外を出歩くには遅すぎる時間だ。
「……そうだな」と返事をする俺。
莉璃が生きていられる時間はあと1時間。本心を言えば最後までずっといたい。だけど、日が変わりそうな夜遅い時間に女子高生を引き留める建前が思いつかない。
やはりルーレットのことを言うべきだろうか? 莉璃なら信じてくれるはず。でも話してしまえば、残り1時間の余命宣告をするのと同じだ。
明日死ぬのは自分であるという直感。莉璃はこれを本気で言っていたのだろうか? それとも冗談だったのだろうか? もし冗談だったならば、今からいきなり余命宣告をするのはあまりにも残酷だ。
どうすればいいんだ……。
「七希!」
名前を呼ばれてハッとする。莉璃は満面の笑顔でこちらを見ていた。まるで一番星が地上に舞い降りているようだ。この場の主役は自分であると主張するかのように、明るく輝いている。
「私、七希のこと──大好きだよ」
「大好き」という言葉は普通、言われたら嬉しい言葉だ。
でも俺は、その言葉を聞いて胸が締め付けられるように痛くなった。




